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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集
院内勉強会を行いました。

 2009年7月20日(月)、創進会みつわ台総合病院(千葉市)の中川雅文先生をお招きして、スタッフの補聴器の処方と軽度難聴者に対する補聴器適合に関する勉強会を開催しました。
 ここでは、勉強会の要旨をご紹介致します。
 
補聴器の処方と軽度難聴に対する補聴器適合

補聴器相談医の役割

 現在、日本耳鼻咽喉科学会の中に、補聴器相談医が3600人程います。

 補聴器相談医の役割には、
 (1) 患者さんに対しての、適合評価、装用指導・訓練、小児への療育、成人への学習支援
 (2) 補聴器販売店に対しての監視(倫理モニタリング)指導
 (3) 補聴器技能者への指導・支援・協力
 (4) 言語聴覚士・検査技師への教育・指導・連携
 (5) 耳鼻科医ではなく一般の医師に対しての啓蒙・教育
 があります。その中で重要なのが、補聴器販売店に対してのモニタリングや指導です。
 
 実際、補聴器は処方箋がなくても、販売店にいけば購入出来るようになっています。

 補聴器販売店協会は、販売店に対して次のような方は販売店で補聴器をつくってはいけませんという、禁忌8項目を決め耳鼻科に紹介するようになっています。これを守らないところは協会側が処分・処罰・勧告をするということですが、現実には法的拘束力がないため機能していません。そのためいろいろな問題がおきています。

 【禁忌8項目】
  耳の手術などによる耳の変形や傷がないか
  中耳炎などで過去90日以内に耳漏がなかったか
  過去90日以内に突発性または進行性の聴力低下がなかったか
  過去90日以内に左右どちらかの耳に聴力低下がなかったか
  急性または慢性のめまいがないか
  耳垢が多くないか
  外耳道に湿疹・痛みまたは不快感がないか
  500・1000・2000Hzの聴力に20dB以上の気骨導差がないか

 次に、補聴器販売店から耳鼻科医への提言です。

 販売店では装用者から、医師により対応がまちまちであること(補聴器の処方、あるいは両耳・片耳での装用の有無)の指摘があります。

 もう一つは、『箱型・耳かけ型など補聴器のスタイルを勝手に決められた』、『○○補聴器店に行きなさいと言われた』、『自己決定権に過剰介入された』と、不満に感じる人がいると言われています。

 これは医師が勉強不足なのと、処方箋がないため、患者さん自身で機種を選ぶ必要があるためです。

補聴器装用についてのインフォームドコンセント

 補聴器装用について、病院側がしなければならないインフォームドコンセントには次のようなことがあります。

 1:検査結果を詳細に説明しておく。 
 2:診断情報を医師から正確に伝えておく。 
 3:補聴器はどういうものかについて説明しておく。

 補聴器装用にあたって、最低限しなければならない検査には・純音聴力検査・語音聴取域値検査・語音弁別検査があり、身体障害者の適応になるのか、どんな補聴器をつければよいかの判断材料になります。

 診断情報に関しては、ただ補聴器が必要だという事だけでなく、感音性難聴なのか混合性難聴なのか言葉として患者さんに伝えておくこと、障害者手帳に該当するか否かを本人とその家族やキーパーソンになる人に伝える必要があります。

 補聴器そのものが、安くても数万円から高価なものだと数十万円するものなので、何故必要かは本人だけでなく家族にも理解してもらう必要があります。特に身体障害者に該当するのかどうかは、はじめに正確に伝えておかなければなりません。

 次に補聴器そのものがかかえている限界についてですが、テレビドラマのように補聴器をつけた瞬間に聞こえるようになるわけではありません。

 補聴器に慣れていく期間が必要で、何も訓練しない場合、約3ヵ月はかかり、積極的に介入し指導したとしても3〜4回くらい通院してはじめてよく聞こえるようになります。経時的に変化がでてくるということをいかに伝えていくかが課題です。その際日常の診療のなかで、医師の説明だけでは、難聴の方は話の半分しか理解出来ていないこともあり、パラメディカル(看護師や臨床検査技師等のスタッフ)のサポートが必要となってきます。

感音性難聴の病態について

難聴は、
1. 最小可聴閾値の上昇
2. ダイナミックレンジの狭小化
3. 補充現象
4. 一過性閾値上昇(TTS)
5. 周波数分解能の低下
6. 時間分解能の低下
7. 単語了解度の低下
8. 難聴放置による学習障害
9. 抑うつ傾向
10. 聴性廃用症候群
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 標準純音聴力検査では、30dB未満が就学児健診時の合格ラインで、40dBくらいが同じ部屋内なら可聴可能(家庭内では困らない)、45〜65dBで手と手が届く距離、またはテーブルを挟んで表情が見える距離なら聞こえる程度、70dB以上だと身体障害者に該当します。

