3443通信 オンライン  
みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

 

公衆衛生情報みやぎ 〜世界の花粉症調査(2)〜

三好 彰
三好耳鼻咽喉科クリニック
南京医科大学国際鼻アレルギーセンター


今年も、スギ花粉症のシーズンがやって来ました。そんなにそんなに毎年律儀に来てくれなくとも良いのに。私たちはそう思うのですが、スギにもスギなりの事情があるのでしょう。

それにしてもスギ花粉症って、一説には「百年の恋も醒める病気」だなんて、ひどいあだ名が付いています。だって一旦この発作に襲われたら、どんな美男美女もたまったものじゃありません。くしゃみ・鼻みず・鼻づまりがひどくって眼も痒く、かきむしる余り、たちまちお岩さん状態。百年の恋だっていっぺんに醒めてしまいます。 おまけにこのスギ花粉症、一度かかると一生付きまとうとも言われます。

すでにシーズンに入ってしまった今となっては、どうにも打つ手は無いのでしょうか?

私たちの調査を通じて明らかとなったアレルギー理論から、スギ花粉症の最新の治療法を考えて見ることにしましょう。

そもそも花粉症の発作のくしゃみ・鼻みず・鼻づまりは、これまで信じられて来たように本当に有害無益なのでしょうか。

くしゃみは、鼻から何か人体内に病原菌やウィルスなどの悪さをする物質が入って来ようとするときに、それを吹き飛ばして体の中へ入れまいとする防衛反応です。もちろん鼻みずも鼻づまりも、その意味では防衛反応であって、本来ならば人体を守る働きであったことが判ります。とはいえこれらもともとは有益な反応も、過ぎたるは及ばざるがごとし、です。逆に人体に、過剰なまでの負担がかかってしまいます。

つまり花粉症など鼻のアレルギー反応は、実は人体を本来なら守るべき機構が、過剰防衛のためにむしろ人体に害を与えている、そんな病態だと理解することもできるのです。

このような過剰防衛には、しかしそれではどのような意味があるのでしょうか。

人類は自己の生存と種族の保存のために、多大な労力を費やして来ました。長い間、この目的を果たすのに最大の敵は感染症でした。ことに食物が豊富でなく人類が飢えに直面していた時代には、人体内の防衛力つまり免疫機構も十分に力を発揮することができず、多くの人間が感染症で亡くなりました。それは疫学という言葉のそもそもの意味を考えれば、良く理解できることでもあります。

それに対し、近年の日本で平均寿命が長くなり乳児死亡率が激減したのは、衛生状況の改善によって感染源となる病原菌が減少し、栄養の改善によって人体の免疫能力が高まったため、と推測されています。つまり人間の体は、防衛能力が強くなったと表現できるのです。

皮肉なことに免疫能力は、力を増しながらも病原菌の減少によって敵を見失い、力を持て余しています。そんな状態の人体へ、ダニやスギ花粉など無害な異物の侵入が生じた場合、これらの異物は体に悪影響を与えたりはしないにも関わらず、それに対応する人体は少し過剰なまでの防衛能力を備えてしまいました。

例えば、われわれ人間が物理的危害を加えられそうになったとき、手に何も持っていなかったら、襲って来た相手をかなり強く突き放しても、相手を傷つける心配はありません。しかしもしもわれわれが、たまたま武器を手にしていたら、あるいは知らずに強靭な体力を身に付けていたとしたならば、加害者を無傷のまま押し戻すつもりでいても、実際は加害者に損傷を与えてしまうでしょう。

これを人間の場合には過剰防衛と称し、逮捕されむしろ我が身に厄災の降り掛かってしまいかねない事態なのです。つまり正当な自己防衛であっても、過剰であれば逮捕されたりして、結果的に自分自身に害を与えてしまうこともある訳です。

同様に人体の免疫反応も、さほど強くない時点では異物に対して過剰に反応することも無く、人体そのものに害を与えることもありません。けれども免疫能力が力を持て余しているならば、人体は異物に対して過敏に反応し、あげくは自身にさえ害を与えることとなるでしょう。

アレルギーとは、少なくとも抗原抗体反応である花粉症などアレルギー性鼻炎については、高まった免疫能力が自分の身を守ろうと異物に過剰反応する余り、本来ならば保護されるべき自身に害を与えている病態と、比喩的に理解することができるでしょう。

