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第75回聴力検査技術者講習会レポート
 
聴力測定技術者 講習会に参加して
 

 平成23年2月21日〜25日に行われた第75回聴力測定技術者講習会に参加してきました。

 日本聴覚医学会主催で行われるこの講習会は50年の歴史があり、日本全国から検査技師や看護師が参加し、聴力に関する知識や測定技術を学びます。

 聴力測定は難聴や耳の疾患の診断・治療をするうえでとても重要です。聴力測定は、ただ音が聞こえているか聞こえていないかを測っているだけで一見簡単そうにみえますが、実は、どうして音が聞こえるのか、聴こえの仕組みを理解していないと正確な測定はできません。そのための知識と技術を学んできました。 

 参加者は約130名で沖縄から青森までから集まっていました。実習や病院見学もあり、とても有意義な研修でした。

 研修で学んできた事を紹介します。


1 耳の解剖と生理

 まず、耳の構造と聴こえの仕組みです。

図1 三つに分けられる耳の構造
 
図2 蝸牛管の構図
 
図3 音の値と、生活の中の音圧レベル
 
※画像をクリックすると拡大写真がご覧いただけます。

 耳の構造は大きく3つに分けることが出来ます(図1)。

 1つは(1)外耳と言われる部分です。これは頭に付いている、いわゆる耳と呼ばれる所とそれに続いている穴から鼓膜までの部分です。ここは音を集め鼓膜に音を伝える役目をしています。

 二つめは(2)中耳といわれる部分です。鼓膜の内側は頭の骨の中にあり空間になっています。この空間を鼓室と呼びます。鼓膜の内側には耳小骨とよばれる、小さい三つの骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)が付いていて鼓室の中に浮かんでいるような形で存在しています。三つの骨は関節でつながっていて、その末端のアブミ骨の底は内耳に収まっています。鼓室と鼻の奥の上咽頭とが耳管と呼ばれる細い管でつながっています。この管は通常閉鎖していますが、嚥下やあくびをする時に筋の力により開くようになっています。鼓室と外耳の空気圧が同じになるように調節するのが耳管の役割です。鼓室と外耳の空気の圧力が等しい時に鼓膜が最もよく振動します。

 外耳で集められた音は鼓膜を振動させ、ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨を伝わって三つめの(3)内耳に届けられます。伝えられた音を電気信号に変え神経に伝えるのが、内耳と呼ばれる部分です。内耳も頭の骨の中にあり、体のバランスをつかさどる機能と音を伝える機能を持っています。めまいと聴こえが密接に関わってくるのはそのためです。鼓室の中は空気がありますが、内耳はリンパ液で満たされていて、そのなかに前庭・耳石器・三半規管・蝸牛管と呼ばれる器官があり、かたつむり(図2)のような形をした蝸牛管が音を神経に伝えていきます。音は神経を伝わり脳に送られ認知されます。蝸牛管は複雑な構造をしていて約1万5千個の有毛細胞があり、音の高低を区別し脳に伝えていきます。伝えられた音が何を意味するのか判断するのが脳なのです。この機能がすべて正常に働いて初めて私たちは音を正確に認知し言葉を解してコミュニケーションをとり、音楽を楽しみ、不快な音や危険な音を区別し生活していくことが出来るのです。

 では、音とはいったい何でしょう。音の定義は物理学的な話になり難しいので省きますが、音源から発せられた音は空気を振動させて波のように空気を伝わります。音の高さで波の幅が違うため音の高低を周波数(1秒間に波の周期が何回あるか)で表す事ができます。単位はHz(ヘルツ)です。また音が伝わる時、空気の圧力が変化します。大気の圧力をhPa(ヘクトパスカル)で表しますが、音による圧力は気圧に比べて微小なため、dB(デシベル)という単位に変えて表されます(図3)。

 これが音の強弱になります。この音の波と圧力からの振動が外耳で集められ、鼓膜が振動し耳小骨が内耳に伝え、蝸牛管のリンパ液を振動させます。リンパ液の振動で有毛細胞を刺激することで音を電気信号に変え、神経を興奮させ脳に伝えます。これが、聴こえのしくみです。