  感音難聴の評価は、標準純音聴力検査による周波数ごとの域値計測をもって行われています。

 しかし、難聴は単に域値が上昇しただけの状態ではなく、様々な要素が複雑に絡み合った病態として理解する必要があります。難聴では最小可聴域値(聞き取る事が出来る一番小さい音)の上昇(難聴の度合が高まる)と、ダイナミックレンジの狭小化(小さい音が聞こえず、うるさい音は大きく聞こえ、ちょうどよく聞こえる音の幅が限られる)がおこってきます。


周波数分解能と時間分解能の低下で何が生じるか?
●. 音節認知力の低下
  -単語のフラグメンテーション
  -文構造の誤認知
親密度に左右されることばの了解度
  -新規学習の障害が社会とのコミュニケーション力を低める
  -異聴に伴う「誤謬」
 それと、周派数分解能と時間分解能が低下します。これは2種類の音を区別する力が減り、連続して出てくる言葉の聞き取りが悪くなります。ゆっくり、はっきり、丁寧に話せば聞き取れるけど、早口で話すと聞こえない、小さい音が聞こえない。

 「がっこう」という言葉の音の小文字部分が聞き取れず、「がこ」と聞こえてしまいひとつの単語が二つに聞こえたりします。そうすると、文そのものを間違って認知してしまう可能性があります。

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 そういった状況が起こってくると、自分の知っている馴染みやすい言葉や親密度の高い言葉に置き換えてしまいます。佐藤さんと紹介されても、身近に佐藤さんという人がいないとすれば、それを加藤さんと誤認して加藤さんと覚えてしまう。

 そうすると次に会う時に、佐藤さんを加藤さんと呼んでしまったり、紹介してくれた人に「佐藤さんって教えたのに!」と言われ、落ち込んでしまいコミュニケーションに支障がでてきます。

 聞こえないことによるコミュニケ―ション障害が長く続くと、人とのコミュニケーションをあきらめ、抑うつ的になってしまいます。

 ここが、一番の問題となってきます。それに、難聴をそのまま放置した状態で新しい言葉を学習してしまうと、それは歪んでひずんだ音として記憶され間違った言葉で覚えてしまいます。また小さな音が聞き取れないと、一つの単語が複数の単語として知覚されてしまいます。


 もともと知っている言葉を聞いた時は、周りに騒音があっても頭の中に記憶された言葉を使って音韻修復という作業を行うことによって、言葉を理解します。しかし、静かな所では逆に、聞き取りにくくなってしまいます。

聴覚性廃用症候群
異聴により、古い処理資源 (ことばの記憶)の活用が出来ない
新しい処理資源(新しいことば)の 獲得が出来ない
  −単語のフラグメンテーション
  −文法に応じた単語配列を生成できない
コミュニケーション障害に伴う抑うつ
  -異聴に伴う「誤謬」

 会社の経営者など、社会的な責任をおう人が、軽度難聴のため、会議の時に聞こえにくいということから、補聴器をつけることが多いのです。

 1985年から、海外などでは聴覚においても聴能の廃用がおこる(聴覚性廃用症候群)といわれています。

 整理すると軽い難聴や注意障害から会話への積極性がなくなり、精神機能低下などの廃用症候群に陥ります。

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 そうなると、ますますやる気がなくなる、そういう悪循環から聴覚性認知障害を起こしてしまいます。高齢者の感音難聴に対して欧米では、両耳装用が必須となっています。

 両耳につけても新しい言葉を獲得していくためには訓練が必要ですが、廃用までいってしまうとそれが非常に難しくなってきます。補聴器を付けるまでの期間が長いと、付けた時に聞こえてくる音すべてが新しい音に感じてしまうので、音は聞こえるけど何の意味かわからない、全て新規に学習しなければならないので、非常に負担が増えてしまいます。

難聴と学習障害
難聴をそのまま放置した状態で新しいことばを学習
  −「歪んだ音」として記憶される
閾値上昇で小さな音の聴取ができないと
  −音節が分断され、複数の語として知覚される
  −比較的騒音があるときは音韻修復が生じるので何とかなる
●. −静かなところは音韻修復が発揮されず、聴取が難しい
装用までの放置時間が長いと
  −補聴器の音のすべてを「新しい音」に感じてしまう
  −忘れていた生活騒音を意識下に置けるようになるまで時間がかかる

 補聴器をつければ今まで忘れていた、『換気扇の音』や『道路からの音』が聞こえるようになり、元々聞こえていた音を、いちいち意識下におくのが面倒に感じる場合があります。実際に1日5時間以上3か月つければこの問題はカバーできるのですが、途中で放りだす方もいます。

 廃用がおこる前にいかに、補聴器をつけるかということが課題です。


加齢と難聴

 聞こえの衰えというのは、40歳くらいからはじまります。ですが、検査機器の設定を10・12kHzの音域にして調べると、30歳代からすでに難聴ははじまっています。

 日本の場合、来院されるのは最小可聴域値が40dBを越えたあたりからですが、WHO(世界保健機構)では30dBを越えた人は、補聴器をつけた方がよいとしています。

 世界は、35dBの人には補聴器をつけて30dBにしてあげようというくらい難聴に敏感です。しかし、日本では55dBくらいの人でも医療機関で補聴器を付けなくてよいと説明をしてしまうことが多く、これが、今日本の社会が抱える大きな問題です。

