3443通信 オンライン  
みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集
 

 


 ご指摘のようにくしゃみと鼻水を来す疾患として、かぜと花粉症は症状がそっくりでその区別に苦労します。でもなぜ、これら2つの疾患は症状が類似しているのでしょう?

 かぜの原因物質はウィルスで、二次的に細菌感染の生じることもあります。それに対して花粉症もしくはアレルギー性鼻炎は、スギ花粉ないしダニなどが原因物質となっています。そしてくしゃみと鼻水さらに鼻づまりは、鼻の粘膜から人体内に入ってくる異物を、事前にブロックして入って来れないようにする、人体の対応策です。

 ちなみに異物とは、もともと人体内に存在していない物質の総称です。

 具体的にはくしゃみは、息を爆発的に鼻から吹き出すシステムで、これはウィルスやスギ花粉などの異物を鼻粘膜上から押し出そうとする働きです。また鼻水は鼻粘膜上の異物を、洗い流す役割を担っています。鼻づまりは文字通り鼻の穴が閉じられてしまい、異物が一切鼻から人体内に入れない状況です。

 ですから、かぜや花粉症のときのくしゃみ・鼻水・鼻づまりは、異物の侵入によって引き起こされる疾患への合理的な、人体の対策なのです。
 それにしてもウィルスや細菌は、たしかに人体にとって有害な異物です。これらに対して人体が防御反応を生じるのは、良く理解できます。でも花粉やダニは、それほど人体に害があるとは思えません。それなのに、どうして人体は有害物質に対するときと同じ反応を、必死になって起こすのでしょうか。

 それこそがアレルギーのそもそもの成り立ちであり、かぜと花粉症の区別がつき難い理由の最大のポイントです。



 そもそも人類は自己の維持と種族の保存のために、多大な労力を費やして来ました。長い間、この目的を果たすのに最大の敵は感染症つまりウィルスや細菌でした。

 ことに食物が豊富でなく人類が飢えに直面していた時代には、人体内の防衛力つまり免疫機構も十分な力を発揮することができず、多くの人間が感染症で死にました。

 それに対し近年の日本は、平均寿命が大幅に長くなり長寿国となりました。その原因である乳児死亡率の激減は、衛生状況の改善によって人体の免疫能力が高まったため、と推測されています。つまり人間の体は、防衛機能力が高くなったと表現できるのです。

 先に、くしゃみ・鼻水・鼻づまりというかぜならびに花粉症の症状は、人体内への異物の侵入を防衛する正当な防衛反応である、と書きました。しかし現代人ではこの機能が過剰となっているために、いわば過剰防衛の状況にあります。

 人間でもなんらかの危害を加えられそうになったとき、相手を押し戻すのは正当防衛です。しかしその人間が自分の知らないうちに、異様なほど旺盛な体力を持つようになってしまっていたとしたら、相手を押し戻すつもりで無意識のまま危害を加えてしまうことだって、考えられます。つまり正当な人間の防衛行動も、やり過ぎると過剰防衛と認定され、逮捕されたり、自分に不利な結末を迎えることとなります。

 鼻粘膜もそうです。

 本来ならばウィルスや細菌など、人体に害を及ぼす異物の鼻から体内への侵入を阻止すべき防衛反応は、さほど人体の防衛力が強くない間は正当防衛行動に終始します。しかし人体が食生活の改善などにより余りにも旺盛な体力を有するようになっていたら、鼻粘膜は過剰防衛に走るかもしれません。

 皮肉なことに衛生状況の改善に伴い、有史以来人類の宿敵であったウイルスや細菌はその数を減じ、人体の免疫能力は敵を見失い力を持て余しています。

 そんな状態の鼻粘膜に花粉やダニなど無害な異物が接触したとしたら、それを阻止すべく力を奮う過剰防衛反応によって、人間は自身にまで損傷を与えるに違いありません。

 それが鼻粘膜におけるアレルギー反応の正体であり、なぜかぜと花粉症などアレルギー性鼻炎の症状が類似しているのか、の回答です。

 整理するとそれは、以下のごとくとなります。
 (1)くしゃみ・鼻水・鼻づまりの鼻症状は鼻粘膜からの人体内への異物侵入を阻止する、合目的的な反応であること。
 (2)この防衛反応はそもそもウィルスや細菌の感染に対する予防策であったこと。
 (3)諸条件の変化でこれら防衛反応は、花粉やダニのような無害な異物に対しても発作を生じるようになってしまったこと。
 (4)だから、かぜの鼻症状と花粉症などアレルギー性鼻炎の鼻症状は、類似しているというよりも完全に同じであること。


「愛しのダニ・ボーイ」
コミックの紹介はこちら

 それでもより詳細に観察すると、かぜの鼻症状と花粉症などアレルギー性鼻炎の鼻症状は、上記3症状以外はかなり異なることも判ります。


 かぜの鼻症状ではしばらく3症状の継続した後に、鼻水に色が付きます。たいていは黄色か緑色に、鼻水の色調が変化して来ます。これは二次感染の生じた証拠で、細菌感染の結果なのです。咳を伴うこともありますが、感染性のゼロゼロとした咳が特徴です。それ以外にかぜでは発熱が見られますが、これはウィルスの至適生存温度より体内を熱くすることにより、ウィルスを死滅させようとする人体の防衛反応です。もちろん全身的にかぜの症状が、時間経過とともに目立つようになることも、区別する目安となりそうです。

 他方花粉症では、アレルギー反応は鼻粘膜だけに限られた現象ではありませんので、目の痒み・涙・眩しさが出現しますし、のどが痒く乾いた咳の出現することもあります。花粉が顔面の皮膚を刺激すると、肌が赤くなりザラザラする接触性皮膚炎を発症します。

 以上、かぜと花粉症の鼻症状の類似点とその理由、そしてそれらの鑑別点についてご説明致しました。さらに詳しい情報が必要でしたら、当HP内の「愛しのダニ・ボーイ」(アレルギーに関する医学コミック)をご参照ください。


(三好耳鼻咽喉科クリニック院長、南京医科大学教授 三好 彰)

 

 
トップページへ 前ページへ