3443通信 オンライン  
みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

「1. スギの分布と植生」ヘ

2. 日本のスギと中国のスギ

日本のスギは本当に日本の固有種(日本以外自生のない種)だろうか?
実は中国にも以前から日本のスギに良く似た柳杉(図1.b)が緯度的には殆ど屋久島と同程度の南部海岸山地(浙江省、福建省)に自生しており、この柳杉は学名をCryptomeria fortuneiと言うが、雲南省昆明植物園に植栽されていた柳杉(図1.d)は疎に雄花(蕾)を着け、しかも柳の葉のごとく小枝先端はやや長めに下垂ぎみであった。また昆明市内の街路樹に柳杉(図1.f)が植えられていたが、こちらの小枝も下垂ぎみであった。さらに中国の大都市南京市にある中山植物園内の日本スギと中国柳杉の植栽木の樹形や針葉(小枝)、球果をも観察したが、外観だけでの識別は困難で、僅かに小枝が中国柳杉は長めで下垂傾向にあり、球果を形成する種鱗の数は柳杉が少なく、針葉が柳杉は内側に湾曲するとされているが、中間もあり、一概に識別できない。しかし、筆者は中国浙江省の天目山(海抜約1000m)で日本の屋久島の海抜1000m付近に自生する屋久スギと瓜二つの柳杉を観察し、その保護林の管理人に「春先に花粉が雲のように飛ぶところを見たことがありますか」、との問いに「無い」との返事であった。実際に天目山の柳杉は日本産植栽スギよりかなり雄花着花率は少ないと感じた。以上を総括すると中国の柳杉と日本のスギの形態的な差は一見して小枝が前者で長く下垂傾向にあること、雄花の着花率は少なくとも日本の植栽スギと比較すれば前者が少ないことである。

そこで外観などの特長で中国柳杉と日本産のスギをはっきり区別できないのなら化学的手法で検証する方法を試みることにした。今日では種の分類にDNA解析や酵素多型解析による手法が普及しているが、筆者ら(1)も中国天然柳杉と屋久島の天然屋久スギ、それに伊豆大島の植栽スギの酵素多型解析を行い、表1のような結果を得た。すなわち遺伝的同一度は天目山集団と屋久島集団とが0.97と高いこと、遺伝的距離は天目山集団と屋久島集団が最も近いことがわかった。しかし、14種類の酵素解析で対立遺伝子は僅か1酵素でのみ見出したにすぎず、日本のスギと中国柳杉とを区別するマーカーは見つからなかった。結論としてもともと同じ起源を持つ集団が日本海によって隔離されたことが、ごく僅かな遺伝的変異を生じさせたに過ぎず、品種はともかく別種にするほどの違いは見出せなかった。

表1 スギの3集団間の遺伝的距離と同一度*
遺伝的距離 遺伝的同一度
天目山 屋久島 大島
天目山   0.97 0.94
屋久島 0.030   0.95
*佐橋ら、1999

さらにIdeら(2)は日本で植栽されている中国柳杉と日本のスギの花粉について免疫学的特徴を検討し、ほぼ同じ結果を得ていることから、両者を免疫学的な見地からも分類することは困難であることを示唆している。

以上の日本のスギと中国柳杉の比較研究から筆者はスギ属にはただ1種のスギ(Cryptomeria japonica D.Don)だけを認めることにする(表2参照)。

表2 スギ科の属の分類・分布・花粉のパピラの発達有無*
属名 種類数 分布 パピラの発達有無
Crytomeria(スギ属) 1 日本、中国(華中、華南) 発達(湾曲)
Cunninghamia(コウヨウザン属) 2 中国(華中、華南) 未発達(原始的)
Glyptostorobus(スイショウ属) 1 中国(華中、華南) やや発達(垂直)
Metasequoia(メタセコイア属) 1 中国(華中、華南) 発達(湾曲)
Sequoia(セコイア属) 1 北米西部 発達(湾曲)
Squoiadendrom(セコイアデンドロン属) 1 北米西部 発達(湾曲)
Taiwania(タイワンスギ属) 1 台湾、中国(華中、華南) 未発達(原始的)
Taxodium(ヌマスギ属) 2 北米東南部 やや発達(垂直)
Athrotaxis(タスマニアスギ属) 3 タスマニア
*佐橋ら、1995(一部改変)

「1. スギの分布と植生」ヘ

「スギ花粉症」メニューへ戻る

トップページへ 次へ 「スギ花粉症」メニューへ戻る