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咽頭腫瘍

”前癌状態”という言葉の、流行語になった時期があります。正式な医学用語という訳でもなく、その時まで一般的とは言い難いセリフだつたのですけれど。その時というのはつまり、故・池田首相の入院のときのことです。

所得倍増計画で有名な故・池田首相は、東京オリンピックやIMFなど重要行事を控えて、嗄声のために入院となりました。病名は下咽頭癌。しかし事態の重大さを考慮した医師団は、病名をこう発表したのです。「現在は前癌状態で、放置すれば癌になる」と。実は故・池田首相は、入院の時点でかなり進行した下咽頭癌だったのです。

下咽頭癌が、そんなにひどくなるまで見つからなかったのには、訳があります。もちろん一つには、故・池田首相が超多忙の身だった、という事情がありました。加えて、もともと彼はいかにも政治家らしい太い声の持ち主だった、との事実も災いしました。しかしもっとも重要なのは、下咽頭が部位的にきわめて直視しにくい場所で、この部位の病変はとても見つかりにくい、という理由です。

もちろん見にくいのは、下咽頭だけではありません。これまでお話しして来た耳鼻咽喉科領域の疾患は、すべて耳鼻科医以外には観察の難しい、解剖学的位置関係にあります。けれどそれらの中でも下咽頭は、視診の困難さで1・2を争います。

ですから下咽頭癌は、すごく発見が難しいのです。嗄声が出現したりのどの違和感を覚えたりする方がおられたら、早めの耳鼻科医受診をお勧めする所以です。そう、”前癌状態”にならないうちに。

なおこの池田首相の下咽頭癌死は、社会的に大きな反響を呼びました。前述の前癌状態という言葉が、大流行語になりました。それに耳鼻咽喉科領域では、先にご説明した咽喉頭異常感症が極端に増加しました。のどがちょっとでもヘンになると、自分も時の首相と同じく下咽頭癌ではないかと、心配になるらしいのです。その気持ちはしかし、良く判ります。

耳鼻咽喉科領域で、下咽頭に次いで観察しにくい部位に、上咽頭があります。ここは前にも触れたように、口蓋垂(のどちんこ)の陰です。見にくい、ということは容易に想像して頂けることと思います。この上咽頭にも癌のできることがあって、これまた耳鼻科医以外には発見が困難です。

おまけに上咽頭癌は、本体が小さいうちから頚部リンパ節に転移を生じ易く、まずのどの脇(側頚部)にぐりぐりというしこりができてから、その原因を探す。そんな経過となりがちで、これはそのまま手遅れに繋がります。側頚部のしこり、つまりリンパ節腫脹は炎症だけでなく、咽頭癌の転移の可能性もあることを頭に入れておいてください。

なお、この上咽頭癌では頚部リンパ節腫脹と並行して、癌が咽頭後上壁を破壊し脳内へ進展することがあります。すると、複数の脳神経症状が表に出ることがあり、これまた上咽頭癌の正体隠蔽につながります。

側頚部のしこりが見つかったら、何はともあれ耳鼻科医にご相談頂きたい、そう思います。

やはり、自分の健康管理はご自身が主人公ですから。そして主治医は、遠慮無く気軽にご利用くださいね。

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