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第76回聴力測定技術講習会レポート 看護課 今井 尚子

 2月13日~2月17日の5日間、第76回聴力測定技術講習会に参加させていただきました。
 これは日本聴覚医学会によって毎年開催されていて、今年は全国から約113名が参加しての講習会となりました。
 今冬は東京も例年より寒めということでしたが、雪のちらつく仙台から出かけた私にとっては暖かく、一足早く春を感じました。
 講習内容は、各病院の先生方による講義と実習、病院見学で参加した方々との交流もあり、充実した5日間となりました。

はじめに

 人の感覚には聴覚、視覚、味覚、嗅覚、皮膚感覚の5つがあります。その中で音の感覚が聴覚です。外からの音が耳に入り脳に伝わることによって音を感じるのです。その過程で何らかの異常が起きると耳の聞こえに影響を及ぼします。日常生活に不便や不快を感じ、外からの情報の収集や様々な活動にも影響が出ます。

 耳の疾患や異常を診断・治療する上で、聞こえにくさがどの過程の異常で起きているのか、どれくらい聴こえにくいのかを知ることが必要となります。そのための検査に聴力検査がありますが、正確な測定をするためには基礎の正しい知識と技術が必要となってきます。今回の講習で学んできたことをいくつかご紹介します。

研修1~2日目

《 講義 》

○耳の構造と聞こえの仕組み

 耳には聞こえに関わる部分とめまいに関わる部分があります。
 聞こえに関わる部分には耳の構造を大きく3つに分けた (1)外耳 (2)中耳 (3)内耳と、その奥にある蝸牛神経~大脳があります。(図1)

(図1)耳を横から見た断面図 (図1)耳を横から見た断面図

(1)外耳(耳介・外耳道)

 頭の両側に着いている耳(耳介)から鼓膜までの部分で、音を集めて鼓膜に伝える働きをしています。 伝わった音は鼓膜を振動させます。

(2)中耳(鼓膜・鼓室・耳管)

 鼓膜の内側にある空間と上咽頭からつながる細い管の部分が中耳です。空間の部分は鼓室と呼ばれていて、中には3つの耳小骨と呼ばれる骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)があります。3つの骨は鼓室に浮かんでいるようなかたちで存在していて、ツチ骨が鼓膜と付着し、アブミ骨の底が内耳(蝸牛)の前庭窓という部分におさまっています。この鼓膜と3つの骨のつながり(耳小骨連鎖)が音を効率よく内耳に伝える装置となっています。(ちなみにアブミ骨が人間の身体の骨の中で一番小さいといわれています。)

 鼻の奥にある上咽頭から鼓室につながる細い管は耳管といいます。通常は閉じていますが、物を飲み込むときやあくびをするときに開いて鼓室内の圧が外の圧と同じになるように調整しています。内外の圧が同じときに鼓膜の動きが最も良くなります。このような大切な役割をしている耳管ですが、風邪をひいたときなどは細菌の通路にもなります。

(3)内耳(蝸牛)

(図2)蝸牛管のイラスト (図2)蝸牛管のイラスト

 内耳にはめまいに関わる機能と音に関わる機能があります。その中で音を伝えるのは蝸牛管と呼ばれる器官で、その名のとおりカタツムリのような形をしており、中は内耳液(リンパ液)が満たされています(図2)。音の刺激により鼓膜が振動すると中耳を経て蝸牛の中にある内耳液に伝わり、その振動が中にある有毛細胞という感覚細胞を刺激します。この毛の生えている細胞は1万個以上もあり、内耳液の振動から音の高低を区別し電気信号を発生します。

この信号が蝸牛神経、聴神経を経て脳に伝わります。
 これらの機能が正常に働くことによって、外耳で集められた音が鼓膜を振動しその振動を耳小骨が内耳に伝え、内耳が電気信号に変えて神経に伝え、脳がその情報を判断する、という聞こえの仕組みが成り立ちます。
 この仕組みのどこかに問題が起こると聴こえにくさが生じます。これを難聴といいます。

○難聴の種類

 難聴はその原因がある部位によって大きく3つにわけられます。

(1)伝音難聴

 外耳、中耳(音を伝える部分)に原因があるものを伝音難聴といいます。
 この難聴をきたす疾患には耳垢塞栓や鼓膜穿孔、中耳炎、耳管狭窄などがあります。

(2)感音難聴

 内耳や神経(音を感じとる部分)に原因があるものを感音難聴といいます。 この難聴をきたす疾患には騒音性の難聴や加齢による難聴、突発性難聴、メニエール病、ストレスなどによる心因性の難聴、腫瘍によるものなどがあります。

(3)混合性難聴

 伝音、感音部分のどちらにも原因があるものを混合性難聴といいます。
 これらの難聴の診断とその程度を把握するために聴力検査が必要となります。検査をする上で音についても知っておく必要があります。

○音について

 自然界に存在する音には様々な音があります。音は空気を振動させながら波のように伝わります。この空気の振動を音波といいます。音の高低で波の幅が違うため、1秒間の波の数も異なります。この数を周波数といいHz(ヘルツ)という単位で表します。また音が伝わるときにはその強弱によって空気の圧力も変化します。これを音圧といいdB(デシベル)という単位で表します。(図3)
 聴力検査をするときはこの2つを使って周波数ごとの聴こえのレベルを表します。

(図3)音の大きさと単位の一覧表 (図3)音の大きさと単位の一覧表

○検査

純音聴力検査

 前の項で聴力検査とよんでいるのはこの検査のことです。(図4)

