●エピソード11「アーノルド・キアリ奇形に合併した突発性難聴」
アーノルド・キアリ奇形という珍しい疾患については、エピソード9でちょっとご説明しました。先天性の奇形であり、小脳の一部が頭蓋骨からはみ出て圧迫され、平衡障害が出現する病態です。
これは実際とても稀な疾患ですので、ともすると目の前に現れた症例の診断名として、最初から眼中に無かったりすることがあります。加えて、エピソード9のように他の疾患と合併していたりしますと、ひどくその扱いに手間取ることとなります。
約5年前に私のもとを受診した、当時51歳の男性もそんな1例でした。
この方はその年の2月に突然右の耳が聞こえなくなり、地方の耳鼻科を受診しました。当然その耳鼻科では、聴神経腫瘍を疑って脳外科に紹介しました。脳外科も聴神経腫瘍を考え、内耳道を検査しましたが異常ありませんでした。
この方はその後めまいが出現したために、改めて私のもとを訪れたのです。初診時のめまいの検査では、脳の疾患を疑う所見は認められなかったため、私も不思議に思いながら経過を見ていました。なおこの方は、経過観察中にめまいの発作で脳の専門病院を訪れCTを撮影していますが、その際も異常無しと言われています。
ところが経過中に施行されためまい検査では、下向きの垂直性眼振と呼ばれる小脳近辺の病変で特徴的な、めまいの所見が出現するようになりました。
こうして何回目かの脳外科受診でMRIが実施され、小脳の一部が頭蓋骨からはみ出ていることが判明、アーノルド・キアリ奇形が発見されました。アーノルド・キアリ奇形は、壮年になってから症状がはっきりすることも多いので、発見が遅れがちなのです。
後から考えるとこの方は、もともとアーノルド・キアリ奇形が存在しており、そこに突発性難聴を合併したために小脳性のめまいと内耳性の難聴が併存する形となった訳です。脳外科の検査も、耳鼻科と同じく聴神経腫瘍が中心で奇形は目標にされていませんでした。このためある程度症状が進行するまで、耳鼻科でも脳外科でも奇形の診断がつかなかったのです。
それにしても、いかに珍しい病気であっても常に用心を怠るべきではないという、とても良い経験だったと思います。
|