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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

公衆衛生情報みやぎ 〜世界の花粉症調査(4)〜

三好 彰
三好耳鼻咽喉科クリニック
南京医科大学国際鼻アレルギーセンター


公衆衛生情報みやぎ 〜世界の花粉症調査(4)〜 [ 1ページ2ページ ]

(図1)
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(図2)
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この連載の中で、私はこう書きました。

一つには、花粉症などアレルギー性鼻炎は栄養条件の改善により免疫学的に強くなった人体の、無害な異物の鼻粘膜よりの侵入に対する過剰防衛反応です。

もう一つには、アレルギー性鼻炎は抗原抗体反応だということです。世の中のすべての事象がそうであるように、原因であるアレルゲンが増加すれば結果であるアレルギー性鼻炎(花粉症)は増加し、アレルゲンが減ればアレルギー性鼻炎も減少します。

これまで何の根拠も無く言い伝えられて来た大気汚染や寄生虫感染減少は、アレルギー性鼻炎(花粉症)増加の原因ではありません。

今回は、大気汚染がスギ花粉症増加の原因であるとの妄想について、議論します。

一部にはまるで真実のように喧伝されている「大気汚染説」ですが、実はこれまでにこの説を唱えている学派は2つしか存在せず、世界的にはこの説は支持されていません。

そしてその2派とは、日光において車両通行量の増加とスギ花粉症増加との関連について言い出した東京大学物療内科と、東京都と岩手県の小中学生のアレルギーの頻度を比較した慈恵医科大学耳鼻咽喉科です。

前者は1974年以来、数年後ごとに日光の一部の住民に対してアレルギー調査を行い、増加傾向にあることと、それが日光のいろは坂における車両の通行量と関連があるらしいことを、報告しました(図1)。

さらに彼らは同じ日光の中でも、スギ花粉落下量の多く通行量の少ない地域よりも、花粉落下量の少なく通行量の多い地域の方が花粉症の発生率は高いことを、指摘しました(図2)。

加えて彼らは、マウスの腹腔内にスギ花粉エキスとディーゼル排気物質とを注入し、スギ単独よりもIgEの産生量の多くなることを、実験的に証明しました。

これらの事実から彼らは、大気汚染ことにディーゼル排気物質がスギ花粉症を悪化させていると、早とちりした訳です。

(図3)
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日光には江戸時代から杉並木が存在したのに、スギ花粉症がみられるようになったのは、車社会となったつい最近のことであった事実も、彼らの錯覚の原因となりました。

一方、東京都と岩手県でアレルギー性鼻炎の調査を実施していた慈恵医科大学耳鼻咽喉科は、東京都を大気汚染地区、岩手県を非汚染地区と仮定して、ブタクサとHDに関するアレルギー学的検査の結果を比較しました(図3)。そして、ことにHDについて東京の被験者の陽性率が岩手のそれよりもかなり高いことから、大気汚染がアレルギー性鼻炎を増加させたと結論しました。

けれども良く考えると、この結果は少しヘンです。

スギ花粉ならば、大気内を浮遊する物質の一種と考えられます。こうした空中浮遊物質は汚染された大気と混ずることもありますから、ディーゼル排気物質の影響を受けてアレルギー反応を強く起こす可能性はあります。

しかし家屋内に存在するHDと大気汚染の接点は、あまり無いはずです。

果たしてダニやHDのアレルギーの場合、大気汚染の影響を受けることがあるものでしょうか。

そこで私たちは、私たちのアレルギー性鼻炎に関する疫学調査の手始めとなった北海道白老町の全小中学生についての調査において、それを検討しました。町内で、製紙工場があって大気汚染の見られる地域(萩野地区,写真1)と、全国有数の競走馬産地として知られる空気のきれいな地域(白老地区)、そして漁業や農業が主のやはり空気のきれいな地域(竹浦・虎杖地区)の3ケ所について、スクラッチテストを施行しました。(図4)

この調査の被験者となったのは、白老町の海岸線に近い国道沿いの小中学校に通う、町内の全小中学生でした。なおここでは、特殊教育を行なっておりそれゆえに全町内からの通学生のいる、森野小中学校は省きました。

萩野地区には製紙工場の目前に365日・24時間連続測定の大気汚染監視装置があり(写真2)、その結果をここに示します(表1)。

(図4)
(写真1)
 
(写真2)

(表1) 1990年4月〜1996年3月における窒素酸化物測定値(測定局:北吉原測定局)

区分 効果測定日数 測定時間
(時間)
平均値
(ppm)
1時間値
の最高値
(ppm)
1日平均値
の最高値
(ppm)
NO2/(NO+NO2)
1990年4月〜1991年3月 361 8685 0.020 0.293 0.063 54.5
1991年4月〜1992年3月 361 8646 0.023 0.243 0.070 56.1
1992年4月〜1993年3月 350 8620 0.021 0.185 0.051 56.7
1993年4月〜1994年3月 314 7518 0.019 0.187 0.059 56.3
1994年4月〜1995年3月 341 8206 0.025 0.438 0.090 54.3
1995年4月〜1996年3月 366 8747 0.024 0.229 0.074 56.4

(表2) 1990年4月〜1996年3月における浮遊粒子状物質測定値(測定局:北吉原測定局)

区分 有効測定
日数
測定時間
(時間)
平均値
(mg/m3)
1時間値が0.2mg/m3を超えた時間とその割合 1時間平均が0.10mg/m3を超えた時間とその割合 1時間値の最高値(mg/m3) 1日平均値の最高値(mg/m3) 1日平均値が2日以上連続して0.10mg/m3を超えたことの有無 環境基準の長期的評価による日平均値0.10mg/m3を超えた日数(日)
1990年4月〜1991年3月 362 8677 0.026 0 0.0 0 0.0 0.195 0.087 なし 0
1991年4月〜1992年3月 363 8672 0.023 0 0.0 0 0.0 0.140 0.066 なし 0
1992年4月〜1993年3月 346 8348 0.020 0 0.0 0 0.0 0.136 0.062 なし 0
1993年4月〜1994年3月 309 7399 0.019 4 0.1 0 0.0 0.308 0.101 なし 0
1994年4月〜1995年3月 341 8208 0.022 1 0.0 1 0.3 0.223 0.092 なし 0
1995年4月〜1996年3月 363 8708 0.019 0 0.0 0 0.0 0.166 0.051 なし 0

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