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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集


「QUESTION&ANSWER」

Q 寄生虫がいるとアレルギーになりにくいという話を聞いたのですが・・・

寄生虫感染の減少が、スギ花粉症を増加させたとする話を聞きましたが、本当なのでしょうか。


A: アレルギー疾患はからだの免疫機構の働きです
A: 寄生虫によるスギ花粉症抑制説は不適当では?


A アレルギー疾患はからだの免疫機構の働きです。

寄生虫の感染とアレルギー疾患全体の関係については、現在さまざまな推測がなされており、結論はでていません。ただしご質問の内容は恐らく、「現代日本でスギ花粉症が激増したのは、回虫など寄生虫が減少したためである」との、マスコミ報道に関する疑問ではないかと推測されます。この点については、私たちの調査で結果が判っています。お答えしましょう。

寄生虫とアレルギー疾患との関係

そもそもスギ花粉症などアレルギー疾患は、抗原抗体反応であって人体の免疫機構の働きです。もともと免疫機構は、細菌やウイルスなど異物が人体内に侵入しようとする際にそれを防御しようとして、作動します。
ですから鼻がその現場であるときには、くしゃみ・鼻みず・鼻づまりが生じて、異物を鼻から体内に侵入させまいと努力します。

人類は古代から感染症と戦って来ました。ですから、細菌やウイルスを人体内に入らないようブロックするこうした機構は、長い間人間にとって有益だったのです。

けれども近年になって衛生環境が良くなり、細菌やウイルスが人間の身近にいなくなりました。それにも関わらず栄養の改善によって人体内の免疫機構は、力を増してきています。すると細菌やウイルスのように人体に危害を加えることの無い、ダニや花粉などの鼻からの侵入に対しても免疫機構は、つい全力で追い出そうとしてしまうのです。これはいわば過剰防衛であり、人間でも正等であるはずの防御努力をやり過ぎて逮捕されたり、結果的に自身に害を与える状況に似ています。

ですから鼻粘膜は、ダニや花粉などの無害な異物(もともと人体に存在しないもの)の鼻粘膜からの侵入に、全力で防御反応を示します。それが逆に人間を苦しめる、過剰なまでのくしゃみ・鼻みず・鼻づまりとなるのです。こうした過剰防衛反応を示す人体の免疫機構にあって重要な役割を果たすのが、IgE抗体と呼ばれる免疫グロブリンなのです。

アレルギー発症のメカニズムが今回のお話の前提となっています。 

このIgEは花粉症などアレルギー疾患のときには、ダニや花粉などに反応してたくさん人体内で産生され、抗原抗体反応つまりアレルギーに関わります。具体的には、増加したIgEはヒスタミンやロイコトリエンなどと呼ばれる、アレルギー症状を増強させる化学物質の貯えられている、肥満細胞という細胞の壁に付着しそれを破壊します。すると、肥満細胞の中から化学物質が出て来て鼻粘膜などに作用し、アレルギー症状を発現させます。そんなアレルギー発症の機序が、今回のお話の前提となっております。

ところで、寄生虫がいると喘息や花粉症などアレルギーにならないのではないかとの仮説は、もともと寄生虫感染の多い発展途上国の住民で、血液の中のIgE値が非常に高い事実から生まれました。これらの先住民の高IgE値は、人体にとって花粉やダニなどよりもはるかに巨大な異物である、寄生虫の感染によりもたれされたものと考えられています。そしてこうした地域では喘息や花粉症疾患が非常に少ないのです。
こうした現象を観察した研修者たちは、寄生虫により大量に産生されたIgEが肥満細胞をすっかり覆ってしまい、ダニや花粉などの抗原によりIgEを肥満細胞表面に寄せ付けないため、寄生虫感染があるとアレルギーになりにくいと考えました(図1)

寄生虫感染の減少がスギ花粉症を増加させたとするお話は、いったいいつ、誰が?

