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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

こちらのページで講義の様子がムービーでご覧いただけます。

スギ花粉症を追って(2) [1ページ2ページ3ページ]
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院長は京都大学大学院非常勤講師として年に1回京大で講義を担当しています。
今回は11月30日に行われた講義の内容の後半をお目にかけます。


私たちは1998年に南京医科大学において日本以外の国における世界で初めてのスギ花粉症症例を発見ました。

症例は当時32才の女性で1989年南京寺の中山陵(孫文のお墓)で遊んでいたところ、くしゃみ・鼻水・鼻づまりの発作を初めて経験しました。

この発作は当初春と秋だけだったのですがやがて1年中生じるようになり1998年に南京医科大学耳鼻科を受診しました。その結果スギ花粉(Cj)に陽性反応を起こすことが確認され、中国における初のスギ花粉症例と確認されたのです。

この症例は日本杉(Cj)の花粉エキスに対して花粉症症状を示していましたが、それは中国産スギ(柳杉、Cf)にアレルギー反応を示す症例は、Cj に対しても発作を生じることを意味しています。

それでは逆に、Cjに対してアレルギー反応陽性である日本人スギ花粉症症例は、柳杉の花粉飛散に反応して花粉症症状を引き起こすでしょうか。

この柳杉はごく少数ではありますが、関西の植物園などに植生しています。奈良医科大学の井手氏らは関西に植生しているCfを使用して、日本人スギ花粉症症例が発作を起こすことを観察しています。(ヤナギスギ花粉とスギ花粉の共通抗原性

日本の土壌に生育しているCfは、その有する性質が中国本土のそれとはやや異なる可能性だってありますから、井手氏らの報告は必ずしもCf花粉の日本人スギ花粉症患者に対する活性を示しているわけではありません。

中国本土に飛散しているCf花粉に反応を起こす日本人が実在するのかどうか、それが最大の焦点です。

そんな興味を抱きつつ、インターネットで「杉」をキーワードに検索していましたところ、突然「中国杉のおかげで、久々の鼻炎の発作と耳管の閉塞が起こり」という、ホームページのタイトルが画面上に表れました。それがドクター・ヘリのアドレスを持つ西本方宜先生(苫小牧市)のHPでした。次にお示しすのがその内容です。

「中国杉のおかげで、久々の鼻炎の発作と耳管の閉塞が起り、帰りの中国国際航空のボーイング767と、羽田からのA300(だった?)は、ひどく苦痛だった。地上に降りたって3日位は軽い航空性浸出性中耳炎でよく聞こえなかった。特に767は、降下と共に急激に鼓膜の圧迫が始まり、恐らく日本の会社よりも機内圧力の調節はラフなのだろう。今日聴力を測ったら、左右とも普段より5│10dB(デシベル)悪くなっている。鼻炎の薬はねむけが出るし集中力を落す。ほっておくと航空性浸出性中耳炎になる。

さてもさても、アレルギー性鼻炎のパイロットは、中国での訓練は時期を選ぶ事少し前から小青竜湯でも飲んでいくくらい、御注意申し上げて、筆ならぬマウスを置くことにしよう。(99.4.30)」
http://www.doctorheli.net/Dr.Helicopter/sentence13.htmlより)

それによると西本先生は1999 年4月、ヘリコプターの訓練のため、中国四川省成都市の中華民航航空学院にてフライトする機会があったそうです。成都市は中国の中でも比較的Cf花粉飛散の多い地域であり(図中の(13)地点)、同年春は温暖でしたから花粉飛散量も豊富だったものと想像されます。西本先生は、前述のような花粉症発作に悩まされたあげく、気圧変動にも対応できずに航空性中耳炎をも合併してしまいます。幸い、スギ花粉飛散の少ない苫小牧市へ帰宅したところ、まもなく症状は楽になったようでした。

中華人民共和国各省、花粉調査点分布
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樹齢800年のスギ
(昆明市内)
柳杉
(中国杉、Cf)
昆明で採取したCf花粉を鼻内に挿入したところ数分以内に発作が出現
私たちはさっそく西本先生にご連絡し、私たちのこれまでの研究の経緯と意味をご説明し、調査への協力をお願いしました。ご本人の快諾のもと私たちは、1998年に昆明で採取し冷凍保存してあったCf花粉を使用しての鼻粘膜誘発検査(花粉を直接鼻内に挿入し発作の有無を観察する検査)を計画しました。

その準備として私たちは冷凍花粉を解凍し、三好耳鼻咽喉科クリニック職員のうちスギ花粉症に罹患している数名の有志の同意を得て、その鼻内に塗布しました。数分以内に被験者(被害者?)は全員、鼻内の掻痒感と鼻閉を訴え、水っぱながたくさん出て来ましたが、この結果から解凍花粉の抗原性(活性)は保たれていることが判りました。
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私たちは1988年以来、毎年北海道白老町の小中学生を相手に学校健診を実施しています。そもそも白老町は、幕末の1856年に幕府の蝦夷地警備の命令のもと仙台藩が陣屋を築いたのが町の始まりなのですが、白老町に陣屋を置くよう決定したのが著者つまり三好彰の五代前の先祖にあたる三好監物だったのです。そんな白老町に耳鼻科医が一人もおらず、町の小中学生が耳鼻科健診を受けられないことを知って、私が健診に赴くようになったのです。
ドクターヘリこと西本先生と
仙台藩白老元陣屋資料館にて
著者・三好彰(右から4番目)の後ろに立っているのが三好監物の人形
白老町映像配信 仙台陣屋物語  北を守る武士達編
西本先生の鼻内に綿棒でCfの花粉を挿入する(上)と数分以内に鼻の熱感と痒みが生じ(下)発作が生じたことが判る
西本先生の検査結果
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その白老町と苫小牧市は隣接しています。私たちは学校健診の合間を縫って、西本先生のクリニックにお邪魔しました。

西本先生は間違いなくご自身がスギ花粉症であることを証明する意味で、Cjに対する血液検査を済ませておられ、その結果は18.35IU/mlと明確に陽性反応を呈していました。

西本先生は広島のご出身で、以前からスギ花粉症の発作を繰り返していました。この十年ほど前から苫小牧市で開業しておられ、血液検査でこそスギに陽性でしたが、この十年間発作は経験しておられないとのことでした。

西本先生が中国成都市でCfによる花粉症発作を発症したことは間違いありませんでしたので、私たちはさっそく鼻粘膜誘発検査として昆明のCf花粉を鼻内に塗布しました。

すると直後より水っぱなが出現し、鼻閉と鼻内の強烈な掻痒感が発生しました。鼻内から鼻汁を標本として採取し顕微鏡で観察すると、好酸球というアレルギーの証拠細胞が見つかりました。

まぎれもなく日本杉(Cj)の花粉症の人は柳杉(Cf)にも反応して発作を引き起こすことを証明し得たわけで、これはつまりCjとCfとが同一属同一種であったことの再確認であると、断言できます。
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用語集 花粉症
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