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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

 

「スギ花粉症」〜レーザーとソムノプラスティによる新しいアプローチ〜

本出版記念講演会

前号に引き続き「スギ花粉症」本出版記念講演会の講演内容をご紹介いたします。

今回は熊本大学名誉教授・日本アレルギー学会理事長石川哮先生の講演です。


『スギ花粉症をめぐる最近の話題』

熊本大学名誉教授 日本アレルギー学会理事長 石川 哮 先生

ちょっと歴史的な話になりますが、1817年にボストックという人が、自分は枯れ草の前に行くとくしゃみ、鼻水、鼻づまり、目の涙、そして頭痛がして熱感があり、体がだるいという症状(カタル性炎症)があると観察したのです。その後30年してブラックレーという人が、科学的にきっちりと調査し、それは枯れ草ではなく、花粉であると記載しました。その原本を私は読ませていただきましたが、非常に感動的です。というのは、自分がこの病気にかかっているわけです。それと同時にそういう人を調べ上げていったという事があるわけです。自分は枯れ草の前に行かなくても症状が起きてくる。そこで、全国1000ヵ所ぐらいに自分で考案した花粉採取機を置いたのです。それを採ってきて、顕微鏡で見ていくとその分布と発する患者さんの症状がかなり一致してきたことがわかりました。それで、自分はフランメルで作ったマスクをしたり、銀で作ったノーズシュー(鼻の靴。銀で作った中空の物の外側に布を貼ったもの。)を鼻に詰めておく。こういう事をすると全然症状が起こらないということがわかったんです。ということは、やはり花粉が鼻を通じて入っているんだということをはっきりと証明して、すごい立派な本を書かれました。これは、花粉症のはしりであり、我々はこの人の研究を無視することは絶対できません。

実際、今スギが猛威を奮っております。それは、戦後の復興のためにスギの植林があって、20年、30年が経ち花粉を飛ばすようになったということが原因ですが、この花粉症を使って、今見れるかどうか。白川先生が環境因子の中で、抗原の量と患者の発生についておっしゃっていましたが、一地区で小さな観察ではありますが、私の所で調べました。2月14日からスギ花粉が飛散し始めて、計測してゆき、患者さんがどういうような状況で医師のところを訪れるかということです。そうすると、驚くべきことに1月4日から患者は出ているんです。それは、患者さんの中にものすごく過敏な人がいて、少し飛んだだけで発症してきている。しかも、2月14に至っては患者の30%ぐらいが発症しているという事実がわかっています。くしゃみ、鼻水、鼻づまりだけでなくて目の症状、咽頭の異常感なども含めてみると、それがきれいに平行して上がってくるわけです。花粉の飛散とともに発症する患者さんもきれいに増えてきています。これが、何を意味するかと言いますと、人の感受性なんです。これを我々は閾値と言いまして、閾値が非常に低い人は、感受性が高いんです。ですから、ちょっと飛んだだけで発症するんです。ところが、人それぞれ違いがありまして、ある程度飛ばないと発症しない人、たくさん飛ばないと発症しない人、こういう人達が重なってそれが累積されてるから、いろんなパターンがあるんです。

これは、中毒とは違います。中毒は少しずつ量も増してくと、段々と症状が顕著になってくる。一人の人がそういう風になっていきます。これが一つの免疫反応であるという背景を示すデータでもあるんです。閾値反応であれば、ポンと上がったらスッと同じように上がると解釈もされますが、やはりいろんな条件でピークになれば症状もちょっと強くなってくるというパターンが見られます。ですから、これは明らかに原因物質であるスギが人をいじめてるということになると思います。

さて、そこでこれは一体コショウとどう違うのか。こよりで鼻をいじってくしゃみ、鼻水がでるのとどう違うのか。これも三好先生の本に書いてありますので、よく読んでみてください。実は、コショウというのは直接鼻の粘膜に入ってきた時に、三叉神経という神経を直接刺激します。ですから、これは異物反応です。異物反応で神経が刺激されると、センターに行って、それがくしゃみ反射になり横隔膜を動かしたり、顔面神経を動かしたり、口蓋を動かしたりして、すごい顔でくしゃみをするわけです。ところが、ここを通る前に花粉やダニは一旦、体の中に吸収されて免疫応答系が進んでリンパ球が活性化され、抗体ができ、それが細胞の表面についてそこでもう一度同じ物質が来るとここでチャレンジが起こって、ヒスタミンをはじめとするいろんな化学物質が出て、ここで初めて神経を刺激するんです。特に、三叉神経の場合にはヒスタミンの受容体があってそれを受けて出るわけです。このことは先程申しましたブラックレーやボストックなどが見た時には、何であるかわからず、コショウと同様に花粉が来て直接刺激して起こるという形も考えられたわけです。それはその後違った考え方で、免疫反応があって起こるんだということがわかってきたんです。皆さんはすでにわかっているから無駄な話のようですが、ここまで到達するには大勢の研究者が苦労しているわけです。それをちょっと理解していただくと、自分が花粉症を治療しようとした時にかなり役に立ちますし、治療方針も意識改革的に変わってくるだろうと思うので申し上げました。

