3443通信 オンライン  
みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

三好耳鼻咽喉科クリニック開院20周年特別企画~難聴児問題の昔と今14~三好 彰

 ここでは、№228に引き続き院長が1975年、岩手医大在学中に作成した「難聴児の社会保障」というレポートの最終回をご紹介いたします。

「難聴児の社会保障14」

考察ⅩⅣ (前回の続き)

■ 評 釈

 カナマイシン使用については、この判決は、「昭和36年頃には主として、抗結核剤として使用されていたが、その頃既にカナマイシンが、第8脳神経を障害して聴力障害をもたらす副作用を伴うものであることが医学上の定説となっており、右聴力障害は、当時勿論現在の医学水準でも、有効治療方法が全くない。右副作用の出現率や程度はカナマイシンの使用量にほぼ比例するが、個人差も大きく、ことに新生児に対する許容量について、当時定説がなかった。もっとも、昭和33年の医学雑誌(小児科診療21巻10号)に掲載された東大分院小児科の報告によると、乳幼児に対するカナマイシンの使用量について、体重1キログラムあたり30ないし50ミリグラムを適当とし、重症の場合はその倍量を使用するのがよいとしているが、右使用量は、主として治療効果の面から提唱されたもので、副作用との関係でこの許容量は検討した結果の数値ではない。

 K医師は、原告らの前記治療にあたり、カナマイシンの副作用についての医学知識を有しており、原告らにカナマイシンを投与するに際し、カナマイシンの箱に挿入されていた製薬会社の効能書を参照したうえ、原告らに対する使用量を決めた。カナマイシンは、当時健康保険の薬価基準に入っていないため……原告らの両親らに薬局で購入してくるよう指示して使用した。しかし、K医師は当時カナマイシン使用の経験が少なく、副作用について、慎重に考慮のうえ、カナマイシンの使用と使用量とを決めたものではなかったことが窺知できる。」として。

 結局患者らの症状に対しては「あえて重大な副作用が予想され使用経験の少ないカナマイシンの使用を開始しなければならなかった必要性はなかったわけで、K医師は、より副作用の少ない他の抗生物質を続用することによって、右疾病に十分対応しえた。」としたのである。

 シンポジウム、小児科療法の特殊性「新生児・未熟児に於けるカナマイシンの特殊性について」(小児科臨床二十巻一号 43.1.1)によれば、「新生児・乳児の急性感染症に対し、また外科的侵襲を受けた新生児・乳児の感染予防に対し、化学療法が重要な意義を持ち、その後の改善に貢献して来たことは広く認められている。この際の化学療法は、筋注剤による場合が多く、しかもbroad spectrum(広域抗菌スペクトル)で、その薬剤に対して耐生菌が少なく殺菌作用の強い薬剤が第一選択として使用されることは当然のことであろう。この様な観点からカナマイシンが新生児。未熟児に使用される頻度は極めて高くなって来たのは世界的な傾向であり、昨年米国に於いて、The New York Academy of Scienceの主催で開かれたカナマイシンのシンポジウムでは、カナマイシンの過去八年間の使用経験にもとづいて新生児・乳児に対する使用が大きくとり上げられ、その臨床効果と安全性が高く評価されたが日本から藤井が招かれて出席し未熟児の吸収排泄の特殊性を述べ、また細菌疫学より見たカナマイシンの価値について発表を行っている。」という。

 この判決は、カナマイシン使用の消極化につながるとの批判は免れないと思われる(Medical Digest.Vol.23 No.11 ‘74の高田利広の文章よりKMに関する部分を引用)。

■ 専門医の意見

 ここでは、岩手医大耳鼻科医学教室の立木教授、本間助教授に伺った御意見(時間的な関係でAとBの項についての御意見しか伺うことができなかった)をまとめて見た。

a.立木先生の御意見

 問題提起にあった様に、各施設、各役所がばらばらに仕事をしていたのでは、母親達が何処へ行ったら良いのかわからなくなってしまうのは当然だろう。我々も自分達のできる範囲内でベストを尽くそうと考えているわけなのだが、有機的に全体を上から見る見方、専門家同士の間をつないで、患者を見とどけてやるそんなやり方ができ上がってないと、何の役にも立たない。とにかく、中心となって全体を押し進めて行く為には、大学その他は余りにも微力なのである。それに大学が学問的協力をというのが理想的なのだが。その必要性をいったいどの程度考えてくれているのかわからないが、県・市供実行はほとんどしてくれない。このままでは、我々も息切れしてしまう。

 それに大学で診断ばかりしていても、実際に収容してくれる施設が無いのでは、しかたがない。うちの大学にもスピーチクリニックはあるが、診断だけで精一杯で治療・訓練までは手が回らない。それにもかかわらず、児童相談等から安易に患者を送って来すぎると思う。