この考え方を日本に紹介し、近年の日本でスギ花粉症の増加したのが寄生虫の減少によるものではないかと初めて提唱したのは、当時の国立公衆衛生院微生物学部長であった井上栄氏でした。
井上氏は、国立予防衛生研究所に保存されていた1973年採取の群馬県の血清と、1984〜85年採取の血清のスギに対するIgE値を比較し、前者に比べ後者のスギ特異的IgEが4倍もの高値を示す事を明らかにしました。(図2)。つまり群馬県の被験者のスギ花粉症は、役10年間の間に4倍に増加していた事になります。

図2 

ニホンザルとヒトにおける
スギ特異的IgE抗体保有率の比較

 

それに対して日本人の回虫感染率は、1949年には63%もの高率をしめしていたのに、1900年代には0.02%にまで低下しています。

井上氏は、こうした日本人におけるスギ花粉症増加の実態を踏まえた上で、推測される原因の一つとして寄生虫によるスギ花粉症抑制説を、「文明とアレルギー病」(講談社、1992、編集者:石原恵子氏)という著書の中に紹介しました。つまりそれまでも、寄生虫感染とアレルギー疾患との相関についてさまざまの議論はあったのですが、スギ花粉症増加の原因としての寄生虫減少説を提唱したのは、井上氏が最初だったのです。

なお、繰り返しますが寄生虫感染とアレルギー全体との関わり合いについては、まだ世界的に結論が出ていません。私がここで説明するのは、スギ花粉症などアレルギー鼻炎に限った話です。
そして、無名だったこの寄生虫によるスギ花粉症抑制説が日本で突如有名になったのは、東京医科歯科大学寄生虫学教授の藤田紘一郎氏による「笑うカイチュウ」(講談社、1994、編集者:石原恵子氏)が出版され、ベストセラ―になったせいです。

藤田氏は、井上氏の著書を編集した石原氏から執筆のテーマについての様々の助言を受けて本書に、回虫を始めとする寄生虫を人間が撲滅したためにスギ花粉症が増加したのだ、と書きました。
藤田氏は井上氏のデータに加えて、ニホンザルの寄生虫感染率がここ40年間は80%で変化の無いこと、そのせいかニホンザルではスギ花粉症減少が少ないらしいこと、との京都大学霊長類研究所教授・中村伸氏の仮説(前項図2)を付け加えて、自説の擁護としました。
お話はそこからさらに、飛躍します。

清潔はビョ−キ?

藤田氏は次に、「清潔はビョ−キだ」と言い始めたのです。すなわち氏によると、人間にはある程度の不潔さが必要だということです。そして、本来なら寄生虫と人間とは「共生」すべき生き物同士であって、一方の論理で相手をばっさり退治することの反作用が、いかに大きいかと論議を進めています。さらには人体内に寄生虫を飼っているとアレルギーになりにくいと、自身の腸にサナダムシを飼育しているとの事でした。

これがすなわち、寄生虫によるスギ花粉症抑制説が生まれた経緯です。

この仮説は事実と違うのでしょうか?

私は「笑うカイチュウ」の出版された翌年に、講談社の石原恵子氏の紹介で藤田紘一郎氏や井上栄氏と論争を開始しました。実は私は1995年から南京医科大学を拠点に、中国におけるアレルギーの免疫調査をスタートさせていました。その結果、スクラッチテストによる中国の被験者のアレルギーの頻度は、日本の被験者のそれに較べてはるかに低かったのです。当時の中国では寄生虫感染率が非常に高くて、全国調査で感染率は63%近いとの報告もありました。

