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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集
〜ピアスの歴史と、魔除け信仰〜 〜ピアスの歴史と、魔除け信仰〜 〜ピアスの歴史と、魔除け信仰〜
鎌倉大仏   ピアス・トラブルの一例です。
 
 男女を問わずに広く愛好されているピアスですが、その歴史は一体いつ頃から始まったのでしょうか?そして何のために??「ピアスの穴の白い糸」などのピアスにまつわるユニークなお話を交えて、院長の3443ワールドへご招待します。


〜原始信仰とピアス〜

 何年か前まではまだ日本社会には異質で、ちょっと奇異の目で見られたピアスですが、最近ではファッションとして定着した感があります。
 
 日本社会には異質と書きましたが、ほんとにピアスは日本では異文化なのでしょうか。なぜなら、法隆寺の九面観音など古い日本の仏像で、耳たぶにピアスを装着しているものが散見されますし、有名な鎌倉の大仏の耳たぶにだって穴が開いています。もしかするとピアスは、古代の日本ではむしろ正式のおしゃれとして、当たり前のことだったのかも知れません。

 昔の人は偉かった、のでしょうか。

 冗談はともかくとして、日本以外の国では今でも子どもが生まれると、ことに女の子では生後数ヶ月のうちにピアスを装着する習慣があります。

 私自身も、在日フィリピン人の生後何ヶ月かの女の子の耳たぶにファースト・ピアスを着けてやったことがありますし、ブラジルの女性と結婚した私の知人(日本人)は自分の小さな娘の耳にすでにピアスが装着されているのを見て、目を真ん丸にして「これ、いつ着けたの?」と奥さんに聞いていました。さらに私が中国各地にアレルギー調査に赴いても、3歳くらいの女の子がちゃんとピアスを耳に着けている光景を良く見かけます。

 あるいはこの日本でも、昔はピアスを小さな頃から装着する習慣があったかも、などと想像することは別に不自然なことではありません。この、とくに女の子が幼いうちから耳たぶにピアスを着けてしまうのは、なぜなのでしょう。

歌劇 『セヴィーリアの理髪師』
CDになっている、歌劇
『セヴィーリアの理髪師』です。
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 古代から、人間が病気になるのは体外からなにか悪さをする魔物が入って来て、人間を冒すためだと信じられていました。ですから、人が病気になると、例えばそれがお腹の病気ですとヒマシ油を飲ませて下痢をさせます。もちろん、体内に入った悪い要素を体外に追い出す目的のためです。

 それに昔は、体調が良くないと瀉血【しゃけつ】と言って血管を切って悪い血液を外に出してしまう治療が、ヨーロッパを中心に行われていました。「セヴィーリアの理髪師」というロッシーニのオペラがありますが、その第一幕で主人公の理髪師・フィガロが登場するカヴァティーナ「おいらは町の何でも屋」には、床屋の仕事とともに瀉血のために蛭【ヒル】を持ち歩いている様子が、高らかに唄われています。

 それはつまり、床屋さんが外科医としての役割を兼ねていたということも証明しています。
 なお、床屋さんにある三色のグルグル回る看板はそれぞれが動脈・静脈・包帯(赤・青・白)を表しており、昔は床屋さんが外科手術を施す医師であった名残だそうです。


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 よく、西洋は外科的医学、東洋は内科的医学(漢方など)と言われますが、実のところどちらの世界でも内科が主流でありました。西洋では、大学で医学を修め内科的治療を行うドクトルと、外科手術を行う理髪師に大別され、戦争が起きた際は従軍医師として理髪師が任務にあたっていたそうです。そして、外科的医学が発展したのは、戦争中、ケガをした兵士の手足を切断する必要に迫られたからと言われます(右記より)。

 話は戻りますが、古代から狐憑きと称して、狐の霊が人体に取り憑いて病気になるとの民間信仰もあり、これに対しては取り憑かれた人間の体を太鼓のバチで叩いて、狐を追い出そうとする行為がなされます。この奇妙な民間信仰はけっこう最近まで遣っていて、そのためにバチで叩かれた人が死亡した事件も、話題になったことがあります。

 それに対して、病気を予防する目的から人体になんらかのお守りを装備する習慣も現在まで続いています。これは家など建築物でもそうですが、悪さをする魔物が内側に入らないように玄関はじめ入り口に、魔除けを置くものです。そして魔除けとして、お札や沖縄のシーサーのような聖獣さらに宝石などの光るものが使用されます。
 どうして、光るものには魔除けの効果があるのでしょうか?そう言えば3種の神器(剣・勾玉・鏡)もみんな光るものでしたが、おそらくこれらの光には魔物の棲む暗闇を照らし、明るくしてしまう力があると信じられて来たために、相違ありません。明るいところには、魔物は棲み付けないのでしょうから。このように考えて来ると、古代人がピアスを耳たぶに装着した習慣も理解できます。

 耳の穴は、鼻や口そしてその他の人体の穴(耳鼻咽喉科では扱いません)同様、外界に開いている窓口であり、そこからは魔物が人体内に入り込んで悪さをし、人は病気になるのです。