さて、「比喩的な理解」と書きました。しかしそれは本当に、単なる比喩に過ぎないのでしょうか。それとも何らかの根拠のある説明なのでしょうか。

特定の感染症の減少傾向とアレルギー疾患増加との間には、何らかの関連があるとされます。具体的には、わが国の結核感染などは1960年代に減少していますが、スギ花粉症が1963年に発見されその後激増したことなどと、時期的には一致します。

そして実は人間の免疫細胞には2種類あり、細菌感染に関与するTh1と呼ばれるタイプと、アレルギー反応を起こし易くなるTh2と呼ばれるタイプのものに分類できることが、最近判りました。この2つのタイプの免疫細胞は、互いにバランスをとって存在しているものと考えられ、Th1が優勢のときにはTh2は抑制され、逆にTh2が優勢のときはTh1が抑制されます。と言うことは、感染症の多い時期には人体内でTh1が優勢となりTh2を抑制しているのですが、感染症の減少した時期にはTh1が抑制されTh2が優勢となる、つまりアレルギー疾患が多くなると理解できます。


図1:Th1/Th2バランスに影響を与える因子


図2:ツベルクリン反応とlog(血清総IgE値)の関係

動物実験では明らかにされていたこの理論(図1)を、人間に対する実際の調査で確認したのは私の共同研究者の、白川太郎京都大学大学院教授でした。白川先生たちは、被験者として選ばれた和歌山県の中学生では、結核の指標となるツベルクリン反応とアレルギー調査の結果とは、ちょうど背中合わせみたいな逆の相関関係が見られることを証明し(図2)、その論文は「サイエンス」誌に掲載されました。そしてこの逆相関の理論は、私たちの中国の小中学生における追試の結果にも当て嵌まることが判りました。つまり結核感染頻度とアレルギーの頻度とは、逆の相関にあると考えて良さそうです。

こうした調査成績から判断する限り、本稿で私が記した感染症の減少とそれにより力を持て余した過剰な免疫能力により、花粉症が増加したのだとの仮説は、少なくとも結核については的外れでもなさそうです。

ところで人体が過剰防衛気味になっているとしても、花粉症が発生するには人体に吸入される花粉それ自体が増加していなければ、スギ花粉症とはなり得ません。スギの木は樹齢30年になると、毎年一定量の花粉を飛散させます。そして戦後、復興のために山々の木々が切り倒され治山治水が問題となった結果、全国一斉にスギの植樹の行なわれたのが1950年前後です。この事実から、スギ花粉が大量に飛散するのは1980年前後となるはずです。

現実にこの日本で、初めて社会問題になるほどスギ花粉の多量に飛んだのは1979年のことでしたから、こうした推測は正解だと判断できます。花粉症などアレルギー性鼻炎は抗原抗体反応ですから、抗原(アレルゲン)であるスギ花粉の量が多ければ、それだけ花粉症を発症する頻度は高くなります。

逆に、スギ花粉飛散の少ない春は花粉症に悩む人も少なくなることからも判るように、花粉に接触しなければ花粉症は治まってしまいます。すでに宮城県はスギ花粉症のシーズンの真っ只中にありますから、今回は私たちのアレルギー理論に基づいた治療法の実際と、その効果について少し触れることにします。

これまで展開して来た私たちのアレルギー理論を、ごく簡単に述べれば以下のような内容となります。

一つには、花粉症などアレルギー性鼻炎は栄養条件の改善により免疫学的に強くなった人体の、無害な異物の鼻粘膜よりの侵入に対する過剰防衛反応です。

もう一つには、アレルギー性鼻炎は抗原抗体反応だということです。世の中のすべての事象がそうであるように、原因であるアレルゲンが増加すれば結果であるアレルギー性鼻炎(花粉症)は増加し、アレルゲンが減ればアレルギー性鼻炎も減少します。

