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アレルギー性鼻炎

大気汚染によるアレルギー増加説

さてそれでは、アレルギー性鼻炎や花粉症の増加したもう一つの要因と推測されている、媒体としての大気の条件悪化は、どのようにアレルギー増加にかかわっているのでしょうか。

日光市で行なわれたスギ花粉症の調査では、1970年代から年々花粉症の増加が観察されています。そしてその増加は、いろは坂における車両の通行量増加に比例していたのです。加えてスギ花粉症は、杉だらけの山の中よりも国道沿いの日光杉並木の周辺で、一層多発する傾向が見られました。

研究に携わった東京大学物療内科のグループは、自動車ことにディーゼル車の排ガスが大気汚染をもたらし、スギ花粉症増加につながったものと考えました。

そこで彼らは、ディーゼル排気物質とスギ花粉とを混ぜてマウスの腹腔に注入し、アレルギーの特徴である抗体の産生が多くなることを確認しました。

この結果から、ディーゼル排気物質はアレルギー反応を増強するものと、想像した訳です。

一方、東京都と岩手県でアレルギー性鼻炎の調査を実施していた慈恵医科大学耳鼻咽喉科のグループは、前者を大気汚染地区、後者を非汚染地区として、ブタクサとハウスダスト(HD)に関するアレルギー検査の結果を比較しています。そして、ことにHDについて東京の被験者の陽性率が岩手の被験者よりもかなり高いことから、大気汚染がアレルギー性鼻炎を増加させたと結論しました。

けれども良く考えると、この結果は少しヘンです。

スギ花粉は、大気内を浮遊する物質の一種と考えられます。こうした空中浮遊物質は汚染された大気と混じり合いますから、ディーゼル排気物質の影響を受け、アレルギー反応を強く起こす可能性があります。

けれども家屋内に存在するHDと大気汚染との接点は、余り無いはずです。

果たしてダニやHDのアレルギーの場合、大気汚染の影響を受けることがあるものでしょうか?

そこで私たちは北海道白老町の調査で、製紙工場があって大気汚染の見られる地域と、競走馬産地として知られる空気のきれいな地域、そして農業や漁業が主のやはり空気のきれいな地域の3ヶ所について、アレルギーの頻度を比較しました。

するとこれらの地域間では、まったくアレルギーの頻度に差が見つからなかったのです。

ただ白老町は、スギ花粉がほとんど飛散していません。アレルギーの原因は、ダニかHDです。すると、これら屋内のアレルゲンは空中浮遊物質ではありませんから、スギ花粉と異なり大気汚染の影響を受けにくいものと考えられます。

ですから、少なくともダニやHDによるアレルギー疾患の増加は、大気汚染が原因ではありません。

以前お話ししたように、日本人のアレルギー性鼻炎の半分近くはスギ花粉がアレルゲンですが、残る半分はダニやHDが原因となっています。ですから日本人のアレルギー性鼻炎の少なくとも半分は、大気汚染のために悪化しているのではないことが判ります。

東京都と岩手県を比較して、前者でHDのアレルギーが多いとした研究結果は、東京都における高気密高断熱住宅の普及と、その結果としてのダニやHD増加の反映である可能性を、否定できません。

それに実はスギ花粉症についても、日光での研究結果以外、大気汚染と花粉症の頻度との間に、明らかな関係を見出だしたと主張する報告はなく、世界的にも大気汚染説が支持されているとは言い難い状況です。

そんな目で、最初に報告された日光における研究結果を見直すと、意外な推測が成り立ちます。

つまりこの報告では、いろは坂の交通量の増加とスギ花粉症の増加とは、比例すると書いてあります。また、交通量の多い杉並木の近くで花粉症が多発する、とも報告されています。

すなわち交通量がスギ花粉症の増加に結び付いているのが報告の骨子で、ディーゼル排気と花粉症の相関は想像に過ぎないのです。 確かにマウスの実験で、ディーゼル排気物質にアレルギー反応増強作用が証明されていますが、実験と実際とは往々にして異なるものです。

日光の花粉症増加も、交通量が増えて地面に落ちた花粉を再び巻き上げた。そのために花粉の飛散量そのものが激増した、その結果とは考えられないのでしょうか。

もっともこの推論を断言する前に、一つ大切なことを確認しておかねばなりません。

それは花粉やダニなどアレルゲンが増加すると、アレルギーもそれにつれて増えるかどうかという問題です。それを証明するためには、以下の事実を確認する必要があります。 第一に、アレルゲンに曝される暴露の量もしくは暴露時間が増えれば、アレルギーの頻度も増加していること。

第二に、アレルギーの頻度の増加は、異なった被験者を対象とした調査だけでなく、同一の人間の経時的変化を追跡して確認してあること。

第三に、逆にアレルゲンの暴露量が減少すると、アレルギーの頻度も少なくなること。 以上の3点です。

第一の問題については、北京の協和医科大学アレルギー科の顧教授のデータがあります。顧教授は、寧夏というヨモギの多い地域に、他の地域から軍隊として定住するようになった被験者のアレルギーの頻度を調べています。

すると当初0.03%であった被験者のヨモギ花粉症の頻度が、7年後には100倍の3%にまで増加していたのです。

私たちの白老町や栗山村における小中学生に対する調査でも、被験者の年齢が上昇するほどアレルギーの頻度は増加していました。つまりアレルゲンの暴露時間が長いほど、アレルギーは増加するらしいのです。

第二の課題について私たちは、3年ごとに9年間連続して行なった白老町の調査で、それを確認しています。3回とも調査を受けた被験者を見ると、成長とともにアレルギーの頻度が明確に増加していたのです。

第三の点については、私たちの共同研究者の中村晋・元大分大学教授が在学生を対象に、1年生の時点と4年生になってからのアレルギー調査で、変化を確認しています。この結果、ほとんどの被験者で1年生のときよりも4年生になってからの方が、アレルギーの頻度は高いことが判りました。ところが、それにも関わらず、冷夏の翌年でスギ花粉飛散のすごく少なかった1994年春の調査では、4年生のアレルギーの頻度が1991年の1年生時より低かったのです。

アレルギーの頻度は、アレルゲンの暴露量と暴露時間の影響を受けていることが、これらから理解できます。

話をもとに戻すと、いろは坂など日光におけるスギ花粉症の激増は、アレルゲンとしてのスギ花粉暴露量もしくは暴露時間に関係しているらしいことが、推測できる訳です。そしてその暴露量あるいは暴露時間の増加は、先に述べたように車両の通行量増加による花粉の再飛散の影響を、無視はできないように思われます。
 

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