 ですからこうした人体の窓口には魔除けを置かねば、ことにひ弱な幼児は病気になってしまう、そう信じられて来たのでしょう。

 年頃となった女性が、なんとなくおしゃれとしてピアスを着けたがるのも、あるいは妙齢の女性が魔に魅入られ易いためかも知れません。

〜自立心とピアス〜

 若い女性は、それにしてもどうしてあんなにピアスを着けたがるのでしょう?また例えトラブルが生じて耳たぶが腫れようと膿にまみれようと、なぜあれほどまでにピアスを離したがらないのでしょう。

 前記の理由を省くならば、それにはピアス装着時の年令が関連しているような、そんな気がします。われわれの調査では、現時点の日本ではピアスをする人のピークは幼児期ではなく18歳から20歳にある事が判っています。この年代は高校を卒業し社会へ出るというだけでなく、精神面では自我の完成期でもあり、他人との差別化を意識する年頃でもあります。そしてその自我確立と自己の新たな人生への期待感が、ピアスへの若い女性の執着に結びついているようなのです。それはやはり調査で、ピアシング(ピアス装着)をする理由として単なるおしゃれや好奇心だけでなく、「人生のきっかけとしたかった」との動機を述べた回答者が全体の8分の1くらいいたことからも、想像がつきます。その年代を過ぎると、うそのようにピアスにこだわらなくなる人が多い現実も、一つの裏づけとなるでしょう。

 これは結構良くこの年令に知られているエピソードですが、現在活躍中の早見優さん(女優の早見優さんです、元・日本銀行総裁の速水優さんではありません、念のため)が、ファースト・ピアスを装着したその日に女優としてスカウトされた、という有名な話があるのだそうです。そんなエピソードも、一時期、若い女性のピアス熱を煽ったのかも知れませんね。でもこうした、人生のきっかけにするとか、運勢が変わるように、とかいった目的でピアシングをする女性の存在することは、やはりピアスにはなんらかの信仰的要因の絡んでいるらしいことを、想像せしめます。

 こんな原始信仰要素も考えられる「ピアスをしたい」との若い女性の熱望は、ただ頭ごなしに禁止しても治るものではなさそうです。却って、親や教師に隠れて自分たちでピアシングする、その結果むしろピアス・トラブルが大きくなる、そういう結末ともなり兼ねません。それよりは、安全なピアス装着法で医療機関において実施してもらう、そのほうが実際的かも知れません。

〜 自分たちでピアシングすると? 〜

 親や教師に禁止されているから、というわけでもないのでしょうけれども、今だに女子高校生などが自分たちでお互いの耳たぶに安全ピンなどで穴を開け、ピアシングしてしまうことも皆無ではないようです。うわさ話でしかありませんが、そんな女子高生のピアシングは以下のような手順で行われるのだそうです。
 まず、お互いの耳たぶを、氷で感覚の無くなるまでガッチリ冷やします。それから安全ピンを持って、2人のうち1人(以下、女子高生A)が女子高生Bに対して身構えます。Bは耳をAに向けて突き出して、必死で堪える表情です。

女子高生A『いーいっ?』
女子高生B『いーわよ!』
A『行くわよっ!』
B『来てぇ。』
A『えーいっ!!』
(ブスリと安全ピンを耳たぶへ突き刺す)
B『キャーッ。』

 こういった自分たちでのピアシングに、もっとも多く用いられるのは安全ピンのようですが、われわれのアンケート調査では、時には布団針やまち針さらには画鋲を用いたとの回答も、見られました。このように、安全とは程遠い環境で行われることの多い自分たちでのピアシングですが、当然後に記すようなトラブルが絶えません。しかも困ったことに親に内緒でピアシングした手前、トラブルが生じたとしても親の保険証を借りて医療機関を受診することは、むろんできません。トラブルは治療されないままに、放置されることになります。
これら自分たちでピアシングしたためのピアス・トラブルでは、まず感染症の問題があります。細菌感染だけでなく、肝炎ウィルスなどによる感染も生じ得ますから。

 それに、金属アレルギーになり易くなります。俗に、純金のピアスは金属アレルギーにならないと信じられていますが、ピアシング時に感染からピアス・ホールの上皮化(穴の内部に皮膚の張ること)が遅れると、純金でもアレルギーを生じます。たしかに24金は安定した金属でイオン化しにくいために、皮膚のうえから人体内に吸収されることはまず無く、通常の使用では純金による金属アレルギーはありません。けれどもピアシングした直後のピアス・ホールは皮膚の欠損した、いわば生キズです。24金でも生キズの部分からはイオン化して、体内に侵入しますからこれは体内の蛋白質と結合してアレルゲン化します。

 つまり純金に対する金属アレルギーが、立派に成立してしまうのです。いったん金属アレルギーになってしまうと、一生金のネックレスや入歯は使用できませんから、ピアシングは衛生的な環境下で行わねば大変なことになってしまいます。

