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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集
 
第40回平衡機能検査技術者講習会を受講して


看護課 橋 邦子
この度、本年7月20日(火)〜24日(土)にかけて開催された、日本めまい平衡医学会主催の講習会に参加し、めまいについて勉強して参りました。その内容を踏まえて、当院で行っているめまい検査について、ご紹介させて頂きます。

概要

1.平衡機能に関わる解剖と生理
 ・耳の中の構造と機能について

2. 平衡機能検査
 ・めまい検査の種類と検査方法

3. 主なめまい疾患
  ・めまいの自覚症状の違いと原因

1.平衡機能に関わる解剖と生理

 体のバランスは、耳の奥の内耳というところにある前庭系と視覚、体性感覚の3つで調整されています。それらの情報が脳へ伝わり筋肉を動かします。この中でもっとも優先されるのは目からの情報(視覚)です。
  しかし、耳鼻科的に重要なのは前庭系(内耳)です。

耳の中の構造


図1 大きく3つに分けられる耳の構造
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 耳は外耳、中耳、内耳で構成されています。(図1)その中の内耳は、きこえの器官(蝸牛)とバランスの器官(前庭)からなっています。さらにバランスの器官である前庭はさらに三半規管と耳石器にわかれます。
これらの器官はリンパ液という液体で満たされており、その流れを感じることによって体のバランスをとることができます。三半規管は前・後・外側の3つからなり、その中には毛の生えた細胞(有毛細胞)が並んでいます。この細胞の感覚毛はクプラというゼラチン状の物質で繋がっています。頭が回転すると体内の三半規管も回転しますが、内部のリンパ液は慣性の法則によって取り残されるため、三半規管の内部で流れが起こります。このリンパ液の流れでクプラも動きその信号が脳へ伝わることで体の回転を感じることができます(図2・3)。

図2の1 三半規管の位置


図2の2 三半規管の内部構造

図3 講師の先生の内耳をかたどった模型
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図4 耳石器
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 耳石器(図4)は、主に水平感覚を感じる卵形嚢(らんけいのう)と主に垂直感覚を感じる球形嚢(きゅうけいのう)から構成されています。
体を何回もグルグル回した時にめまいが起きるのは、三半規管が刺激されたためです。また、エレベーターなどで上がったり下がったりする感覚を感じ取るのは耳石器です。
このような複雑な情報をコントロールすることによって、ヒトは姿勢を維持することができています。

 それでは次に、検査の方法についてご紹介いたします。

2.平衡機能検査

 平衡機能の検査には眼運動系・体平衡系・前庭誘発筋電位の種類があります。眼運動系検査は、目の動きをとらえてめまいの程度を調べます。体平衡系検査は、体のバランスに偏りがないかを調べます。

図5 めまい検査の実施風景
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眼運動検査(図5)

 目の特徴的な動き(以下、眼振)を観察することにより耳からくるめまいか脳からくるめまいかを判定したり、めまいの程度を確認したりする検査です。

@注視眼振検査(図6)
  座った状態で上下、左右、正面といろいろな方向をみてもらい眼振の有無、性状を観察します。

A頭位眼振検査(図7)
  頭の位置をゆっくり変化させることで誘発される眼振を観察します。椅子を倒しあおむけの状態で、又は椅子に座った状態で頭の位置を変えた時に出現する眼振を観察します。

B頭位変換眼振検査(図8)
  あおむけの状態から座った状態へ、座った状態からあおむけの状態へ、いっきに頭を動かした時に誘発される眼振を観察します。


図6 眼振検査の記録法 @


図7 眼振検査の記録法 A

図8 眼振検査の記録法 B
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図9 カロリックテスト中の橋技師
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C温度眼振検査(カロリックテスト)(図9)
  三半規管の働きを調べます。
  三半規管は左右の内耳に一つずつあり、それを片方ずつ調べる検査です。
  外耳道に冷水あるいは温水を注ぎ、人工的にめまいを誘発させます。体温との温度差により耳の中の管を満たしているリンパ液に流れが生じます。そのため、検査中はベッドに横になった状態ですが、検査をうけている当の本人はグルグルとまわっているかのようなめまいを感じるのです。めまいがすると、とても不安になる方もいらっしゃいますがこれは異常な反応ではありません。
  三半規管に問題のない場合、めまいが2〜3分ほど続きます。反応がしっかりとでているかどうか、また左右の反応に大きな差がないかどうかを検査します。何らかの理由で三半規管の働きに障害がある場合、反応が弱かったり出なかったりすることがあります。この検査はめまいの状態を知る上でとても大切な検査のひとつですが、検査をうける方の負担が大きい検査でもあるため注意が必要です。


