●エピソード6「耳痛と蜘蛛膜下出血」
耳の痛みのすべてが耳に原因があるとは限らない、それは本コーナーをお読み頂ければ良くお判りのことと思います。私たちの日常診療でも、時にとんでもない原因疾患に出会うことがあって、実は結構スリリングな体験も少なくありません。
ある日、左の耳へ響く痛みと頭痛を訴えて私のもとを受診した63歳の女性(検3、症例)が、検査を終えて診察を待っている間に突然意識を失って、椅子から崩れ落ちました。隣に座っていた人が何か言おうとしますが、あまりにびっくりしてしまって言葉にならず、口だけパクパクさせています。診察台から2メートルも離れていなかったのですぐさま血圧を計ろうとしたのですが、高すぎて測定できません。ややあって意識は戻りましたが、頭痛と吐き気が強く、蜘蛛膜下出血が疑われました。そこで急いで脳外科の専門病院へ転送しましたが、診断は脳底動脈の解離性動脈瘤による蜘蛛膜下出血でした。
たかが耳の痛みと言って、軽く見てはならないという何よりの教訓でもありました。
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