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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

 


 いまでこそ、スギ花粉症はくしゃみ・鼻水・鼻づまり症状の代表格として、「国民病」扱いされていますが、第二次大戦前はスギ花粉症という存在は知られていませんでした。

 それは1950年代、戦後の復興事業として、山の木々を伐採しつくし、一面ハゲ山となってしまった山々に大雨が降ったことから、大変な水害を招いたのをきっかけとして、スギ・ヒノキを植えたことに端を発します。

 成長の早いスギ・ヒノキは、荒れ果てたハゲ山に豊かな緑をもたらしました。

 しかし時は流れ、スギ・ヒノキが樹齢30年を迎え花粉を飛散させる1980年頃になると、くしゃみ・鼻水・鼻づまりを起こす人が急増しました。

 これが、のちに猛威をふるう悪名高き国民病、スギ花粉症の社会問題化のスタートでした。

 当初、スギ花粉症の増加には「大気汚染説」や「寄生虫説」など、諸説入り乱れた話が蔓延していました(図1)

図1
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 そこで我々は、スギ花粉症の増加が、原因物質であるスギ花粉の増加によるものとの仮説を立て、1989年以来22年間におよぶアレルギー疫学調査を世界各地で行い、データを収集してきました。


アレルギーのメカニズム
 現在、スギ花粉症はスギ花粉の飛散が原因だと、当たり前のように知られていますが、まだスギ花粉症が良く知られていなかった時代、それを証明するにはいくつもの壁がありました。

 誰でも当たり前だと思うことでも、学問では科学的に立証できなければただの机上の空論です。


(1)アレルギーの原因

図2
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 まず、アレルギーを起こす原因は何か、そして、何故アレルギー反応が起きるのかを調べました。

 我々は、日本・中国・ブラジルなどで約2万例の被験者を対象に、スギなどのアレルギーエキスを用いたアレルギー疫学調査を行いました(図2)。 

 その結果、アレルギー反応とは、スギ花粉など原因物質が体内に入り、それを排除しようとする防衛機能が、過剰に働いている状態である事が再確認できました。

 これを、抗原(原因物質)に対する抗体(防衛機能)の反応すなわち、「抗原抗体反応」と言います。


図3
図4
図5
図6
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(2)原因物質を確認する
 次に、違う角度から考えてみます。

 アレルギー反応があるということは、その近くに原因となる物質が存在する必要があります。

 図3のように、日本と中国の各都市のアレルギー検査の結果によると、スギが生えていないと言われていた北海道白老町で、わずかにスギエキスに陽性反応をおこす人が確認できます。

 ここは、スギの人工樹林が確認できましたので、周辺に住んでいる人の陽性反応だと考えられます。

 それでは、海を隔てた中国にも陽性反応があるのは何故でしょうか?

大陸渡りのスギ・ヒノキ?
 もともと、日本スギと言われているように、スギは日本固有の植物だと思われていました。ところが、スギが地上に出現した200万年前(第三紀鮮新世)には日本とアジア大陸は陸続きとなっており、スギは連続して生えていたと考えられます(図4・図5)

 その証拠として、我々が中国の天目山のスギと日本の屋久スギをDNA鑑定したところ、遺伝子同一度が97%という結果が得られました。両者は兄弟なのです。

 しかも、日本のスギエキスに陽性反応を示した中国人と、中国のスギ花粉に反応する日本人も発見されました。両国の人々は、国は異なっていても同じ原因物質に反応したということになります。

 では、標高3,000m以上のチベット・ラサ市の陽性者はどうでしょうか。図6のように植物のほとんど確認できない高地で、果たしてスギは生えているのでしょうか。


樹齢2600年の大ヒノキ
 図7は、2004年アレルギー調査の際、チベット自治区東部にある林芝(リンチー)で撮影した樹齢2600年のヒノキです。

 林芝は、中国でも有数の材木産出地といわれており、スギ・ヒノキの樹海が見渡す限り広がっています。

 ヒノキ花粉は、スギ花粉と同じ性質をもつため、スギ花粉症の人はヒノキ花粉でもアレルギー発作をおこします。

 しかし、ラサ市との距離は約400キロもあり、その間には標高5,000m級の山脈があることから、ここから花粉が飛んでいったとは考えられません。

 そこで、ラサ市内の人民医院の屋上で、2005年1月1日から12月31日までの1年間、毎日の空中花粉調査を行ったところ、スギ・ヒノキ花粉の飛散が確認されました。

 図8の航空写真は、帰りの飛行機の中で偶然撮影したラサ市の全景ですが、写真及び左地図の「(1)ノルブリンカ」と表示されているところだけ、木々の生い茂っている様子がみてとれます。

 ここは、ダライ・ラマの夏の離宮ノルブリンカで、敷地内には世界中の植物を集めた植物園などがあり、そこに植えられたヒノキが花粉の飛散源だとわかりました(図9)

 この発見には面白いエピソードがあります。

 実は、この時に宿泊していたホテルがノルブリンカの真横にあったのですが、まさかヒノキが生えているとは思ってもおらず、団員の誰もがヒノキの存在に気がつかず、後から検証したときに初めてわかったのです。

 これで、スギ花粉症は、原因である、スギ花粉が存在するからであり、スギ花粉症の存在はスギ花粉の実在を示唆することがわかりました。


図7
図8
図9
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図10
図11
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時間をさかのぼる調査
 我々が、遠くチベットまで足を運んでいるのは、ただ単にスギ・ヒノキの有無を調べるためではありません。

 チベットでは、少なからずアレルギーの陽性反応を示す人がいますが、全体の数からするとごく少数です。

 とくに、以前行った調査ではアトピー性皮膚炎が一人も確認できませんでした。

 これは、戦前の日本に酷似した状況で、おそらく食生活など環境の変化が影響しているのではないかと想像されます。

 日本では、戦後に花粉症などアレルギーが増えてきた経緯から、チベットでも今後増加していくのではないかと想像されます。

 つまり、アレルギーが蔓延していない戦前の日本から現代に至るまで、時をさかのぼって目の前で変化を確認できるに等しいのです。

 その変化の仕方を確認できれば、アレルギーという疾患の増加した原因を究明できるのではないか、と期待しています。

 ちなみに余談ですが、毎年、花粉飛散情報を発信されている東邦大学の佐橋紀男先生よりアドバイスをいただきました。それによると、現在スギのDNA解析によりスギ科はヒノキ科に統合され、スギ属に属するとなっているそうです。つまり……スギ・ヒノキは同じ植物だったということです。

 2010年には、以前訪れた林芝の樹齢2600年の大ヒノキを再確認してきました(図10・図11)

 道中、標高5,013mのミラ峠や世界15位の高峰・ナムチャバルワ峰(標高7,782m)を望み、その雄大な自然の迫力に圧倒されました。

 なお、2011年9月には、チベット自治区の北にあるウイグル自治区を訪れていますので、そちらの体験レポートもご期待ください。


関連リンク: 索引:花粉症
  索引:スギ花粉症

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No.201
 
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