あるいは中国でアレルギーの頻度の低いのは、本当に寄生虫感染のためかもしれません。

地域全体の疾患の傾向を知ることはとても難しい

話は変わりますが、私のグループは疾患の頻度について検討する場合、医療機関を受診した症例だけを相手に分析を行うわけではありません。それは例えばある地域の食事内容の調査をする際に、街中にあるレストランで待ち構えていて来客のメニュー選択をチェックするだけでは、地域住民の食生活を把握できないのに、良く似ています。レストランの来客がカレーを頻繁に注文するからといって、その地域全体の住民がカレー好きかどうか、判定することは困難です。厳密には各家庭へお邪魔して、家族全員に朝食は何を摂ったか、お昼はどんな内容だったのか、夕食の予定はどうなっているのか、確認しなければその地域全体の食事内容調査は正確とは言えません。

図3 学年別スクラッチテスト陽性率−日本と中国−

疾患についても、事情は同様です。医療機関うを訪れる受診者の病気の傾向が判ったとしても、それでその地域全体の疾患の傾向を知ることは、とても難しいのです。

その意味から私のグループは少なくとも、その地域の住民の健康状態を把握するために、小学生や中学生などある特定の年令の構成人員全体の調査を実施します。寄生虫がスギ花粉症などアレルギーの発病を予防していたとの仮説の検討でも、理屈は同じです。

私は日本では、北海道白老町の小中学生全員と栃木県栗山村の小中学生全員のスクラッチテストのデータを、中国における江蘇省呉江市黎里鎮という上海市の隣町の、小中学生全員のデータと比較しました。すると日本に較べ、黎里鎮の被験者のアレルギーの頻度は、3分の2程度しかありませんでした(図3)

仮説の信頼性に疑問を抱き私はさらに調査をすすめました

もしも、これら被験者となった中国の小中学生に実際に寄生虫感染が多かったならば、日本よりも低いアレルギーの頻度は寄生虫感染によって、もたらされたのかも知れません。その確認の目的から私のグループは黎里鎮で、スクラッチテストとともに検便を行いました。

ところが南京医科大学寄生虫学教室で解析された検便の結果、江蘇省呉江市黎里鎮の小中学生の寄生虫感染率は2%に満たないことが判り、しかも寄生虫感染のある被験者においてもスクラッチテストの陽性となる例の見られることも、判明しました。

中国の寄生虫感染は決して多くなく、加えて寄生虫はアレルギーを抑制しないのです。

それにしても、中国全体の寄生虫感染率が63%もの高値を示すと言う論文のデータは、どうなってしまったのでしょう。じつは論文の発表されたこの時期、北京の威信をかけた国家規模の寄生虫撲滅運動が中国全土で展開されており、寄生虫感染率は短期間に劇的に減少していたことが後から判りました。黎里鎮の小中学生の検便の結果は、まったく不自然ではなかったのです。

こうした調査の結果、「共生の妙」を唱え、近年の日本人のスギ花粉症の激増は寄生虫の減少によるものだとする、この仮説自体の信頼性に疑問を抱き、私たちはさらに調査を進めました。

寄生虫はアレルギーを抑えるのではなくむしろひどくしている可能性も

すると、1999年に実施された黎里鎮の高校1年生全員、179名を被験者にしたアレルギー学的調査では、血清検査で回虫感染陽性(RASTスコア1以上)の生徒の方が、感染陰性(RASTスコア0)の生徒よりもスクラッチテスト陽性率の高いことが判りました。加えてこれらの生徒の中には、総IgE値が2304IU/dIもの高値を示す被験者も存在しましたが、この例でもダニに陽性反応を呈していました。つまり私のグループの調査からは、寄生虫はアレルギー反応を抑制するのではなく、むしろその程度をひどくしている可能性があることすら、理解できたのです。

A 寄生虫によるスギ花粉症抑制説は不適当では?

