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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

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3.抗原となる杉花粉の除去回避

既に述べたようにすべてのアレルギー疾患(症状)が発現する際には体内で抗原に対応する抗体の準備すなわち感作の成立、そして・・その抗体への曝露が必須条件となる。したがってこれら2つの何れかが欠ければアレルギー発症はないことになる。もし一度感作された生体の抗体を消滅させるか、抗体産生を人為的に停止させることができれば最良の予防となり治療であるはずであるが、残念ながら現在まで成功していない。そこで抗原への曝露をなくすることがアレルギーの側面からみた最も重要な対応となる。そばアレルギーを例にとれば、そば粉を経気道的に吸入し、また経口的に摂取することにより惹起され、重篤な全身症状を招来しうる典型的即時型アレルギーであるが、そば殻枕を使わず、そばを口にしさえしなければ症状は皆無で、すべての薬は要らない。すなわちそば抗原の除去回避が最も効果的な対応となる。

このことは花粉症においても明らかで、近年社会問題となり、本書のテーマにもなっている杉花粉症についていえば、わが国の国土が南西から北東へ伸びるため地域により杉の開花期が南から北へと移っていき、それにつれて症状の現われ方、したがって患者発生状況も季節に応じて移動し、花粉の空中飛散がなくなれば他の抗原への重複感作がない限り症状は自然消失し、次の開花シーズンまで防禦措置もすべての薬の使用も不要となるのはご承知の通りである。

しかし杉花粉(最近では杉花粉にひき続き桧花粉も飛散し、極めて類似の形態をし、同じ反応を来すことが注目されている)の飛散期にあっては抗原花粉は肉眼では見えず、日常生活の場に入りこんで環境を広汎に汚染するので、その除去回避は決して容易ではなく、完全を期することは難しい。そこで次善の策として手段を盡してこれを減らす努力が求められるわけで、基本的にはその達成度に正比例して発症予防ないし治療効果が上ると理解すべきである。そして可能ならば減感作療法など抗原をめぐる対応を試みた上で、肥満細胞からの化学伝達物質遊離を抑制する意味で後述抗アレルギー剤(広義)をベースに種々の対症薬剤で症状改善をはかることになる。(図1参照)ここでは花粉抗原をどうやって除去回避すべきかについて考えてみたい。

(1) 花粉抗原の空中飛散を少なくする方策

杉あるいは桧の空中花粉飛散を少なくすることができればこれへの感作〜発症は当然減少できよう。しかし第2次世界大戦後のわが国の復興政策として杉の植林が奨励され実行された結果、本州、九州、四国各地に全山これ杉(桧の多い地方もある)といった状況が現出し、これから飛散する花粉が発生源となって1981年頃より杉花粉に対する抗体保有率上昇、さらに有病率上昇を来した。10)生体の抗原への曝露と感作成立(抗体価上昇)〜発症(有病率上昇)との関連のモデルとなるものに職業アレルギーがあり、最も典型的な実例がみられる4)が、杉花粉症も例外ではない。

1964年堀口・斎藤11)が初めて日光杉並木周辺地域で本症を発見報告しているが、これは荒木12)が本邦第1例のぶたくさ花粉症を記載して間もなくで、それまで花粉症は本邦には殆どないとされて来たし、筆者ら13)も国立静岡病院アレルギーセンターにおけるアレルギー診療で1964〜1970年の間に杉花粉症を疑われたのは鼻アレルギー208例中13例で当時は格段の注目もされていない。それが1980年代前半になると患者急増10)、一躍社会問題ともなり、花粉の空中飛散状況調査が全国的に実施されるようになった。筆者14)は大分大学学生で杉花粉に対する抗体保有率並びに本症有病率を在学中経時的に調査し、杉花粉への感作から発症に至る過程を把握しえた。

一方隣の韓国では禿山が多く雨量が少ないため杉が育たず、杉花粉症は殆ど問題にされない由15)であるが、中国ではわが国の杉と極めて類似する植物があり、低率ながらこれによる花粉症の存在が確認されていて目下調査中15)16)で今後の患者数の動向が注目される。何れにしても杉花粉症は現在わが国で最も患者数の多い花粉症で、感作成立そして発症に生体の抗原曝露の程度が直接関与することは明白で、空中花粉飛散を如何にして減らすかが大きな課題であることはあらためて指摘するまでもない。

したがって杉・桧の枝落しをすることにより雄花からの花粉飛散を少なくできれば患者数を減らしうると思うが、行政上の対応は殆ど行われていないし、杉・桧林が広大な面積(1992年の林野庁の資料17)によれば人工林樹面積は全国で杉453.8万ヘクタール、桧244.1万ヘクタール)を占める実情から枝落しを進めることは考えてみるだけでも気の遠くなるような話である。

これに対し植物学サイドからの対応として杉林を着花性の少ない品種にすることも考えられるが、世紀単位の仕事となるし、また着花抑制剤散布も考えられているとの情報18)もある。東京都林業試験場で実施した研究19)では0.05%のマレイン酸水溶液を杉の幼木の幹に注入すると雄花を減らしうるとも報じられ、これらの実用化が期待されるが、すべては将来の問題である。

(2) 空中花粉飛散のない地方への転地

林野庁の人工林樹面積に関する資料17)によれば沖縄では杉、桧共に0、北海道では杉3.1万ヘクタール、桧0とされる。そのほか全国的にみると東京、神奈川、大阪、香川、長崎で比較的に少ないことが示される。しかしわが国の気象条件をみると杉・桧花粉の飛散季節に偏西風が吹くので花粉は県境を越えて西から飛来すると考えねばなるまい。

