3443通信 オンライン  
みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

 

1月15日の出版記念パーティより、秋田県阿部耳鼻咽喉科医院院長 阿部隆先生の講演をご紹介いたします。


『ストレス性難聴について』

秋田県阿部耳鼻咽喉科医院院長 阿部 隆先生


今日はストレス性難聴についてお話をしたいと思います。 ストレス性難聴と聞くと、 ちょっとショッキングな名前に感じますが、 実際にこういう名前の病名はないんです。 私はこの名前を、 難聴を来たす疾患の中でストレスの関与が大きいものという意味で使っております。 そこをご理解下さい。

ストレスが関与する主な難聴としては、 心因性難聴、 低音障害型突発難聴、 メニエル病などがあります。 今日の話のメインは低音障害型突発難聴です。 心因性難聴は、 文字通り心因性もので、 聴覚の障害はありません。 音は大脳に伝わっていくのですが、 それを聞こえたと認識しない、 或いはしたくないという状況にあります。 子供さんに多い病気で、 これも文字通りのストレス性難聴なんですが、 実際には聴覚障害がありませんので、 難聴を来たす疾患とは、 言わないことにします。 私は低音障害型突発難聴とメニエル病の2つがストレスの関与する難聴をきたす代表的な疾患であると思います。 メニエル病も大変有名な病気ですが、 これは難聴もきたしますが、 主徴はめまいです。 回転性のめまいや吐き気があまりに激しいものですから、同時にある 耳が塞がったとか聞こえが悪いとか自分の声が響くという症状の方はあまり自覚されず、 めまいばかりが強く自覚されることになります。メニエル病はめまいを来たす代表的な疾患として有名ですので、私は 低音障害型突発難聴 (急性低音障害型感音難聴) という病気が、 ストレス性難聴の代表だと考えております。 この低音障害型突発難聴は、 難聴という名前がついていますが難聴を強く自覚することはありません。 しかも、この難聴は改善しやすいのですが、 再発することも多く、 約3分の1が再発するという特徴があります。

一方、突発性難聴という有名な病気があります。この突発性難聴はメニエル病とともに、 厚生省から難病の指定を受けた大事な病気です。 この病気も誘因のひとつとしてストレスが考えられます。 ストレスなどによって内耳の血管条と呼ばれるところの機能が障害されて起こると考えられる難聴を、私の恩師の立木先生は、 血管条性難聴と呼んでいます。 血管条という言葉は難しいですが、 これからの話の中で何度か出てきます。 血管条は、 この病気、低音障害型突発難聴の本体を理解するうえで大変大事です。

低音障害型突発難聴という病気を理解していただくために、 まず聞こえの仕組み、 聞こえの検査、 難聴を大きくどんなふうに分類するのかという話を先にさせていただきます。 聞こえの仕組みは、 外耳、 中耳、 内耳、 聴神経からなります。 外耳は音を集める耳介とそれを伝える外耳道から成ります、 中耳は伝わってきた音を増幅させる機能があります。 それに関わるのは鼓膜とその後ろに連なっている耳小骨で、 音がうまく伝わっていくためには、 中耳腔が外界の気圧とバランスして鼓膜が一番振動しやすい位置に置かれることが大事であり、 それを担っているのは中耳腔と鼻の奥の咽頭をつないでいる耳管という管です。 中耳腔の奥には内耳があり、 内耳には平衡機能を司る三半規管、 前庭と聴覚に関係する蝸牛があります。 聴覚においてストレスが最も関与するのが、この 蝸牛の中の血管条とよばれる場所であろうと考えられています。

後でも述べますが、難聴は外耳、 中耳の障害で起こるものを伝音難聴、 内耳および聴神経に障害が起こるものを感音難聴と言い、 その混ざったものを混合性難聴と言って大きく三つに分けます。

内耳の蝸牛の中をもう少し詳しく説明します。 蝸牛の断面図を見てみますと、 回転が二巻半あり、 こちらを基底回転、 中回転、 頂回転と呼びます。 その断面は全て同じような形をしていまして、 その中はリンパ液で満たされています。 ここは前庭階、 鼓室階と呼ばれていて、 外リンパ液で満たされています。外リンパ液は 脳や脊髄を入れている液体と同じものです。 それに対してここの蝸牛管と呼ばれているところを満たしている液体は内リンパ液と言います。 この内リンパ液を産生しているのが 血管条です。 血管条は、 毛細血管が網の目を作っているところで、内リンパ液の産生と排泄を行っています。内リンパ液はとても特殊な液体で、その量と質、イオン組成は、後に述べる蝸牛の持つ二つの機能に密接なかかわりを持っています。 ストレスに関わる難聴は、この血管条の機能障害によって、内リンパ液の量や質の異常が起こって発症するのではないかと考えられています。

