3443通信 オンライン  
みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

「健康ふしぎ発見ニュース」

花粉症っていつからあったの?


● はじめに
● スギ花粉症はいつから?
● 食生活とアレルギーの増加
● 感染症の減少とアレルギーの増加
● 寄生虫とスギ花粉症
● 大気汚染とスギ花粉症
● おわりに


● はじめに

日本人の国民病って、いったいなんでしょう。ひと昔前の人間だったら、きっとこう答えるでしょう。「それはね、肺病、つまり肺結核だよ。昔はたくさんの日本人が肺病で亡くなったものさ」と。

でもね、それは今は昔の物語。現代に生きる日本人の国民病は、春先に襲う百年の恋もさめる病気、スギ花粉症です。

なんで恋がさめるかって?だって、いったんスギ花粉症に襲われたら、くしゃみ・鼻みず・鼻づまりで、おまけに目のまわりのかゆさにかきむしり、まるでお岩さん状態。どんな美男美女でも、二目と見られない状況に陥ります。

せっかくの春に、恋を語るには最悪の病気なのです。

このスギ花粉症は近年になって日本で蔓延し、国民病という、ありがたくない名前を頂戴するまでに激増してしまったのです。

● スギ花粉症はいつから?

それにしてもスギ花粉症、ひと昔前はその名前さえも知られていませんでした。それなのに、何時の間にこんなに有名になってしまったのでしょう。

じつは、日本でスギ花粉症が発見されたのは1963年のことでした。その事実が論文として発表されたのが1964年、ちょうど東京オリンピックの年でした。そしてそのあとスギ花粉症は、オリンピック後の日本の経済発展に歩調を合わせるように増加してきたのです。

なかでも1976年、1979年には、花粉の大飛散が生じ、花粉症の激増をもたらしましたが、とくに、1979年には社会問題にまでなっています。スギ花粉症は、その年以来毎年律儀に北海道と沖縄を除く日本列島を襲撃するようになり、「国民病」と呼ばれるようになりました。そんなに義理堅くなくても良いのに、と思うのは私だけでしょうか。

それでは、どうしてスギ花粉症は1979年から毎年発生するようになったのでしょうか。江戸時代の昔から、日光街道に有名なスギ並木はありましたが、江戸時代の日本人が花粉症に悩んだとの記録は見られないのです。

花粉症という病気は、典型的なアレルギー疾患です。ということは抗原抗体反応によって生じる病気であり、抗原(アレルゲン)である杉花粉が増加すれば、疾患それ自体も増加してきます。そしてじつは、スギ花粉のもとである杉の木が日本全国で一斉に植林されたのが、1950年代だったのです。

その時期、日本は戦後復興期のさなかでしたが、復興のために日本中の山々の木々がほとんど切り倒され、日本は禿山だらけになりました。すると、ちょっとした雨が山に降っても、それは大洪水を引き起こします。そうした大洪水に対抗する対策として、日本のハゲ山には一斉にスギ・ヒノキが植林されたのです。その結果、洪水はみごとにコントロールされましたが、日本中の山々はスギやヒノキの緑に覆われることとなりました。

それらスギの木が成長して、花粉を大量に飛散されるようになるのが、ほぼ樹齢30年といわれます。ですから1950年に植林されたスギの木が大量に花粉を飛ばすようになるのは、1980年前後であることが理解できます。

1979年から毎年日本を過ぎ花粉症が襲い、国民病と称されるほどの大量の患者を発生させるようになったのには、それなりの理由があったのです。

● 食生活とアレルギーの増加

スギ花粉症は典型的なアレルギー疾患で、抗原抗体反応です。ですから抗原であるスギ花粉が増加すれば、花粉症全体も増加するであろうことはわかります。でも、それ以外に原因は存在しないのでしょうか。

