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| 講演中の白川太郎先生 |
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もうひとつは、私がイギリスにいましたときに私のボスであったジュリアン・ホプキンという先生が非常に衝撃的な論文を書いています。これも皆さんご承知の方いらっしゃるかもしれませんけれども、これはオックスフォード県に生まれた、1975年から84年に生まれた約数千人の子どもさんについて何十年か追っかけていきます。それでその子どもさんが将来的にアレルギーを起こしたという人がだれかというのが分かります。で、その子どもさんについてイギリスという国は家庭医制度というのをひいていまして、生まれたところによって「あなたはこのお医者さんにかかりなさい」ということを自動的に決められます。従ってその子どもさんがどういうふうに大きくなるにつれて、いつ病気になってどういう薬を処方されたかという歴史をずらーっと調べることが出来ます。それで、それがコンピュータに入っていますのでそういう家庭医の許可を得てそのデータにアクセスしてそれらを解析することによって、なにがアレルギーの発症に重要だったかということを出すことが出来ますね。その結果、彼が見つけたことは、実はアレルギーの発症にとっていちばん重要だったのは、その子どもさんが2歳以下のときに抗生剤を使用されたかどうかということが非常に重要であるという結果が出たわけです。裏話を言いますと、ここには学生のファルキさんとホプキンの名前が出てまして、実は私も一生懸命この解析には加わったのですが、私はこの論文を出すのに名前を入れないでくれと言ったんですね。というのは自らの反省も込めて。私日本で医者をやってるときにちょいとアルバイトみたいにどこかの病院に行って、外来診察をしてますと赤ん坊が熱を出したといってお母さんが連れてくるので、どうしようかなといって看護婦さんと相談すると、主治医の先生は抗生剤、シロップを出していましたよ、じゃそれいこうかという感じでパパっと書いていたので。まあはっきり言って日本で2歳以下の子どもさんに抗生剤を使っていないという子どもなんかいるわけないと思ったので。抗生剤がこれほど大きくアレルギーの発症に効くということに関しておそらく日本ではこういう研究は出来ないし、全員が抗生剤を浴びているので、それだとイギリスよりかなりアレルギーの頻度が高くなる可能性もないではないかと思ったので。このデータは大丈夫かなというので自分で解析したデータだったんですけど、ちょっと待てということで私はこれに名前を入れないでくださいということで外したんですね。
ところがこの論文が発表されますと、イギリスで大騒ぎになります。当然のことです。特に製薬会社は、これはけしからんということでがやがや騒ぎますし、それから小児医の先生方はこれはえらいこっちゃというので大騒ぎになりました。そこでいろんな方々がこのデータについて、特に先進国ヨーロッパを中心に直ちに追試試験を始めたわけですね。その結果、これまた衝撃的ですがすべてのグループがそのとおりでございますという結果を出しました。従いまして、少なくとも先進諸国におきましてはかなり小さいとき、もっとぶっちゃけて言いますと、生まれて数ヶ月以内に抗生剤を投与しますと、これもあとでお見せしますけれども、かなりアレルギーの発症に危険な状況を及ぼしかねないというデータについてはある程度、その世界の人たちについては知られているというふうに考えていただいてもよろしいかと存じます。これを、先ほど言いました厚生省の班会議のときに言いましたら、白川君ちょっと言い方に気をつけなさいと言われましたので、言い方に気をつけますが、まだわれわれの日本でのデータはきちっとございません。あとで見せますけれども。ですので用心深く申し上げると可能性はあるというふうに申し上げておきます。
今の2つのデータから何が分かるかといいますと、細菌感染症が減るとアレルギーが増えるということと、抗生剤をのんで抗生剤が効くところというのはおなかの中なんですね。従いましてこの抗生剤がなにか悪さをするとしたら、生まれた直後の新生児、および乳児のおなかの中の細菌を殺しているということになります。それがアレルギーの発症にどう関わるかということなんですが、この二つの話を合成しますとおそらく数十年前、皆さんが非常に小さかった頃と現代の社会と比べていっぱいいろんな菌がいることがなくなって、お母さんもそういう菌に触れていない、その結果生まれてきた子どもがそういう細菌がつかない、そういうことがどうも赤ちゃんが大きくなるときになにか変化が起こる。そしてアレルギー反応というのは免疫反応ですから、どうもこの二つの話をまとめると、生まれた直後の子どもの消化管の中にいる細菌がなんらかのその子どもさんの将来の免疫の形成に非常に重要な役割を担っていて、それが減ってきたりあるいは抗生剤で無理やりその細菌をたたいておなかの中にいる細菌を極端に変えてしまうと、どうもアレルギーが起こってくるということが分かったということになりますね。