音が入ってくると、 鼓膜が振動します。その振動は耳小骨によって内耳に伝えられます。中耳腔と内耳を境にしている膜が2つあって、こちらを前庭窓、こちらを 蝸牛窓と言います。前庭窓は前庭階に、蝸牛窓は鼓室階に通じています。音つまり鼓膜の振動は前庭窓のほうに伝えられ、前庭階さらには鼓室階を満たしている外リンパ液の振動を起こします。 前庭階と蝸牛管を境する膜をライスネル膜と言い、 鼓室階と蝸牛管の間を境する膜を基底膜と言います。 この基底膜の上には大事な聞こえの感覚細胞が乗っています。 それを有毛細胞と言います。 内有毛細胞と外有毛細胞があります。 外リンパ液が振動しますと基底膜が振動し、 その刺激によって聞こえの感覚細胞、有毛細胞が興奮をします。 するとその有毛細胞から、 神経伝達物質が分泌されて、細胞に接している聴神経に興奮が伝わり、 脳の側頭葉にある聞こえの中枢に興奮が伝えられるというわけです。 これが聞こえの仕組みであります。

このように、内耳の蝸牛は、 振動という機械的なエネルギーを電気的なエネルギーに変換するという仕事を担っているのですが、 仕事はもう一つありまして、 入ってきた音の高さ (周波数) の解析もしちゃうんです。 高い音が入ってきた時には、 基底板の最大振動が基底回転寄りに起こり、 低い音が入ってきたときには頂回転寄りに起こるという大原則があります。 入ってきた音の高さによって、 基底板のどこが最も大きく振動するかが決まっているんです。 蝸牛の特徴的な構造が、 この入ってきた音の周波数解析を可能にしています。 「みかん」 の「み」は、 いろんな高さの音の集合体であることは、「み」を周波数解析すればわかります。 「み」という言葉が入ってくると、蝸牛は瞬時にその周波数解析を行って、 音の集合体を聞こえの中枢に伝えてやる。その音の集合体を 「みかん」 の「み」と判断するのは大脳ということになります。

それでは次に、 難聴の検査はどのようにして行うのかということをお話します。 まず顕微鏡を使って鼓膜を見ます。 鼓膜を詳細に見ることで、 鼓膜に穴が空いていないか、 石灰化がないか、 さらにはその鼓膜の奥の中耳腔に水がたまっていないかなどがわかります。 これによって、 伝音難聴があるかないかということがおおよそわかることもあるのですが、 わからない場合も多くあります。 そのため、 次に純音聴力検査を行います。 気導聴力と骨導聴力を計って、 オージオグラム (聴力図) に記入します。この検査で 何がわかるかというと、 難聴の有無とそれがある場合はどの位悪いのかという程度がわかります。 それから、 難聴には伝音難聴、 感音難聴、 混合性難聴の3つがあるということを前にお話しましたが、 その難聴がこれらのどれに当てはまるのかということも分かります。そしてもうひとつ、 聴力型もわかります。

オージオグラムの横軸は周波数で音の高さを、 縦軸は音の強さを示します。 太鼓は低い音の代表、 メトロノームは高い音の代表です。 我々人間は20Hz〜20000Hzぐらいまでの音を聞くことができるといわれていますが、 この検査では125Hz〜8000Hzの7つの音について検査をします。 これは何れもピアノの 「ドミソ」 のドの音に相当します。 だからこれが1オクターブです。 ト音記号のドの音はどこかというと、 大体この250Hzに相当します。 ピアノに向かって一番右端の木の枠のところのドの音は約4000Hzに相当します。 人間の声の周波数を解析しますと、 500〜3000Hzといわれていますから、 特に500、 1000、 2000Hzの音に対する聞こえが会話をする上では大切だということになります。オージオグラム の縦軸は下に行けば行くほど強い音で、 ささやき声は大体30dB、 普通の会話は60dB、 うるさいガード下の音などは110dBぐらいです。 周波数解析すれば、 母音はこのあたりで、 子音は3000、 4000Hz付近の音です。言葉を聞き取る上では特に4000Hz付近の聴力が大事になってきます。