三好ら・文末・文献の欄 15、16、・による北海道白老町の中小学生のアレルギー調査では杉花粉に対するスクラッチテスト陽性率が本州に比し著しく低いことが報告されており、沖縄と北海道における杉・桧花粉の空中飛散は少ないと判断される。また筆者自身杉花粉飛散の多い大分赴任6年目から杉花粉症に罹患している1)が、大分定年後生活した長崎県での2年間は症状が軽かったことを顧みて地理的条件で偏西風による杉花粉が少なかったためと推測している。なお筆者が1980年代にかつて南極越冬隊長をつとめられた西堀氏から直接うかがったところでは南極でも少数ながら杉花粉がみられた由で、グローバルにその花粉飛散が零でないことも考えられる。問題はこれによる生体の感作〜発症があるかどうかということである。

以上より杉・桧花粉症の患者さんが花粉飛散季節に沖縄、北海道(あるいは長崎?)に転地18)するならば症状の軽快は確実に得られると思われる。但し本症患者さんもそれぞれ社会生活を営んでいて、たとえ1年の4分の1位の期間とはいえ生活環境を変えることは容易ではなく、誰にでも実行できる方法ではあるまい。

(3) 患者さん自身の個人防禦

花粉抗原に感作され発症に至った本症の患者さんが先ず考えねばならないのが花粉への曝露をいかにして防ぎ、減らすべきかという個人防禦の問題である。最近は社会的需要に応じ気象情報の一環として“花粉情報”がテレビ、新聞などで報道されるので、それらを参考に個人防禦をその時々に工夫し、実行すべきである

qマスクの使用

鼻腔〜下気道の花粉抗原曝露を防ぐ手段として最も簡便で直接的なのがガーゼマスクであるが、これは直径の大きな粉塵に対しては防禦効果があり飛沫感染をする疾患の伝播予防には有用であっても、直径30ミクロン前後の杉・桧花粉の防禦には適しない。そこで当てガーゼの枚数をふやしたり、濡らせて使用する方法も考えられたが、花粉の侵入を防ぎ、それでいて呼吸抵抗が少なく、使用に際してマスク内部の湿気が不快でなく、眼鏡が曇らず、しかも外見が特異でなく外出時に抵抗のないものが求められ、“花粉マスク”として市販されているが未だ理想的なものはない。

なお工業、防災などの従事者が使用するマスクに数枚のフィルターにより粉塵を除去するようにした防塵マスク、さらに有害化学物質を薬品により吸着しまたは無害なものに変化させる濾過装置を有する防毒マスクが市販され、面体には半面式と全面式(眼まで保護する)があり、これらは勿論花粉の回避にも使用可能である。しかし大仰な構造と外観のため一般的ではないが、筆者は症状が激しく時折喘息症状も来すとして全面式の防塵マスクを自宅で使って有用なケースを診療した経験がある。

w眼鏡の使用

花粉症における眼症状は屡々鼻症状と連動で現われる。したがって結膜への花粉抗原曝露を少なくする目的で眼鏡の装用は有用である。しかし通常の眼鏡によっては正面から風に乗って飛来する花粉はある程度削減できるとしても、レンズと眼の間からの抗原曝露は無防備であるのでこれを防禦するのでなければ十分な効果は得られない。そこでゴーグル様の眼鏡やプラスチックの特殊な枠つきの眼鏡が考案され、後者は幾つかのメーカーから市販されていて度付きレンズも使用可能で、マスクを使用しても曇らないが、外観上電車内などでは余り見かけない。

e外出時の衣服の問題点

外出に際し空中飛散花粉が身体、特に頭髪、顔面、襟など上半身に付着しアレルギー症状を起し易いことは特に注意を要する。ヘアスタイル、就中長髪、パーマなどの場合花粉が多数付着するので簡単には深めに帽子を覆ること、そして最近では杉花粉による接触性皮膚炎も指摘されている22)23)ので、できれば凹凸の少ないポリウレタンか薄手のゴム地のような素材を用いたフード付きのジャンパーかヤッケのような外衣が開発され、外出から帰宅したら玄関先で脱いで払い、水洗いするようにすればさらに好ましい。筆者自身杉山の多い地域に開花期にドライヴに出かけるときなど雨合羽を代用して目的を達していた。なお以前イギリスで宇宙服に類似の、プラスチックのヘルメット付きの花粉防禦服が開発されたと報じられたが、目にする機会はなかった。このような試みは結局はファッション業界と連携で流行に乗せなければ応用は難かしいと思われる。

r屋内へ持ち込まれた花粉抗原の除去回避

上に指摘したように外出した患者さん自身に付着して屋内に花粉抗原が持込まれるほか、家族や来客によっても持込まれることは当然ありうるし、屋外に干された洗濯物や寝具には桁違いに多量の花粉抗原が鈴なりの状態で付着しているので特に留意したい。また開放された扉や窓からの花粉の侵入もある。これらそれぞれに対し配慮し屋内への花粉の持込みを極力減らす必要がある。したがって患者さんのいる家族では花粉飛散季節には窓を開けない、そして洗濯物や寝具を屋外に干さない注意は不可欠である。それでも屋内に持込まれた花粉に対してはこまめに掃除(拭き掃除がよい)を繰返し、空気清浄機により排除することも有用と考えられる。ここで筆者が杉花粉症の患者さんの診療に際し抗原除去回避の指導のために渡す指導票を表1に示しご参考に供する。

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