抗原抗体反応であるということは、抗原が増えるだけでなく抗体産生能力が強くなれば、反応も増強する事が推測できます。抗体産生能力は免疫機能そのものですから、人体の防衛能力の向上が免疫能力と抗体産生能力を強くすることになります。人体は栄養状態が悪いと免疫能力が低下し、細菌感染に弱くなります。それは栄養状態が悪かった昔、肺結核をはじめ、さまざまの感染症で人が亡くなった事実を考えれば実感できます。

それに対して人体の栄養条件がよくなってくれば、人間の体は免疫機能が改善し感染症に強くなるはずです。ただし、免疫能力が強くなりすぎると人体の防衛機能は過敏となります。今度は最近やウイルスだけでなく、些細で無害な物質の人体への侵入に対しても、人体は全力でそれを防ごうと反応します。それが鼻の場合には、すさまじいくしゃみ・鼻みず・鼻づまりとなるわけです。これら3つの反応は、人体に有害な物質を取り込まないように体が行う正当な防衛反射なのですが、過剰であると、むしろ人体自身に負担のかかる結果となります。

その意味で現代人の食生活が栄養豊富になった、それが皮肉な事に過剰防衛反応としての花粉症症状を引き起こしている、と考えることができます。この考え方はまだ仮説なのですが、動物性たん白質や動物性脂肪の摂取量が増加するとアレルギーになりやすくなるのは、以下の事実からも理解できます。

つまり、花粉症などアレルギー性鼻炎において、アレルギーの過剰状態を作り出している科学物質の一つに、ロイコトリエンという成分があります。そしてこのロイコトリエンの原料は、アラヒドン酸という物質で、じつは動物性たん白質や動物性脂肪に大量に含まれているものなのです。

ですから、これらの栄養素をたくさん食べると体内にロイコトリエンの材料が豊富に蓄えられるようになり、アレルギー発作の症状をつらくしていることになります。過剰な栄養摂取は,アレルギーのもととなり得るのです。

● 感染症の減少とアレルギーの増加

この項のはじめに、スギ花粉症の直前の国民病は結核だと書きました。国民病の座に交代があったということは、もしかすると結核の減少と杉花粉症などアレルギー疾患の増加との間には、なんらかの関連があるのかもしれません。

栄養が悪い時代には、人間は結核など感染症に罹患しやすく、栄養素が豊富になるとアレルギー疾患になりやすい、と説明しました。そしてそれは免疫能力が昔は低く、近年の人間の免疫能力が高まったことと関係する、とも書きました。さらに免疫能力が低い時期には人間は細菌感染やウイルス感染に弱いが、免疫能力が過剰になると無害な異物の体内への侵入に対して過剰な防衛反応を示すようになるが、つまりそれがアレルギー疾患だと解説しました。

ここまでは、あくまで想像による理解だったのですが、じつはこの考え方は裏付けられており、動物実験や実際の疫学調査でも事実であることがわかっています。つまり、人間の免疫反応を担うT細胞には2種類あり、そのうちTh1と呼ばれるタイプは結核など感染症の時に増加します。それに対してTh2と称するタイプはアレルギー疾患に際して増加します。

興味深いことに、これら2つのタイプのT細胞はお互いにバランスをとって存在している、と考えられています。つまり、Th1細胞が多いときはTh2細胞が少なく、Th1が少なくなるとTh2が増加するのです。ということはつまり、結核感染などが多い時期にはアレルギー疾患はあまり多くなく、結核感染などが減少するとアレルギー疾患が増えるのです。

ですから私が説明した、ひと昔前は結核が日本人の国民病であり、現代はそれに代わってスギ花粉症などアレルギー疾患が増えた事実は、これらTh1/Th2バランス理論でみごとに裏付けされるのです。

● 寄生虫とスギ花粉症

ひと昔前はありふれていて近年少なくなった病気は結核だけではありません。回虫などの寄生虫感染症も、スギ花粉症の激増に反比例するように、その姿を見せなくなりました。実際、1949年には63%もあった日本人の回虫感染率は、1990年代には0.02%にまで激減しています。この減少と花粉症の増加との間には、なにか関係があるのでしょうか。

