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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

難聴社会のパイオニア ー岩渕紀雄(中園秀喜)氏のことー

 聴覚は、日常生活をおくる上で単に音を聞くのみならず、とても重要な機能を果たしています。
 ここでは、幼少時に患った病気の影響により、聴力を失った方のお話しをご紹介させて頂きます。
 

スイス・モントルー(1988年)にて
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22年前の出会い

 写真は、1988年7月にスイス・モントルーで開かれた難聴者国際会議に、院長が出席した際の記念撮影です。この時、ご一緒した中園秀喜(ペンネーム・岩渕紀雄)氏は、幼少時に患った病気により耳が聞こえなくなりました。
 現在では、多くの耳の聞こえに関する著書を出版されており、また、講演会を通じての啓発活動も積極的に開かれておられます。氏による、NPO法人ベターコミュニケーション研究会(BCS)の情報バリアフリー・アドバイザーとして、障害者が社会生活する上で障害となる支障(バリア)を無くす(フリー)ための組織的な活動にもご注目下さい。
 ここでは、中園氏が執筆された著書の中から、ご自身の障害者としての体験を綴った書籍を、看護課の橋邦子技師よりご紹介させて頂きます。
(上の写真には日本からの参加者に加えて院長と南京医科大学耳鼻科教授・殷明徳先生が写っています。院長と南京医大との交流は22年前のこの日、開始されたのです。)



書籍の紹介

『しじみ貝の詩』 ―聴力障害者の体験から―
岩渕 紀雄 著

 岩渕紀雄さんは1948年大分県生まれ。3歳の時、猩紅熱に罹り失聴。言葉が雑音の中に埋もれてしまい、言葉の区別がつき難くなってしまう両耳感音難聴、中耳病変が頭蓋内に波及して起こる耳性頭蓋内合併症と診断され、手術を余儀なくされたが、聴力が回復することはなかった。しかし、本人のたゆまぬ努力と、家族の愛情・理解に見守られ障害を持ちながらも普通校に学び、リオン株式会社を経て株式会社ワールドパイオニア(現社名、ダブル・ピー株式会社)を設立し、現在はベターコミュニケーション研究会の情報バリアフリー・アドバイザーとして、社会に貢献している。

 この本は、ハンディキャップを持ちながらも「努力すれば」という言葉を信念に世間との厚い壁や、幾つもの挫折を覚えながらも生きてきた著者が、障害者の立場から世間に訴え、少しでも理解の目を向けて欲しいという願いや、障害者教育の質の向上を願い自らの体験を綴った処女作である。

 聴力に問題がなければ、幼少時には、体験と同時に言葉が入ってくるので、その言葉の意味を理解しながら覚えることが出来るが、聞こえない場合は、言葉だけを覚えてもその意味を理解することは困難であり、聞こえない子が聞こえる人に自分の置かれている状態を理解してもらうように説明することが極めて困難であったと語っている。また、言語獲得期以前に失聴した人は、「聞こえない事」さえ解らない場合が多くあり、聴力障害者は自分の持つ障害について、殆どが何も教えられて居ないのが実情といっても良い現実が有る。

 障害を持っていても、同じ社会で生活している者として、その障害を少しでも乗り越え、社会に役立ちたい、人並みの生活を営みたいと願っているが、常に二つの大きな壁にぶつかっている。一つは現在の社会が健常者本位に作られているが故の物理的な壁。もう一つは、障害に対する無関心や、無理解に基づく誤った偏見による精神面の壁である。このような障害者の問題は、障害者だけでは決して解決できるものではなく、社会全体の問題として是非皆で考え、少しでも壁が薄くなるよう願い、著者は啓蒙活動を行っている。

 著者がさらに言及しているのは、聴力障害者のコミュニケーション教育問題である。そして現在の最上のそれとして、トータル・コミュニケーションを上げている。聴能・口話・手話・指文字など各方法の長短を補って実践するもので、聴障者の言語獲得だけではなく社会面・精神面での発達にも大きな効果があるとされている。更に健常者と障害者を分けて教育する分離教育より統合教育を提案している。社会性・協調性を養うためには不可欠な事柄であり、偏見や差別を無くすためにも必要であると訴えている。

 聴力に問題のない私が、この本の内容をまるで解ってでもいるように紹介してしまったが、著者の訴えたいことを本当に理解しているのか、正直自分も不安であった。最後に文中の言葉を引用する。「障害者も健体者も同じ人間として人権が尊ばれ、ともに手を携えて生きていける社会を作るために手をかしていただきたいと訴えたい。」

看護課  橋 邦子



岩渕(中園)氏の著書

岩渕(中園)氏の著書
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関連リンク: 用語集 難聴

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No.186
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