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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

キーワード:難聴児・教育・田中美郷先生



 ノーサイドクリニックは、当クリニック三好院長をご指導頂いた田中美郷先生が、ご自身の40年間にわたる聴覚障害児をはじめとするさまざまなコミュニケーション障害児の検査・診断・治療に携わってきた臨床経験と研究成果を社会に還元すべく設立された施設です。
  ここでは、研究及び治療教育と、医療機関との連携による診断が、なされています。

  三日間という短い期間でしたが、高橋が見学・研修させていただきました。

  その報告として、今回は、ノーサイドクリニックのホームページをも引用させて頂き、クリニックをご紹介したいと思います。 ノーサイドクリニックは、世田谷区の閑静な住宅街に佇むかわいい顔をした二階建ての民家です。小田急線、世田谷線の各駅から徒歩三分という立地条件も、抜群の施設です。

設立の背景

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★  わが国の聴覚障害者数(厚生省の統計による) 大人が35万人、子供が1万6千400人です。身体障害者手帳を交付されない聴覚障害者を含めると、その数は倍増すると考えられます。

 近年、日本においては少子化が問題となっていますが、医療の進歩により、ハイリスクベビーと呼ばれる、未熟児、胎内感染児などの死亡率が低下し、それ自体は大変喜ばしいことですが、このハイリスクベビー中には聴覚障害、または聴覚障害を持つ重複障害の お子さんが多くおり、その結果、障害児の割合が増加しております。

★  聴覚障害の問題は二次障害

 聴覚障害は、単に「聞こえない」という障害そのものだけではなく、言語の獲得期に聴覚障害があると言語獲得に遅れが生じるという、二次障害が大変深刻な問題です。
言語は、コミュニケーションの手段であると同時に、思考の手段でもあります。聴覚障害があるために思考の手段を持てないというのは、人間としての尊厳を侵されているに等しい状態です。

★  聴覚障害は早期の発見、速やかな教育の開始が望ましい

 聴覚障害児は、生まれてから数ヶ月、人によっては数年間、その障害に気付かれないまま成長する場合があります。聞こえない時間が長ければ長いほど、言葉の発達の遅れが大きくなります。しかも、言葉の獲得には臨界期があり、ある時期までに言葉の刺激をまったく受けなければ、生涯、言語を獲得出来なくなってしまうこともあり得ます。聴覚障害をできる限り早期に発見し、速やかに教育を開始することは、聴覚障害のお子さんたちのために、最も大切なことです

★  聴覚障害の発見

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 現在、保健所などでは、3ヶ月〜10ヶ月児検診で聴覚検診が行われており、「中?高度難聴のチェックをする」ことになっています。また、厚生省は、3歳児健診のときの聴覚検査を法定化しています。しかし、聴覚障害の発見は80dB以上の高度聴覚障害児で平均1歳台、中・軽度聴覚障害児では平均3歳以後に発見されるのが現状です。中・軽度聴害児の中には、就学児健診で初めて発見される場合すらあります。聴力レベルが40dBの軽度聴覚障害であっても言語発達に遅れをきたすというのは、いまや専門家の間では常識です。中・軽度聴覚障害の発見年齢が遅くなると、聴覚障害の お子さんたちには重大な言語障害となることがあります。また、病院や保健所で聴覚障害が発見されたとしても、ご両親に聴覚障害児教育についての適切なアドバイスがなされなければ、結果として大きな言語力の遅れの生じてしまうこともあります。

★  ろう学校(聴覚障害児の教育機関として文部省が定めている)と難聴学級の問題点

 現在の日本の聴覚障害児教育のシステムにも問題があります。文部省が聴覚障害児の教育機関として定めるろう学校は、基本的に三歳で教育を開始します。「教育相談」という名目で0歳児からの教育を行っているろう学校も増えてきましたが、多くは、1週間に1度程度の お母さんのカウンセリングを中心とした内容にとどまっており、お子さんの言語獲得に最も大切な「0歳から3歳」の教育が不十分であることは否めません。

 ろう学校や難聴学級では、専門の免許を取得している教諭の不足から、一般教諭を採用せざるを得ない状況です。聴覚について知識のない一般教諭が、軽度聴覚障害児や重複障害児など、多様化するお子さんたちに対し、十分な教育が行えるものかどうか、また聴覚障害児に不可欠な補聴器についての専門的な知識があるのかどうか、心もとなく感じられます。いずれにしても、聴覚障害児教育は昔に比べて随分充実したとはいえ、まだ十分なかたちで全国の聴覚障害児が満足な言語教育を受け得る環境にあるとはいえません。 

