3443通信 オンライン  
みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

 
2011年5月19日(木)、国立京都国際会館(表紙)において第112回日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会が開催され、院長が学会発表を行いました。
第112回日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会(2011年5月19日、国立京都国際会館)
チベット鉄道における低酸素と中枢性無呼吸
青蔵鉄道(せいぞうてつどう)
『青蔵鉄道』は中国青海省とチベットを結ぶ長距離鉄道で、走行距離約2,000km、乗車時間25時間、最高地点は標高5,072m。加圧システムにより気圧は平地の8割程度に保たれる。また、供給口から酸素を吸入することが可能である。
三 好   彰
(三好耳鼻咽喉科クリニック)
新 井 寧 子
(東京女子医科大学東医療センター耳鼻咽喉科)
宮 崎 総一郎
(滋賀医科大学睡眠学講座)
中 山 明 峰
(名古屋市立大学睡眠医療センター)
稲 川 俊太郎
(愛知医科大学医学部耳鼻咽喉科)
工 藤 智 香
 (三好耳鼻咽喉科クリニック)

1.はじめに

(1)  高地における低酸素は、重篤な高所障害(高山病)の原因となる。
(2)  一方、中枢性睡眠時無呼吸は呼吸中枢の障害によって生じるが、酸素濃度が平地の1/2ないし2/3という5,000m級の高地においては、健常者であってもO2(酸素)確保のための過呼吸によるPCO2(血液中の二酸化炭素濃度)低下から呼吸中枢が抑制され、中枢性無呼吸をきたす(3443通信No.156「チベットにおける低酸素状態の体験」参照)。
(3)  2001年以来ほぼ毎年我々はチベットへ調査に赴いているが、2009年9月、世界最高の標高を走る『青蔵鉄道』に乗車し、車内で呼吸状態の経時的変化を追う機会を得た。
(4)  参加者のうち1名について、列車内およびチベット・ラサ市滞在中に詳細を計測した。加えて、本例の中枢性無呼吸に対し、CPAP装着を試みた。

2.対象・方法

調査地:(1) 西安市(陝西省)、標高405m、気圧1013hPa、2009年9月20日
    (2) 西寧市(青海省)、標高2,290m、気圧785hPa、同21日
    (3) 青蔵鉄道(西寧市からラサ市)、気圧600hPa前後、同21〜22日
    (4) ラサ市(チベット)、標高3,650m、気圧657hPa、同22〜26日
対 象 : 65歳女性(チベット調査初回参加)
方 法 : 動脈血酸素飽和度(SpO2)・脈拍(Pulse)の計測 (KONICA MINOLTA Pulsox)

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3.中枢性無呼吸が起こるメカニズム

中枢性無呼吸がおこる原因として、次の条件が考えられる(図1)。

(1) 高地などにおいて気圧の低下が起こると、それに伴いSpO2が低下する。その後低酸素血症となり、呼吸中枢の刺激により、過呼吸があらわれる。
  [図1]
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(2) 過呼吸が起こるとPCO2が低下し、呼吸中枢が抑制され中枢性睡眠時無呼吸が起こり、過呼吸と無呼吸が交互に起こる周期性呼吸となる。
(3) そして純酸素供給はこの場合、PCO2低下を改善させ得ず、むしろ呼吸中枢抑制を促進、中枢性睡眠時無呼吸は悪化する。
(4) では、CPAPは?  

4.平地と高地でのデータ比較

[図2] [図3]
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 図2と図3は、平地(405m)と高地(ラサ市3,650m)でのCPAP非使用時の睡眠中のSpO2とPulseの測定値である。

それぞれの平均値は平地(図2)においてSpO2平均値が94.3%であるのに対し、高地(図3)ではSpO2平均値は58.1%にまで低下。SpO2とPulse の値が逆転している。更に高地ではSpO2の最小値が35.2%を記録している。低酸素環境は努力呼吸の不可能な睡眠時に、より重大な負荷となることが判る。


5.青蔵鉄道の路線図と環境

 図4は、我々が乗車した青蔵鉄道の路線図である。西寧駅を出発し、標高5,000mを越え、25時間かけてラサ駅へ移動する。それぞれの写真は、乗車中に通過した各地点の光景である。

[図4]

[図5]
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6.青蔵鉄道内経時的データ

 これは、乗車中の鉄道内での経時的なSpO2及びPulseの変化をまとめた表である。平地における正常なグラフに比べ、区間(1)〜区間(4)までの間で標高が高くなるにつれ、PulseのラインとSpO2のラインの数値が逆転し、極端な低下が見てとれる。特に睡眠時((2))は覚醒時((1)(3)(4))と異なり、意識しての呼吸調整ができないためSpO2の低下が著しく、※の時点では38%にまで低下している事実がみてとれる(図5)。


7.睡眠時CPAP使用・非使用時データ比較
【ラサ市(標高3,650m)にて計測】

[図6] [図7]
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 項目3・4にて示したように、低酸素環境における中枢性睡眠時無呼吸に対して、純酸素供給は無効である。そこで我々は、これに対しCPAP装着を試みた。

 チベット自治区ラサ市において、睡眠時のCPAP使用時・非使用時のデータを比較した。

 まずCPAP非使用時(図6)の場合、SpO2平均値58.1%であるが、CPAP使用時(図7)ではSpO2 79.7%と、CPAPを使用することで数値に改善が見られた。


8.まとめ

(1)青蔵鉄道の出発地である青海省西寧市は標高2,000mを超える高地にある。21日21:30頃西寧市にて、青蔵鉄道に乗車した。25時間にわたり、一部標高5,000mを超える乗車中、一昼夜を通しての被検者のSpO2最低値38.0%、最高値96.0%、平均値76.3%となった。

(2)加えて被験者の睡眠時の呼吸状態について、平地(西安市)と高地(ラサ市)との比較を行い、中枢性睡眠時無呼吸など高地での呼吸管理法としてCPAPを試用した。
  この結果、純酸素投与よりもCPAPが、高地での呼吸管理に有効であることが示唆された。

(3)とはいえこれは初めてのトライアルであり、以後の更なる調査報告が必要であろう。2010年度以降のデータについても、我々は順次報告して行く予定である。


関連リンク: 索引 チベット
  索引 睡眠時無呼吸症候群
  索引 学会発表

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No.196
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