従ってやるべきことは、もしこの仮説が正しいとすると、正常にアレルギーが全くない子どもさんと、アレルギーを発症してしまった子どもさんの生まれた直後のおなかの中の細菌がどう違うか、その違った細菌がもし正常に発達した子ども、アレルギーがない子どもさんにあって、例えばアレルギーの子どもさんにないもの、あるいはその逆のものをもし人工的に元に戻してやることによってアレルギーの予防が出来るかということをやってみれば、その仮説が正しいということが証明できるということになります。
従いまして、きょうのタイトルである小国町におけるアレルギーの予防の試みというのは、そういうことをやってみたらどうかということを考えてやらせていただいている、そういう話になるわけです。
そこでなにを使って予防するか、つまり抗生剤に影響受けるのは腸内細菌だということですから、おなかの中の細菌のなにが問題になるかということを考えなきゃない。どのような研究をしたらよいかということですが、実はおなかの中の細菌を調べるというのはかなり難しい。おなかをかっさばいて中を見るわけにいきませんので、腹の中の細菌を見るというのはかなり難しいのですが、ひとつだけ道具があって、それは皆さんのウンコちゃんですね。ウンコちゃんの中に細菌がついてウンコちゃんに出てきますから、おなかの中の状態、即ウンコちゃんの状態とは言えませんが、かなりおなかの中の状態に近い形で、ウンコちゃんの中の細菌を調べれば再現できる可能性があると思われますので、ウンコちゃんを一生懸命調べるというかなり臭い話ですが、そういうのをやらざるを得ないということになります。
そういうことをやろうとしてたら豈図らんや、同じこと考えている人が世界にいっぱいおりまして、実は先を越されてしまいました。スウェーデンにビョルクステン教授というひとがいらっしゃいますが、彼は2年間、生まれた子どもさんのウンコちゃんを調べましてどういう細菌がアレルギーになった子どもとならない子どもで多いかと調べてみますと、ある種の乳酸菌がアレルギーの子どもでは減っていて、悪玉菌と言われるぶどう球菌が増えているということがすでに報告されています。従って彼はこの乳酸菌がやはりキーになるものであるというデータを出しています。
もうひとつはやはり同じく北欧のフィンランドでこういうようなデータを元に、じゃあ乳酸菌を本当に子どもに食べさせてみたらアレルギーが減るかどうかというのを直接勝負に出たわけですね。そこで妊娠中のお母さんに乳酸菌の入ったものを食べていただく。それで子どもさんが生まれたら母乳やミルクに乳酸菌を混ぜて3ヶ月飲んでいただく。その結果を2年間追跡した結果を見てみますと、アトピー性皮膚炎の発症が46%から23%に下がった。つまり半分に減った。こちらはなんにも乳酸菌を入れてないグループですけれども、それに対して、入れると半分に減ってるということで、これはこの世界では非常に有名な論文なんですが、要するに乳酸菌によってアトピー性皮膚炎をある程度予防することが可能であるというデータが出てきたわけです。ただしそれでも残りの、64人のうち15人は出てしまってるということなんですが、この15人はそれでも治らないということになりますので、ま、これで100%完璧に治るということはないわけですね。従って効く人と効かない人がいるということはあくまでも覚えておかないと、自分は今度妊娠して子どもが生まれるときには、私はアレルギーがあったので一生懸命乳酸菌を飲んだら大丈夫かと、そういう話には直結はしない、残念ながら。それからこれは外国の話なので、本当に日本でこういうことが行えるかどうかはやってみないと分からないですね。ですからやはり日本でやる意味があるということになります。
ということで、すでに北欧の国でウンコちゃんを調べてアレルギーになる子どもとならない子どもはどこが違うか。で、違った菌を本当に食べさせてみたら治ったということが分かってしまったわけですね。しかし今言ったように、これはたった1回しか報告を受けてませんし、フィンランドの例でして、日本で本当になるかどうか分かりませんのでやはり日本でやる。やるからには彼らとは違った方法論でいろいろやってみようということで、われわれは別の考え方・方法を使ってやろうとしてます。そこで、なにをするかというと、腸内細菌に、つまり腸内に細菌がいて、それがその人の遺伝的要因やその子どもさんの食生活や育児の環境によっていろいろな変わりが出てきて、それがおなかの中の免疫系を刺激して、そのおなかの中の作られた免疫が全身に散っていってその子どもさんの免疫をかたどる。それがうまくいかないとアレルギーの発症が起こるんだということなので、これを調べる方法をまず確立することにしました。つまりウンコちゃんの中で本当にアレルギーになる子どもとならない子どもがいるとしたら、それをどうやって追跡するかというシステムを作ろうということですね、まず。 |