回虫に感染していると、アレルギーになりにくいという考え方があります。それは、寄生虫が人体にとっては花粉よりも大きな異物であるため、アレルギーのときにからだの中で産生される特殊な抗体が体内に溢れてしまい、いまさら花粉が侵入しても人体はアレルギー反応を生じる余裕がない、という仮説です。たしかにこの仮説に従えば、回虫の減少と花粉症の増加は説明可能です。このため、寄生虫と体内に保持しているとアレルギーにならないと称して、現実にサナダムシをのんだ人もいました。

けれども私たちが中国で調査を行うと、回虫に対する血液検査で陽性の被験者の方が、陰性の被験者よりもアレルギーの頻度は高いことがわかりました。つまり回虫はアレルギーを抑制するよりも、アレルギーを一層ひどくしている可能性すらあることがわかり、この仮説は現実的でないとの結論になりました。

ひと昔前の日本人にスギ花粉症が少なかったのは、寄生虫がおなかの中にいたためではなかったのです。

● 大気汚染とスギ花粉症

大気汚染こそスギ花粉症激増の原因であると考えられていたことが、一時期ありました。それは日光において、スギ並木自体は江戸時代から存在したのに、スギ花粉症の増加したのがいろは坂の車両通行量増加に比例していたことや、同じ日光の中ならば車両通行量の多い地域の方が少ない地域よりも花粉症の頻度の高いこと、などが根拠となっていました。

この論文は、だから車両の排出物質、ことにディーゼル排出物がスギ花粉症を増加されたのだ、と簡単に結論づけました。

他方、東京都と岩手県とでスギ花粉症などの頻度を比較した調査で、東京都の方がより頻度が高いとの報告がなされ、それは大気汚染のせいであるとされたことも、論拠の一つとなっていたようです。けれども私たちが調査を行った限りでは、同じ調査区域内で大気汚染地区と非汚染地区とを比べても、アレルギーの検査の陽性率に差はありませんでした。そこで、日光における最初の大気汚染説論文を再検討したところ、この論文では車両通行量の増加に伴う落下スギ花粉の最飛散をまったく念頭に置いていないことがわかりました。つまり、現代社会においてスギ花粉症の増加した一要因として、コンクリート舗装された道路にスギ花粉が落下すると、地面に吸収されずに再飛散することが指摘されています。いろは坂でも車両の通行量が増加すれば、落下したスギ花粉がもう一度舞い上がって2度3度と人間の鼻に入ります。そしてそれは、とりもなおさず抗原の増加と同じ意味をもちますから、花粉症の頻度増加につながることが想像できます。それなのにこの論文では、通行量の増えたために増加した花粉症を、ディーゼル排出物質が悪いものと、なんの疑いもなく決めつけていたのです。

それに、東京都と岩手県を比較した大気汚染説論文は、じつは実行していない調査をあたかも実施したごとく、修飾して記載していたことが後からわかりました。つまり、大気汚染によるスギ花粉症増加説には、じつはまったく科学的根拠がなかったのです。

私たち以外の世界のほかの調査でも大気汚染説を裏付けるものはなく、この説はもはや重要視されていません。

● おわりに

現代に生きる日本人の国民病って、いったいなんでしょう。皆さんには、その答えはすでにわかっていますよね。そう、スギ花粉症です。

でも、この国民病、けっして由緒正しいと言えるほど大昔から日本の間にまん延していたわけではありません。第二次世界大戦後の日本社会の復興と関連した植林が原因となって発生した病気で、東京オリンピックの年に報告されたのが初めてでした。そして、国民病と名づけられるに至ったのは1979年のことで、それから25年の間に、これほどまでに有名になったのです。

ここでは、どうしてそんなにスギ花粉症が増加したのか、一つ一つ原因と疑われている要因を吟味してみました。皆さんもスギ花粉症について正確な知識を身につけ、きちんと対応してくださいね。

関連ページ: スギ花粉症〜レーザーとソムノプラスティによる新しいアプローチ〜
  「花粉症」日英中比較考現学
関連リンク: 用語集 花粉症
トップページへ 前ページへ