3443通信 オンライン  
みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

6.中国のスギ花粉症」へ

7.アレルゲンとしてのダニの増加した理由

ここまではアレルギー性鼻炎の中でも、花粉がアレルゲンである花粉症の増加した要因について、述べてきた。

しかし、アレルギー性鼻炎はもちろん花粉だけが原因となっている訳ではないし、それ以外のアレルゲンについて理解しておくことも、必要となる。そして実際アレルギー性鼻炎には、アトピー性皮膚炎や気管支喘息など他のアレルギー疾患と同様、ダニがアレルゲンとなっているものも少なくない。

現実にわれわれはスギ花粉飛散量のすごく多い、日光国立公園内に位置する栃木県栗山村(写真9・10)にて、調査を実施している。すると少なくとも小中学生の年齢層では、この村の全児童生徒のスクラッチテスト(アレルギー学的検査の一つ)陽性率は、スギ花粉の25.2%に対しダニが31.2%と、馬鹿にできない数値である。

そしてアレルギー性鼻炎も含めてほとんどのアレルギー疾患で、ダニはより重要なアレルゲンと理解されている。

このダニによるアレルギー疾患の増加も臨床的に指摘されているが、スギ花粉と同じようにダニも増えて来ているのだろうか。

そのこたえは、イエスである。

われわれの共同研究者である、高岡正敏・埼玉県衛生研究所主任研究員のデータによると、1960年代から1970年代そして1980年代へと、家屋内のダニの量は明らかに増加しているのである(図1)。

アレルゲンであるダニが増えているのならば、ダニによるアレルギー疾患の増加も当然であろう。

ダニと共にハウスダスト(HD)も原因とされるが、これは家屋内の塵のことでありダニの糞や死骸がその主成分とされている。つまりダニそのものが増えれば、HDも増加すると理解できる。

ダニが増えた原因は、戦後の復興期に不足した住宅を供給するために、数多く建てられた公営鉄筋アパートなど密閉型住宅の普及、ならびに新建材の多用との関連が考えられている。確かにダニの増加に一致するように、アルミサッシの開発やビニールシートの壁紙みたいな建材が出現してはいる(図1)。

これら新建材の多用や密閉型住宅の増加が、果たして実際にダニを増やす原因となっているのだろうか。またそれには、どのようなメカニズムが働いているのだろうか。

こうした住環境の変化で普及した、人間の住み易い住宅はダニにとっても繁殖し易い状況なので、それでダニがはびこるのだと言う意見も、良く聞かれる。

それはホントに本当なのだろうか。

アレルギーの原因となるダニはヒョウヒダニと言って、チリダニ科の一種である。このヒョウヒダニの家屋内における繁殖について論じる場合、ダニの特性を考慮せねばならない。

それは家屋内のダニの増殖には、以下の3条件が必要だからである。@温度が20〜30度で、相対湿度が60%以上ある。Aえさ(塵の中の有機成分)がある。B潜って産卵でき、隠れて繁殖できる潜入場所が家屋内にある。そうした条件である。

そうしてこれら3条件の中でもダニの繁殖には、湿度が重要と言われる。なぜならヒョウヒダニは乾燥に弱く、相対湿度50%では11日間で乾涸びて死ぬとされているからである。

それゆえ家屋内のダニを駆除するには、掃除機を徹底的にかけてフケなどのエサを無くして兵糧攻めにするも良し、畳やじゅうたんを減らしてフローリングの床とし潜入場所を無くしてやるも良し、である。とはいえ、湿度を下げてダニを生存できなくしてやるのが、一層早道ではある。 

ここが重要なのだが、昔の日本の住宅は高温多湿といわれる日本の気象に合って、風が吹き抜け易く乾燥し易い造りになっていた。

これは兼行法師以来の、夏を過ごし易いように考えられた、つまりアジア・モンスーン型気候に対応できる開放型の日本家屋の特徴である。この家屋は一般的に在来工法と言う名前で知られているが、まず柱を立て梁をめぐらせ屋根を掛け、そしてハンギングウォールと呼ばれる壁を最後に拵える。そこでは床には畳が敷かれ、畳の下はあら床と言って、隙間だらけの木の床であった。

当時の家は冬でも隙間風が吹き抜け、床下の空気はあら床と畳を通じて家の中に出入りしたものだった。

そのような家では冬の屋内は寒く、住む人はこたつの周囲を離れることができない代わりに、冬季の乾燥した空気が屋内に満ち、湿度は低かった。

それに対して戦後急速に広まった高気密住宅では、外の空気は屋内に入らないが、屋内の湿った空気も外へ出て行くことができない。

当然屋内は湿度が高くて、ダニの増殖にふさわしい環境となっている。

それに加えて、こたつに代表されるような、昼間の家屋の一部のみを暖め夜間は消してしまう、局部暖房・間欠暖房の習慣がそれに輪をかける。

なぜならこの局部暖房・間欠暖房の生活習慣は、やはり亜熱帯に近い地域の家屋に適した暖房で、高気密住宅向きではないからである。 

日本の家屋の開放型構造は、おそらく南方から伝えられたものと推測されている(写真11)。

日本人の開放型住宅好きは骨に染み付いているみたいで、第二次世界大戦前に樺太に住み着いた日本人は、その極寒の地でも開放型住宅を建て、冬は寒さに震えながら薪を焚き暖を取ったと言われる。