図10 目の前の景色(指標)を、次々に眼で追います

図11 針の動きを眼で追い続けます
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D視運動性眼振検査(OKN)(図10)
  走る車の窓から外の景色をみている時を思い浮かべて下さい。
  視運動性眼振は、目の前を連続的に通過していく物をみるときに、動く物を追跡するゆっくりとした眼の動きと、次の物を捉えようとする速い反対側への動きが、交互に繰り返して起こる正常な反応です。脳からくるめまいの場合、うまく追うことができなくなります。

E追跡眼球運動検査(ETT)(図11)
  目の前を水平にゆっくりと移動する対象を目で追いかける検査です。
  メトロノームなどがよく用いられます。
  正常の場合や耳からくるめまいの場合は滑らかに追いかけることができますが、脳からくるめまいの場合はうまく追うことができません。

F視運動性後眼振検査(OKAN)
  Dの視運動性眼振検査を行い、その直後に目の前を真っ暗にし、その際に自然にでる目の動きを観察する検査です。

〜検査を受けられる方へ〜

 D〜Fは、検査を受ける方のご理解とご協力をいただいた上ですすめる必要があります。健常者の場合でも、検査のやり方次第では異常所見となってしまうことも十分考えられます。
  指標はただボーッとみるのではなく、しっかりと注意深くみつめてもらうことが大変重要です。検査を受ける方にとって、負担のかかる検査のため注意が必要です。なるべく努力をしていただきたい検査ではありますが、検査中にどうしても具合の悪い場合は無理をせずに申し出てください。
 

体平衡検査


図12 重心の揺れを計測し、その揺れ方で判別します

図11 針の動きを眼で追い続けます
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@重心動揺検査(図12)
重心とはヒトの重さの中心です。
  重心動揺検査はこの揺れ(ゆらぎ)を測定します。検査台の上に両足をそろえて直立していただきます。目を開けた状態で1分間、目を閉じた状態で1分間、足の裏の重心の変化を検査台のセンサーで計測します。検査中は自然に立ってもらい、動いたり声を出したりは禁物です。また両腕は前や後ろで組まず、自然に体に添えます。目を閉じた場合は開けている場合に比べ、健常者でもふらつきはある程度大きくなります。耳からくるめまいの場合はその程度が激しくなります。また、脳からくるめまいの場合には目を開けている場合も閉じている場合も同程度の大きなふらつきがみられるといわれます。
  検査をする場所は、なるべく静かで明るさが均一な部屋とし、音刺激や視刺激がない条件が望ましいとされています。当院ではさらに負荷測定として、目の前の動く指標をみつめてもらう検査をし、より詳しくめまいの病態を調べています。

A遮眼書字検査(図13)
  目隠しをして文字を書いてもらい、文字の偏りからめまいの程度をみる検査です。みえている状態で書いた文字と目隠しをして書いた文字とを比べます。耳からくるめまい(末梢性)がある場合は目隠しをした文字に偏りがみられます(図13のB)。
  小脳腫瘍などの脳からくるめまい(中枢性)の場合には失調文字といって文字が崩れてしまう場合もあります(図13のC)。 
  めまいが無い場合でも、上半身に運動障害などがある場合に文字が偏ることがあります。程度によっては検査ができない場合もあります。検査を行う際には、検査をうける方の状態をよく観察してから行うことが望ましいといえます。

 体平衡検査も眼運動検査同様に、検査を受ける方のご協力がなくてはうまくいきません。正確なデータを得るためにも検査内容や、目的をよく説明して進めることが重要です。また、転倒などの事故を防ぐために十分な環境づくりや気配り、心配りが大事です。

3.主なめまい疾患


図14 講習会後の懇談会
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 めまいと一口で言ってもその性質は、グルグル回る(回転性)、ユラユラする(動揺性)、フワフワする(浮動性)、目の前が暗くなる(眼前暗黒感)など様々です。