 このように、医療機器の発展に伴い早期に難聴が発見出来るようになったのにも関わらず、その後のフォローアップ体制の遅れにより、結果的に日本の聴覚障害児の対応システム構築が遅れている現状があります。聴覚障害の場合、早期の言語習得とその後の訓練により、社会に出て貢献できるだけの人材育成が十分に可能です。

 例えば、近年ABRという検査が確立されてきています。ABR検査とは、脳波で聴力を検査する方法で、睡眠時での検査も可能なため出生時にこのABR検査を実施している施設が増えています。 

 しかし、確立されてきている検査とは言え、擬陽性(明らかに難聴と診断できない)に出る場合もあり、出産後の心身共に不安定なお母さんが、「お子さんは聴力障害の可能性があります。」とABRの結果により宣告された後の支えになるシステムもまだ十分ではありません。このため宣告後に、成長のための次の一歩を踏み出すきっかけをつかむことが出来ず、多くの不安なままの聴力障害児親子をフリーズさせてしまう危険があります。

 そのような背景のなか、必要なのはお母さんと家庭を支える社会的な共感のインフラストラクチャー(公共の福祉のための施設)ではあるまいか。その考えに基づき、日本で唯一の「聴覚障害児のホームトレーニング」を確立しておられた田中先生をお迎えして、新しい教育機関の発足に至った、それがこのクリニックです。

ノーサイドクリニックの事業内容

(1)聴覚障害児のための総合的なサービス
(2)聴覚障害児をフォローする立場の専門職への指導
(3)聴覚障害児の早期発見・早期教育の研究、医療機器の開発・普及、社会的啓蒙
(4)すべての乳幼児・児童の健全な成長のための啓蒙

 @「お産」という大仕事を終え、それを機に環境が大きく変化する、Aそれだけでも不安になっているお母さんをまず安心させ、勇気づけるとともに、愛情を持って育児に励むことが出来るようにするBたとえ、障害を持っているとしても将来に希望が持てるように、取り巻く環境がよりよいものになるように支援と指導を行う、それが事業内容です。その方針は聴覚正常な子どもたちに対しても同じです。

ノーサイドクリニックのプログラム

 聴覚障害児のための、総合的なサービスとしてのプログラムを、紹介します。

 まず、お子さんが難聴と診断された直後のご両親に対して、子育てに必要となる聞こえや言葉の医学的知識、そしてお子さんへの接し方などの技術を指導します。 また、ご両親が落ち着いて子育てに取り組めるように精神的な援助も行います。親が精神的に充足していなければ、障害児は精神的に安定しにくいものです。それぞれのお子さんに合ったプログラムを組み立て、障害児本人だけではなく、両親に対するのと同様ご兄弟などのフォローも行っています。更に地方の方やご自宅を離れることの難しい方には、電話やインターネットを使った遠隔教育プログラム、インターネット会員も用意しています。

 「ユー・アー・ノット・アローン」の考え方を徹底させるのです。

★  ファーストカウンセリング

 まず基本的にファーストカウンセリングを受けます。ご両親からお子さんの生まれた時の様子や現在の状態、ご家庭の様子などを伺い、補聴器の選択やホームトレーニング終了後の教育などについて話し合います。

★  ホームトレーニング

 田中美郷先生が開発・確立された難聴乳幼児及びご両親のための診断・治療プログラムを聞き育児記録への個別アドバイスを受けます。このプログラムは、9回のテーマに別れていて、難聴児を育ててきた先輩ママさんなども同席し、ともすれば孤独感に陥りがちな難聴児親子が、気軽に質問や相談が出来る雰囲気作りを大事にしています。

★  補聴器外来

 補聴器を選択するにあたって、お子さんの聴力についての正しい知識を持ってもらうため、ご両親に聞こえ方の結果(聴力検査)を渡し、指導を行っています。たとえば、転居や病院を変えても自分で聴力の動きが分かるように指導します。
  「聴力測定」は、ホームトレーニングの期間中に数回実施します。大人ほど完全な検査結果が得られるわけではないので、その聴力測定の結果に併せて日常の言葉や音への反応で補聴器を選択し、調整(フィッテング)を行います。また、ホームトレーニング終了後も、お子さんの年齢や聴力、体調に合わせ、補聴器も変えていかなければなりません。そのため「聴力の管理」と「補聴器のフィッテング」はとても大事なことです。お子さんの様子を観察しながら、随時行っています。

