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fm いずみ ラジオ3443通信 英国紅茶の旅5

127話 英国のブレックファースト

fmいずみ ラジオ3443通信
An.:
三好先生、前回は紅茶の生産が、当時清の国の独占に近いものであったこと。英国で紅茶の消費量が伸びて、清からの輸入が膨大な量となり、その支払いに追われた英国がインドへの綿の輸出を利用して、インドから清にアヘンを輸出したこと。
 そんなお話を伺いました。
Dr.:
それを俗に「三角貿易」って、呼ぶんですけどね。
An.:
清に輸入されたアヘンは社会問題となり、アヘン戦争が1840年に発生します。
Dr.:
そんな経緯を経た後、門外不出だった茶の木がいくつかのルートを経て、英国の植民地などで栽培されるようになります。
An.:
英国は紅茶を、自前で入手できるようになるんですね?
Dr.:
こうして英国では、それまでぜいたく品だった紅茶を、庶民も存分に味わえるようになります。
An.:
その頃には、英国の労働者階級の生活も十分豊かになっていたんでしょうか。
Dr.:
豊かになっていく途中、みたいな感じもありまして。
 日常の食事はまだ、そんなに栄養豊富なそれではなかったようで。
 英国の労働者が、食事時にエールやビールを呑むのは、栄養補充の意味がありました。紅茶の流行後は、紅茶がその役割を担うことになります。
An.:
英国庶民は、紅茶で栄養を補ったんでしょうか?
Dr.:
産業革命以前の英国では、農業主体の生活様式でしたから、いわゆるディナーつまり1日のメインの食事は、お昼に摂りました。
 しかし労働形態が変化し、朝から晩まで工場で働くようになると、このディナーは夕刻の8時から9時になります。
 もっともこのディナーの変化についてはもう1説あり、当時のヴィクトリア女王が遅めの夕食を好んだために、1840年以降こうした習慣が根付いたとのお話もあります。
 ところで江澤さん。江澤さんの朝ご飯は、どんな内容でしょうか?
英国のB&B
英国のB&B
An.:
あまりに慌ただしい朝ですと、理想通りには行かないんですけど。  余裕があれば、あったかいご飯に味噌汁、海苔と生卵なんて和定食も、イイかな?
Dr.:
それに対して英国式朝食、つまりイングリッシュ・ブレックファーストって、どんな感じでしょうね。
An.:
江澤のイメージする洋食の朝ご飯は、えーっと、ジュースにパンとコーヒーくらいのもので。それに卵料理が付くのかしら? 少し物足りないような感想を持ってました。
Dr.:
卵・パン・コーヒーがアメリカン・ブレックファーストで、卵ぬきでサラダやオートミールなど冷たいメニューの添えてあるのが、コンチネンタル・ブレックファーストと、呼ばれるものです。
An.:
きっと、ニューヨークのような大都会の、スマートなビジネスマンは、食べたら眠くなるような非効率的な朝食は避けるのかと。
Dr.:
デスク・ワークが主体のビジネスマン向けには、そうした軽い朝食が適しています。
 軽い内容でも早朝の低血糖状態、つまり体内のエネルギー不足時間には適切なエネルギー補給となり、さわやかな目覚めを自覚します。
 そもそも「ブレック・ファースト」という言葉は、「ファースト」すなわち断食を「ブレークする」という意味で、夜間の空腹をそこでストップさせるとの、語源から来ているんです。
An.:
そう言えば、十分な睡眠時間の後の目覚めのときには、お腹がとっても空いています!
Dr.:
そんな理由から、朝食には栄養のある食事内容を選ぶのも、ちゃんと根拠のあるお話なんです。
An.:
江澤は、感心してしまいます。
Dr.:
アメリカンのような軽食的朝食と一味違うのが、英国の労働者たちいわば庶民の朝食です。  産業革命以後の工場労働では、当然ですが1日中厳しいお仕事が待ってますから。
An.:
朝食でエネルギーを確保しなくっちゃあ、とても堪りませんね。
Dr.:
当時の英国庶民のすべてが、現在のイングリッシュ・ブレックファーストみたいな豪華な内容だったかどうか、断言はできないのですが。
 私が嫁いだ一人娘に会いに英国へ行くと、朝からお腹が一杯になるくらいの豊かな朝食が、待ってます。
An.:
(ゴクッとつばを呑みながら)せ、先生、どんな朝ご飯なんでしょう?
Dr.:
つい先日宿泊したばかりのB&B。英国では、朝食付き1泊システムのペンションみたいな施設を、ベッド・エンド・ブレックファーストって言うんです。
An.:
ああ、それでB&Bなんですね。
Dr.:
朝食はセルフ・サービスでした。
 先ず、お好みのフルーツ・ジュースをグラスに注ぎ、トーストをトースターに入れて待ちます。
 フレッシュ・フルーツにヨーグルトを載せて、あっついポットからカップにたっぷりと紅茶を・・・・・・。
An.:
わぁ、ステキ!
Dr.:
これまたセルフのミルクを、カップのうえの縁すれすれまで満たしてっと。
An.:
先生、お砂糖は?
Dr.:
甘くなり過ぎない程度に、でも惜しみなく入れます。
 ティー・スプーンでゆっくりとかき混ぜて・・・・・・。
 江澤さん。このときティー・スプーンは、かならず右回しに回すんです。そうすると良いことが起こると、信じられていまして。
An.:
先生、それは銀のスプーンなんでしょうね(笑)?
Dr.:
ええ、銀色のスプーンです(笑)。
An.:
きっと近いうちに、良いことが起こりますよ。江澤の第六感がそう言ってます(笑)。
Dr.:
その予感の実現が、待遠しいですね。
Dr.・
An.
本日も、どうもありがとうございました。
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128話 英国のブレックファースト2