2 難聴と聴力検査

 前述した聴こえの仕組みのどこかに障害がおきれば、聴こえは悪くなります。いわゆる難聴です。どの部分に障害があるかを診断することが、重要になってきます。

3タイプに分けられる難聴
 難聴は大きく3つの種類にわけられます。

伝音難聴

 外耳や中耳に障害がおこって起きてくるものは、音を伝える部分の難聴で、伝音難聴とよばれます。

感音難聴

 次に音を電気信号に変え、神経に伝える内耳と音を伝える神経が障害されおこる難聴は、感音難聴と呼ばれます。

混合難聴

 そして伝音難聴と感音難聴が混じっている混合難聴です。

図4 2種類の方法で計測します。
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聴力検査
 聴力検査はどのような難聴がどの程度おこっているのか判断するのに重要な役割をしています。標準純音聴力検査とよばれるものが、みなさんが耳鼻科を訪れて聴こえの検査をしますと言われた時に、まず行われる検査だと思います。

 これは7つの周波数を聞いてもらい、どの位の大きさで聞こえ始めるのかを測る検査です。この検査では通常、耳にヘッドホンをつけて音を聞いた場合(気道)と、耳の後ろの骨にマイクのようなものをつけて音を聞いた場合(骨導)の聴こえの二種類を測ります(図4)。

 骨にマイクをつけて音を聴かせるのは、外耳や中耳を通さず、骨を振動させることで内耳に直接音を伝えているのです。つまり外耳や中耳に障害あり難聴がおこり、内耳や神経が正常な場合は、(伝音難聴)骨から直接伝わる時の聴力は正常なのです。

 内耳に障害がある場合は耳から聞く場合も骨を振動させる場合も両方聞こえは悪くなります。この2種類の聴こえの違いが障害部分の判断をする最初の目安になります。そのため正確に聴力を測る必要があります。

 耳には右と左があり、右と左の聴力は分けて考えますが、聴力に左右差がある時、聞こえにくい方の検査をしているのに、聞こえている方の耳で音を聞いてしまうという現象がおきてしまうのです。そのため、左右差の大きい方の検査をする時は聞こえのよい方の耳に雑音をいれて検査をすることがあります。この雑音が大きすぎても小さすぎても正確な聴力は測れません。本来なら聞こえるはずの音が聞こえない、聞こえていないはずの音を聞いてしまうということが起きてしまい、私たちが聴力検査をするうえで注意しなければいけないところです。では人間はどの位の音を聞くことができるのでしょうか(図5)。

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 人間の聞くことのできる最小限の音の強さを聴覚域値といい標準純音聴力検査はこの域値を測定します。音をどんどん強くしていくと痛覚(痛み)などを生じるようになります。この音の強さを最大可聴値といい、120〜130dBSPLです。標準純音聴力検査で測定できるのは120dBまでになっています。大きすぎる音を聞くと耳に障害をおこしてしまうことがあるのです。人間の体はよくできていて大きな音が耳から入ったときに中耳のアブミ骨に付いている筋が反射により収縮しアブミ骨の動きを抑制できるようになっています。(アブミ骨筋反射)この反射は顔面神経を伝わっておこり、顔面神経麻痺等をおこすと反射が消失してしまう事があります。アブミ骨筋反射を測定する検査もあり、顔面神経麻痺の重傷度や内耳以降の神経障害による難聴の診断時に用いられています。

 聴力検査はご存知のように検査を受ける方に合図をしてもらいながら行います。検査の仕方の理解や本人の集中力、静かな環境が必要です。さらにお子さんや高齢の方でも検査のすすめ方が違ったりします。なるべくみなさんに負担をかけないようスムーズに検査をすすめていきたいと思います。次に音は聞こえさえすればよいのでしょうか。音が認識できてもそれが、何を意味するのか判断できなければ意味がありません。つまり正確に聞き取りが出来ているのかを調べるのが、言葉の聞き取りの検査になります。

