3443通信 オンライン  
みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

 

「スギ花粉症」〜レーザーとソムノプラスティによる新しいアプローチ〜

本出版記念講演会

1月23日に「スギ花粉症」本出版を記念して、スギ花粉症に関する公開講演会が開催されました。

まず始めの講演は、岩手大学客員教授の須藤守夫先生を座長に、京都大学大学院教授の白川太郎先生による「アレルギーはなぜ増えたか」というご講演がありました。

ついで大分大学元教授の中村晋先生を座長に、熊本大学名誉教授・日本アレルギー学会理事会長の石川哮先生による『スギ花粉症をめぐる最近の話題』というご講演がなされました。

当日は突然の大雪にもかかわらずたくさんの方々がお見えになりメモを取ったりと皆さん熱心に講演を聴いていかれました。

その講演内容を、今月号は白川太郎先生、来月号を石川哮先生と2回に分けてご紹介します。


「スギ花粉症」〜レーザーとソムノプラスティによる新しいアプローチ〜はこちら
「スギ花粉症」の第四章、スギ花粉はなぜ増えたか?はこちら

「アレルギーはなぜ増えたか」

京都大学大学院教授 白川太郎 先生

私の専門は公衆衛生で、基礎医学や臨床学とはちょっと違います。公衆衛生とは何を目指しているかというと、広くいろんな調査をして病気の原因をつきとめ、なぜそいうことが起きたのか、それを予防するにはどうしたらいいかと考える学問です。

今日はなぜアレルギーが増えているかということについてお話します。

何が原因であるとはっきりわかればアレルギーを予防できるのですが、これはなかなか難しい問題です。したがって、これにはいろいろな説があります。各説に敬意を表してご紹介させていただきます。

アレルギーが世界中でどの位流行っているかがわからないとそれについての研究もできません。そこでWHOでは、世界中で共通の調査を試みました。各国用に質問表の翻訳を何度も行い、同一の質問表で果たしてどれくらい頻度があるのかを調べています。去年の時点で108カ国ほどの国で実施されました。

喘息の頻度が一番多かったのはイギリスで、3、4割程度の人が喘息の症状を出していました。その次がニュージーランド、オーストラリアということで、イギリスの植民地だったところが多いということがわかります。一番低かったのがインドネシアで1、2%で、その次がアルバニアでした。そうすると、白人の国が多くて、日本では7、8%〜10数%が日本の頻度であることがわかりました。

アトピー性皮膚炎でもイギリスやニュージーランドでは高い頻度を示しましたが、最も高いのはナイジェリアです。日本はここでも10数%の頻度を示しています。最も頻度が低いのはインドネシアなどの地域でした。

したがって、何となく先進諸国が高くて開発途上国が低いというように感じますが、実はアフリカの国がいろいろな項目で頻度が高く、一概に人種や経済状況だけで判断できないこともわかります。鼻アレルギーでもナイジェリアがダントツで高い頻度で4割を越しています。日本は10数パーセントでした。

1点だけで見てきましたが、本当にアレルギーは増えてきているのだろうか、ということを調べるために何点か計り、計時変化で見ていかなくてはいけません。データを見ますと、大体どこの国も80年代から90年代の10年間でアレルギーが2倍近くに増えています。

では本題に入りますが、どうして増えてきているのかについてお話します。

体の中にはいろいろな免疫反応になっている白血球があります。アレルギーとはこの免疫反応によって起きており、Tリンパ球という細胞が免疫反応を支配しています。Tリンパ球はT型とU型の二つの顔を持ち、それらは互いに違う仕事を引き受けています。シーソーのような力関係があり、生体のバランスをとっています。そして、アレルギーの場合にはこのU型が増えているという特徴があります。U型は強くなるとT型に命令を下してアレルギーの原因となる抗体を作る指示を出します。したがって、この細胞の機能が強くなるか否かが、アレルギーの増減に直結してくるのです。細胞が強くなる要因は2つしかなく、一つはその人が体質として持っている遺伝的な要因。もう一つはその人の周りの環境要因、生活要因です。もちろんアレルギー体質の人はたくさんいると思いますが、この数十年間に遺伝子がとんでもなく変化したということはありません。つまり、遺伝子の突然変異が多数起こったことによりアレルギーが増えたということは絶対にありません。そうするともう一つの要因である、環境の変化、生活習慣の変化の中にアレルギーが増えた原因が潜んでいると考えられます。

