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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

8.アレルギーの増加と寄生虫の減少

9.大気汚染によるアレルギー増加説

アレルギー性鼻炎や花粉症の増加したもう一つの要因と信じられて来た大気の汚染は、それではどのようにアレルギー増加に関わっているのだろうか。

日光市で行なわれたスギ花粉症調査では、1970年代から年々花粉症の増加が観察されている(表5)。そしてその増加は、いろは坂における車両の通行量に比例していた(図24)。加えてスギ花粉症は、杉だらけの山の中よりも国道沿いの日光杉並木の周辺で、一層多発する傾向が認められた(図25)。

研究に携わった東京大学物療内科にグループは、自動車ことにディーゼル車の排ガスが大気汚染をもたらし、スギ花粉症増加につながったものと想像した。

そこでこのグループは、ディーゼル排気物質とスギ花粉とを混ぜてマウスに腹腔に注入し、スギ花粉特異的IgE抗体の産生が増加することを確認した。

この結果から、ディーゼル排気物質はアレルギー反応を増強するものと、無邪気に思い込んでしまった訳である。

一方、東京都と岩手県でアレルギー性鼻炎の調査を実施していた慈恵医科大学耳鼻咽喉科のグループは、前者を大気汚染地区、後者を非汚染地区として、ブタクサとHDに関するアレルギー検査の結果を比較している(図26)。そして、ことにHDについて東京の被験者の陽性率が岩手の被験者のそれよりもかなり高いことから、大気汚染がアレルギー性鼻炎を増加させたと結論した。

けれども良く考えると、この結果は少しヘンである。

スギ花粉は、大気内を浮遊する物質の一種と考えられる。こうした空中浮遊物質は汚染された大気と混ずることがあるから、ディーゼル排気物質の影響を受けてアレルギー反応を強く起こす可能性はある。

しかし家屋内に存在するHDと大気汚染の接点は、余りあろうはずはない。

果たしてダニやHDのアレルギーの場合、大気汚染の影響を受けることがあるものだろうか。

そこでわれわれは白老町の調査で、製紙工場があって大気汚染の見られる地域(萩野地区)と、全国有数の競走馬産地として知られる空気のきれいな地域(白老地区)、そして漁業や農業が主のやはり空気のきれいな地域(竹浦・虎杖地区)の3ヶ所について、スクラッチテストを施行した(図27)。

この調査の被験者となったのは、白老町の海岸線に近い国道沿いの小中学校に通う、町内の全児童生徒であった。なおここでは、特殊学級がありそれゆえに全町内からの通学生のいる、森野小中学校は省いた。

森野地区には製紙工場の目前に365日・24時間連続測定の大気汚染監視装置があり(図28)、その結果をここに示す(表6・7)。

これらの数値はすべて基準範囲内となっているが、風向きその他の条件によっては汚染大気が住宅街に流れ込むこともあり、大気汚染の影響は地域住民にとって重大な関心事となっている。

その結果であるが、図29に示すようにスクラッチテストの陽性率は3地区とも有意差が見られなかった。さらに鼻症状や鼻鏡所見を加えて診断したアレルギー性鼻炎の頻度(図30)も、3地域に有意差は存在しなかった。

白老町は北海道であるために、杉はほとんど植生していない。アレルギー性鼻炎の原因は、ダニとHDのみである。この調査内容から考えると、ダニならびにHDによるアレルギー性鼻炎が大気汚染の関与を受けているとは、とうてい言えない。

東京都と岩手県とを比較して、前者でHDのアレルギー性鼻炎が多いとした論文は、東京都における高気密高断熱住宅の普及と、その結果としてのダニやHD増加の反映である可能性を、否定できない。

加えて実はスギ花粉症においても、日光での東京大学物療内科の報告以外に、大気汚染と花粉症の頻度との間に明らかな関係を見出したと主張する論文は無く、世界的にも大気汚染説が支持されているとは言い難い状況となっている。