★  個人レッスン

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 ホームトレーニング終了後、お子さん一名に対し、言語療法士(ST)さん一名のマンツーマンでレッスンを行います。特別な場合を除いてはお母さんが同席し、指導の様子を見ます。60分を基本とし、その時間内には、お母さんへの指導も含まれます。家庭での学習を重視し、「宿題ノート」を作成し、前回クリア出来なかった内容を赤ペンで書き込んでいき、次回までの宿題とし、繰り返し学習していきます。お子さん一人ひとりの発達に合わせ、次の課題も出されます。難聴児だけでなく子どもの成長は安定した親子関係の中でなされねばなりません。このためご両親への指導もとても重要になります。家庭での学習もご両親とともに行うようご両親や兄弟が一緒に来られるように、土日祝日も行っています。レッスン回数は、周に1回が最も多いそうですが、週2回以上通ってくる子もいるそうです。その子の生活環境や、発達に合わせ予定を組んでいきますが、原則として2週間以上は間を空けないようにしています。

@ 言語発達遅延児・難聴児の言語教育

 すべての子どもは、その内容にふさわしい表現手段を身につけておかねばなりません。さまざまな理由により、人間が意思や思考、感情などを伝える手段としての言語に発達に遅れをきたしているお子様に対しては、その言語力を伸ばすための指導が必要です。
 それぞれの子供のレベルにあった表現力、言語力、コミュニケーション力を身につけること、できる限り早期に、その子供の本来持っている能力のレベルまで言語力を伸ばすことを目標としています。

A 発音指導

 正しい発音を獲得し、相手にわかりやすく話す力をつけるための発音を、指導します。

★  訪問指導

 言語療法士や保育士などが、ご家庭を訪問してレッスンを行います。

★  発達相談

 インターネット会員のみを対象に、月1回、田中先生の発達相談を受けることができます。その他ご家庭での指導方法に関する悩みや、補聴器に関する質問など、聴覚障害児とそのご家族に関わる全ての質問に対して田中先生がお答えします。

★  人工内耳プログラム

 人工内耳の手術をなさる方に対して、関連病院と連携をとり、不安なく人工内耳をつけ、使う事が出来るよう援助を行います。手術日2週間前から、医師、ご両親、お子さん、ノーサイドクリニックの言語聴覚士によるカンファレンスを行い、手術の危険性、手術に関する情報等の提供をします。また、手術後のリハビリテーションも行い、聞き取りの訓練やご両親に対する指導などを行います。 このような基本的な流れはありますが、それぞれのニーズに合った進め方をしております。難聴児の言語力を伸ばすためには、ご家族、特にお母さんの力が重要であると考え、お子様の言語力の発達のために、良い家庭環境を作れるようお母さんへの指導も行われます。家族の生活日課表により生活の見直しをし、お母さんの教育への意欲の阻害要因の排除、家族関係に問題がある場合は、解決できるように、できる限りの援助を行っています。お母さんの得手、不得手を考慮し、レベルに合わせた方法を提供し、伸び悩んでいる原因が推察される場合は説明します。不安の原因を明らかにし、不安を取り除くための情報を提供し、兄弟に対する接し方を指導します。
  子どもが成長するということは親が成長することでもある、それがこのクリニックの方針なのです。

おわりに

 文中で「ろう」という言葉をあえて使用しましたが、現在の日本の公的教育の場では「ろう児」という用語は使用されておりません。2007年に学校教育法が改正され、特別支援学校となりましたが、聴覚障害者のみを対象としている特別支援学校の中には、制度が発足した後も、校名を「ろう学校」「聾学校」の名称のまま維持するものも多く、他方「聴覚特別支援学校」「聴覚障害特別支援学校」という名称の学校もあります。日本のろう教育をどうするべきかという議論は、現在もなお続いていて、手話利用の拡大という方向性には多くの論者が賛同しているものの、人工内耳や聴覚口話法の評価・扱いについては立場が分かれています。「口話法」か「手話法」か、私には難しい問題ですが、どのように子どもを育てるのか決めることは、障害の有無に関係なく、とても責任のあることだと思います。そして、「聴者」も「ろう者」に近付く努力、知る努力、それらもとても大切なことだと痛感しました。

  もっと勉強しなくっちゃあ。

つづく

絵を見て物語を創る女の子 その子にあわせて個室でも
絵を見て物語を創る女の子 その子にあわせて個室でも
レッスンを行います
物の名前を絵を使って覚えます 耳型をとった耳栓の中に入れる
物の名前を絵を使って覚えます 耳型をとった耳栓の中に
入れるシールを選んでいます
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関連リンク: 用語集 索引:田中美郷先生
用語集 索引:難聴

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No.195
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