これまで言われてきた説をまとめてお話しますと、大気汚染が進んだこと、アレルギーの原因となる抗原(例えばスギ花粉)がたくさん飛んでいること、住宅様式の変化、食生活の変化、心理的ストレス要因の増加、感染症が減ったことなどが挙げられます。これらが本当であるかどうかを検証していきます。

まず大気汚染の影響についてですが、1991年のベルリンの壁崩壊にアレルギー研究者は真っ先に東ドイツへ入り調査をしています。東ドイツの人と西ドイツの人は遺伝的には全く同じドイツ人です。東ドイツと西ドイツのアレルギーがどちらが多いかが判れば、その環境の差、或いは生活習慣の違いによるものという答えになると考えたからです。調査方法は、抗原を調べるための皮膚テストを行い、その頻度を調べました。その結果、どの抗原に対してもほぼ倍以上の割合で皮膚反応は西ドイツの方が多かったのです。ところが大気汚染物質の濃度を調べると、どの物質でも東ドイツの方が2.5倍〜3倍高いことが判りました。大気汚染説が正しければ、東ドイツの方が圧倒的にアレルギーが多いはずです。しかしデータは全く逆の数値になりました。現在では、大気汚染はアレルギーの発症には直接関与していないという考えが主流です。

次に、抗原の増加により免疫反応が強まりアレルギーが増えたという説について説明します。スギは樹齢30年で成年期に達し花粉を飛ばすようになります。この樹齢に達したスギが70年代から増加し、それにつれて東京都のスギ花粉症有症率も増えてきています。このデータを見ると、抗原の増加がアレルギー増加の要因であると考えられます。

住宅様式の変化についても考えてみましょう。昔は木造住宅だったが、現在ではアパートなど気密性の高いものに変わっています。気密性の高い新築住宅が増えるにつれ、ダニの料が経年的に増えてきており、家の中のダニやホコリの増加がアレルギーの増加に関与していると言えそうです。これもスギ花粉症と同じように、ダニやアレルギーという抗原の増加を要因とする考え方です。

しかし、これに反するデータもあります。アメリカで一番アレルギーの頻度が高い所がアリゾナ州のツーソンという地区で、4割を超える人にアレルギーの症状があります。ここは砂漠でダニは生息できませんが、喘息の頻度は非常に高いです。田舎で大気汚染もありませんが、アレルギーが非常に強い。今までは、抗原が増えて大気汚染があると相乗効果でアレルギーが増えると言われてきましたが、ツーソンを見るとそれを説明することができません。抗原の増加や大気汚染がアレルギー増加の単独の要因であることに疑問が出てきます。

では他にどのようなことが考えられるかと言うと、食生活の変化があります。

デンマークの研究者がグリーンランドに住んでいるデンマーク人、イヌイットと呼ばれるエスキモーの人達とコペンハーゲンの住民のいろいろな病気の頻度を調べました。イヌイットの人達の気管支喘息の頻度は1%以下で、コペンハーゲンに住む人達は25%という結果が出ました。イヌイットの人達は魚をよく食べるためDHAを多く摂取しますが、ヨーロッパの人達はアラキドン酸という植物油の一種を多く摂ります。アラキドン酸は、アレルギーを起こす基とる油で、この食生活もアレルギーに充分関与していることが判ります。

日本人の食生活も大きく変わり、デンマークなどの食生活に近づいてきています。穀物の摂取は減り、動物性タンパク質や脂肪類が増加傾向にあります。日本人のアレルギー増加も食事の変化によるものと説明できるかもしれません。

もう一つの理由として、子供に離乳食を与える時期が早くなったことが影響しているのではないかと小児科の間では言われています。国家の政策により妊娠手帳から、「離乳食を早く食べさせてはいけない」、「卵その他には気をつけましょう」、という項目がはずされました。そのことにより子供に離乳食を与える時期がどんどん早くなる傾向にあります。子供の早い時期の消化管はまだ固まっておらず、炎症を起こすと非常に弱いです。この時期に離乳食を早く与えると、抗原を曝露することになります。炎症を起こすとすぐに消化管から抗原が漏れ出てきて免疫機能を誘発しかねません。食事の中の成分や離乳食の与え方がアレルギーの増加に重要な役割を果たしていることが充分考えられます。