そんな観点から日光における研究結果を見直すと、意外な推測が成り立つ。

つまりこの日光の報告では、いろは坂の交通量の増加とスギ花粉症の頻度とは、比例すると記されている。また、交通量の多いスギ並木の近くでスギ花粉症が多発する、とも記載されている。

すなわち交通量がスギ花粉症の増加に結びついているのが論文の骨子であって、ディーゼル排気とスギ花粉症の相関は想像に過ぎない。

確かにマウスの実験で、ディーゼル排気物質にアレルギー反応増強作用が証明されているが、投与部位や投与濃度などの点で疑問がある。アレルギー発症要因と増悪要因の混同も、気になるところである。

日光のスギ花粉症増加は、交通量が増えて地面に落ちたスギ花粉を再び巻き上げた。そのために地域住民の鼻腔に吸い込まれるスギ花粉の量が2倍3倍となった、その結果でしかないのではなかろうか。

もっともこの推論を断言する前に、一つ大事なことを確認しておかねばならない。

それは花粉やダニなどアレルゲンが増加すると、アレルギーもそれにつれて増えるかどうかという問題である。それを証明するためには、以下の事実を再確認する必要がある。

第一に、アレルゲンに曝される曝露の量もしくは曝露時間が増えればアレルギーの頻度も増加していること。

第二に、そのアレルギーの頻度の増加は、異なった被験者を対象とした調査だけでなく、同一の人間の経時的変化を追跡して(コホート調査)確認してあること。

第三に、逆にアレルゲンに曝露量が減少すると、アレルギーの頻度も少なくなること。

以上の3点である。

第一の問題については、北京の協和医科大学アレルギー科の顧瑞金教授(写真13)にデータがある。顧教授は、寧夏というヨモギの多い地域に、他の地域から軍隊として定住するようになった被験者のアレルギーの頻度を調べた。

すると当初0.03%であった被験者のヨモギ花粉症の頻度が、7年後には100倍の3%にまで増加していたのである(図31)。

われわれの白老町(図17)や栗山村における小中学生に対する調査でも、中国の江蘇省の青少年に対する調査でも、被験者の年齢が上昇するほどアレルギーの頻度は増加していた(図32)。つまりアレルゲンの曝露時間が長いほど、アレルギーは増加するものと判断できる。

第二の課題についてわれわれは、3年ごとに9年間連続して行なった白老町の調査で、それを確認している。6・9・12歳の時点で3回スクラッチテストを受けた被験者を見ると、成長と共に陽性率が明確に増加していたのである(図33)。

第三の点については、われわれの共同研究者である中村晋・元大分大学教授が在学生を対象に、1年生の時点と4年生になってからのアレルギー学的調査で、変化を確認している。この結果、杉の非常に多い大分大学の在学中にほとんどの被験者で1年生のときよりも4年生になってからの方が、アレルギーの頻度は高いことが判った(表8)。
ところがそれにも関わらず、冷夏の翌年でスギ花粉飛散のすごく少なかった1994年春の調査では、4年生のスギ花粉症の頻度が1991年の1年生時より少なかったのである。

アレルギーの頻度は、アレルゲンの曝露量と曝露時間の影響を受けていることが、これらの現象から理解できる。

つまり、いろは坂など日光におけるスギ花粉症の激増は、アレルゲンとしてのスギ花粉曝露量もしくは曝露時間に関係しているらしいことが、推察できる。そしてその曝露量あるいは曝露時間の増加は、先に述べたように車両の通行量増加による花粉の飛散を、無視できない。

実はこの点についての疑問を、日光の小泉氏(これら一連の論文の筆頭著者)に直接問い質したことがあったが、氏はわれわれの疑問に一切反論することができなかった。

くどいようだが、これらの論文の論旨を以下に連ね、それに対するわれわれの意見を記す。

論旨は、分析するとこのように纏められる。@日光街道には杉の大木が江戸時代から存在していたのに、スギ花粉症の激増は大気汚染の進んだ最近のことである。Aスギ花粉症の頻度には地域差があり、重要国道である日光杉並木周辺の住民に多発する傾向がある。Bスギ花粉降下量の等しい日光の複数の地域の比較では、交通量の多い地域のスギ花粉症発症が多い。Cこれらの事実から、スギ花粉症増加の背景に自動車の排気ガス
の影響が想像できるが、マウスの実験ではディーゼル排気素粒子と混合したスギ花粉は、アレルギー反応を増強する。Dこれらの事実から、ディーゼル排気ガスなどによる大気汚染は、スギ花粉症増加の原因となっている。

