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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集
 

院長の学会ファイルより

 


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予稿集より
1月23日(金)に、花粉症シーズンに向けて院内勉強会が開かれました。
当院では、職員が病気に対する正しい知識を学び、患者様への普及に役立てるために定期的にテーマを決めた院内勉強会を開催しています。
今回は日本花粉学会での院長の発表内容について、勉強しました。

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 今回は『大気汚染によるスギ花粉症増加説』について、2006年に和歌山県で開催された日本花粉学会に於いて院長が発表したスライドに沿って勉強しました。
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 1980年頃から大気汚染のアレルギー性鼻炎に及ぼす影響についての説が提唱されています。車社会による大気汚染が花粉症増加の原因という内容ですが、それが実はなんら裏付けのない仮説に過ぎないのではないかとの疑問を抱き、北海道白老町で大気汚染地区と非汚染地区にて疫学調査を施行しました。
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 対象となる被験者ですが、1989年〜91年の3年間にわたる健診で、白老町在住の全学童生徒についてアレルギーを調べました。
 小学1年生・4年生・中学1年生全員を対象に3年間連続で、自覚症状(くしゃみ・鼻水・鼻づまり)についてのアンケートとスクラッチテスト(HD・ダニ・スギ)を実施しました。
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 白老町は苫小牧と登別の間に位置する町で、2008年洞爺湖サミットが開催された洞爺湖も近くにあります。江戸時代に院長のご先祖である三好監物が蝦夷地警備の隊長として赴いたご縁で、毎年健診に伺っています。
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 対象となった国道36号線沿いに並ぶ小中学校10校を、(1)旧・大昭和製紙工場のある大気汚染地区と(2)それ以外の大気のきれいな非汚染地区とに分類しました。2677例の内、全町内から児童が通学する森野小中学校は大気汚染を調べる上で不向きでありその62例は省く2615例を対象としました。
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 調査結果よりこれらの地域のスクラッチテスト(HD・ダニ・スギ3種のうち1種類以上で陽性例)の結果は、まったく同程度であることがわかりました。また、自覚症状や鼻粘膜所見なども加えて判断されたアレルギー性鼻炎との診断例も、頻度に差はみられませんでした。つまり、この調査からは大気汚染のスギ花粉症などのアレルギー性鼻炎へは影響は乏しいと言うことができます。

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 大気汚染がスギ花粉症増加の原因であると論じた説は2つありますが、原点となっているのは、第一に小泉一弘氏ら東大物療内科のグループの論です。
【従来説(1)】
A:日光いろは坂の車両の通行量の増加に伴いスギ花粉症の増加していることB:スギ林の中よりも道路沿いの住民に花粉症の頻度が高いこと
  小泉氏らは以上から、日光を多数通行しているディーゼル車の排出物質(DEP)がアレルギー反応を増強する一番の原因であると推測しました。
  その際の動物実験でマウスの腹腔内へスギ花粉成分を注入する場合、花粉成分だけのときよりもDEPを混合し注入した方がIgE産生量が多いことを挙げました。この推論が、大気汚染によるスギ花粉症増加説の原点となっています。

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【従来説(2)】
 もうひとつは、兼子順男氏ら慈恵医科大学耳鼻科のグループによるもので、1979年と1980年に発表した論文が大気汚染地区(東京都内)と、非汚染地区(岩手県内)の被験者にアレルギー調査を行い、大気汚染地区ではアレルギー頻度が有意に高いとしたものです。
 しかし、よく見るとこの論文には不可解な箇所があることがわかります。
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 そもそも、日本でスギ花粉症が激増したのはなぜでしょう?
 戦後復興の為に建築材として山々の木が伐採されました。その結果、日本全国がハゲ山だらけになり、治山治水が問題になりました。
 その対策として1950年代に一斉にスギ・ヒノキが植林され、日本中がスギ・ヒノキだらけになり、そのほとんどが樹齢30年になり花粉を飛散させた為、1980年前後に全国的にスギ花粉が飛ぶようになったのです。
 このことは、1979年に日本で初めてスギ花粉症が国民病となった事実と見事に一致します。原因物質(スギ花粉)の激増がスギ花粉症増加の背景であると判断せざるを得ません。
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 この検証から、大気汚染によるスギ花粉症増加説には疑問点があることを、院長は2003年5月23日学会で発表しました。通行量の増加による再飛散の影響を考慮していない点は当然として、慈恵医科大学による論文はデータを捏造した疑いさえあります。

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 同一のデータに基づくと考えられる1979年と1980年の論文をよく見比べると、79年のアレルゲン調査に使用したのは「室内塵とブタクサ花粉」とありますが、80年論文にはそれに「スギ花粉」と付け加えてあります。つまりもとのデータではスギ花粉について調査を実施していないのです。なぜなら、スギ花粉症が国民病といわれるようになったのは79年(院長の医学部卒業以降)のことで、それまでは日本ではブタクサによる花粉症が一番多かったのですから。

 しかし、79年以降はスギ花粉について論じなければ論文としての価値が全くありません。あろうことか兼子氏らは、80年の論文でスギ花粉についても調査したと書き加えたかのごとく、両論文からは読み取れます。

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 2003年5月23日・院長はこの発表を終えた直後に、会場の外で79・80年の論文の筆頭著者である兼子氏本人より声を掛けられました。
 その際「よく気がついたな、つい(スギ花粉症と)書き加えたんだよ」と、著者本人がデータの捏造を認めたのでした。

