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花粉症は環境問題である
		奥野修司著 第2章 花粉症にはなぜ俗説が多いのか 本年2月20日に、文春新書から左記の本が出版されました。この出版のために著者の奥野氏が、昨年10月8日取材に来仙されました。以下は本書から取材部分の抜粋です。


あくまでも花粉が原因だ

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これらの俗説を調べていると、非常に興味あるデータが見つかった。仙台市で三好耳鼻咽喉科クリニックを開業している三好彰医師が、宮城県公衆衛生協会発行の「公衆衛生情報みやぎ」に発表した論文である。

ここで三好氏は、丹念にデータを集めたうえで、大気汚染説や寄生虫減少説といった俗説を批判していた。
僕はさっそく仙台に飛んだ。

ソプラノで笑う三好医師はじつに豪快な人物だった。
休診日のこの日、ぼくは先生の事務所で会った。白い壁を臨時のスクリーン代わりに、データやグラフを投影しながら、日光で行われたスギ花粉調査についてこんなふうに説明してくれた。

「あの調査によれば、スギ花粉症が増えているのは、スギ花粉の落下量よりも、車両の通行量に影響があるんだということでした。もっとも調査は問診だけで、アレルギー検査はしてませんが、おそらく有病率が多いのは事実でしょう。ただ、そこから、いきなりディーゼルが悪いんだと飛躍することに問題があるのです。」

 

道路沿いに花粉症の発症率が高い理由を、三好医師はこう疑っている。
「車両通行量の多い地域で花粉症が増えているのは、車が通るたびに道路に落下した花粉が車両に巻き込まれて舞い上がり、二度、三度と鼻にはいるからではないか」

これを証明するには、「アレルゲンにさらされる量や時間が増えると、アレルギーの頻度が増加することを明らかにすべきで、それには、異なった被験者だとDNAによる影響も考えられるため、同じ人間を長時間調査すべきだろう」と考えた。

そこで北海道苫小牧市の西にある白老町、日光国立公園内にある栃木県栗山村のほか、中国江蘇省でも調査した。

とりわけ白老町の調査は、製紙工場があって大気汚染がみられる地区、空気がきれいな海側、牧場が広がる内陸部の三か所にある小学一年生、四年生、中学一年生全員を被験者に、9年間にわたって調査している。

ただし、北海道ではスギがないから、白老町でのアレルギー性鼻炎はハウスダストとダニである。これが大気汚染で増加すれば、スギ花粉のアレルゲンでも同じようにいえるだろう。

結論からいえば、スクラッチテスト(針で皮膚を5ミリほど引っかき、アレルゲンエキスを一滴垂らして反応を見る)によるアレルギー反応陽性率は、大気の汚染に関係なく、どの地域も同じであった。

また、白老町でも栗山村でも、中国江蘇省でも、被験者の年齢が上昇するにつれてアレルギーの頻度が増加した。

これは非常に重要なことだ。

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同じ地域に長く住んでいれば、当然、アレルゲンに触れる時間も長くなる。つまり、〈アレルゲンの暴露時間が長いほど、アレルギーは増加する〉(三好彰編著『スギ花粉症』)ことを示しているのだ。

「私の共同研究者である中村晋大分大学教授(当時)も、在校生を対象に入学時と卒業時にアレルギー検査をしています。ほとんどが入学時よりも卒業時のほうがスギ花粉陽性率が高い。ただ、冷夏の翌年でスギ花粉の飛散量が非常に少なかった一九九四年の調査では、卒業する学生の陽性率は入学した時より少なかった。このデータからも、アレルギーの頻度は、アレルゲンの暴露量と暴露時間に関係していることがわかります」

 

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都市部に花粉症患者が多い理由も、こんな説明ができる。

都市部の花粉には、DEPが付着した花粉がよく見られる。
道路などに落ちた花粉がタイヤに轢かれて壊れ、ビル風などでふたたび舞い上がるのはごく自然だ。花粉の中にはアレルゲンが詰まっている。殻が割れてアレルゲンが飛び出した花粉がDEPに触れたら、DEPがアレルゲンを付着することは十分考えられるだろう。これが鼻などの粘膜につけば、花粉がついたのと同じだ。

つまり、DEPはアレルゲンではないが、花粉が結合することで、花粉症の発症を助長してしまうのだ。

 

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マウスの実験も、炭化物質であるDEPが、スギ花粉のアレルゲン成分を吸い込んだ結果、徐々にその成分を放出して、アレルギー反応を長期化したとも考えられる。

DEPが花粉症を増幅させているのだからくどくど書く必要はないじゃないかと思われるかもしれないが、DEPが花粉症の原因となれば、花粉症をなくすにはDEPさえ取り除けばいいという結論になってしまう。

DEPを取り除いても、同じような炭素微粒子があればやはり花粉症を増幅させるだろう。花粉症の原因物質は、あくまで花粉なのである。

DEPは気管支炎やぜん息の原因物質であることははっきりしている。発ガン性も指摘されている。当然減らすべきだ。が、だからといって、安易に花粉症の犯人にするべきではないだろう。

 
奥野修司(おくの しゅうじ)
1948年大阪府生まれ。立命館大学
卒業。1978年から南米で日系移民調査。帰国後、フリー・ジャーナリストとして活動。著書に、『ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年』(新潮社、文春文庫)、『隠蔽父と母の〈いじめ〉情報公開戦記』『心にナイフをしのばせて』(共に文藝春秋)などがある。『ナツコ 沖縄密貿易の女王』(文藝春秋)で、講談社ノンフィクション賞、大宅社―ノンフィクション賞をダブル受賞した。
 
関連リンク: 公衆衛生情報みやぎ(3443通信 No.127)
       

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関連リンク: 用語集 花粉症


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