けれどもこれらの論拠は、実は一つひとつ反論可能である。

@については、スギ花粉症の激増は花粉を飛散させ得る樹齢30年以上の杉が1980年前後に増加したことが原因と考えられる。大気汚染と、直接の関連は疑わしい。

ABはつまり、車両通行量の多い地域ほど一旦地面に落下した花粉が巻き上げられて、2度3度と繰り返し人の鼻粘膜に触れるためであろう。

Cは先にも述べたように、このデータをそのまま人に当てはめることはできない。

さて、大気汚染とスギ花粉症増加について、その関連を主張しているもつ1つのグループは、慈恵医科大学耳鼻咽喉科である。このグループは1980年の論文(図34)で、東京都と岩手県においてHD・ブタクサ・スギに対するアレルギー学的検査を施行し、大気汚染地区と考えられる東京都において非汚染地区と仮定される岩手県よりも、アレルギーの頻度が高かったとしている。しかしこの論文では奇妙なことに、HDとブタクサについては両地域の陽性率が明記してあるのに、スギのデータはまったく記されていない。

さらに、明察な読者は気付いておられるだろうが、1980年論文の原本と表現できる前出の1979年論文(図26)には、より詳細なデータと共に「検査に使用したアレルゲンは室内塵(HD)とブタクサ花粉であり、この両者による鼻アレルギーの頻度は我国において1・2位を占めており・・・」と書かれてある。つまり、スギ花粉についてはまったく実施されていない。しかもわれわれが指摘したように、東京都で陽性率の高いのはHDであって、ブタクサはむしろ岩手県の被験者の方が陽性率が高い。

これらの事実から判断する限り、慈恵医科大学耳鼻咽喉科の調査結果の真実は、実際には後述のようなものであったのではないかとの、疑惑が生じる。

@ 慈恵医科大学耳鼻咽喉科のグループは、実際にはスギ花粉についての疫学調査は実行していなかったのではないか。1980年論文に明確に記載してあるように、HDとブタクサについてのみ実施したのではないか。

A しかも大気汚染地区とされる東京都において頻度の高いのは、HDのアレルギーである。これは大気汚染よりも住宅内のダニ増加の反映と判断される。ブタクサに至っては、非汚染地区と彼らが称する岩手県の陽性率の方が、東京都より高い。

これらの数値を以てなにゆえに慈恵医科大学耳鼻咽喉科は、大気汚染がスギ花粉症増加の原因だと1980論文には記入したのか。

これらの疑問は、スギ花粉症がこの日本で社会問題になるほど激増したのが1979年であった事実を思い浮かべると、解決する。つまりそれまではわが国においては、スギ花粉症は臨床上まったく問題にならないほど、頻度が少なかった。それは、彼ら自身が1979年論文(図26)に記載している通りである。

けれどももちろん1979年以降は、スギ花粉についての検査無くして花粉症を論じることはできない。1979年に発表された彼らの論文はそのまま、彼らがその時代からとり残されてしまったことを、残酷にも証明した。

追い詰められた彼らが何をやったか、それは1980年論文(図34)を読めば明白である。

それにしても、もろくも事実をねじ曲げてしまった彼らも愚かだが、彼らのわい曲を見抜けなかったそれ以後の耳鼻咽喉科医の責任だって、決して軽くない。

ともあれ、スギ花粉症の増加の原因が大気汚染であるとのお話は、東京大学物療内科のグループの錯覚と、慈恵医科大学耳鼻咽喉科のグループのわい曲の賜に過ぎない。

その真実を、せめて本書の読者には知っておいて頂きたいと思う。

8.アレルギーの増加と寄生虫の減少

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