次回以降に解説しますが、これまで何の根拠も無く言い伝えられて来た大気汚染や寄生虫感染減少は、アレルギー性鼻炎(花粉症)増加の原因ではありません。

このように考えて来るとアレルギー性鼻炎(花粉症)の治療は、アレルゲン(花粉)の除去が原因療法としてもっとも理に適った方法であることに、気が付きます。

たしかに抗アレルギー剤も進歩しており、薬剤を活用するのも悪くないのですが、それは飽くまで対症療法であることをわきまえておく必要はあります。さて物理的に花粉を除去するには、生活面での注意が主流となります。具体的には晴れた日の外出を避ける、外出時にはマスクやゴーグルを活用する、花粉の付着しにくい素材の衣服を羽織る、家の中に入るときには衣服の花粉を払い落とす、などがそうです。晴れた日には、つい布団を外で乾したくなるのですが、これは控えた方が賢明です。布団が花粉をたっぷりと吸い込んでしまい、仕込み布団になってしまいます。夜中に布団の中で花粉症発作に襲われるなんて、みっともありません。

これに関し私たち耳鼻科医の立場からすると、鼻粘膜からの吸入抗原であるスギ花粉に対しては、鼻粘膜への処置を行なうことで対応できると思うのです。

それは現実的には、例えば鼻粘膜に対するレーザー焼灼手術を施行することで、鼻粘膜表面を薄く刮げ落としてやる方法があります。この方法では、鼻粘膜表面の抗原抗体反応を生じている部分が除去できますから、粘膜が再生して再びスギ花粉にアレルギー反応の起きるようになるまで、最低1年間は花粉症の症状が抑えられます。この間は、くしゃみ・鼻みずについてさほどつらい思いをすることは無くなります。なおここで最低1年間と表現したのは個人差があるためで、実際には手術後3年間たっても症状の起きない人も存在します。

ただしこの手法だけでは、限界もあります。それは、スギ花粉だけでなく通年性のアレルゲン(ダニやHD)にもアレルギー反応のある場合で、鼻粘膜は炎症のせいで繊維化し不可逆性の変化(リモデリング)を遂げています。いわばタコになっている状態で、このためレーザー焼灼術を行なっても粘膜肥厚は解消しません。

そんな場合私たちは、高周波を利用したホットナイフの1種であるソムノプラスティを用いて、効果を挙げています。この治療器は、高周波発生装置とそれを治療目的部位である下甲介に刺入し、そこで高周波を人体内に放射するニードルとからなっています。刺入されたニードルの先端から発生する高周波はそこで組織のイオン攪拌を生じ、組織内部で熱が発生します。これはいわばその目的部位の組織を、電子レンジの中へ入れたようなものです。

その結果肥厚した鼻粘膜は内部で組織変性を生じ、吸収されて脱落します。そして肥厚鼻粘膜は内部から小さくなり、鼻づまりは改善します。

私たちは2001年11月からこの高周波治療に取り組み、これまでに 500例以上手術を行なって来ましたが、その効果は本当に劇的です。残念ながら紙面の関係から、その詳細については別の機会に譲ることとします。

ただ、私たちがこうして世界各地で疫学調査を行なったその成果は、理論的背景となって最新の治療法を裏付けていることになります。疫学調査という地道な研究法はともすれば、その場で臨床に直結することは少ないと誤解されがちでした。

けれどもこの原稿をお読みのあなたにだけ、特別こっそりと教えて上げますが、疫学調査は本当は目の前ですぐさま治療に応用できる、素晴らしい研究方法だったのです。

 
公衆衛生情報みやぎバックナンバー
公衆衛生情報みやぎ 〜世界の花粉症調査(1)〜
公衆衛生情報みやぎ 〜世界の花粉症調査(2)〜
公衆衛生情報みやぎ 〜世界の花粉症調査(3)〜
公衆衛生情報みやぎ 〜世界の花粉症調査(4)〜
公衆衛生情報みやぎ 〜世界の花粉症調査(5)〜
公衆衛生情報みやぎ 〜世界の花粉症調査(6)〜
公衆衛生情報みやぎ 〜世界の花粉症調査(7)〜
公衆衛生情報みやぎ 〜ピアスの白い糸〜
公衆衛生情報みやぎ 〜その後の世界の花粉症調査(1)〜
公衆衛生情報みやぎ 〜その後の世界の花粉症調査(2)〜
公衆衛生情報みやぎ 〜その後の世界の花粉症調査(3)〜
関連リンク: 用語集 花粉症
トップページへ 前ページへ