音の伝わり方には気導と骨導があります。 気導は、 音が外耳道から鼓膜を経て耳小骨、 蝸牛、 聴神経、 聴中枢と伝わっていきます。 この気導の値が我々が一般的に言う聴力です。 一方、 骨導は外耳、 中耳を経ないで直接音が頭蓋骨を振動させて、 内耳の 蝸牛に伝わっていくという経路です。 外耳や中耳にだけ障害がある場合には、 内耳には障害が無いので、 骨導の聴力はほぼ正常であります。 このように、 気導と骨導の聴力を計ることによって難聴の種類がわかります。 これが代表的なオージオグラムです。 オージオグラムの記載の仕方には決まりがありまして、 コという字の左右を反転させたようなものが骨導値です。 こちらの図では骨導値はほぼ正常にありますが、 気導聴力が落ちている。ということは、 外耳や中耳に何か異常があるのだろうということになります。 これを伝音難聴と言います。 一方、 こちらの図では気導値も骨導値も落ちて、 各値の差がありません。感音難聴と言います。

もう一つの混合性難聴は、 骨導値も落ちているが、 気導値はもっと落ちているこのような図になります。 骨導値の低下は内耳や聴神経、 もっと中枢の部分の障害かもしれませんが、 気導値の方がさらに落ちているということは、 中耳の方にも障害があって、 より聴力を落としているということになります。 なぜ、 このような分け方をするかと言えば、 伝音難聴と感音難聴の間には大きな違いがあるんです。 これが、 その比較をしたものです。 診断は、 伝音難聴の方は比較的簡単でありますが、 感音難聴は難しく聴力検査が絶対必要である。 早期発見、 早期治療は感音難聴の中でも急に起こった突発難聴では、 極めて大事になってきます。 一方、 伝音難聴の場合は、 早期発見、 早期治療はそれほど問題にはなりません。 手術はどうかといえば、 手術で改善できるのが伝音難聴で、 改善できないのが感音難聴であると、 二十年位前までは言われてきました。 その後、 例外があることがわかりました。 外リンパ漏といって、 中耳と内耳を境にしている膜が破裂し、 中の外リンパ液が中耳の方に漏れてくる病気です。 この場合は漏れているところを塞げばいいわけですから治せますが、 診断が難しいです。 もう一つは人工内耳で、 蝸牛の聞こえの感覚細胞、有毛細胞が大きく障害されてしまって、補聴器が役に立たないという場合には、 積極的に人工内耳をお勧めできます。 つぎに、 補聴器があります。 中耳炎などによる伝音難聴には補聴器が大変有効です。 補聴器は高齢者が使うものだとお思いかも知れませんが、それは補聴器をつける以外に方法が無いからなんです。 高齢者の老人性難聴は感音難聴の代表的疾患です。 感音難聴は質的な低下があるため、 一般に補聴器を合わせるのが難しい。 それに対して伝音難聴は量的な低下のみなので、 補聴器をあわせやすく有効だといえます。 手術では治らないと言われていた感音難聴の一部に対して聴力改善手術が行われるようになったのは確かですが、 ここでは、急性あるいは突発性に起こった感音難聴には早期発見、 早期治療が極めて大切であるということを強調したいと思います。

これは聴力型を示したものです。 低音障害型は主として低音が障害される型、 全部の音域が障害される水平型、 高音域が障害される高音ゼンケイ型の代表的疾患は老人性難聴です。 高音が急に落ちてしまうのが高音障害急墜型、 騒音やコンサートなどでは主に4000Hzの音が障害されます。 これをディップ型と言います。 他にも山型、 谷型、 ろう型など色々なものがあります。


それでは、今日のメインテーマ、 低音障害型突発難聴について話を進めたいと思います。

代表的な症例を示します。 これが発症時で、 こちらが治癒時のオージオグラムです。 この方は、 27才の女性で、 1984年の1月23日に突然右耳の耳なりがあり、 耳閉感、 自分の声が強く響いて聞こえる自声強聴などを訴えました。 こういう聴力障害はあっても、 難聴の自覚はないということです。 そして発症後2日目に受診をしました。 感音難聴は早期発見、 早期治療です。 この病気ではそれほど重要ではありませんが、 早期発見、 早期治療にこしたことはありません。 2日目に来てくれたので、 治療3日目には治りました。 これが代表的な低音障害型突発難聴の経過です。 従来、 低音型突発難聴、 急性低音障害型感音難聴という病気は、 突発性難聴の一つであろうと言われていました。 突発性難聴は、 1970年代の初めに厚生省から難病の指定を受けた病気です。 これは、 ある日突然に、 原因、誘因不明の 難聴を自覚する、 耳鳴も伴うが めまいは伴う場合と伴わない場合がある、 というのが突発性難聴です。 これには色々な聴力型があるんです。 この症例では、 高い音から低い音まで全周波数がやられていますが、 低音を中心に障害されるような突発性難聴もあるんです。 これは代表的な突発性難聴の発症時と治癒時のオージオグラムを示しました。 47才の女性で、 5月23日の朝に乗用車を運転しているときに、 左の耳に突然キーンという耳鳴りがして、 音が聞き取りにくくなった。 9時30分に帰宅して、 左の耳が全く聞こえないことに気がついた。 めまいはなし。 自覚症状に変化がなかったので、 発症後3日目の26日に来院し治癒しました。 このように発症後3日目までに来ていただければ、 治ることが多いと思っていいと思います。 一般に、眩暈を伴う例、聾などの高度難聴例では治りにくいとされていますが、中には、 聾でも、 治癒する症例があるんです。 私の恩師の立木先生は、治癒する聾型の突発性難聴は、治らないやつと病態が異なるんじゃないかと話されています。 恐らく血管条の障害で起こったものではないか、 と話されています。