少なくともこのにほんでこれだけスギ花粉症が蔓延するようになった、その第一の理由として寄生虫感染の減少を挙げることは不自然です。

ましてや、寄生虫を体内にかっているとスギ花粉症にならないと称して、藤田氏のようにサナダムシを呑み込むことも異常です。

現代に生きる日本人に過剰な清潔指向の見られることは確かですが、半ば精神論敵に「清潔はビョーキだ」(朝日新聞社から藤田氏の出版した著書名)と言い張るのは無理みたいです。

以来、藤田氏は「寄生虫感染によるスギ花粉症抑制説」を二度と口にしなくなりましたが、もともとこの仮説を唱えたのは井上栄氏です。

私は井上氏にFAX を送り、私の調査結果から寄生虫による抑制説は不適当ではないか、と書きました。これは、それに対して届いた井上氏のFAXの一部です。

「もし非特異的IgE(※1)がアレルギーを抑えるとしたら、総IgE(※2)がどの程度あるのかがポイントだと思います。南米原住民の総IgEは1万を超えるとのことです。お送り頂いた症例の総IgEは2304です。ランセット誌(※3)の論文では、大量のIgEが肥満細胞のIgE受容体(※4)を飽和していると考えられます。

寄生虫感染の程度が低ければ寄生虫による非特異IgE刺激作用がスギ特異IgEアジュバントとなりアレルギーを促進させ、さらに総IgEがもっと多量になると逆にアレルギーを抑える(※5)、ということも考えられないでしょうか。」

私もFAXを送り返しました。
「先生は、1973年と1984〜85年の群馬県の被験者の冷凍血清からスギ花粉にたいする特異IgE抗体値を測定しておられますが、その両者の総IgE抗体値はどうでしたでしょうか。もしも前者の総IgE値の大部分が、先生の指摘しておられるように1万以上だったのでしたら、日本においても寄生虫によるスギ花粉症抑制説は成り立つかも知れないと思うのです。逆に1万を越える症例が1例も存在しなかったとしたら、寄生虫による花粉症抑制説は根拠に乏しいと判断せざるを得ません。」

井上氏からは次のようなFAXが届き、議論は打ち切りとなりました。
「1973年の血清中の総IgEの幾何平均(※6)114IU/dl(※7)、84〜85血清では67IU/dlでした。73のスギ特異IgE陽性率が低かったのはスギ花粉飛散が少なかったことが主因であろうと考えています。(中略)
どれが主因なのが知りたいのですが、どうやったらそれができるのか、私には良いアイデアはありません。」

私と藤田氏そして井上氏のこのような議論の後、寄生虫の減少が近年の日本のスギ花粉症増加の主な原因であったと主張する研究者も、それを話題として報道するマスコミも、まったく見られなくなりました。

 

文中の語句や文章の説明

(※1) IgE
 花粉症などアレルギー疾患のときに、ダニや花粉などに反応してたくさん人体内で生産される抗体の一種
   非特異的IgE
 スギやダニなど、特定のアレルゲンに対して特異的に産出されたIgE以外の不特定多数のIgE

(※2)総IgE
 特異的・非特異的IgEの総数

(※3)ランセット誌
 ヨーロッパの医学雑誌名

(※4)IgE受容体
 肥満細胞(マストセル)表面のIgEに対する鍵穴

(※5)寄生虫による非特異IgE刺激作用がスギ特異IgEアジュバントとなりアレルギーを促進させ、さらに総IgEがもっと多量になると逆にアレルギーを抑える
 寄生虫による非特異的IgE値の少ないうちは、むしろそれが刺激となってアレルギー反応の亢進することが考えられ、非特異的IgE値が1万近くまで上昇すると、それはマストセル表面のIgE受容体を全て被ってしまうことになるので、スギに感作されたIgEがマストセルに付着することができなくなり、マストセルからのロイコトリエンやヒスタミンの放出がおこりにくくなる。

(※6)総IgEの幾何平均
 総IgEの平均値

(※7)IU/dl
 International Unit/dl (デシリットル)
 血清1デシリットルあたりのIgEの国際的に決められた単位量



[出典]日本学校保健研修社発行 月刊「健」4,5月号より

 
関連ページ:公衆衛生情報みやぎ 〜世界の花粉症調査(5)〜(3443通信2004年1月号)
関連リンク: 用語集 花粉症
用語集 寄生虫
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