●エピソード5「急性中耳炎と髄膜炎」
急性中耳炎で髄膜炎などに至ることは、本当にめずらしいと言って良いほど稀なのですけれど、けれども皆無ではありません。
私もつい最近、大人の急性中耳炎で髄膜炎のために昏睡状態(コーマ)に陥った2症例を、経験しました。
1例は54歳の男性で、私のもとを受診する1ケ月前に、他の耳鼻科医で右側急性中耳炎のために鼓膜切開術を受けています。引き続きその耳鼻科医で処方は受けていたのですけれど、右側の頭痛がひどくて夜も眠れないほどとなりました。私が診たときには、鼓膜は正常でしたがその可動性が低下しており、滲出性中耳炎に三叉神経痛を合併した状況と判断されました。そこで神経痛の処方を行ないましたが、服薬時以外はやはり強い頭痛が治まりません。他医で撮影したCTは異常無しとのことでしたが、念のため私は脳神経外科を紹介しました。
その数日後です。当地の市立病院の医師から電話が入り、この男性が夜間昏睡状態に陥り市立病院に入院中であることを知らされたのは。診断名は、髄膜炎。急性中耳炎から頭蓋内に細菌感染が波及し、まさかとは思いつつもひそかに懸念していた事態が発生していたのです。
この経験以来私は、急性中耳炎では髄膜炎などの頭蓋内合併症の危険性を、決して無視してはならないと改めて肝に命じました。
2例目は、1例目が受診してわずか3ケ月後のことでした。やはり他の耳鼻科医にて急性中耳炎と診断され、抗生物質などを内服していましたが右側耳痛が治まりません。私が診たときには耳漏が流出していましたので、耳処置と抗生物質の内服・点滴を行ないました。ところがこの方も、しつこい頭痛が増強するばかりです。MRIを撮影しましたが、頭蓋内には病変が見つかりません。とはいえ1例目の体験があります。私は脳外科を紹介しました。
今回幸運だったのは、昏睡状態に陥ったのが脳外科の薬局前の駐車場だったことです。この方は脳外科での外来診療を終え、精査の前に一時的に処方された頭痛薬を取りに院外薬局に出たところ、突然昏睡を起こして倒れたのです。
この方はそのまま脳外科に入院し、2週間後に私の外来を受診しましたが、まさか私も1例目の教訓が3ケ月後にズバリ活きるとは、思っても見ませんでした。
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