3443通信 オンライン  
みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集
 
チケットにおける低酸素と中枢性睡眠時無呼吸2009

はじめに

チベット鉄道のコンパートメント内で
チベット鉄道のコンパートメント内で 
※画像をクリックすると
拡大写真がご覧いただけます。

 高地における低酸素は、重篤な高所障害(高山病)の原因となり恐れられている。中枢性睡眠時無呼吸は呼吸中枢の障害によって生じるが、酸素濃度が平地の2分の1ないし3分の1という高地においては健常者であってもO2確保のための過呼吸によるPCO2低下から呼吸中枢が抑制され、中枢性無呼吸をきたす。
今回われわれは、世界最高の標高を走る『青蔵鉄道』に乗車し、その車内で呼吸状態の経時的変化を追う機会を得た。
うち1名の被験者に対し、列車内およびチベット・ラサ市滞在中に 高度と気圧の変化に伴うSpO2(血中酸素濃度)とPulse(脈拍)の変化を計測した。加えて、本例の中枢性無呼吸に対し、CPAP装着を試みた。

対象・方法

調査地 : (1)西安市(陝西省)、標高1,000m
(2)西寧市(青海省)、標高2,290m、気圧785hpa
(3)青蔵鉄道(西安市からチベット・ラサ市)
(4)ラサ市(チベット)、標高3,650m、気圧657.9hpa
対象 : 65歳日本人女性(チベット調査初回参加)
方法 : 動脈血酸素飽和度(SpO2)と脈拍(Pulse)を計測(KONICA MINOLTA Pulsox)
期間 : (1)9月20日〜9月21日
(2)9月21日〜9月22日
(3)9月22日〜9月23日
(4)9月23日〜9月26日

青蔵鉄道(せいぞうてつどう)

青蔵鉄道路線図
青蔵鉄道内
※画像をクリックすると
拡大写真がご覧いただけます。

 『青蔵鉄道』は中国青海省とチベットを結ぶ長距離鉄道で、走行距離は約2,000km、乗車時間25時間、最高地点は標高5,072m。加圧システムによる気圧は平地の8割程度に保たれる。また、供給口から酸素を吸入することが可能である。

結果1
 右図は、主にその列車内で経時的に測定された全4地点のSpO2と脈拍のデータを、標高図とともに照らし合わせたものである。また、右の表は、地図で見た青蔵鉄道の路線図(1)と、鉄道内でのSpO2及び脈拍の最大値・最小値・平均値(2)を表したものである。


結果1のまとめ

 青蔵鉄道の出発地である青海省西寧市は標高2,000mを超える高地にある。21日昼過ぎに西寧市に到着し21時30分頃に青蔵鉄道に乗車した。グラフ(1)(下図)より乗車前からSpO2最小値52.9%、最大値97.5%、平均値87.6%であった。

 この時点で息切れや倦怠感など、高山病を予感させる症状が出現した。なお、平地である西安市においては覚醒時SpO2最小値85.5 %、最大値98.3 %、平均値94.2 %であった。

 グラフ(1)から(4)にかけて青蔵鉄道に乗車中のデータの変化を示した。全行程を通してのSpO2最小値50.0 %、最大値96.0 %、平均値76.3 %となった。

青蔵鉄道路線図 グラフ4 グラフ3 グラフ2 グラフ1 結果1 青蔵鉄道内経時的データ A

結果2、3

 下図のグラフ(5)から(8)は、ラサ市において、CPAPを用いた夜間睡眠時の測定データである。ここでは、高地での睡眠中にあらわれる中枢性睡眠時無呼吸に対する効果を検討した。その結果、グラフ(5)と(6)を比較すると、CPAP着用時のSpO2の平均値が上昇しているのがみてとれ、高地でのCPAPは有効であることがわかった。また、グラフ(7)から(8)では平地・高地でのデータ比較を行った。

結果2 睡眠時CPAP使用・非使用データ比較【高地(ラサ市)にて計測】
グラフ(5)   グラフ(6)
  グラフ6
表1   表2
結果2 平地・高地でデータ比較
グラフ(7)   グラフ(8)
  グラフ6
表1   表2

結果2と3のまとめ

結果2 : CPAP装着時と非装着時の比較を行った。
結果3 : 平地との比較を行った。
CPAPが高地での呼吸管理に有効であるという結果となった。高地での負担がどの程度であったかをも推察できる。
実際被験者自身は『よく生きて帰ったものだ。』と感想を述べている。平地ではまず考えられない身体的負担のあったことが、うかがえる。
その現実を測定値として目の当たりにできたことは、大変興味深い。

チベット鉄道のコンパートメント内で
※画像をクリックすると
拡大写真がご覧いただけます。

おわりに

 本演題では、青蔵鉄道内での呼吸状態の経時的変化を追った。高山病の諸症状がある場合、覚醒時は自ら深呼吸や酸素吸入などの処置を行うことが可能である。それに対し睡眠時は意識的に呼吸を維持するのが困難となる。 
CO2の測定値がないため断言はできないが、低酸素状態による負荷のため覚醒が繰返され、不眠に繋がったものと想像される。データと症状を合わせてみると、高地環境による身体的負担がどの程度であったかを推察できるように思われる。しかしながら、機器の不具合や台数の限界などから、データ数が乏しいことが惜しまれる。
この実体験は、睡眠治療に携わる我々が、病態を理解する上で大変貴重で有意義な機会であったと考える。今後とも、高地環境による低酸素が身体に与える影響について、CO2測定も含め実測を重ねることにより検証していきたい。


被験者手記より抜粋(青蔵鉄道内)

2010年9月21日
睡眠に入るとすぐにSpO260%を切る。まどろむと身の置き場の無い倦怠感で覚醒。急いで深呼吸し続けると楽になり90%台へ回復する。つらい一夜。酸素ボンベ準備。

2010年9月22日
午前9時 : 列車内に酸素が出てきたのだろう。呼吸が楽だ。食欲がないため朝食はパス。
正午 : 昼食。あまり食欲はない。
午後10時30分 : 青蔵鉄道。チベット・ラサ駅到着。ホームから迎えのバスまで歩行。ヨガ呼吸しながらゆっくり歩きでも脱力感が強くなり休み休みに。


神々しいチベットの山
チベット鉄道のコンパートメント内で
ゴルムド駅の朝
チベット鉄道のコンパートメント内で
車窓より
※画像をクリックすると拡大写真がご覧いただけます。
関連リンク: 索引:チベット
  索引:睡眠時無呼吸症候群(SAS)

←前ページ    次ページ→
No.189
トップページへ 前ページへ