 せっかく寿命が10年延びても、同じことを聞くという聞き返しの多い生活を送っていたら、現実には半分の時間しか人生を楽しんでいないということになります。

 1回で聞き取れるということは、何回も聞きなおす無駄な労力がかからず、心理的な負担を解決しますので、非常に大事なことなのです。 

 今、補聴器の世界では、軽度難聴用の新しい補聴器がいろいろと出ています。

 日本はいま、高齢者にとっては豊かな国です。年金をもらい、悠々自適な生活を送っています。あるいは、独居老人で人との交流がなく、人と話さなくてもすんでしまいます。しかし、日本の人口動態では2007年以降、75歳以上の高齢者が急速に増加しており、2025年には難聴者が4000万人を越えるという状況にあります。

 いまだ定年に達していない人は、定年後も少しの期間は働く必要があります。その場合、補聴器を使うことによって若い人と同じように聞こえるという状況を手に入れる必要があります。


軽度難聴者用の補聴器装用の課題

 軽度難聴者が補聴器装用に積極的ではないことには、次の理由があります。

 患者は難聴を自覚していないこと。耳鳴りを訴えて来院される方の半数で補聴器の適応があります。しかし、耳鳴りの原因が難聴であるということが、なかなか理解してもらえません。
 
 みつわ台総合病院で補聴器をつけている軽度難聴のかたは、平均で33.7dBで補聴器をつけています。そういう方々の6割が耳鳴りとか耳鳴り・難聴で来院しています。このような方に耳鳴りの原因が難聴であるということについて最初に理解してもらうことが大事です。

 ほとんどの方は難聴があるのは耳鳴りが邪魔しているからだとおっしゃいます。耳鳴りを訴えている方の98%が難聴です。聴力がまったく正常な人の耳鳴りはうつ病や睡眠障害・注意障害が要因ですが、たまに聴神経腫瘍や脳血管障害の後遺症の方がいます。そういう方には、耳鳴りの治療のためにこの特殊な器械をつかって、2週間は1日5時間以上使用してもらいます。そして、2週間後に話をお伺いします。

 患者さんには、機械をつけて聞こえがよくなると耳鳴りが気にならなくなることに気づいてもらうと共に、耳鳴りの原因が難聴であるということを理解してもらいます。

 次に、補聴器は障害者の道具であるという偏見があります。患者とか障害者という言葉を、軽度難聴の人は受け入れ難いものなので、それに対する配慮が必要です。

 また、軽度難聴者用の補聴器は高価であるため、予算的な問題をどう解決するかが課題です。

 最後にひとつの症例を紹介します

【S・Kさん】 
 補聴器の調整・相談のため販売店に来店しています。この方は5年前に左突発性難聴になり、3年前左耳に補聴器を装用しました。

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 しかし補聴器を装用しても言葉がはっきりしない、自分の声がひびく、補聴器を装用しても聞こえ方が変わらない、うるさいので外出できない、会合・パーティーで話が聞き取れない、テレビの音量を大きくする、聞き返し、聞き間違いが多い、呼んでも気づかないなどの症状を、訴えてきました。調べてみると右側の語音明瞭度75%・左側30%です。

 左側の突発性難聴側に補聴器をつけましたが、補聴器をつけることで装用域値はあがっていますが、左耳の明瞭度が低いために症状は改善していません。これに対して販売店の対応は、まず補聴器を左耳から右耳に変え、目標とする装用利得・装用域値を変更しました。

 次にベント付きイヤーモールドをつかって閉塞感の少ない補聴器にかえました。さらに学習障害・聴能の廃用を考慮したトレーニングをはじめ、本人・家族にカウンセリングをおこなったということです。


メモを取りながら、
スライドに見入る職員。
 
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 処方について

 S・Kさんへの正しい処方として、一番大事なことは聴力レベルを35dB未満にちかづけることです。左耳に補聴器をつけても聴力レベルは35dBには達しません。この方の聴力は右耳も高音域で落ちていて、高音の『さ・し・す・せ・そ・た・ち・つ・て・と』が聞こえません。

 補聴器を左耳につけ、音割れした音を、音を忘れた左耳に聞かせていることになり、結果的にうまくいきませんでした。右側に補聴器をつけることによって、装用域値を35dB未満にもっていくことが正しい処方となります。それは、左側の明瞭度が30%と落ちていることからもわかります。


 以上、今回学習した感音難聴について、スタッフ全員が理解し、患者様に正しい情報を伝えることができるよう努めていきたいと思います。

 中川先生、有難うございました。

  三好耳鼻咽喉科クリニック
  看護課  浅野 佳代

補聴器の装用には、医療スタッフはもちろん、
ご家族の理解と支えが大変重要です。

 


関連リンク: 用語集 難聴
  用語集 補聴器
  用語集 中川雅文先生
  用語集 HIJ

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No.176
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