突発性難聴の中には、 こういうタイプのものがあります。 これは、 低音障害型であります。 突発性難聴の低音障害型です。 その治癒過程を見ていくと、 発症してから3日目、 7日目、 12日目で完全に治ってるんですが、 この7日目を見てみますと、 先ほどお話しました低音障害型突発難聴と非常に似た難聴を示しています。 患者さんが発症後すぐに来院せず、 7日目に来院したとしたら、 初めて検査した時に低音障害型突発難聴と診断することも十分有りえます。聞こえが悪いという自覚は 会話音域である500Hz、 1000Hz、 2000Hzの聞こえが障害された場合に起こると考えられます。 このように低音域だけがやられている場合には、 その自覚はあまり強くないはずです。 低音障害型突発難聴は、 突発性難聴の一つの型だと長い間思われていたわけです。
低音障害型突発難聴と突発性難聴を比較してみるといろいろ相違があります。 原因誘因はどちらも不明ですが、こちらはストレスの関与が大きいという特徴があります。 こちらは自覚症状は突然に、 あるいは朝起きた時に難聴を自覚するということですが、 一方こちらはあまり強い難聴は自覚しません。 むしろ、 耳閉塞感や低い耳鳴りがあり、 こちらは高い耳鳴りが多いです。 こちらはめまいを伴いませんが、 こちらは3分の1に伴う、しかし反復することはありません。 聴力型は典型的な低音域だけの聴力障害であります。 それに対して突発性難聴の方は、 水平型など色々あります。 予後はこれもまた色々で、 治るのもあれば治らないものもあります。 こちらも治らないものも中にはありますが、 100例あれば2、 3例ほどで、 ほとんどは一旦回復します。 だけど、 再発するのが3分の1ほどあるのも特徴です。 突発性難聴は再発はありません。

低音障害型突発難聴をまとめてみますと、まず原因が不明であって、 発症が比較的急速であったり、 突然の場合もあります。 女性に好発するんです。 自覚症状は、 耳閉塞感が断然多く、 低い耳鳴りも多い。 自分の声が強く響いて聞こえる自声強聴の3つの症状になると思います。 そして、 難聴の程度は軽度ないし中等度であって、 125、 250、 500Hzという低音域に限局している。 中音域、 高音域については、 あまり障害されないというわけです。 そして短期間に完全治癒、 回復を見る例が多い。 その後、 こういう難聴をたくさん集めて検討してみますと、 3分の2は、 一回治ってしまうと再発することはないんですが、 3分の1はその後、 同じような発作をくり返すことが多い。 それはやはり、 ストレスが大きく関与している例に多いです。 それから経過を長期に見ていきますと、 メニエール病という目まいをくり返す病気に移行していく場合も100例あれば6、 7例あると言われています。 今のは、 若い人に多いんですが、 考えてみれば当然のことです。 低音域だけがやられていて高音域がやられていないというのは、 若い人ですよね。 高音域が元々障害されているような難聴がある場合には低音障害型にはならないということになります。 このことについて長年議論されてきました。 低音障害型突発難聴の診断基準に高音域は正常であって、 低音だけが障害されると決めてしまうと、 高齢者を初めから除外していることになるわけです。 その疑問に答えるために、 症例を2人出します。

