3443通信 オンライン  
みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集
 

 

 われわれは2003年の日本耳鼻咽喉科学会総会で、大気汚染によるアレルギー性鼻炎の増加説が根拠に乏しいばかりでなく、捏造の疑われる内容であることを明らかにしました。スライド1は、その折の学会抄録です。

 これまで大気汚染によるアレルギー性鼻炎増加説は、(1)兼子順男氏ら慈恵会医科大学耳鼻咽喉科によるそれ(スライド2)と、(2)小泉一弘氏ら東京大学物療内科によるそれとが存在します。なおスライド2には、兼子氏による1979年論文と1980年論文とを、お示しします。これら2つの論文は4半世紀前からの、ディーゼル排出物質(DEP)始め大気汚染物質がスギ花粉症などのアレルギー性鼻炎を増加せしめているとの主張の、出発点となった論文です。これら2点の論文に加えて後に紹介する小泉氏の論文とが、大気汚染によるスギ花粉症増加説を普及させたと考えて間違いありません。

 ところが上記(1)の2点の論文を詳細に見極めると、奇妙なことに気付きます。80年論文には「アレルゲン(HD、ブタクサ花粉、スギ花粉)皮内反応陽性者をもってアレルギー素因者とすると」と、明確にスギ花粉についてのアレルギー学的検査を施行したように記載されています。しかし論文中に、HDおよびブタクサ陽性者の頻度は記されていますが、スギ花粉陽性者の頻度はどこにも記載されていません。

 さらに奇怪なのは、80年論文の原型とも言える79年論文には、より詳細なデータとともに「検査に使用したアレルゲンは室内塵(HD)とブタクサであり、この両者による鼻アレルギーの頻度はわが国において1・2位を占めており」と明記してあることです。

 つまりスギ花粉については、まったく検査がなされていません。

 実は日本でスギ花粉が社会問題化するほど大量に飛散したのは、他ならぬ79年のことだったのです。それ以降、スギ花粉に関する調査なしにはアレルギー性鼻炎について論じられなくなりました。ですから79年に発行された兼子氏の論文は、慈恵医大耳鼻科が時代遅れとなってしまったことを、明確に物語っていたのです。それが、80年論文には具体的な数値抜きのまま「スギ花粉」についても調査を実施したかのごとく、書き込まねばならなかった動機ではないのでしょうか。

 私はこの2点の論文を根拠に、2003年の日本耳鼻咽喉科学会総会の抄録に、「慈恵医大耳鼻科の説にはデータ捏造の疑いがある」と書きました。(スライド1)

スライド1 スライド2
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 私の発表の直後、なんと会場の外で私は、79・80年論文の筆頭著者である兼子氏本人に呼び止められました。兼子氏は私に凄んで見せた後、こう告げました。「良く気が付いたな。普通はざっと読んで読み過ごすところなんだがな。つい(スギ花粉と)書き加えたんだよ。当時は、そういう時代だったんだ。だがな、これまでは良かったんだぞ。おれたちだけが相手だったからな。これからは慈恵全体が相手だからな。」(スライド3)

 私は、開いた口が塞がりませんでした。

 ともあれ、兼子氏らの論文が捏造であることは、著者本人のお墨付きとなりました。

 さてスライド4の小泉氏らによる(2)論文ですが、ここでは(a)日光のいろは坂の車両の通行量の増加に伴いスギ花粉症の増加していること、(b)スギ植生の多い山中よりもスギの少ない街道沿いにスギ花粉症が多発すること、の2点からDEPがスギ花粉症を増加させると、論じられています。しかしこれらは単純に、一旦舗装道路に落下したスギ花粉が、通行車両の増加に伴ってタイヤに巻き込まれ再飛散した結果、とも理解できます。落下スギ花粉の再飛散・再々飛散は、人の鼻粘膜に接触する花粉の絶対数の増加をもたらしますから、スギ花粉症は当然増加します。

スライド3 スライド4
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 ただし小泉氏らはスライド5のごとく、マウスの腹腔内にDEPとスギ花粉成分とを注入し、それぞれ単独のときよりも両者を同時に注入した方が、IgEの生産量が多いことを証明しています。

 この際注意すべきは、DEPは炭素でありスギ花粉成分を保持したまま、成分そのものとは対照的に投与された局所に長く留まる、という事実です。つまりDEPは反応を亢進させたわけでなく、単にスギ花粉成分を局所に長期間保持し、曝露時間の延長をもたらしたに過ぎないのです。

 スライド6は、山形県衛生研究所の屋上で採取されたスギ花粉の電顕写真ですが、表面にはDEPと推測される微粒子が付着しています。また空気中の微粒子の解析から、微粒子にはスギ花粉成分が付着しており、スギ花粉成分の飛散拡大に一役買っているものと推測されました。

スライド5 スライド6
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 (スライド7)つまりここまでの分析では、DEPは物理的にスギ花粉成分の保持による曝露時間延長と飛散拡大の役割を演じているのみで、反応亢進には無関係と考えられます。それはここにお示しする、環境省の報告とも一致しています。

 そう言えは現実に厳しいディーゼル排気規制を実行した東京都ではスギ花粉症は減少したでしょうか。東京都の2005年の春のスギ花粉飛散数は、観測史上最大でした。

 スライド8には、石原都知事が当時支持率の低かった小渕首相にディーゼル規制を選挙公約に使用するよう、進言する予定だったことをお示ししました。

スライド7 スライド8
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 スライド9は、DEPの入ったペットボトルと石原都知事です。スライド10に見るようにこの時期、都知事はDEPが花粉症の原因であると明言していました。スライド11は、2003年10月から規制が開始されたことを示しています。ところがスライド12のように、世界一厳しいディーゼル規制にも関わらずスギ花粉症減少の報告は見られず、むしろ2005年3月21日、都知事自身が生まれて初めてスギ花粉症を発症します。

スライド9 スライド10
スライド11

スライド12

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 すると都知事はその直後、スライド13に見るように政策を180度転換し、ディーゼルについては一言も口にしなくなります。

 スライド14は、石原都知事の豹変ぶりについての東京新聞の記事です。ここに私がコメントしたように、都知事自身さえ大気汚染説の矛盾に気付いたのではないでしょうか。

 以上、大気汚染によるスギ花粉症などアレルギー性鼻炎の増加説は、元論文の信頼性欠如・調査および実験結果に関するバイアスへの考慮欠如・現実の東京都での規制の結果から、きわめて根拠の乏しいものと言わざるを得ません。

スライド13 スライド14
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