 又、先に述べたことと関連するが、「きこえの教室」や聾学校等は、もっと良くお互いの連絡をとる様にして欲しいと考えている。

 医師が保障等についての知識を患者に与えてやっていないというのは全く指摘された通りだと思う。しかし、実際には医師は患者の訴えに対して責任を負うのが主眼であるし、どうしても保障の説明までは手が回らないのが現実である。又、手帳交付申請に際してのオーディオグラムの型による不平等は、言語明瞭度によって申請することによって避けることができるだろう。しかし結局は、色々な意味で医師に力が無ければむずかしいと思う。

 ともあれ、一番不満なのは県や、市の、態度である。具体的には、福祉センターの中に難聴者の為の設備があったり難聴者のリストがあったりするだけでも良いのだが、役所がしっかりしていてくれさえすれば、我々はいくらでも協力するつもりでいるのである。

 又、診断、治療、訓練等が統合して行えるという意味で、仙台のヒアリングセンターの様なものを作って行きたいと思っている。

b.本間先生の御意見

 とにかく我々としては、確実な診断を早くということを今一番考えている。診断機関の充実に不足する所がある為に、現在は申し込んでから半年ないし1年たたないと診断が受けられない、などということもあるのだから。

 その充実がなされたのならば、行政とそれを結びつけて受け入れ窓口を1つにしてしまい、そこから各医療機関へふりわける様にしたいと思う。最初に患者ないしその母親を受け入れる窓口が1つにしぼられていれば、どこへ行けば良いのかわからないなどということも無くなるだろう。

 患者達がどういう事で困っているのか、また患者達に対するアピールを、学会の度にする必要はあると思う。しかし、学会に出て来る医師は限られてしまっているので、どの程度の効果があるのか、疑問な面もないではない。同様のアピールは、一般の人達に対しても広く行いたい。何といっても病院に来る前に患者達が知っているのが理想的なのだから。その場合、やはりアピールの方法が問題だと思う。パンフレットをくばるにしても、医療機関経由ではどうしても末端まで行きとどかない。以前にはデパートで会場を借りてアピールしたこともあったが、経費がかかりすぎるので、度々行なうことはできない。

 専門医に対するアピール、一般の人達に対するアピールと同時に、行政の第一線にたつ人達に対するアピールも非常に必要であるとは考えている。しかし行政を担当するメンバーが時々かわってしまうので、いくらアピールをしてもきりが無いことが多い。

■ 結 論

  • ・補聴器交付については、岩手県でも全国でも、身障者手帳が十分に役立っているとは言えない。
  • ・岩手県内の施設では、就学期以前の児童の訓練を目的とした設備が不足している。
  • ・新しい施設ができるのは良いが、専門の教育の不足が心配である。
  • ・既存の施設では、学区にこだわり過ぎる。学区内外に関係なく難聴児は入級させてやりたい。
  • ・各施設に備えてある資料の交換、情報の伝達等を含めて、お互いの連絡をもっと良く取りあう様にしたい。
  • ・スピーチクリニックの様な私的な機関に、児童相談所の様な公的機関が、余りにも安易に患者を送って来すぎる。もう少し公的機関の充実をはかることはできまいか。
  • ・重複障害児を専門に扱う施設を作って欲しい。
  • ・各施設とも専門の教員の不足が目立つ。その充実は望めないものか。
  • ・中学校以上の学校における難聴学校の設置は不可能か。もし不可能でももっと設備を充実すること位できるのではないか。
  • ・各役所間の連絡がまるでとれていない。又、同じ位患者側の連絡もとれていない。もう少し組織化することはできないものか。
  • ・身障者手帳交付等にあたって、役所側は難聴の型等まで考えてくれることは全くない。検査する側でそれなりの配慮をしてやることが必要。
  • ・手帳交付申請等に際して、ケースワーカーを利用することによって、事務手続きの煩雑化をさけることができる。
  • ・現在の制度とか保障のありかた、患者の現状を関係者が余りに知らなすぎる。又、どの様な医療設備が存在するのかについても、余りに知られていない面が多すぎる。
  • ・細かい点で保障が現状にそぐわぬ面も確かにある。
  • ・一般医の専門知識の不足。
  • ・保障に関する知識を医者が患者に与えてやっていない。
  • ・難聴児教育に際しては、結局家族の理解、協力が一番大事である。
  • ・一般の教育施設の、障害児に対する理解と愛情の不足が目立つ。
  • ・特に郡部の人達は身体障害者とか、社会保障、福祉といったものに対して理解が無い。
  • ・仙台のヒアリングセンターの様な施設は、それが存在するというだけで十分PRになるし、何より診断・治療・訓練がスムースに行くことに価値がある。
  • ・ヒアリングセンターが対象とする患者は、地域別(学区制度)年令別などによる差別を受けることは無い。
  • ・「難聴児親の会」の充実を、仙台でも盛岡でもはかるべきである。
  • ・行政の担当者が数年毎に変わるので、持続的な計画が立てられない。
  • ・いずれは盛岡でも、患者受け入れの窓口を1つにしぼり、そこから診断・治療・訓練とスムースに連絡がとれる様にしていきたい。

 最後に、この研究が終わるのを辛抱強く待ってくださった角田先生と公衆衛生教室の先生方、研究に協力してくださった各施設や各役所の方々に、心から感謝いたします。

#