一例めは、 77才男性、左難聴で来院しました、 平成13年7月31日夕方の4時頃に左の耳閉感と難聴の増悪を自覚し、 補聴器を操作しても良くならないということで、 1時間後に来ました。 誘因として話を良く聞いてみると、 精神的ストレスがありました。 この人は元々固定した両側難聴がありましたが、 低音域の聴力は良かった。 しかし、 検査をしてみると、 左の低音部の聴力ががくっと落ちていたんです。 私は特別な治療をしたわけではありませんが、 鎮静剤を出した翌日には、 すっかり治っていました。 もう一人は76才の女性で、 左耳に詰まった感じがあるということで来印されました。 この方は右耳は先天性の聾で全く聞こえません。 ですから、 左耳の聞こえが自分にとっていかに重要であったか…。 2週間位前から左耳の耳閉感と難聴を自覚して軽快と増悪を繰り返していたけれども、 2日前からまた悪くなったと言って、 9月13日来院されました。 この方も 外来ではあまりストレスのことを話さなかったのですが、 後で電話をして聞いてみたところ、 次のようなことを話されました。 平成13年7月に23才の孫が、 8月には73才の妹が相次いで亡くなり、 その後ずっと眠れない日々が続き、 引きこもりになっていたというのです。 低音域の聴力が落ちて、 自覚があったため来院されました。 そして5日後には一旦治りましたが、 1ヶ月程したらまたおかしくなったと来院されました。 その時にも低音域だけが少し落ちていました。 そこで安定剤を出したところ治り、 その後はこのようなことも無くなりました。

こういうような患者さんをたくさん集め、 2年前の日本聴力医学会で発表したのが、 このデータです。 A群というのは、 高音域には難聴がないという群です。 B群は、 高音域に固定した難聴があり、 低音域だけが落ちたことが考えられた一群であります。 検査してみると、 どちらの群も女性に多かったです。 A群は、 30代、 40代に多く、 B群は中高年の方達にも結構いることがわかりました。 これは私の医院での7年ぐらいの統計です。 私のような田舎の町でもそうですから、 仙台などの都会ではもっと多くいると思います。 これは低音障害型突発難聴の誘因と自覚症状を見たものですが、 精神的ストレスが多いです。 症状は、 耳が塞がった感じと耳鳴り、 自分の声が響くというのがほぼ100%です。

実は、メニエール病も低音突発難聴と同じような聴力図を示しますが。 違うところは目まいと吐き気がメニエール病の主徴であることです。 主徴に違いはありますが、 内耳の中の病体は恐らく同じものではないかと言われています。


ストレスについてお話したいと思います。 ストレスとは、 セリエの定義ですが、 心身の負荷になる刺激や状況や出来事によって個体内部に生じる緊張状態のことであると言われています。 そのようなストレスがかかりますと、 我々は神経系、 内分泌系、 免疫系が密に絡みあって、 脳からは神経伝達物質、 内分泌系からはホルモン、 免疫系からはサイトカインを出して、 心も肉体もバランスをとるようになるわけです。 そして、 恒常性を保つようになっているわけですが、 これのどこかにアンバランスが来ます。 すると、 ストレス反応が起こってくるわけです。 同じストレスがかかっても、 起きる人もいれば起きない人もいるわけですから、 その人の性格や体質が関与するわけです。 性格ではセンシティブな人、 リセプティブな人、 身体的な反応としては心身症、 精神的な反応としては鬱状態や 不眠など、 行動の変化としては生活習慣が乱れてくることになります。 このストレスが難聴にどのように関係しているのかというと、 自律神経を介して血管の収縮、拡張に影響を及ぼしていると考えられています。

これは蝸牛の血管であります。 この網の目が全て血管です。 ストレスによって毛細血管が網を作っている血管条に何か障害が起こって、 それが内リンパ液の組成や量などを変えるのだろうと考えられます。

これはメニエール病の病体、 内リンパ水腫という状態です。 これが正常でこちらが異常です。 蝸牛管の中を満たしている内リンパ液が、 血管条の機能障害、つまり産生過剰か排泄障害によって、 過剰に溜まってきて生ずると言われています。 これと同じような病態が低音障害型突発難聴ついても言えると考えられています

これはノルウェーの画家ムンクの有名な 「叫び」という絵 です。タイトルは「叫び」ですが、主人公のしぐさはどうも叫んでいるようには私には見えない。聴覚過敏のためか、両耳をふさいで外界の音を入れまいとしている、耳閉塞感やゴーという耳鳴りや自声強聴が強くて自己コントロールができないという表情、しぐさのように見えるのです。彼は31才の時にこの絵を描いているんですが、この時は、自分の師匠、唯一の理解者が死んで 、目指していたものが見えなくなった、目標を失ったと言っている。ストレスフルな辛い日々の中で、低音障害型突発難聴に罹患していたということは十分に考えられるわけです。

長い間ご静聴ありがとうございました。


関連リンク: 院長著作コミック「難聴・早期発見伝」
用語集 難聴
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