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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集
 
チベットにおける低酸素と中枢性無呼吸2009〜高地における睡眠状態の検討〜

 去る、7月1日(木)〜2日(金)にかけて名古屋で行われた第35回日本睡眠学会において、標高3,000mを超えるチベットでの睡眠状態の研究についてのポスター発表を、西村邦宏先生(愛知医科大学)と当院の工藤技師が行いました。
  その内容をご紹介致します。

はじめに

 低酸素状態は、睡眠時無呼吸症候群などに深く関わる状況であり、その知識は無呼吸を理解する上で欠かせない。しかし現実問題として医療者自身が低酸素状態を体験することは稀である。今回われわれはチベットにおいて標高5,040m、気圧542hpa の高地を体験し血中酸素飽和度並びに睡眠時の簡易モニターによる呼吸状態の測定を行った。また高地での低酸素による無呼吸症状を呈する被験者に対しCPAPの有用性を実証した。チベットにおける低酸素状態・高山病・睡眠時中枢性無呼吸について報告する。

●概要


図1

日程 : 2009年9月19日〜2009年9月28日
調査地 : 中国チベット自治区ラサのホテル(3,640m)、可可西里(4,450m)、カローラ峠(5,052m)、シガツェ(4,228m)
対象 : 9名(男性7名、女性2名)
平均年齢 : 42.7 歳(24〜68歳)
初回参加者 : 2名(他2〜5回目)
方法 : 動脈血酸素飽和度(SpO2)と脈拍(Pulse)を標高の異なる地点で測定(wrist so2 : 小池メディカル・図1)睡眠時簡易モニターにて呼吸状態を計測(Smart Watch PMP-300 : PHILIPS)


●高山病

図2
図2
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 高地における低酸素とそれに対する順応の遅れが本質。標高2,500m以上の高地に達してから4〜36 時間以内に発症(図2)。
症状
軽症 : 頭痛、食欲不振、不眠、めまい、吐き気、浮腫など
重症 : 高地肺浮腫、高地脳浮腫

  一般に高度の上昇するほど、いわゆる高山病に悩まされる確率は高くなる。そしてそれは、血中酸素飽和度と相関する。文献によっては、平地においては飽和度97%以上が正常であり、80%以下は危篤としたものも見受けられる。


中枢性無呼吸が起こるメカニズム

図3
図3
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 高地などにおいて気圧の低下がおこると、それに伴いSpO2が低下する。その後低酸素血症となり、呼吸中枢の刺激により、過呼吸があらわれる。

  過呼吸がおこるとPCO2が低下し、呼吸中枢が抑制され中枢性睡眠時無呼吸がおこり、過呼吸と無呼吸が交互におこる周期性呼吸となる(図3)。

結果1

 図4は、2007年調査時の参加者13名の被験者における、SpO2と脈拍の変動を表記したグラフである。標高5,190m地点での被験者の平均値を表したグラフでは、SpO2が80%以下となっている。

  図5に、2009年調査時の被験者9名における、SpO2と脈拍の変動を表記した。標高5,052m地点では、2007年と同様にSpO2は80%以下となった。

図4
図4 結果1(各地でのSpO2と脈拍の比較)2007年度
  図5
図5 結果1(各地でのSpO2と脈拍の比較)2009年度
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結果2

図6
図6 簡易睡眠脳波計の計測データより算出した睡眠効率(%)
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対象 : C・K 26 歳女性 2回目(2007年・2009年参加)
  図7・図8は、日本(仙台)とチベット自治区・ラサ市(標高3,640m)における睡眠時のデータ比較である。ラサでは空気中の酸素量が仙台の約3分の2のため、SpO2の平均値が76.4%と低くなっている。

  熟睡感はほぼなく、低酸素状態が一晩中続く眠れない夜であったことがみてとれる(図6)。

  平地では、無呼吸が無い人でも、高地では著明なSpO2低下がみられ、身体への大きな負担となっている。


図7・8
図7 結果2(睡眠時簡易モニター)  図8 結果2(睡眠時簡易モニター)
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結果3

図9
図9 簡易睡眠脳波計の計測データより算出した睡眠効率(%)
  図10
図10 簡易睡眠脳波計の計測データより算出した睡眠効率(%)
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対象 : Y・A 65歳 女性 初回参加 本症例では、睡眠時無呼吸症候群に用いられるCPAPを持参し、SpO2・脈拍の変化を測定した。図9・10はそれぞれCPAP使用・非使用時のデータを比較したグラフである。

  この結果から、CPAPは高地における中枢性睡眠時無呼吸に対して有効であることがわかる。

まとめ

図6
標高4,978m、気圧572hPaの地点にて
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 標高5,040m地点では参加者全員のSpO2は最低値64%、最高値86%で、平均値が86%以下となった。

  高所各地でのSpO2と脈拍の比較を2007・2009年の2回行ったが、両年とも高地での睡眠ではSpO2が低下し、それに伴い脈拍数が上昇した。低酸素が全身特に循環器系に、負荷を与えていることが理解できる。

  睡眠時平地では無呼吸症状のない者でも、高地では著明なSpO2の低下と脈拍数の上昇を認めた。

  高所では平地と比較して中途覚醒の時間、回数がともに増加して睡眠効率が低下した。

  訴えの多かった症状としては、頭痛、不眠、食欲不振などが目立った。

  低酸素による中枢性睡眠時無呼吸の顕著だった被験者1名に対してCPAPを使用した。

  その結果SpO2、脈拍、自覚症状ともに著明な改善がみられCPAPが高地における中枢性睡眠時無呼吸に対して有効であることがわかった。

  高地での低酸素状態の調査を実体験として行うことは、睡眠時無呼吸症候群の治療に関わる医療者にとって、知識を深めるという意味以上に有意義なものである。


関連リンク: 索引:チベット
  索引:睡眠時無呼吸症候群(SAS)

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No.190
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