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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

三好耳鼻咽喉科クリニック開院20周年特別企画~難聴児問題の昔と今~三好 彰

 ここでは、前号に引き続きまして、院長が1975年、岩手医大在学中に作成した「難聴児の社会保障」というレポートをご紹介いたします。

「難聴児の社会保障(2)」

考 案 Ⅰ

 昭和46~49年の間に、盛岡市における補聴器の販売台数の総数は931台から1564台と大幅な増加を見せているが、そのうちでも私費による販売台数の増加は284台~735台と約2.6倍にも及ぶもので、その為に障害者手帳による補聴器の販売台数は、数的な増加こそ見せてはいるものの、割合からいうと69.5%から53.0%とかなりの落ち込みを見せている。

 従って、割合だけから判断する限りにおいては、需要に比して身体障害者手帳交付が十分役に立っていない、交付基準が実情に合わなくなってきているという現状が推察されるのである。
この推測は、私量による販売台数がなぜ装荷しているなか、という理由を考えるに至ってさらに明確となる。

 つまり、聴力損失が60dBに及ばない難聴者も補聴器を使用することによって社会適応を考える傾向が増えてきたこと(難聴の型によっては、かなり高度の聴力障害があっても計算してみると60dBには及ばないものもある、これについては後で述べる)

 手帳でも、既に一台は補聴器交付をうけてはいても故障に備えて、もう一台を私費で購入するというケースが(特に遊び盛りの子供においては)数を増やしてきたということが主な原因と考えられるからである。特に後者の場合においては、厚生省がそれなりの予算を組んで、補聴器の販売所にスペアの補聴器を用意させておき、故障した補聴器を修理に出している間、貸与しておくという制度を作ればある程度は事情が改善される(もちろん実現には相当の困難が伴う。難聴の型別にいくつもの補聴器をそなえつけておかねばならないし、又、子供であれば補聴器が無くとも保護者に連れられて、販売所まで来られるが老人で老人性難聴が高度である場合には、補聴器が故障したとたんに、街を歩くことも危険でとても販売所まで行くことなど不可能になるというケースだってある。)だけに、いささか歯がゆい思いもしないわけではない。

 表Ⅲは全国における昭和42~昭和48の間の補聴器の出荷台数である。これを見ても交付台数及びその割合こそ近年増加しつつあるものの、その割合たるやわずかに15%前後と、余りにも手帳が役立っていないのには驚かされる。

 ところで県内の児童を対象とした施設がない(聾学校には幼稚部があるが、主に手話で意志の疎通がなされている中にあっては、積極的に残存聴力を生かそうとはしなくなる)ことが問題となっている。いうまでもなく、聴能訓練というものは就学してから行なったのでは遅すぎるわけで、言葉を覚え始める3~4才頃行なうのが理想的なのである。

 従ってその年令の難聴児を対象として、補聴器の装着訓練(補聴器の重量になれさせること、音を聞く喜びを知らせること等)や聴能訓練を行なう施設が不足していては、十分な訓練が行なわれているとはいい難い。また50年度、51年度と新しい施設ができる予定になっているが、ただでさえ専門の教員が不足している所へ新設の施設にまで完全な教育体制が整えられるかどうか、心配な面もある。(実際どの施設でも、専門の教員がもっと欲しいという悩みをもっている。)

 一方、既存の施設では、その対象とする児童を学区内のそれだけに限る傾向があって、学区外の児童の入級が困難であった。学区に関係なく難聴児は難聴児なのだから既存の施設についても、早期に拡張・充実をはかって、一人でも多くの難聴児を入級させて暮れる様、教育委員会と入級判別委員会に望みたいと思う。

施設

(1)医大スピーチクリニック

 医大へ来る難聴児のほとんどは「言葉が少ない」という両親の訴えで先ず小児科へ行く。
 その後、難聴を疑われたものは耳鼻科へ。
 さらに知能の障害の可能性のあるものは精神科へとそれぞれ回される。従って子供の行動観察、聴能訓練、言語治療等を行なう機関が必要となる。その目的の為に各医局とは独立して作られたのがこのスピーチクリニックである。

