耳は機能的には、聞こえと体のバランスに関わっており、耳に病変が存在すると難聴(聞こえの悪化)やめまいを生じます。一方耳は形態的に、外耳・中耳・内耳から成っており、病変の存在する部位によって症状が異なります。そこでここでは、外耳・中耳・内耳・中枢と部位ごとに、聞こえに関わる耳疾患を解説します。
1.外耳
外耳とは、耳介と外耳道そして鼓膜の外側面までを、指しています。
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図1 耳せつ(矢印)
外耳道の外側1/3を形成する軟骨部におできが生じる。
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(1)小耳症
耳介(耳たぶ)の先天性形成不全のことです。外耳道(耳穴)の閉鎖を伴うことがあって、伝音難聴を伴うことがあります。
(2)先天性外耳道閉鎖症
胎生4〜5ケ月以内の、外耳道発達過程の障害が原因となって発生します。鼓膜や耳小骨そして中耳腔の奇形を、多く伴います。
伝音難聴ですが、治療として鼓室形成術の他に骨導補聴器が用いられます。
(3)外耳道炎(耳せつ)
外耳道の外側3分の1は軟骨部外耳道で、内側3分の2は骨部外耳道です。うち軟骨部外耳道には、皮脂線・耳垢線・汗腺が存在します。これらに感染が生じると一種のおできになり(図1)、それが外耳道を閉塞すると難聴が生じます。
伝音難聴で痛みを伴いますが、後述の外耳道ヘルペスと異なり、耳介を引っ張ったり耳珠を押したりすると(図2・3)、痛みの強くなることが特徴です。治療として、抗生物質を使用します。
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図4 顔面神経の解剖
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図2 外耳道ヘルペスと異なり、耳介を引っ張ると痛みが増強する。
図3 耳珠を圧迫しても痛みが増強する。
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(4)外耳道ヘルペス・ハント症候群
耳介や外耳道にヘルペスができて、痛みのある疱疹とめまい・難聴・顔面神経麻痺を生じます。内耳道に近い部分の顔面神経(図4)にヘルペスが潜在し、全身状態の不調時に発症、外耳のヘルペスと内耳の症状を引き起こすものと考えられています。
顔面神経と内耳神経(聴神経)とには多くの吻合がありますので、このためにウィルス感染が波及するものと考えられています。なお、ときに疱疹が目立たないのに痛みと内耳症状を示す症例も、存在します。治療には、抗ウィルス剤とステロイドを使用します。
(5)鼓膜炎
鼓膜の皮膚炎なのですが、鼓膜外側面に肉芽が発生しそこから耳漏が生じます(図5)。このため、耳閉感や難聴さらに耳鳴を伴います。治療には、抗生物質やステロイドの点耳薬が使用されます。
(6)耳垢栓塞
耳垢線と皮脂線の分泌物や剥離上皮が固まって、外耳道を閉鎖します。水泳後などに水でふやけて大きくなり、急激な難聴と耳閉感をもたらします。
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図6 外傷性鼓膜穿孔
鼓膜に穴が開いている。
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図5 肉芽性鼓膜炎
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(7)鼓膜損傷(外傷性鼓膜穿孔)
耳掻きを奥に差し込みすぎた場合などに、鼓膜を直接傷つけることがあり、外傷性鼓膜穿孔と称します。また、剣道の試合で相手が面を狙って来たのに対して、顔を背けた結果面の上から竹刀が耳に当たることもあります。このような場合に外耳道内の気圧が急激に高まり、鼓膜に傷のつくこともあります(図6)。相撲の張り手や夫婦喧嘩のビンタでも、同じ現象の観察されることがあります。外傷の直後より、軽度の難聴と耳閉感を自覚します。
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図7 外傷性鼓膜穿孔の治療
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穿孔が小さい場合には自然閉鎖を待ちますが、大きい場合にはパッチと称して薄い紙片で穿孔に蓋をしてやると、早期に閉鎖し易いと言われます(図7)。ただし、耳掻きなどで中耳腔まで損傷した場合には、鼓室形成術の必要となることもあります。
2.中耳
中耳とは、鼓膜内側面から内耳の2窓(前庭窓・蝸牛窓)までの空間(中耳腔)を指していますが、耳の後の乳様突起内の空間(乳突洞)をも含みます。
(1)中耳奇形
外耳や鼓膜に異常の見られない耳小骨奇形のことを指しており、伝音難聴を呈します。鼓室形成術の適応ですが、補聴器も有用です。
(2)中耳炎
中耳炎には主なものとして、急性中耳炎・滲出性中耳炎・慢性中耳炎(真珠腫性中耳炎を含む)の3種が存在します。伝音難聴が主体ではありますが、慢性中耳炎が長引くと内耳への炎症波及から、感音難聴を生じることもあります。
【1】急性中耳炎
小児に多く見られ、急性上気道炎(かぜ)に併発します。中耳腔も気道の一部ですから、耳管という管(図8)を経て換気をしています。この耳管が小児の場合、太く・短く・水平に位置しているために、上気道炎に際して上咽頭の細菌が耳管を通じて中耳腔に入り込み易いのです。
症状として、風邪に続発する激しい耳痛と発熱が特徴なのですが、この痛みは中耳腔内に貯留した膿の圧力で鼓膜がひどく外側に圧迫されるために、発生します。鼓膜がその圧に耐えかねて破れてしまう(自壊)と、膿が外耳に流れ痛みは消失します。
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図9 小児の急性中耳炎により生じた脳膿瘍(矢印)
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図8 中耳腔と上咽頭とをつなぐ耳管
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治療として安静を保ち、抗生物質と消炎鎮痛剤を内服させます。鼓膜の腫脹がひどい場合には、鼓膜切開術と称して鼓膜にごく小さな穴を開けてやると、膿が排出され痛みは無くなります。
なお、中耳腔の感染は上咽頭から起こりますので、鼻咽腔の処置も必要です。もちろん青っぱな(鼻汁)をこまめに吸い取ってやることも役に立ちます。
また稀とは言え、髄膜炎など頭蓋内合併症も皆無ではありません。図9に、急性中耳炎から発生した脳膿瘍症例のMRI(矢印が膿瘍)をお示しします。それらの重篤な疾患も念頭に置いて、急性中耳炎の経過を観察せねばなりません。
【2】滲出性中耳炎
耳管の機能が不十分な際に、中耳腔内にほぼ無菌性の滲出液の貯留することがあって、滲出性中耳炎と呼ばれます。貯留液のために鼓膜が動きにくくなり、中程度の伝音難聴を来します。
年令的に小児と老人とで発生し易いのですが、背景因子がそれぞれ存在します。
つまり小児においてはアデノイド(咽頭扁桃)の肥大(図10・11)と、それに起因する炎症が原因で耳管がつまり易く、滲出性中耳炎を発生します。
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図11 扁挑およびアデノイドの年令と大きさ
アデノイドは4歳のとき、咽頭扁挑は6歳のとき、最も大きくなる。
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図10 アデノイドの位置
小児では肥大しており耳管を閉塞することが多い。
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また老人においては、耳管を開く筋肉の衰えから耳管が十分に機能せず、滲出性中耳炎となります。
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図13 上咽頭癌症例のティンパノグラム
右側滲出性中耳炎の存在を示唆している。
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図12 上咽頭癌症例の聴力像
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