@内耳性めまい疾患

耳からくるめまい(末梢性めまい)。
(1)良性発作性頭位めまい症(BPPV)
  BPPVは、患者数が一番多いめまいでもあります。難聴や耳鳴りは伴わないのが特徴です。
  症状として、寝返りを打ったり、かがんで落ちている物を拾おうとしたりするときに起こりやすく、天井がグルグル回るようなめまいに襲われます。中には立っていられないほどの発作が起こる人もいます。
  何らかの原因ではがれた組織が三半規管の中に詰まり、平衡感覚を狂わせてしまいます。 はがれた組織は一般に耳石というものが多く、はがれる原因として内耳への振動や加齢的変化などが考えられます。

  頭を動かした時の影響ではがれた耳石が揺れるため、それによってグルグルまわるめまいが引き起こされるのです。 実際にグルグルまわるのは30秒ほどですが、発作があまりにも強烈なため吐き気やめまい感が数時間残ることがあります。
  当院ではBPPVの最新治療であるエプリー法を実施しています。エプリー法は、優しく頭や体を動かすことによって、半規管につまっている耳石を別の場所に移動させ、めまいを治す方法です。 エプリー法はBPPVによって起こるめまいの90%に有効と言われています。
薬や点滴を行うと、負担が少なくて済みます。通院中の幾名もの患者様にめまいの改善を実感いただいています(3443通信No. 183を参照)。

(2)前庭神経炎
 ウィルス感染や血管障害が原因とされています。グルグルと回る強いめまいが起こりますが、難聴や耳鳴りといった症状は基本的にありません。前庭に炎症があるために起こるめまいで、風邪がきっかけとなる場合もあります。

(3)メニエール病
 めまい症状に加え、難聴や耳鳴りを伴うのが特徴です。主に吐き気を伴う強いめまい感があります。ストレスや疲れなどが原因とされていますが、はっきりとしていません。内耳の水膨れ(浮腫)によってめまい症状や難聴、耳閉感、耳鳴りが起こると言われています。何度も繰り返すのが特徴です。

(4)その他
● 中耳炎によるめまい
● 外リンパ瘻
● 側頭骨骨折によるめまい
● 中毒性前庭障害(薬によるめまい)

A中枢性めまい

  中枢性めまいは脳の障害によっておこるめまいです。発作そのものがそれほど激しくないにも関わらず、命に関わる場合があるため油断できないめまいと言えます。
  めまい以外に、難聴や耳鳴り、耳閉感が伴う場合があります。急な聴力の低下や変動を繰り返す聴力像を示す場合があります。
  当院でも幾つかの症例を経験していますが、中でも聴神経腫瘍などの腫瘍性病変はMRIなどの画像診断で明らかになるケースがあり、脳からのめまいが疑われる場合には画像検査をおすすめすることがあります。

  中枢性のめまいには以下のような疾患があります。

● 先天性奇形
● 炎症(ウィルス感染による疾患。急性小脳炎、脳幹炎など。)
● 血管障害(椎骨脳底動脈の循環不全)
● 変性疾患(脊髄小脳変性症)
● 腫瘍性病変(聴神経腫瘍など)
● 外傷(頭部外傷後遺症)
● 先天性眼振

おわりに


図15 誕生祝いの合格証明書?
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 最終日、終了試験があり無事合格しました。ちょうど試験日が自分の誕生日で、「合格というお祝いが欲しいです。」と解答用紙にメッセージを書いた故の合格かもしれませんが……。

 24名の参加者のうち20名が自分と同じ臨床検査技師、看護師1名、ST(言語聴覚士)が3名でした。日頃検査している上での悩みや疑問など講義では聞けない事が色々と出て来て、参考になりました。当クリニックは、院長がめまいの専門医ということで、遠方からも院長を頼って来院します。めまいの感じ方も症状も人それぞれです。実際にめまいが起きているときは、とても気持ち悪いものだと皆、訴えます。その人達の苦痛が少しでも和らぐ様に、そのお手伝いが出来ればと思います。この講習会で学んだことが活かせるよう心がけていきます。


めまいの症状をマンガで分かり易く解説!

 院長の医学コミックE『さつきさんの憂鬱』もご覧下さい。

 同じものが下記のリンクからご覧いただけます。
 『さつきさんの憂鬱』はこちら


関連リンク: 索引 めまい

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No.191
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