(2)聾学校

 在学中(昭和49年度)の児童・生徒の障害状況については表Ⅳに通りである。

表Ⅳ [聾学校]

表Ⅳ

(3)桜城小「聞こえの教室」

 本学級は、桜城小もしくは他小学校の母学級における教育内容の補助(どうしても遅れてしまう科目があるわけで、その分の穴うめもしてやらなければならない)を聴能訓練と供に1週間に2~3回行なっている。対象とする児童は当然普通学級に通級している児童達で昭和49年現在9名(うち手帳所有者4名)である。

 なお、1週間のうち2~3時間は教育相談を行なっており、入級していない児童でも、あるいは就学期以前の難聴児でも、簡単な聴能訓練を受けることは可能である。

(4)補聴器センター

 補聴器の販売ばかりでなく、簡単な聴力検査や補聴器の装着訓練そして保障制度についての説明等もしてくれている。

(5)下の橋中学

 普通学級に3名在籍しており、教師がワイヤレスマイクで話す内容を卓上の受信機を拡張して聞くことにより授業についていっている。

考 案 Ⅱ

 医大スピーチクリニックの一番の問題点はやはり各科の間の連絡が十分にはとられていないことであろう。これについては既に立木先生をはじめとして各科の先生方の間から色々と改善の為のアイディアが出されている様なのでその1日でも早い実現を望むばかりである。

 第二に最近増えて来た自閉症児の扱いである。これは現在のところ、経過観察を続けるのみで具体的に手を打つところまで行ってはいない様である。
 しかし実際に自閉症児には現在これといった治療法がないだけに、医大のスピーチクリニックばかりに劇的な効果を期待するのは無理というものであろう。

 第三に、スピーチクリニックにある難聴児の資料をもう少し有効に生かせないかということである。もちろん医大内ではそれなりに役に立っているのだが、例えばオーディオグラム等公開してもさしつかえない資料(カルテ等、患者の秘密に属ずるものは決して公開するわけにはいかないが)でほかの施設が欲しいものがあったならばスムースに情報の交換ができる様にしておきたいと思う。ただ、その為には医大側よりは他の施設からのもう少し積極的な働きかけが欲しいのだが(我々が欲しいのだがという様な)。

 第四に、これはスピーチクリニック側の問題点ではないのだが、市や県の公的機関で難聴児(特に就業期以前の)を発見すると余りにも容易にスピーチクリニックに送って寄こすということがある。いくらスピーチクリニックがあるからといって、役所側の責任でめんどうをみるべきところを私的な機関に押し付けてすますのでは、根本的な解決にはまるでなっていないのである。

 聾学校在校生の障害状況を見ると、高学年になっても測定不可能の生徒がいることと、50~59dB等比較的難聴の程度の軽い児童がいることに気付く。前者については様々な原因が考えられるが、そのほとんどは重複障害、それも知能障害との重複であると思われる。こういった重複障害を有する難聴児は発見も訓練も困難である上に専門に教育する施設がない為に現在では、聾学校で引き受ける形になっているが、当然ながら十分な教育が行われているとはいい難い。

 そして、それとは別の意味で中等度の難聴をもつ児童の場合も問題がある。例えばそういった児童を普通学校で教育すると、何とか言葉をおぼえるかわりに成績の方は余りかんばしくない結果に終わるが、もし聾学校に入学させると、言葉はそんなにしゃべらないが、成績は良いなどという皮肉な結果になってしまったりする。

 そればかりではない。難聴児を教育するには相当の費用がかかるわけで、普通学級に通学させさらに難聴学級にも通学させようとすると身障者手帳の交付を受けていても経済的には決して楽ではない。ましてや交付を受ける資格もなく(両耳の聴力損失が60dB以下である場合など)経済的な余裕もない難聴児の場合には普通学校通学など到底無理な話である。

