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前述の小泉氏らの調査結果からは、大気汚染のひどい地域の方が空気のきれいな地域よりもスギ花粉症が多く、DEPなどによる汚染大気が、アレルギー性鼻炎を悪化せしめている、とのことでした。
それに対して私たち自身の白老町における調査結果では、製紙工場による大気汚染地区と空気の澄んだ地区との比較で、アレルギー性鼻炎の頻度にまったく差は見られないないという結論となりました。
そんな目で小泉氏らの論文を読み返すと、意外な推測が成り立ちます。それは小泉氏らの調査では当初から、「車両の通行量増加に伴って花粉症が増加する」、そして「通行量の多い地区では花粉症が多発する」と明確に記載されていることです。
と言うことは、もしかすると落下したスギ花粉を通行車両のタイヤがもう一度空中に巻き上げ、人の鼻粘膜に触れる花粉の量が2倍・3倍となっていると想像することもできます。原因物質(アレルゲン)であるスギ花粉が増えれば、結果であるスギ花粉症(アレルギー性鼻炎)が増加することは、これまで私が繰り返し主張してきた原則です。
日光のいろは坂でも、小泉氏ら自身の書いたように通行車両が増加し、その巻き上げる落下花粉が何回も人の鼻に吸入され、花粉症を悪化させている。すなわちDEPが直接の犯人ではないと、考えることもできます。
以上、確認ですが、1.日光のいろは坂において車両の通行量増加に一致してスギ花粉症が激増したこと、2.日光ではスギの多く車両通行量の少ない山中よりも、花粉の落下量は普通だが通行量の多い国道沿いの方が、スギ花粉症の頻度は高いとされること、3.しかしそれは調査した小泉氏らの主張するようなDEPの影響よりも、通行車両の車輪が落下花粉を再び巻き上げ人間の鼻粘膜に何回も接触するためであるらしいこと、についてここまで述べました。
私たちのこの説を証明するには、けれども次の事項をはじめに証明しておかねばなりません。
それは、1.花粉などアレルゲンに接触する量もしくは時間の増加するほど、花粉症(アレルギー性鼻炎)の頻度が増えること、2.その増加は異なる被験者群を較べた場合だけでなく、同一の被験者の経時的変化を観察し確認してあること、3.逆にアレルゲンの接触が減少すれば花粉症の頻度は少なくなること。この3条件です。
このシリーズでもすでに触れましたが、アレルゲンの増加と花粉症などアレルギー性鼻炎の頻度については、白老町や栃木県栗山村で私たちが実証したデータがあります。全町内の小中学生についての調査で、年令の上昇するほど花粉症(アレルギー性鼻炎)の頻度は増加していたのです。この年令に伴う頻度の増加は、何年間も同じ児童を追跡した調査でも確認され、同一被験者でも同じ傾向であることが判りました。すなわち、個人差つまりDNAの相違のために花粉症やアレルギー性鼻炎の頻度が異なる訳ではないのです。
それとは逆に、花粉の量が減少した場合に花粉症などアレルギー性鼻炎の症状が軽くなる、そんな現象が実在すれば、私たちの推理は証明されたことになります。
実は私たちの共同研究者である、中村晋前大分大学教授のデータがあります。中村前教授は大分大学在学生を対象に、1年生の時点と4年生になってからの2回、アレルギー学的調査を実施しています。この結果、スギの多いことで知られる大分大学在学中にほとんどの被験者で、1年生よりも4年生になってからの方が、スギ花粉症の頻度は高いことが判りました。
ところがそれにも関わらず、1993年細川内閣が初の外米輸入に踏み切った冷夏の翌年、その影響でスギ花粉飛散のすごく少なかった94年春の調査では、4年生の花粉症発現頻度は91年の同一被験者の1年生時より少なかったのです。
つまりこれまで記載したように、アレルゲンに接触するその量や時間が増加した場合には、花粉症などアレルギー性鼻炎の頻度は増える。しかしアレルゲンの量が少ないと、花粉症の発現頻度は減少する。こうした原理原則は間違いのないことが、改めて立証できたことになります。
こうして見ると、日光におけるスギ花粉症の増加も、花粉の量や接触時間に無縁でなさそうですし、激増した通行車両の車輪による花粉の再飛散が、それらの原因として疑われることも理解できます。
ただし小泉氏らは、マウスの腹腔内にスギ花粉とDEPを注入し、この両者を併せて注入した際にはスギ花粉単独のときよりも、アレルギー反応の強く起こることを、実験で証明しています。これは、大気汚染説の根拠とはなり得ないのでしょうか。
DEPの粒子状成分は、実は炭素です。そして小泉氏ら自身の実験でこの炭素は、スギ花粉成分を付着し保持する能力を持っていることが判りました。
スギ花粉を単独で体内に投与したとしても、それはすぐに排泄され多量の抗体はできません。逆にDEPを単独投与した場合には、その成分は炭素ですから投与された局所に長く留まるかも知れません。けれどもDEPだけでは、IgEを産生しません。それに対してスギ花粉成分とDEPを同時に人体に注入したならば、スギの成分のしみ込んだDEPは排出されずにそこに残存し、長期にわたってスギ花粉成分を放出し続けるでしょう。
一方、私たちの共同研究者である高橋裕一山形県衛生研究所主任研究員は、空中の花粉成分の飛散状況を分析しました。そしてシーズン中の大気中には、スギ花粉そのものだけでなく、花粉成分を吸着した微粒子が多量に浮遊していること、この微粒子はDEPである可能性の高いこと、を報告しました。
ですから、DEPにはアレルギー反応を亢進させるアジュバント作用がある訳ではなく、単に花粉成分を長く空中や体内に保持し、その結果鼻粘膜などにおけるアレルギー反応を、長期化させているに過ぎないのです。
なお、DEPのアジュバント作用については、その理論的背景となる論文が1つも無く、単なる空想に過ぎないことを付け加えておきます。
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