このため現地のロシア人からは、日本人が一冬に焚く材木で家が建てられると笑われたと聞く。

夏の暑さをしのぎ易い開放型の家では、長い冬の寒さを防ぐことは最初から考慮されていない。せいぜい家族の集まる家の真ん中でストーブを焚くくらいで、家屋内の他の部屋は冷たいままとなる。しかもそれも昼間だけのことであって、夜間は暖房を消してしまう局部暖房・間欠暖房である。

とはいえこうした暖房習慣はこのような開放型住宅には適していて、冬の冷たく乾燥した空気が屋内を通過する構造は、ダニを死滅させるには最適と言える。

昔の日本の家屋にダニの少なかったのは、以上のような理由が背景に存在したことによると、考えられる。

それに対し近年の高気密住宅は、名前こそツーバイフォーなどと近代的だが、そのルーツは寒冷地の丸太小屋(ログ・キャビン)である(写真12)。

在来工法を柱で建てる家と形容し、ツーバイフォーを壁で建てる家と表現するのは、その由来が南方の開放型住宅か寒冷地の丸太小屋であったのかによる。前者についてはすでに触れたが、後者は寒冷地の凍土の上を滑らせて運搬した丸太を横に木組し、四方の壁をまず積み上げてしまう。その後、壁の上に屋根を乗せる形で家屋が出来上がる。それが壁で建てる、ツーバイフォーの基本となったのである。

高気密住宅の暖房はそのルーツを反映し、厳寒地の外気の寒さに対抗できるようすべての部屋を24時間暖める、全室暖房・連続暖房が普通だ。そうすると屋内の空気は一定の温度に保たれ、湿度も低いままに抑えられるので、やはりダニは生存できない。

開放型住宅では冬の寒さをしのぎ切れず、病気になり易いことを知った日本人が、近年高気密住宅に住むようになったのは当然の流れと言える。しかし、開放型住宅の局部暖房・間欠暖房の習慣をそのまま持ち込んでしまったことにこそ。家屋内にダニの増加した原因がある。

空気は暖かいほど水分を多く含み得る(図11)ので、室温が高いと相対的に湿度は低くなり、逆に室温が低いと湿度は高くなる。 

つまり高気密でしかも高断熱の住宅では、全室暖房・連続暖房ならば室温が高く湿度は低い。ところが、局部暖房・間欠暖房にすると部屋の温度を上げ切れず、湿度も高い状態となる(図12)。

このために高気密住宅では、空気の乾燥した冬季にもダニは死滅しにくく、次の夏には一層家屋内のダニが増える。高気密住宅でダニを増やさないためには、本来の全室暖房・連続暖房の習慣が必要なのである。

高気密高断熱住宅の普及と、その住宅の特徴に矛盾する局部暖房・間欠暖房の習慣以外にも、近年の住環境にはダニの増加する要因が多く見られる。

その最たるものとして、マンションを挙げることができる。なぜならマンションはコンクリートでできているが、完成後1年間程度はコンクリート内部から水分の放出が続く。

この染み出した水分は、床にじかに敷かれている畳などに吸い込まれ、ダニの生存に最適な状況を形づくる。

畳は、先に述べたような在来の日本家屋のあら床に敷かれ、空気の通り抜ける状態ならば中の湿度は低く保たれており、ダニは生存しづらい。けれども最近のマンションのように床に直接敷かれると、ダニの巣窟になる可能性がある。おまけに畳の上にカーペットを敷いてあったりすると、ダニの繁殖には一層適していることとなる。

寒い地域ではカーペットが汚れると、その上にさらにカーペットを敷く習慣もあったりして、さらにダニの好む住みかとなり易い。

マンションには、布団を干す場所が少ないという事実も、家屋内のダニを増やす原因となっている。

自分たちで実際に住宅内でダニを採取してみると、ダニのもっとも多いのは寝具であることが判る。そこで寝具のダニを十分に退治してやる必要があるが、布団を干せないためにダニの嫌いな乾燥した状態を保ちにくいのは困りものである。

また同じマンションの中でも、階数の低い方が高い階よりも湿度は高く、ダニが住み易い。なぜなら地面からは常に湿度が立ち上っているので、床下は湿度の高い状態にある。建築基準法では床下の換気について定められているのだが、それでは不十分なのが現況であって、床下の水分は床上にまで染み渡ってしまう。 

当然マンションの1階は2階以上に較べて、ダニの住み易い条件が整っている。

さらに家人が部屋の中に居る時間が長いほど、換気の回数は多くなり屋内の湿度は下がる。ところが、密閉度の高いマンションで閉め切ったまま留守にする時間が長いと、台所や洗面所から蒸発した水分で屋内の湿度が上がる。

核家族化ではマンションで著しいものと想像できるが、核家族では自宅を留守にすることも少なくなく、室内のダニも増加しがちとなる。

ダニ・アレルギー アレルギー性鼻炎についてはコミック「愛しのダニボーイ」もご覧下さい。

「6.中国のスギ花粉症」へ

「スギ花粉症」メニューへ戻る

トップページへ 次へもどる