天然痘の予防をやっている頃には、免疫反応については細かいこともわからないし、抗原物質がどういうものなのかもわからない。しかし、わからないけれども大勢の人を救いましたよね。ですから必ずしも何かが全部わかって初めてそれが治療によって興を相するよりも、その時代時代でわかった範囲内でも相当な医学的な力を発揮しているわけです。

ご存知の通り、免疫というのは体に備わった生体防御機能です。これは非常に重要です。ですから体の中でこれがだめになるとエイズを初め免疫不全症になり人は死んでしまいます。ところがこの免疫の一番の基本は自分の体を構成している物質と外から入ってきた物質としっかりと認識するということなんです。これはかなり特異的に認識します。もうひとつ大切なことはそれをメモリーすることなんです。ですから、おたふく風邪に一度かかった人は生涯免疫が成立しておたふく風邪にはかからないけど、はしかにはかかりますよね。非常に特異性が高いんです。スギもダニもこれと同様に体が非常に特異的に体の方が認識して覚えこみ、次に入ってきたときに反応することをお考えいただくとアレルギーの本体の一部がわかるだろうと思います。

ところが、1902年にリシェーさんという人がイソギンチャクの粉を使って犬の免疫反応を実験していたんです。そうしたら体を守るはずの免疫反応なのにそれを二度三度打っていくうちにバタバタと犬が死んでしまうことがある。ショック状況でけいれんして死んでしまう。これを見てびっくりしたわけです。体を守るはずの免疫反応が死に追いやってしまうことがわかったわけです。予防はプロフィラキシスという言葉を使うんですが、この人はそれの逆の反応だからアナフィラキシスという言葉を使ったんです。アナフィラキシスという言葉はここで始めて使われました。

ところがこの後、ピルケーという小児科の先生が1906年にこの反応は体を守る反応と同じであり、ちっとも変わっていない。ただ、体に入ってきたものに対してあまりにも過剰な防衛機能を発揮しているということを言いました。これは大変重要な理論の展開でした。花粉やダニが少しぐらい体に入ったとしても人間の体は何でもないはずなのにそれを過剰に防御してしまう。花粉症の症状であるくしゃみ、鼻水、鼻づまりは中に入ったものを外に出す反応です。しかし、そこまでしなくてもいいのに体の方が応答してしまい過剰に防衛しているんです。

免疫反応は中国では変態反応と書きますが、これは実にいい言葉だと思います。たしかにこれは変わった反応なんです。これはハイパーリアクティー、ハイパーセンシティから起こっています。これがアレルギーの本体です。そこでなぜその本体がそういうことになるんだろうということなんですが、デンバーで働かれていた石坂先生ご夫妻が1966年に次のような発表をされました。喘息の患者さんからたくさん集めた血液の中に非常に微量ではあるが、アレルギーを起こす物質があり、それは紛れもない抗体である。これにより抗体物質が抗原と反応して化学物質を遊離することまで全部説明がついたんです。私はこの方はノーベル賞をもらってもいい方だと思います。素晴らしい発見をされました。この石坂先生が発見されたIgEが免疫学者の手に移り、全世界で爆発的にアレルギーの研究が広まったんです。