An.:
三好先生、前回はイングリッシュ・ブレックファーストの、豪華な中身についてのお話が途中で終わってしまって・・・・・・。
 江澤はあれから1週間、おあずけ命令を受けたワンちゃん状態でした。
 精神的飢餓と言いますか、何を食べても空腹のまま、みたいな(笑)。
Dr.:
お昼の12時前後に空腹状態で出前を注文したのに、肝心のデリバリーがなかなか到着しない。そんな心況でしょうか?
An.:
そんなときに限って、お店に催促の電話をしても、「出前持ちはもう出ました」。
 そう言われると一層、お腹が空いちゃう・・・・・・(笑)。
Dr.:
お待たせしました。出前の到着です(笑)・・・・・・。というわけで、続きをお話ししましょう。
An.:
江澤はもう、お腹と背中がくっついちゃいました(笑)。
Dr.:
で、紅茶をたっぷりとカップに注ぐところまで、話題は進行しています。
 しばし紅茶の芳しさに浸っていると、そこにオーブンで焼いた熱々の、てんこ盛りのプレートがやって来ます。
An.:
そのプレートには、どんなごちそうが並んでいるんでしょうね?
Dr.:
もちろん各種の卵料理は当然ですが。目玉焼き・プレーンオムレツ・ポーチドエッグ・スクランブルドエッグなど、江澤さんのリクエストに応じてお好きなものをチョイスできます。
An.:
その光景が(笑)、目の前に浮かびます。
Dr.:
それに加えて、オーブンでグリルしたベーコンやハム、ポークソーセージにブラッドソーセージ。
An.:
それって、なんですか?
Dr.:
もともとソーセージは、いわゆる「腸詰め」ですから、ブタの腸管の中に血液を注入して固めたものです。
 その中でも、ことに血液成分の多いタイプみたいに、私には見えました。
An.:
朝から、とっても栄養がありそう・・・・・・。
Dr.:
英国庶民の、活力のもとですから、ね(笑)。
An.:
それ以外にも、おかずがあるんですね?
Dr.:
おかず、という言い方が適切かどうか(笑)迷いますが。
 それに加えて煮豆と焼いたトマトが添えられていて・・・・・・。
An.:
トマトを焼くんですね! どうやって?
Dr.:
オーブンでしっかりと焼くんですけどね、(夢見るような目付きで)これが美味しいんです。フゥーッ(とため息)。
 江澤さんにも、このトマトだけはごちそうして上げたいような気がします。
 差し出されたプレートを目の前にすると、焼いたトマトの鮮烈な赤い色が、まず目に染みます。そして少しだけ酸っぱいような、この果実特有の甘い香りが感じられます。
 ナイフで半分にカットしてそれを口に含むと、熱々のトマトから旨味の閉じこめられた果汁がこぼれ出ます。それをこぼさないようにすすり込みながら噛みつくと、歯茎にまで旨味がしみ込みます。その旨味を舌で存分に味わいつつゴクッと飲み込むと、トマトのあっつい固まりがノドを通り過ぎます。
 思わず「うまい」と思った次の瞬間、それが胃袋に納まるのを実感して、すっかり満足します(笑)。
An.:
三好先生、見せたいような気がするだけじゃあなくって、(よだれがこぼれそうな表情で)実物を一度、江澤に・・・・・・(笑)。
Dr.:
そして、トースターで焼き上がったばかりの熱いトーストに、バターとジャムをたっぷり塗りたくって、準備OKです。
An.:
準備完了までに、ますますお腹が空きそうですねぇ(笑)。
Dr.:
おもむろに、紅茶をすすることから、いよいよ朝の儀式が始まります。
イングリッシュ・ブレックファースト
イングリッシュ・ブレックファースト
An.:
先生、紅茶は受け皿でお飲みになるんですか(笑)?
Dr.:
ミルクがたっぷり注いでありますから、受皿なしでも、火傷の心配はありません。
 こころゆくまで紅茶とミルクの風味を、楽しみます。
An.:
きっと、紅茶の馥郁たる香りと、それを口に入れた瞬間のなんとも言えない幸福観が、とってもたまらないんでしょうね。ステキ!
Dr.:
トーストをかじり、紅茶を口に含むと、まるで自分が小さな子どもの頃に戻ったような、なんとも言えないなつかしさに浸れます。
An.:
なんだかその感じ、江澤にも判るような気がします。
Dr.:
そう言えば、江澤さんは文学少女だったんですよね? 江澤さんは、マルセル・プルーストって、ご存じですか?
An.:
あの有名な「失われし時を求めて」の作者ですね。
Dr.:
さすが元・文学少女の江澤さん。プルーストとも、気やすかったんですね(笑)。
 その「失われし時を求めて」の中に、紅茶を飲むシーンが出て来るんですけど。
An.:
思い出しました。主人公がマドレーヌを紅茶に浸して口に入れた瞬間、遠く消え去った子ども時代の住みかや町並みが、突然実際に体験したその時そのままに、感覚として突如よみがえる。そんな1シーンが、ありましたよね、先生。
Dr.:
このエピソードは、「プルースト現象」と呼ばれているんですけど。
 主人公は「失われし時を求めて」の中で、「過去を思い出そうとつとめるのは無駄骨であり(中略)、過去は知性の領域外に潜んでいるのだ」と、つぶやきます。
 けれども、紅茶に浸したマドレーヌの味覚と嗅覚とが、突然主人公を幼い頃の体験の真っ只中へ、引き戻すんです。
An.:
先生! 紅茶の馥郁たる香りと、それを口に入れた瞬間のなんても言えない幸福観は、頭で考えたものじゃないですもの、ね。
Dr.:
幸せな英国の朝食のお話は、また次回。
Dr.・
An.:
ありがとうございました。
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ラジオ3443通信 読者の声

