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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集


当院院長が産経新聞で毎週水曜日に連載しております"三好先生の耳よりクリニック"。今回は21〜24話をご紹介させていただきます。

17〜20話へ

 三好先生の耳よりクリニック21



子供のアレルギーの頻度

私たち疫学調査に携わる人間は、病気の頻度について検討する場合、医療機関を受診した患者さんたちだけを相手に、分析を行うわけではありません。

それは例えばある地域の食事内容の調査をする場合に、町中の食堂で来客のメニュー選択をチェックするだけでは、地域住民の食生活を把握できないのに、よく似ています。食堂の来客がカレーをよく注文するからと言って、その地域全体の住民がカレー好きかどうか、判定することは困難です。厳密には各家庭までお邪魔して、家族全員に朝食は何を摂ったか、お昼はどんな内容だったのか、夕食の予定はどうなっているのか、確認しなければその地域の食事内容調査は正確とは言えません。

病気についても、事情は同様です。医療機関を訪れる患者さんの病気の傾向が判ったしても、それでその地域全体の病気の傾向を知ることは、とても難しいのです。

その意味から私たちは少なくとも、その地域の住民の健康状態を把握するためには、小学生や中学生などにある特定の年令の構成人員全員の調査を行ないます。

寄生虫がアレルギー疾患の発病を予防していたとの仮説の検討でも、理屈は同じです。私たちは日本の特定の地域のある年齢層全員のデータと、黎里鎮という上海の隣村の同じ年齢層の子どもたちを比較しました。

すると日本と較べ黎里鎮の子どもたちのアレルギーの頻度は、3分の2しかありませんでした。


  三好先生の耳よりクリニック22

アレルギーと寄生虫

中国でのアレルギーの調査地として、私たちは上海の隣村である黎里鎮を選び、その小中学生全員を対象に疫学調査を行いました。そしてそれと比較する意味から私たちは、日本での調査地として北海道白老町と栃木県栗山村を選択し、やはり小中学生全員に疫学調査を行いました。

すると、前回述べたように、黎里鎮の小中学生のアレルギー頻度は、白老町や栗山村の小中学生の3分の2程度でしかありませんでした。つまり中国の子どもは日本の子どもに比べて、アレルギーが少ないのです。

興味深いことに中国にはその当時、全国の寄生虫検査の実施記録があって、国民の63%が寄生虫に感染していました。もしかすると中国の子どもたちにアレルギーの少ないのには、寄生虫感染がアレルギー発症を抑えていたからかも知れません。

そこで私たちは黎里鎮で、実際に検便を行ないました。ところが南京医科大学寄生虫学教室で解析された検便の結果、その寄生虫感染率は2%に満たないことが判り、しかも寄生虫感染のある子どものアレルギー検査結果は陽性でした。中国の寄生虫感染は決して多くなく、しかも寄生虫はアレルギーを予防しないのです。

実はこの時期、北京の威信をかけた国家的規模の回虫撲滅運動が中国全土で展開されており、寄生虫感染率は短期間に劇的に減少していたことが、後から判りました。黎里鎮の子どもの検便の結果は、決して不自然ではなかったのです。


  三好先生の耳よりクリニック23


日本人の花粉症

「共生の妙」を唱え、現代日本人のスギ花粉症の激増が、寄生虫の減少によるものだとする学者の仮説には矛盾のあることが、私たちの調査によってはっきりしました。

そこで私はこの結果を電話で寄生虫学者に伝え、仮説の誤っていることを教えました。ところがこの学者は、言を左右して事実を認めようとしません。それどころか、それ以降学者に電話しても大学院生が出るのみで、学者は姿を現さなくなりました。

私は学者の態度を見てこの仮説自体の信頼性に疑問を抱き、さらに調査を進めました。

すると1999年に実施された黎里鎮の高校1年生全員・179名を被験者にしたアレルギー調査では、血清検査で回虫感染陽性の生徒の方が、感染陰性の生徒よりもアレルギーの皮膚検査の陽性率が高いことが判りました。つまり私たちの調査からは、寄生虫はアレルギーを抑えるのではなく、むしろその程度をひどくしている可能性があることが理解できたのです。

ですから、少なくとも日本でこれだけスギ花粉症が蔓延するようになった、その第一の理由として寄生虫感染の減少を挙げることは不自然です。ましてや、寄生虫を体内に飼っていると花粉症やアトピー性皮膚炎にならないと称して、この学者のようにサナダムシを呑むことも異常です。

現代に生きる日本人に過剰な清潔指向の見られることは確かですが、半ば精神論的に「清潔はビョーキだ」と言い張るのは無理みたいです。


  三好先生の耳よりクリニック24


花粉症の増加

ところで今から四半世紀前頃に、スギ花粉症が増加したのは、大気汚染の進行したせいだという議論のなされていたことを、憶えておられるでしょうか。

スギ花粉症だけに限らないのですが、確かに当時環境汚染がすべてに影響を与えており、大気汚染もスギ花粉症激増の根源みたいに錯覚されていた記憶があります。

けれどもその仮説が提唱されてかなりの年月が過ぎ去りましたが、いまだに確定的な証拠は挙がってきません。

それに世界中の議論を見渡しても、大気汚染による花粉症増加説を裏付ける論文はまるで見当たりません。

それはどうしてなのでしょうか?

そもそも大気汚染とスギ花粉症増加との関連に触れた論文は、日光における通行車両増加とスギ花粉症激増について論じた、日光在住の内科医のグループのそれと、東京都と岩手県でアレルギーに関する調査を施行し、前者でアレルギー頻度が後者より高いとした、都内のある医学部の論文が最初でした。

日光の内科医たちは、数年ごとに日光周辺の住民のスギ花粉症調査を行い、時代の経過とともに花粉症の頻度が増加していることを、報告しました。そしてその増加傾向が、ちょうどいろは坂を通行する車両の通行量増加に応ずるように増えていたのです。

内科医のグループはいろは坂を通行する車両のディーゼル排気ガスが問題と推測し、実験を開始しました。

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