 その人が十分聞き取れる大きさの音で言葉を聞いてもらい正確に聞き取れているか判定する検査です。この検査を語音聴力検査といいます。補聴器を作る時にとても大事になってきます。


3 その他の検査

(1)電気エネルギーを計る検査
 聴力検査は、被検者が聞こえる事を教えてくれるのを前提に行われる検査ですが、他覚的に聴力を測る検査があります。耳音響放射(音をきかせた時、蝸牛の有毛細胞が放射する電気エネルギーを検知することで聞こえを測る検査。難聴があると、この電気エネルギーが検知出来なくなる)や聴性誘発反応(音を聞かせて脳波を測ることで、音が聞こえているかを測定する検査)等で新生児のスクリーニング等で行われています。当院でも耳音響放射は乳幼児を対象によく行っています。耳栓をして音を聞かせ反応を測る検査です。短時間で終了し痛くもないのですが、泣いていると反射をとらえられないので、測定できないという問題があります。

(2)ティンパノメトリー 
 次に鼓膜の動きを調べる検査があります。これは鼓膜に圧力を加えその可動性を測ることで、鼓膜と中耳の機能をみています。中耳に水が溜まっていたり(滲出性中耳炎)耳管の機能が悪く、中耳と外耳の気圧が調節できていなかったりすると鼓膜の動きが悪くなります。また耳小骨に障害があっても鼓膜の動きに異常がでてきます。

 以上、当院でもよく行っている(聴性誘発反応・アブミ骨筋反射以外)検査について主に紹介しましたが、この他にもいろいろな検査があり、それらの検査を組み合わせて難聴や耳の疾患の診断がされています。

 〈見学実習〉
 研修3日目。お互いに検査して実習を行い、4日目に病院での見学実習があり、私は東京医療センターへいきました。

 東京医療センターの加我君孝先生より、新生児聴覚スクリーニングについてお話があり、言葉の発達やコミュニケーション能力の獲得に聴覚は深くかかわっているとのお話を伺いました。

 特に、難聴がある場合は生後6ヶ月までに、補聴器を装用して音を聞かせる教育をはじめることが重要だということです。また言語聴覚士(ST)の方に補聴器・人工内耳について説明をうけました。

 人工内耳は内耳の蝸牛に音を感知するセンサーを埋め込むというものです。補聴器にしても人工内耳にしても通常の正常な状態で聞こえる音とは違うので音に慣れることが必要になってくるそうです。接する我々は、声をかける時にただ声を大きくし耳元で話かけるより、声の大きさは普通にして、正面からゆっくり・はっきりと話すことが大切とのことでした。NHKのアナウンサーのニュースの話し方が一番聞き取りやすいそうです。また、言葉の聞き取りは話している人の口元をみると言葉が理解しやすくなります。口元が見える位置で話をするとよいとのことでした。医療従事者が話す時、可能ならマスク等をはずして話すと良い、とのことでした。

4 選別聴力検査

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 最終日は選別聴力検査について学びました。選別聴力検査というと何のこと? なりますが、いわゆる検診です。学校検診・職場検診のことでどのレベルで異常になるかということと社会保障(障害福祉や労災保険)の話でした。講習を通して時々、機能性難聴が取り上げられていました。機能性難聴は耳の疾患がなく、本人の自覚症状がないのに標準純音聴力検査で異常値がでてしまうもの(学校検診難聴等)や本人が難聴を自覚し聴力検査も難聴を示すけれど耳に異常はなく検査結果と実際のコミュニケーション能力に差がみられる場合(心因性難聴)です。いずれももう少しくわしい聴力検査をして診断するようになるのですが、たいてい経過観察で改善するそうです。ストレスの多い社会になったせいかこういった難聴も最近増えているようです。

 最終日 東京は春一番が吹き、とても暖かくなりました。テスト終了後、無事に合格証書をいただくことが出来ました(右上図)。

もっと知りたい人は、院長の著書や医学コミックをご覧ください。

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関連リンク: 索引 聴力検査

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No.196
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