元北海道新聞・記者の伊藤直紀様より、ラジオ3443通信を読んでのご感想を頂きましたので、ご紹介させて頂きます。

◆以下、手紙より

三好 彰先生
「3443通信」毎号、楽しく読まさせていただいております。先生の博識は、専門分野以外の事象でもいかんなく発揮されていますね。しかも極力専門用語を使わずに、素人にも理解できるように説明しているところがすばらしいと思います。

 失礼ながら、専門的事象をわかりやすく説明するには、そのことを心底理解していなければできません。噛み砕いて説明できないから、専門用語をそのまま使うわけです。読み手が理解できようとできまいと、お構いなしです。現役時代に大学教授らの専門家に原稿を依頼する機会が多くありました。そのまま使える完全原稿を書ける知識人は十人に一人、いえ、北海道内全体で数えるほどしかいないと実感しました。
 箸にも棒にもかからない原稿を臆面もなく送ってくる教授さんもいました。紙面では読める(理解できる)形で掲載されますが、内実はぼくらが真っ赤になるほど推敲・校正しているのです。そういう手直しがぼくたちの仕事でした。

 今回の「英国紅茶の旅」も知らなかった歴史が語られていて、うんうんとうなずきながら読みました。先生は娘さんが英国にいらっしゃるから、紅茶に造詣が深いのかなと推察しますが、いかがでしょうか?

セイロン産の木箱に紅茶を詰める
セイロン産の木箱に紅茶を詰める

 私事ですが、僕も1982年にスリランカを訪れたことがあります。紅茶産地を取材する為です。大阪の紅茶専門店・MUSICAが全国の紅茶愛好家を招いたツアーでした。
 帰国して8回の連載記事を書きました。・セイロン島は紅茶が栽培される前は、全島がコーヒーと香辛料の産地だった。・セイロン紅茶の最大の輸入国である日本のさらなる市場開拓に、官民を挙げて全力を注いでいる。・紅茶ティスティングは日本の利き酒と同じ要領でおこなわれる。・国立の紅茶研究所では紅茶ワインなどの新製品の開拓にいそしんでいる、といった新発見がたくさんありました。

 僕は旭川支社報道部にいた1980年ごろ、旭川に道内で最初の紅茶専門店がオープンしました。以来、コーヒー党から紅茶党に鞍替えしました。旭川駅前にあった西武系デパートの取締役がこの店を訪れ、「東京の本店でも紅茶売り場をコーヒー売り場に独立させたばかり。地方都市にこんな立派な専門店ができるとは……」と驚いていました。

 またお便りします。

いとうなおき

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