〜 『ピアスの穴の白い糸』 〜

 皆さんは聞いたことがありませんか?「ピアスの穴の白い糸」のうわさを……。

ピアスの白い糸、
実は上皮化した筒状の皮膚です。
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 若い人たちが、自分たちでお互いに安全ピンでピアシングをしようとしたところ、開けたピアスの穴から白い糸が出て来て、ひっぱったら目が見えなくなった、というものです。

 話はいろいろで、目玉がくるんと回ったとか、失明ではなく顔面神経麻痺だったりすることもありますが、ピアスの穴から白い糸が出て来た、という点は共通です。もちろん、現実に失明したり顔面神経麻痺を起こした人が確認されていない点も、共通です。

 このうわさの元となった「白い糸」の正体は、判っています。ピアス・ホールに上皮化が起こった後きつめのピアスを装着すると、それを外すときに上皮化した皮膚が筒状に剥がれて来ることがあります。ちょうど、日に焼けた肌がベロリと剥がれて来ることがあるみたいに。この筒状の皮膚が、写真で見るようにちょっと目には「白い糸」にみえるのです。それではそれがきっかけで「失明」してしまう話は、どこからきたのでしょう。

 耳の中を走行している神経と聞いて、顔面神経とただちに思い浮かぶのは、われわれ耳鼻科医だけでしょうか。

 第7脳神経である顔面神経は、聴神経(前庭蝸牛神経)とともに内耳道から頭蓋の外へ出ます。
そして中耳腔内を通過して即頭骨の茎乳突孔を通って、顔面に分布します。中耳炎の手術などで、この顔面神経を耳の中で傷つけると、顔が曲がり目が閉じなくなります。

 これは私の想像なのですが、耳の中を顔面神経が走行している解剖学的事実、それを損傷すると目が閉じなくなってしまう医学的事実、ピアス・ホールからは実際に白い糸が出てくる現実、親に隠れて自分たちでピアシングする罪悪感、それらがないまぜになって、現在のうわさ話になってしまった可能性を否定できないように思われます。話は当初は、耳たぶの白い糸は顔面神経だったかも知れない、そうすると顔面神経麻痺から目が閉じなくなってしまう、そういう内容だったと理解すべきでしょう。それが若い人たちの間で、いわば伝言ゲームを繰り返しているうちに、目が開かなくなる話に転じ、最終的に失明するとの「恐い話」へ行き着いてしまったのではないでしょうか。

 まあ私の空想の真偽はともかく、白い糸は本当にピアス・ホールから出てくるのです。


〜 ピアス・コミックの紹介 〜

 読売新聞の本田麻由美記者によるピアス・コミックの紹介記事です。
『細菌感染温床に

 若い女性を中心に大人気のピアスだが、高校生の半数以上、短・大学生の3割近くが、安全ピンなどを使って自分で穴を開けていることが、仙台市泉区の三好耳鼻咽喉科クリニック・三好彰院長が行ったアンケート調査で分かった。全体の約四割に化のうなどのトラブルが起こっていることも分かり、三好院長は「女性のオシャレ心はけなげだが、安易に穴を開けるとトラブルを招きかねないので、正確な知識を身に着けてほしい」と話している。

 アンケートは94年10月から昨年末にかけ、宮城県や山形県内の高校生と短・大学生に対して実施、計4,730人(高校生3,680人、短・大学生1,050人)が回答した。
 その結果、高校生の17.5%、短・大学生の37.9%がピアスをしており、そのうち自分で穴を開けたと回答したのは高校生56.5%、短・大学生28.4%にのぼった。その方法は、安全ピンが圧倒的に多く(計298人)、次いで市販のピアス穴開け器や縫い針だった。中には数人だが、画びょうやキリ、ミシン針といった回答もあった。また不衛生な管理から、全体の約4割が化のうアレルギーなど何らかのトラブルを引き起こしていた。


ピアストラブル殺人事件

 三好院長によると、特に高校卒業シーズンを境に“ピアス願望”が増えると言う。また自分で穴を開けた高校生が多いことについて、親や学校に隠れて行うからではないかと分析。それが細菌感染などを引き起こす原因にもなっている、とみている。

 三好院長はこうした調査結果を基に、実際のトラブル例などをできるだけ多くの女性らに知ってもらおうと、具体例やその処置法を紹介した医学コミック「ピアストラブル殺人事件」=いちい書房(東京都新宿区)=を出版した。前半が、ピアスを初めてつけた女子大生が、ピアストラブルを克服しながら宝石を巡る殺人事件を解決していくストーリーで、後半では、ピアスに関するアンケート調査結果などを盛り込んでいる。全144ページで880円。』

  読売新聞社社会保障部 本田 麻由美
  1996年3月8日(金)、読売新聞より


34歳でがんはないよね?
★本田記者の著書ご紹介

本田記者は、がん医療に関する取材を推進され、連載記事を掲載しておられました。上記の著書『34歳でがんはないよね?』は、ご自身が経験された、がんとの闘病生活について執筆しておられます。
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関連リンク: 用語集 ピアス


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No.175
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