4.杉花粉症における特異的減感作療法
杉花粉症はクームスら3)の1型(即時型、IgE型)アレルギーの典型の1つで、鼻・結膜症状のみならず喘息症状を来す場合も他の重複感作がなければ即時反応に終始する、筆者のIA型パターンを示すので特異的減感作療法の対象となると考えられる。
減感作療法最初の記載は1900年アメリカのカーチス24)がぶたくさ、菫、鈴蘭の花粉症(彼は“鼻性喘息”と呼んでいる)患者に経口的に試みた報告とされる。1906年ヴィーンのピルケー25)が変化した反応能力をアレルギーと命名、それまでの現代でいうアレルギー領域の研究が花粉症(メ枯草熱モ)中心であったのに対し気管支喘息も代表的アレルギー疾患に1つと理解されるようになった。やがて1911年ヌーン26)およびフリーマン27)が少量の抗原の注射を繰返すことにより枯草熱患者の感受性が低下することを示し、それ以来臨床的には注射による減感作療法が行われ、クックら28)の追試と改良によりその術式が確立されて現在まで踏襲されている。奏効機序の検討もクックら29)および門下のラヴレス30)によって進められ、感作抗体(レアギン)と侵入抗原との反応を妨げる遮断抗体(阻止抗体ともいう)の産生が明らかにされ、これが長年本療法唯一の理論的根拠と認容されて来た。現在遮断抗体はIgG4に属すると考えられるほか、抗原に繰返し曝露される際のIgE増加が抑えられ、抗原添加による好塩基球からのヒスタミン遊離やTリンパ球増殖が低下することも減感作の治療効果と関連があるとされる。
減感作療法の術式は皮内反応閾値の10倍稀釈抗原液0.02mlを初回量とし、注射で週2回、毎回約50%増量して維持量に至るのが一般的であるが、花粉症の場合は花粉飛散季節2〜3ヶ月前(まだ無症状の時期から)に開始し、花粉飛散の始まる頃に維持量に達するような計画性が要求される。減感作療法の治療効果は通常数ヶ月で現われるが、症状が多少でもある間は月1回の維持量を継続し、次の開花季節を迎えたら注射回数をふやすのがよいと考える。なおハウスダスト(だに)などとの重複感作がみられる場合これに対しても減感作を並行して実施することが多いが、抗原により維持量が異なること、抗原注射局所の発赤、腫脹などの反応にも差があるので、抗原液の混合注射は好ましくない。ここで特に指摘しておきたいことを1つ――それは杉花粉症の患者さんに杉花粉抗原原液を経皮的に注射する場合、空中花粉への曝露に比して格段の抗原曝露が考えられるので、皮内反応あるいは減感作療法に際してアナフィラキシーショックなど重篤な反応を招来する危険はないわけではなく、実際に訴訟事件も報じられている31)のでその点への配慮を忘れてはならない。
筆者の臨床経験13)では杉花粉症における減感作の効果は必ずしも確実でなく、宇佐神32)も有効率は30〜55%としている。これに対し一般の気管支喘息(その大部分がハウスダスト就中だにによる)においては筆者33)の原因抗原を確定し社会的適応も慎重に検討して実施した減感作療法有効率は有効67.7%、そのうち著効49.2%であったし、代表的・型職業性喘息の1つであるほや喘息でほや粗抗原を使用しての減感作有効率は75.8%と城34)は報告している。したがって杉花粉症における減感作の臨床効果が意外といってよい程乏しい理由は何か?考えられる幾つかのポイントを列挙してみると、
q杉花粉症の臨床症状として喘息症状を伴うもの1)14)はあるが鼻・結膜アレルギー症状のみのケースが大半を占め、疾病により受ける苦痛が喘息症状ある場合に比し軽く、患者さんがあらゆる犠牲を払ってこの治療を継続しようという根気と忍耐が乏しいこともあって定期的に来院しなかったり中途で止める傾向がある。
w医療担当側も近年の抗アレルギー剤の開発、そしてステロイド多用による対症薬物療法の風潮を助長する製薬業界の姿勢と相俟って抗原への対応を蔑ろにする昨今、減感作療法に手を染めようとしない傾向があることも確かであろう。
e杉花粉空中飛散による著しい環境汚染で患者多発にも拘らず、外出時路上や電車内で個人防禦装具を着用しない人が殆どであるなど、抗原曝露への対応ができていないことをそのままにして減感作療法にそれを上廻る臨床効果を期待するのは所詮無理と思われる。
r減感作に使用される抗原液に問題があることも考えられる。城ら34)35)によればほや喘息にほや粗抗原を使用した減感作を行えば有効率も然ることながら、喘息発作誘発など9.1%に副作用が認められるとして粗抗原を精製し分子量数十万以上、106000、22800、9980の4種の糖蛋白に分離し、何れも皮膚反応陽性で抗原性を認めるが、分子量22800の精製抗原を用いて減感作を行えば特異的IgG抗体(遮断抗体)産生のみを促し、IgEは不変で、抗原注射による喘息発作誘発なく安全に、しかも抗原液使用法が単純化でき速やかに著効が得られたと報告36)している。彼ら37)はさらに工学研究者の協力で結膜反応が陽性で減感作で効果のみられない分子量9980のものも重合すれば分子量22800の抗原同様の効果を期待できるようになるとしている。
以上は職業アレルギーに限らず一般アレルギー疾患でも応用できる重要な業績として注目され高く評価される。実際彼ら38)−40)はその後これらの研究成果をだに抗原に及ぼして良効を得、また杉花粉抗原41)42)についても検討中とのことで発展が大いに待たれる。とはいえこのような研究はまだ緒についたばかりで、今後は医学者、臨床家に限ることなく学際的にそれぞれの分野の知識と技術を投入して使用抗原の研究と検討が進められ、杉花粉をはじめ種々の花粉について減感作に最適の組成の抗原液が市販提供されるならば治療効果も上るはずで、治療面での長足の進展が期待できよう。
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