IgEという抗体の上に結合能力をもったある抗原活性が乗っているものが、リンパ球で作られ全身を回り全身がかんさされる。皮膚テストはまさにその通りで、皮膚もかんさされているから皮膚に抗原を打てばそこに反応が出るわけです。たまたまスギ花粉症は全身にかんさされているにも関わらず鼻に来るから鼻に目に来るから目に症状が出るんです。でも、やはりそんなに単純ではなくスギ花粉は吸い込みますから、吸い込む場所をずっと見ていくと、副鼻腔炎、咽頭・喉頭の症状、稀ではありますが気管支喘息などを起こしやすくなる。また、花粉が飛んでいる時期に皮膚を露出していると、そこにスギが付きそこでチャレンジが起きて皮膚が真っ赤になってくる患者さんがいます。そしてさらにこれと共通の抗原を持つ食べ物を食べて口の中が腫れ上がるというようなこともあります。特に北海道の白樺の花粉症にかかっている人達は多くの食べ物に共通の抗原があり、起こってきます。花粉症は全身疾患であるから、医者は患者さんの全身にどんな反応が起きているか注意して見なくてはいけないのは当たり前ですが、かかった人達もそれは注意して見て、それが花粉症と同じものなのかどうか、医者のところまでその問題を抱えてきてよくお話をすることが必要だと思います。

生体防御機能の過敏性は、遺伝的要因と環境要因とがあります。環境要因の中には、抗原が第一。このほかには大気汚染や食べ物、ストレスが絡んで環境状況を構成しています。でも、遺伝的要因に関しての研究は、非常に難しく、徹底的な答えが出ない。白川先生方が行っている研究は非常に素晴らしいものなので、どんどん積み重なっていって、生まれながらにしてあなたはアレルギーになりやすい体質ですよ、とわかったら極めていい事であると思います。倫理的な問題があり日本ではなかなか難しいかもしれませんが、長い眼で見る将来においてはそういうことができるだろうと思います。

抗原が飛ぶ飛ばないかが環境要因として重要であるとすれば、それは花粉の飛散状況を知らなくてはいけません。そのためには全国規模で調べなくてはならず、これまで国はちっともその重要性を認識してくれずサポートしてくれないという状況もありました。佐橋先生をはじめとする先生方が集まり、NPOの活動法人を獲得されこれから全国的にきちっとまとめられて、中央に情報が集まり、花粉前線のようなものが研究によって全国に知れ渡っていけば素晴らしいと思います。

今年は仙台も日射量だけで計算すると、スギの花粉飛散数が去年より少し下回る。しかしそれに7月の気温と湿度を加えて総体的に見ると1.2倍ぐらいだろうと言われています。これを将来はもっと公に信頼のできる数字にしていかなくてはならないと思います。

さて、外部からくるものに原因を求めてきましたが、もう一つは体の中の過敏性を支配しているもの。ですから一つは外部からの抗原の環境因子を遮断する。もう一つは生体側の受け方を変えてやる。それは反応性を低下させることになります。その一つの方法として免疫療法があります。この理論はもう一歩説明がついていません。原因となる抗原を少しずつ打っていくことがほんとに効くのかどうか。これは極めて重要な問題です。1999年にWHOで免疫療法についての見解書を出すために討論したんです。そこはいろんな研究報告を信頼できるものだけをまとめあげて効果がある順番に見ると一番効果があったのは、蜂毒のアレルギーです。蜂毒のアレルギーについては免疫療法は極めて良好な85〜90%近い有効性があります。次に有効なのが花粉症です。ここでWHOより花粉症には免疫療法が有効であるという見解書が出ました。スギもはっきりとしたものはありませんが、おそらく期待を持っていいだろうと思います。これからはそのデータをはっきりと出さなくてはいけません。免疫療法は世界的に認められた有効な手段であるということです。

ところが、日本ではさっぱりこの免疫療法が進展していかない。それはなぜかと言えば、医療費がとても安いこと。しかも、やると皮膚に少しずつ打っていく場合、体に直接入るわけですから、下手すると体中にじんましんが出たり喘息を誘発したりする副作用があるため、医者も患者も怖がってなかなかやっているところはありません。そこで今やられている研究は副作用が出ないような抗原を開発しようとしているんです。

それからもう一つは、どのアレルギーにも対応できるもので、IgEを潰してしまうという方法です。これは数年前からヨーロッパやアメリカでどんどん使われていろんな臨床データが出てとても良く効いているという話です。去年日本にも上陸して喘息とスギ花粉症でやろうという話になりましたが、喘息は大変難しいです。スギ花粉症は一年に3回打てば良く、シーズンの始まる前に一回、シーズンの最中に一回、シーズンの直後に一回打てばいいんです。これによる副作用は今のところありませんので、この研究はより発展していくと思います。

最後に申し上げたいのは、アレルギーの治療予防には生活の質の向上というものが極めて重視されてくると思います。それからこれは余談かもしれませんが今の日本人は忙しすぎます。あまり神経質にならずにゆっくりと治療と向き合っていく姿勢も大切ではないかと思います。

関連リンク: 索引 スギ花粉症

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