3443通信 オンライン  
みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集
 

院長が学会発表をしました。




緒言

当院(三好耳鼻咽喉科クリニック)を受診した中枢性顔面麻痺の1症例について報告し、若干の考察を加えた。

 


   
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症例
症例は42歳の男性で、既往症として高血圧が存在、現病歴は以下のようであった。

2005年4月16日、高血圧治療中であったが、頭痛を訴え内科でMRIを撮影。橋の陳旧性梗塞と副鼻腔炎を指摘され当院を受診、保存的治療を開始した。MRIで観察された陳旧性梗塞について、自覚症状はなかった。

5月11日夜、右側顔面麻痺と構音障害が出現し、12日泉病院脳外科を受診。MRIにより、右橋の陳旧性梗塞巣を認めた。中大脳動脈領域穿通枝領域放線冠の新鮮ラクナ梗塞と診断され(図1)、保存的治療がなされた。

図1 MR(I 拡散強調画像)所見 
右放線冠に新鮮梗塞(中大脳動脈穿通技のラクナ梗塞)を認めた。
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鼻閉・いびき・睡眠時無呼吸・副鼻腔炎について耳鼻科領域の精査のため、6月14日当院を再受診。 当院受診時、12脳神経の所見として、右側中枢性顔面麻痺(図2)に加えて右側軟口蓋のカーテン徴候が認められ、聴力は正常であったが右方へむかう眼振が観察された。図2のように右口角の軽い麻痺を認めたが、額のしわ寄せに問題はなかった。

また7月22日のPSGで、AHIが17・9を示した。受診後8月5日にタイトレーションを施行し、CPAP使用によりAHIは1.0に減少した。ただし同月札幌市へ転勤のため、CPAP療法と高血圧・高脂血症・肥満に対する内科的治療を転勤先で継続することになった。なお8月9日の終診時、中枢性顔面麻痺は消失していた。

以上から、本症例の症状・所見をまとめると、次のごとくとなる。高血圧・肥満は以前より存在し、過食の傾向もあった為、内科にて治療中である。鼻閉・頭痛は副鼻腔炎によるものと判断される。睡眠時無呼吸は以前より放置されていたものと推測され、肥満と鼻閉が関与していた。
眼振は、橋の陳旧性梗塞に起因している。中枢性顔面麻痺と軟口蓋のカーテン徴候は、中大脳動脈領域穿通枝の新鮮ラクナ梗塞による放線冠における障害に起因している。

考察
顔面の表情筋への中枢性運動神経支配は、皮質中枢であるブロードマンの第4野から皮質延髄路として、放線冠・内包を通過し橋の顔面神経核へいたる神経線維により行われている(1)。

このため中枢性顔面麻痺の原因は、A大脳皮質障害、B放線冠、内包障害、C橋病変に分類される(1)。
また、中枢性顔面神経麻痺は末梢性の顔面麻痺とは異なり、顔の上半分の麻痺は軽度に止まり下半分の麻痺が顕著となる特徴がある(1)(2)。これは顔面神経核に分布する皮質延髄路が、顔面上部を支配する部分と下部を支配する部分とに分かれており、前者は交叉性および非交叉性の両側性支配になっているのに対して、後者は交叉性の一側性支配のみになっているため、と説明されている(1)。

図3
被殻の内包、放線冠の血液供給、被殻と内包、放線冠の関係は左上のごとくであり、これからは左下のようにレンズ核線条体動脈によって血液供給がなされている。穿通技である本動脈の血流不全により、右のように内包や放線冠が梗室に陥る。
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図2 中枢性顔面麻痺
左口角の軽い麻痺を認めるが、
額のしわ寄せは問題ない。
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本症例では、当院を受診する以前に橋の陳旧性梗塞が存在した。これは05年4月14日撮影のMRIにより裏付けられるが、この時点では顔面麻痺は未発症であった。それに対し、5月11日の顔面麻痺発症翌日に撮影されたMRIでは、左放線冠に新鮮梗塞が観察された(図1)。

放線冠は中大脳動脈領域穿通枝のレンズ核線条体動脈から血液供給を受けており(図3)、レンズ核線条体動脈の血流不全により梗塞を生じる。左放線冠の新鮮梗塞像は、その結果生じたものと理解することができる。 放線冠は比較的運動神経がまとまって走行しているものの内包ほど密ではなく四肢の麻痺が明らかでなくとも顔面の麻痺が生じる可能性がある。6月14日の当院再受診時の、右側中枢性顔面麻痺(図2)と右側軟口蓋カーテン徴候は、梗塞による上位運動ニューロンの障害に起因するものと判断できた。なお、5月12日の構音障害も同じ内包の障害によるものと推測できるが、6月14日の当院再受診時には消失していた。
一方、6月14日の右方へむかう眼振は放線冠障害では生じ得ないことから、橋の陳旧性梗塞に原因を求めるべきであろう。 本症例に生じたラクナとは穿通枝の閉塞によって脳深部や脳幹に生じる小脳梗塞を意味しており、神経脱落症状の発症した場合これをラクナ梗塞と称する。ただしMRI等でラクナの観察された症例の80%は無症状であり、無症候性脳梗塞と呼ばれる。

本症例に見られた橋の陳旧性梗塞は自覚症状が欠損しており、無症候性脳梗塞と判断できる。ただしその背景となった高血圧性血管病変は、今回のレンズ核線条体動脈の血流不全の原因となったものと理解できる。本症例においては顔面麻痺消失後も、背景因子である肥満・高血圧・睡眠時無呼吸症候群に対する継続治療が、不可欠と考えられる。明らかな四肢の麻痺がなく軽微な中枢性顔面麻痺から脳梗塞の診断が可能である事があり、耳鼻咽喉科医師としても注意を払う必要がある。

まとめ
1、中大脳動脈領域穿通枝のラクナ梗塞による中枢性顔面麻痺の一症例を報告した。
2、症例は右口角の麻痺を呈したが額のしわ寄せは可能で、明確な中枢性麻痺が観察された。
3、本症例は陳旧性の橋梗塞とそれによる眼振を呈していたが自覚症状はなく、時期的にも顔面麻痺の原因とは考えにくい。
4、背景に肥満と睡眠時無呼吸症候群が存在し、それらに対する継続治療が必要であった。

参考文献
(1)高橋 昭:中枢神経疾患による顔面筋の麻痺と不随意運動JOHNS 3:439‐44、1987.
(2)廣瀬源二郎:中枢性顔面神経麻痺、JOHNS16:395‐9、2000.




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