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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

三好耳鼻咽喉科クリニック開院20周年特別企画~難聴児問題の昔と今13~三好 彰

 ここでは、№227に引き続き院長が1975年、岩手医大在学中に作成した「難聴児の社会保障」というレポートをご紹介いたします。

「難聴児の社会保障13」

考 察 ⅩⅣ

 薬禍によって引きおこされた可能性の強い難聴の例である。正直に言ってKMによる難聴発生についての判決例が非常に少ないだけに、考察をえることは非常に難しい。ただ、医師達の態度と関連して母親がいささか誤解ともいうべき考えを持っているのは残念であると思うので、少しその点について考えてみたい。先ず、医師たちがマイシン系の薬による難聴である可能性を教えてくれなった事実であるが、確かに藁をもつかむ気持ちで医師の話を聞く母親に対して医師達の慎重さは無情ですらあったかも知れない。しかし薬禍であるとの可能性を示唆した場合の医師の重さが、セラピストのそれとはまるで違うことを考えると、医師達を一方的に責めるわけにはいかない様に思う。ただ、あくまでこの場合に医師の慎重さが、母親にとっては残酷に感じられたということは間違いの無いことであり、もう少し母親の立場を考えてやれなかったかと残念に思う。

 もっとも、そういった経過から完全な医師不信に陥ってしまったのか、母親が「医師会の中に医療事故をもみ消す組織があり」とまで言う様になってしまったのは、医師にとっても母親にとっても不幸なことではないのだろうか。

 それにしても、自分自身医師であることの為に、他の医師の過失をあからさまには指摘しかねる、そんな雰囲気だけは(あくまで雰囲気だけであるにせよ)確かにある様な気がする。せめてヒアリングセンターの様な施設やセラピスト達だけでも、患者の側に立って十分その相談に乗ってやれる様であって欲しい。

 ところで、KMを使ったことによって難聴になったとして医師の過失が証明されるのには、次の5項目が必要(岩手医大法医学教室、桂秀策教授)であるという。

  • (1) KMの、その疾患に対する必要性はどうだったのか。
  • (2) 他の抗生物質が使えなかったか。
  • (3) 医師が副作用を予見していたのか。
  • (4) KMとの難聴との因果関係
  • (5) 医師が副作用を予見していたのなら、結果回避の義務を果たしたか。

 この症例は、今回扱った難聴児の例の中でも、最もいたましい症例であったと思う。こういう症例に考察を加えるに当って、以上の様な通り一片の意見しか書けないのを我々は非常に恥ずかしいことだと考えている。しかし、人間が人間の病を癒そうと始めた医療という行為においては、人間である医師と人間である患者との間に、どうしてもわかり合えない微妙なニュアンスがある様に思う。そのニュアンスは、ときには癌で死んで行く患者の医師に寄せる絶対の信頼であったり、医師の指示を守らない自分勝手な患者の生命をあくまで絶やすまいとする医師の誠実さであったりする。そしてそのニュアンスについて言葉を費やそうとするのは、まるで意味のないことなのである。この症例にもそんなニュアンスがあって、どうしても通り一片の意見しか書けなかった。ただ我々にできるのは、せめて我々は、医療過誤をおこす様な医師にはなるまいとの決意を固めること位である(決意を固めたからといって、過誤が無くなるわけではないが、数を減らすこと位はできる)。しかし、こういった症例の前にその決意は余りにも無力ではある。

付:カナマイ難聴事故の判決例(京都地方裁判所 昭和48年10月19日言渡)

■事故の概要

 3名の患者は国立K病院産婦人科で出生し、即日同病院新生児室に収容された。

 ところが患者らは、いずれも生後間も無く同病院内で黄色ブドウ球菌(スタフィロカッカス・アウレウス)感染症に罹患し、同病院小児科に転科してその治療を受けた。同科は治療に際し、患者らに抗生物質カナマイシンの連続投与をした。

 患者らはいずれも遅くとも生後一年未満の乳幼児期以来、両耳に内耳性の高度の聴力障害があり、他人の会話を全く聴収することができず、この障害が感音系の障害に由来する為、現在の医学では治療手段がなく改善の見込みがない。

 患者らは、聾者になったのは、同病院産婦人科医長が院内感染を未然に防止するための病院内の衛生管理と看護婦に対する衛生指導を十分に尽くすべき注意義務を怠った過失と同病院小児科医Kがカナマイシンを連続多量投与した過失によるものであるとして、国を相手として損害賠償請求訴訟を提起した。

■結 果

 病院側敗訴(損害賠償金額はいずれも一千七十万円)

■この判決の法律問題点(判決より)

 「カナマイシンの使用に伴う副作用は人の日常生活に欠くことのできない聴力を犯すもので、しかもこれに対する有効な治療方法は当時も現在もない。新生児は身体的に未熟であり、カナマイシン使用の許容量について当時定説がなかったし、副作用の早期発見のための聴力検査の方法もなかった。しかも、カナマイシンは当時、健康保健薬として、普通に小児科の医師が使用していなかったのであるから、その使用量についての資料や副作用の報告も少なかったわけである。そうすると、新生児の疾病の治療にあたる小児科の医師が抗生物質を治療に使用する場合には、どの抗生物質を選択するかについては、裁量の範囲であるとはいえ、まず、より副作用の少ない抗生物質を使用して抵抗の弱い小児の治療をすべきである。

 しかし、他に有効な治療手段がなく、やむなくカナマイシンを使用する場合には医師には新生児の前記特殊事情を考慮して、その使用量、使用期間をできるだけ安全な範囲に止め、カナマイシンの使用に伴う重大な副作用の発生を未然に防止すべき注意義務があるといわなければならないと。」

かっぱの太ちゃん
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