(図4)当院の聴力検査室です (図4)当院の聴力検査室です

 人の耳で聴こえる周波数の範囲は16Hzから2万Hzとされていますが、検査では通常125Hzから8000Hzの中の7種類の周波数が使用されます。

 人の耳で聴くことのできる最小の音の強さの限界を聴覚閾値といいます。この値を測定しているのが純音聴力検査で、周波数ごとにどれくらいの大きさから聴こえ始めるかを調べています。音をさらに強くしていくと痛覚など聴覚以外の感覚が生じます。この音の強さを最大可聴閾値といいます。人の耳の最大可聴閾値は120~130dBといわれています。純音聴力検査で測定できるのは最大120dBまでとなっています。

 純音聴力検査では通常気導検査と骨導検査という2種類の聴こえの検査をします。気導検査とは耳にヘッドホンをつけて音を聴いてもらう検査で、骨導検査とは耳の後ろの骨にマイクのような機械をあてて音を聴いてもらう検査です。骨導検査は骨の振動により内耳に直接音を伝えているため、外耳や中耳を通さない聴こえの検査になります。(図5)

(図5)音の伝わり方をあらわしています (図5)音の伝わり方をあらわしています

 伝音難聴の場合、気導検査は聴力の低下を認めますが、内耳や神経は正常なので骨導検査の聴力は正常となります。感音難聴の場合は内耳や神経に障害があるため、気導・骨導検査ともに聴力の低下を認めます。この結果の違いで耳の障害部分を推定することができます。

 聴力測定をする際は左右の聴力を片耳ずつ測りますが、左右の聴力に差がある場合などは、聴こえにくい方の耳の検査音が聴こえやすい反対の耳で聴こえてしまうという現象(陰影聴取または交叉聴取といいます)がおきてしまいます。これを防ぐため、検査をしていない方の耳にその聴こえを遮る程度の大きさの雑音を流して検査をします。これをマスキングといいます。

 純音聴力検査では、検査を受ける方に聴こえたことを教えてもらいながら行うため、検査方法に対する理解や集中力、周囲の環境などによっても進め方が異なります。検査を受ける方の負担を少しでも軽減し、検査がスムーズに進むように、検者側によるわかりやすい説明や細かな配慮が重要となります。

ティンパノメトリー

(図6)鼓膜の動きをみる検査です (図6)鼓膜の動きをみる検査です

 これは鼓膜の動きを調べる検査になります。(図6)耳に耳栓を当て、外耳道内の空気圧を変化させて測定します。この圧力の変化による鼓膜の動きから鼓膜と中耳の状態を調べています。

 中耳炎などで中耳内に水や膿が溜まった状態では鼓膜の動きが悪くなります。耳管の機能が低下しているときも圧の調節が不十分となり鼓膜の動きは悪くなります。その他、耳小骨に異常がある場合も鼓膜の動きに影響が出てきます。

耳音響放射(OAE)

 これも聞こえの検査の一つです。音を聞いたときに蝸牛の中にある有毛細胞が電気信号を発し脳に伝えることは前述しましたが、同時にその電気エネルギーは、音として外耳に放射されます。これを耳音響放射(OAE)といいます。この音を検知することで聞こえを測定しています。聴力が低下している場合、OAEは抑制または消失します。

 検査は耳栓をあてて音を聞いてもらい測定します。聞こえたという合図を必要としない検査なので小さいお子さんなどを対象に行っています。

語音聴力検査

 純音聴力検査は音の認識の検査ですが、語音聴力検査は言葉の認識の検査になります。検査を受ける方の十分に聞こえる大きさの音で言葉を聞いてもらい、正確な聞き取りができているかを調べる検査となります。この検査は補聴器を検討するときなどに重要となります。

 これらの他にも聞こえに関する検査は種々あるのですが、学んできたこととあわせて当院でも行っている検査の中から、いくつか御紹介させていただきました。

研修3~4日目

《 実習・病院見学 》
(図7)研修先の外観 (図7)研修先の外観

 研修3日目は合同実習でした。純音聴力検査とマスキング、ティンパノメトリーなどの検査をグループごとに実習しました。
 4日目は前日のグループ毎に各病院での見学実習があり、私の実習病院は国立成育医療研究センターでした。(図7)

 午前は真珠腫性中耳炎の手術を見学しました。耳小骨や周囲にある神経を傷つけないように細心の注意を払いながら中耳内の真珠腫が取り除かれていました。
 検査の一つに、音を聞かせたときの脳波から聞こえを測定する聴性誘発反応という検査があります。これは新生児の聴覚スクリーニングなどに用いられているのですが、手術中もこの機器が使用されていて、脳波で聴覚を確認しながら手術が行われていました。

 午後からは検査室や病院内の見学をさせていただきました。季節柄、玄関ホールにはお雛様が飾られていて、廊下の壁の中には動かして遊べるオブジェなどがあり、施設の隅々に子供への配慮が感じられました。また乳幼児の聴力検査の装置も見学させていただきました。音が聞こえたときにボタンを押すと、人形など子供が喜びそうなものが小窓から見えたり、それが光ったりする仕組みなのですが、ボタンを押す事だけに興味を示したり、聞こえていなくても人形がみたくてボタンを押してしまうことも多く、色々な工夫をして検査をしていても正確な結果を出すのがなかなか難しいとのことでした。

 最終目、社会保障等についての講義のあと、試験を受け5日間の講習は終了となりました。しばらく授業や試験というものから遠ざかっていたため、正直なところ私の脳細胞はかなり悲鳴をあげていたのですが、無事に合格証書をいただくことができました。

まとめ

 今回の講習で、耳の構造や疾患、種々の検査などについて基礎からの知識と技術を学ばせていただき、その必要性と重要性を再認識しました。まだまだ理解し切れていない部分もあるので今後の課題と思っています。
 このような機会を与えていただいた院長先生はじめスタッフの皆様に感謝いたします。