 それに対し、聾学校では入学しさえすれば、後に述べる「盲学校・聾学校及び養護学校への就学奨励に関する法律」(以下 就学奨励法と略す)によって定められる経済援助を受けることができ、通学もはるかにらくになるのである。そんな経済的な事情もあって聾学校を選んだ児童も、何人かはいるのではないだろうか(もちろん、中学部以上の生徒は、難聴学級ができる時期以前の生徒であるから、そういった事情があてはまるとは限らないだろう)。今回はその実態がどうであるのか、詳しく調べる余裕はなかったが、機会があったら調べて見たいと思う。

 桜城小「聞こえの教室」では、前述した様に普通学級(小学校の)に通級している難聴児を週2~3回訓練している訳であるが、やはり専門の教員が不足している為に一人一人に十分な時間をとってやれないのが、悩みの種であるらしい(本当は一人最低10時間は毎週とってやりたいのだが、という話であった)。

 又、学区内、学区外の問題がここにもあり、たまたま学区外である為に入級するのに大変苦労したという親の方にも会った。

 補聴器センターはもちろん正式には、難聴児の為の「施設」ではない。完全に民間の会社経営だったからである。しかし、その難聴者に対する役割は「施設」と呼ぶにふさわしいものである。具体的には聴力検査、補聴器装着訓練(いずれも簡単なものではあるが)社会保障制度の適用についての説明、故障した補聴器のかわりの補聴器の貸し出し等であるが、いってみればこれらは全て役所でやるべき仕事であるわけで、役所の不備を民間で補う、その典型的な例みたいなものである。従ってその意味でも補聴器センターのはたしている役割は大きく、これからも頑張っていって欲しいと思う。

 橋の下でワイヤレスマイクを使って講義をしていることは前にも述べた通りで、実際に大きな成果を上げているのもまちがいないことだが、このシステムは開発されてから間がないだけに、問題点もまだ多い様である。

 実際に、教師が握っていたマイクをぶつけるか落とすかして突然強大音を生じさせたところ、それをまともに聞いた難聴児(Recruitmentがあったりすると、強大音は大変なショックになる)がそれ以来登校拒否症にかかった例があるし、それに対し教師が全く無理解であったなども考え合わせると、装置の充実だけではどうしようもない点があることに気付かざるを得ない。

公的機関(役所関係)

(1)児童相談所

 難聴児として来所する例はほとんど無いということであった。

(2)福祉事務所

 市役所内にあり、身体障害者(成人)に対する身障者手帳交付の権限を有しているが、身体障害児の手帳交付については、単にその窓口となるのみである。なお、S.48の身体障害者手帳交付台帳登載数の内訳は、以下の通りであった。

肢体不自由
 2121人  66.0%
平衡機能・聴覚障害
 562人  17.5%
視覚障害
 484人  15.2%
音声・言語・内部障害
 44人  1.3%
総数(昭和49年4月1日現在)
 3215人

(3)児童婦人科(県庁)

 児童の手帳交付の権限は県知事にあり、ここでは、福祉事務所より送られて来た書類に従い、手帳の交付を決定する。

(4)ケースワーカー(医大社会事業部)

 公的機関というのではないが、医療や訓練とは別の存在ということでここに入れてみた。ここでは治療や入院等について下記の事項等に関する相談に応じている。

(イ)経済相談
 医療費、生活費、福祉法の申請手続き等
(ロ)治療に関する相談
 病気への不安、疑問の相談。治療に対する家族の協力、理解についての相談等。
(ハ)交通事故に関する相談
 医療費、後遺症(社会復帰)の相談等。
(ニ)精神的社会的な相談
 患者をとりまく人間関係の調整(職場、家族、交友、院内職員)。