ストレスについては、測ることが大変難しいです。したがって、これを正確に測り増加の要因になっていることを証明するのは極めて難しくなります。労働省が同じ質問表によるストレスの調査を5年ごとに行っております。それによると、成人の場合ですがストレスを感じる人の割合が増えてきています。しかしストレスの増加はありそうですが、それを正確に測り体の中の免疫系にどのような影響を与えているか、科学的に証明することはかなり難しいです。現在この方面の研究はあまり進んでいません。今後もう少し科学の進歩が無い限り決定的な証拠は出ないと思います。

最後に感染の減少についてです。昔はばい菌がたくさんいてそれを殺すためにT細胞の中のT型が非常に強い勢力を持つようになります。これがアレルギーの物質を出すように命令するU型の細胞の働きを抑制することになってしまいます。ところが、今はばい菌が減ったためにT型細胞の働きが弱くなり、対するU型の勢力が拡大しアレルギーの症状が出ているという考え方が起きています。この40年間に結核の頻度は40〜50分の1の割合に減り、結核の流行時には勢力が拡大していたT型も弱くなります。よって、それまで抑えられていたアレルギーを支援するU型細胞が、勢力を伸ばす結果となるのです。

オックスフォード大学の教授がオックスフォード近郊に住む約25000人の昔のデータを調べたところ、とても驚くべきことがわかりました。それは赤ん坊の時に抗生剤を多量に使用された子供は、ほぼ例外なくアレルギーになっているという結果が出ました。つまり、抗生剤が小さな赤ん坊のお腹の中でばい菌を殺し、免疫にとって非常に重要である細菌までも死んでしまいます。そのことにより免疫の異常が起こってしまうことがわかりました。これはヨーロッパで非常に衝撃を持って受け取られ調査が始められましたが、その後ニュージーランド、ドイツ、ベルギー、イギリスで同じ結果の発表が相次いでされました。したがって、子供の成長の非常に早い時期に抗生剤をたくさん使うことは非常に良くなく、そのことで子供のお腹の中の細菌のバランスを壊してしまうことになります。実はT型細胞が発生して全身に出ていく最初の教育を受けるのが、お腹の消化管の中なのです。生まれて間もない赤ん坊のお腹の中の細菌が、子供が将来アレルギーを発症するかどうかの非常に重要な鍵を握っています。

寄生虫の減少によりアレルギーが増加したという説は、我々もそれを覆すデータを持っていますが、つい最近もハーバード大学のグループが中国のグループと共同で中国で調査をしました。その結果、寄生虫がついている子供とついていない子供を比較したところ、ついている子供の方がアレルギーが多いというデータが出ました。寄生虫の減少による説を支持するデータはこれまで一つも出ていません。中国人と日本人は人種的に非常に近いところにいるため、日本人にもこのことが適用できると思います。

要するに、アレルギー増加についてはいろいろな説があるわけですが、どれも決定的に説明できるものではありません。いろいろなものが複雑に絡み合って起きていることのようです。私自身が重要だと思っているのは、生後間もない子供のお腹の中で何が起こっているのか、その時に細菌がどのような状態でついていくかということです。私は、今赤ん坊の大便を集め調査しています。それは赤ん坊が成長しその後アレルギーが出た子供と出ない子供の何が違かったのかということについて調べるためです。しかし、それまでには非常に時間がかかります。その時にはこれまで述べてきたいろいろな説を複合的に組み合わせ赤ん坊を追跡していくことでその答えが出るのではないかと考えています。残念ながら、今現在これだという答えを示すことはできませんが、そういう形で調べてわかればアレルギーを治療する道が開けるのではないかと思っております。


関連リンク: 「スギ花粉症」〜レーザーとソムノプラスティによる新しいアプローチ〜
本出版記念講演会 後編
索引 スギ花粉症

トップページへ 次へ もどる