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fmいずみ ラジオ3443通信 耳の日(14)

An.:…江澤アナウンサー、Dr.:…三好院長]

fmいずみ ラジオ3443通信 耳の日(17)目次

162話 難聴児の言語教育と発話法⑨

An.:  三好先生、3月3日の「耳の日」の話題から、電話のお話やエジソンの逸話、そしてあの偉大なグラハム・ベルのさまざまなエピソードを、聞かせて頂きました。
 特にベルについては、電話の開発に携わっただけでなく、難聴者のために補聴器の開発を考えていたこと、それは母親やベルの奥さんの耳が不自由だった身近な体験がもとになっていること、など江澤の知らなかったことを、たくさん教えて頂きました。
Dr.:  それにまつわるお話として、ベルが難聴者のための発話法・発声法に携わっていたこと、それがバーナード・ショーによって戯曲化され、オードリー・ヘップバーン主演のミュージカル「マイ・フェア・レディ」になったこと、も話題になりました。
An.:  そして、ベルのもう一つの重要な仕事である難聴児の教育において、ベルはあの三重苦の偉人であるヘレン・ケラーを、世界に紹介しました。
Dr.:  そのヘレンの大活躍によって、それまで偏見と差別の中にあった、盲や聾そして聾唖の人々に対する世界の認識が変わりました。そして、自分たちのような障害のない人間も、ヘレンたちのような境遇にある人々から、多くを学ぶことができるという、後から思えば当たり前の事実に気付くようになりました。
An.:  そう思うと、ベルやヘレンの成し遂げた成果は、それまでの世界のいわば常識を変えるような、とてつもない業績だったのかも知れませんね?
Dr.:  ただ、歴史の現実から言いますと、ベルやヘレンの偉大な仕事が知れ渡ってからも、聴覚障害や障害者に対する険しい道程は、まだまだ続くんです。
An.:  と言いますと? 先生。
Dr.:  その頃たいへんな議論のあった中から、ごく理解し易い例を1つ挙げますと。
 例えば難聴児の教育には、ベルの推し進めて来た発話法・発声法を主にした、あくまで聴覚を最優先するコミュニケーションが、もっとも優れているのか?
 あるいは不自由な聴覚だけに頼らずに、手話や指を使用した記号を活用する指文字はどうなのか。それらによるコミュニケーションは、はたしてベルの主張する教育法に劣るのか?
An.:  たいへんな議論になりそうですね、先生!?
Dr.:  いずれの手法も、現在ではじっくり研究されていて、決して優劣のつくものでないことは判っているんですが。
 障害児本人の向き不向きや、育って来た環境、それに周辺の状況に左右されることも、それはあり得ることなんです。
An.:  理論的にどんなに優れていても、目の前にその環境が揃っているかどうか、それは確かなことですね。
Dr.:  ヘレンの場合に限ると、彼女は聴覚だけに頼っていたわけではなさそうです。
 江澤さんに何回かお話ししましたけれど、人間の感覚つまり入力システムを五感と称します。
An.:  聴覚・視覚・嗅覚・味覚・触覚のことでしたね、先生(笑)?
Dr.:  一般的には、人間は言語を介してコミュニケーションをとるものですから、五感のうちでも聴覚と視覚が重要視されます。
An.:  五感の中でも嗅覚と味覚は、「生命に近い感覚」であって、それに対して聴覚と視覚は「精神に近い感覚」であって、思考つまりものを考える際に使用されるんでしたものね。
Dr.:  さすがは1を聞いて10を知る江澤さん。ですから、通常のコミュニケーションにおいては聴覚・視覚が優先されていて、だからこそヘレンのような三重苦の人間にはコミュニケーションが苦手だったんです。
An.:  よく理解できます。
Dr.:  ところが逆の考え方をすると、私たちのように聴覚・視覚に関してあまり困った経験をしたことのない人間は、それ以外の五感つまり人体への入力システムを活用できていません。
 ところがそんな私たちでさえ、何の刺激もない真っ暗闇の中に放り出され、じっとしていると・・・・・・。
 聴覚や視覚だけでない他の感覚が、なんとなく冴え渡って来るような、不思議な気分を味わうことがあります。
An.:  聴覚や視覚が不十分だと、それ以外の五感が補ってくれることだって。
 あるかも知れませんね(笑)。
Dr.:  たとえ話に引用しては失礼かもしれませんし、悪意はないことをお断わりした上で。
 視覚が十分ではなく、白い杖を日常お使いの方が、その杖からしか情報が入って来ていないとは、とても信じられないほど自在な歩行をしておられる光景は、良く見かけます。
 ヘレンの場合にも、そんな現象は見られたようで・・・・・・。
An.:  つまり、聴覚や視覚以外の五感の性能をフルに発揮させて、コミュニケーションを実施していた?
Dr.:  私たちは、たまたま聴覚・視覚が最低限機能しているだけで、逆にヘレンが感じ取っていたこの世界の現象を、逃してしまっていることはあるかも知れない。
 そう感じることは、ゼロではありません。
An.:  具体的にはどういうことでしょう。先生?
Dr.:  例えばヘレンは、こう言っています。
 「日中の空気は軽く、においも軽く、全体の雰囲気に動きがあり、振動があるけれど。夜は静かで振動が少なく、空気は濃厚に重くなり、あらゆるものごとに動きがなくなる」
An.:  そのヘレンの感受性には、びっくりしちゃいますね!
 本当に、まるで詩人の感覚を言葉にしたみたいな、ステキな表現ですもの、ね。
Dr.:  ヘレンのことを学んでいると、ですね。
 外観上は障害が存在せず、一般的には五体満足と考えられる私たちは、むしろヘレンの感じ取っていたことの半分以下の現象しか、自分のものにしていないようなそんな気もして、恥ずかしく感じることも少なくありません。
An.:  確かに私たちが、身に備わっている五感などの性能を十分に生かして生活しているかどうか、考え直す機会になると。
 江澤もそう、思います。
Dr.:  次回はヘレンが、それら五感を活かしてサリバン先生やグラハム・ベルと交流し、世界を拡げて行ったエピソードについて、ご紹介したいと思います。

 2012年6月、当院の開院20周年記念講演会にて、院長の大先輩である田中美郷先生(帝京大学名誉教授)を演者にお招きしました。
 田中先生は講演の中で「難聴児療育は、物事を教え込むのではなく、その子の内なる可能性を引っ張り出す事」が重要と説かれていました。
 詳しくは、3443通信No.211等をご覧下さい。

http://www.3443.or.jp/manga/manga/mangatop12.htm

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