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 では小泉氏の推論はどうでしょうか?
 データが客観的に示すのは、車両通行量が多い所ではスギ花粉症も多いという事実です。舗装された道路では、落下した花粉が地面に吸収されずに表面に留まった状態です。そこを車が通れば車輪によって花粉が巻き上げられるのでスギ花粉は空中へ再飛散します。結果的に花粉が人の鼻粘膜に触れる機会が増加するために、スギ花粉症も増加するという可能性も考えられます。
  従って、それだけでディーゼル車両の排出物質(DEP)がスギ花粉症増加の原因であると結論づけている小泉氏の説は、短絡的ではないかとも思われます。
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 スギ花粉などのアレルゲンが増加すると、本当にアレルギーも増加するかどうかを証明するためには、
(1)アレルゲンに接触する時間が増えればアレルギーの頻度も増加していること。
(2)そのアレルギーの頻度の増加は、異なった被験者を対象とした調査だけでなく、DNAの関与を除外するために、同じ人間を数年にわたって継続調査したものであること。
  (3)逆にアレルゲンと接触する時間が減少すると、アレルギーの頻度も少なくなること。
これらを証明する必要があります。

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 中国・ニンシャにおける調査で、他地区から軍隊としてそこに定住することになった被験者では、7年間でヨモギ花粉症が100倍に増えたことが報告されています。
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 私たちの白老町や栗山村における小中学生に対する調査でも、さらには中国における調査でも、被験者の年齢が上昇するほどアレルギーの頻度は増加していました。つまりアレルゲンの暴露時間が長いほど、アレルギーは増加するらしいのです。
 第二の課題について私たちは、3年ごとに9年間連続して行った白老町の調査で、それを確認しています。3回とも調査を受けた被験者を見ると、成長とともにアレルギーの頻度が明確に増加していたのです。
 第三の点については、私たちの共同研究者の中村晋・元大分大学教授が在学生を対象に、1年生の時点と4年生になってからのアレルギー調査で、変化を確認しています。この結果、ほとんどの被験者で1年生のときよりも4年生になってからの方が、アレルギーの頻度は高いことが判りました。ところが、それにも関わらず、冷夏の翌年でスギ花粉飛散のすごく少なかった1994年春の調査では、4年生のアレルギーの頻度が1991年の1年生時より低かったのです。アレルギーの頻度は、アレルゲンの暴露量と暴露時間の影響を受けていることが、これらから理解できます。
 話をもとに戻すと、いろは坂など日光におけるスギ花粉症の激増は、アレルゲンとしてのスギ花粉暴露量もしくは暴露時間に関係しているらしいことが、推測できる訳です。
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 小泉氏らによる動物実験では、マウスの腹腔内にDEPとスギ花粉成分を一緒に注入するとアレルギー反応が強く見られるとの結果が出ています。
 ですが、注意しなければいけないのは、花粉だけを注入した場合は花粉が吸収されてしまうのに対して、DEP(=炭素:スス)とスギ花粉を一緒に注入することで吸収されない炭素の性質としてスギ花粉成分も体内に長く留まる。それが原因といえます。

 この事実に関しては、高橋裕一先生による研究もその裏付けとなっています。
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 さらには、大気汚染がスギ花粉症を悪化させるとの確証は得られなかったと環境省の調査でも立証されています。
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 石原慎太郎都知事が、小渕首相にディーゼル規制を選挙公約に使用するように、進言する予定だったことを示している、2000年4月の産経新聞の記事です。DEPがスギ花粉症の原因であり、ディーゼル規制によってスギ花粉症を減らそうというのは、石原都知事のアイディアだったのです。
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 そして、石原都知事により、東京都では2003年10月ディーゼル車の走行規制が実施されたのです。
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 結果としては世界一厳しいディーゼル規制にも関わらず、スギ花粉症は減少しませんでした。それどころか、石原都知事自身が生まれて初めてスギ花粉症を発症することになるのです。彼は自分で立てた大気汚染がスギ花粉の原因であるという説が間違いであることを身をもって証明したのです。
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 その直後で都知事は自身の立てた政策の失敗をうやむやにしようとしているかのように、ディーゼルについては一言も口にしなくなります
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 院長は石原都知事の政策に疑問をいだいておりましたが、それについて東京新聞が院長のコメントを記事にしています。
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(最後に)
 このように、大気汚染によるスギ花粉症などアレルギー性鼻炎の増加説は、調査や報告の結果の信頼性に欠けており、さらには東京都での規制実施の結果から、きわめて根拠の乏しいものと言わざるを得ません。
 世間一般で「医学の常識」として信じ込まれているものの中には、先入観による誤解が紛れ込んでるということが少なくありません。
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花粉症の要因に関しても「どれが本当なの??」と混乱してしまうほどです。
どの説を信じれば良いのでしょう?
どうして、このようなことが起こるのでしょうか??

という極めてシンプルな法則であることは、ご存知の方も多いかと思います。
 ですが、上記で述べたように、科学的な根拠のないままに論じられている説もあるのです。医学知識に限らず、情報化社会で私たちはその内容が間違いであると知らずに信じこんでいる場合があります。
 そうした混乱を避けるべく、院長は一切の妥協を許さずに研究に取り組み、その成果を積み重ねて一般の方にもわかり易くお伝えすることに夢中です。 3443通信では、これからも院長の学会での発表スライドや勉強会の内容について、引き続きご報告させていただきたいと思います。


関連リンク: 3443通信 No.143 10月14日に和歌山で行われた日本花粉学会で院長が学会発表しました。
  用語集 大気汚染 花粉症

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