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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

日本医学ジャーナリスト協会特別講演レポ3エボラ・デング・エイズ感染症流行と制圧のA面とB面

 3443通信№244・245に続き、医学コミック「カラオケポリープは踊る」にご出演頂いた國井修先生による、感染症対策のお話をご紹介します。

エイズによる平均寿命の低下

(図1) (図1)

 1990年代、国の平均寿命がエイズの影響で20歳も下がってしまう、そんな国が沢山でてきたんです(図1)。

マラウイのエイズ遺児

(図2) (図2)

 図2はマラウイという小さな国では60万人のエイズ遺児がいます。エイズで親を亡くし、学校にも行けず、食料もない。小学校では遺児たちの為に食料配給をしています。

世界基金の創設

(図3) (図3)

そうした事態にG8は、2000年の沖縄サミットで感染症に対する世界的な取り組みを提唱し、その後たった1年半で世界基金が誕生しました(図3)。本来、そういった国際的な機関がこんな短時間で作られる事はまずないんですね。

僻地への医療支援

(図4) (図4)

 こうした機関を作るには資金集めとその後の維持が重要です。しかし、その資金も現場に流していくには大変な努力が必要です。
 例えば、図4は結核の薬を村まで運ぶ時の様子です。その薬も目の前で飲ませないとダメで、最近では薬をきちんと飲まないために多剤耐性菌が出てきました。
 もしアメリカでこの多剤耐性菌を新薬で治療しようものなら、1年で5千万円位かかります。でも、日本では確か400万円位です。

ネパールのボランティア

(図5) (図5)

 図5はネパールです。ネパールでは地域のボランティアが山奥まで出向いて診断しており、こうした事はとても大切ですね。

奇跡のルワンダ

(図6) (図6)

 図6はルワンダです。家庭にテレビがないので移動式スクリーンで健康教育をしています。
 この国も昔は情勢不安定でどうしようもなかったんです。しかし、今の政府はたくさんの努力をしてアフリカの奇跡とも言われる程の体制を作りました。
 政府がしっかりと腐敗などを抑え、援助を有効に使おうとしていました。そういう国にはきちんとした支援を行います。

インドのHIV患者

(図7) (図7)

 図7はインドでHIVにかかった女性の講演風景です。インドではHIVは差別の対象になります。
 HIVやエイズ患者は鬱になったり、仕事の解雇や、家から追い出されたり色々なことがあるんですね。ですからむしろそういう人たちを集めて、どうやって人生を生き抜き、闘っていくかを考えてもらうんです。

HIVの母子感染

(図8) (図8)

 図8は、女性から子どもへのHIV感染を防ぐ講演会の様子です。これはきちんとした薬を使い、色々な対処をすれば本当はゼロにすることができるので、これを徹底的に教育していきます。

同性愛者のHIV

(図9) (図9) (図10) (図10)

 図9はミャンマーの同性愛者たちです。昔は、こういう人たちが議論をしたり、勉強したりというのは考えられませんでした。
 私が赴任した時には政治も変わり、援助を受け入れて有効に使おうという動きが出ていたんですね。
 図10は、コマーシャルセックスワーカーの人たちです。
 皆さん結婚後に家庭内暴力などを受けて家を飛び出したけど、収入も無く家賃も払えない(私がいた時代の約5倍)など、様々な理由があって今の仕事をしているんですね。
 こうした人達が集まって発言するなんて、4~5年前までは考えられなかったんです。

薬物中毒の問題

(図11) (図11)

 図11もアフリカの薬物中毒の患者さんですね。
 薬物問題は難しく、タイなどでは薬物中毒者は殺したり、または終身刑となるような事もあり得るんです。
 私もライブハウスなど色々なところで調査しましたが、実は終身刑を適応している国はいくつかあるんですけれども、逆に薬物中毒を犯罪化してしまう事により、その実態が見えづらくなってかえって拡大が進んでしまうんです。

感染の温床

(図12) (図12)

 図12は刑務所ですが、発展途上国の中にはひどい仕打ちをうけている人たちがいます。
 換気もなく、人口密度も高く、栄養状態も悪い。このような環境で一人でも結核感染者がいればあっというまに感染が拡大します。
 こういう人たちには治療も予防も何もしない国が多いので、我々グローバルファンドにとっての対象となります。

秘密のカウンセリング

(図13) (図13)

 東欧の国は中所得者が多いんですが、昔の厳しい社会主義が今でも残っているんです。
 もともとロシアに所属していた国は決められた産業しか開発がされず、独立後に経済が成り立たない国が多くあったんです。ある国は綿花の製造、ある国は天然ガスの製造という様に完全に分かれていました。
 図13はウクライナのストリートチルドレンのカウンセリング風景です。こういう人たちがアンダーグラウンドに行き、そこでHIVが広がったりします。
 なので、警察の目に付かない様に夜の現場でカウンセリングや検査をします。こういった地道な努力をやっていかないと駄目ですね。

グローバルファンドの効果

(図14) (図14)

 グローバルファンドに求められていることは「結果」です。お金を集めることではなくて、結果としてどう変化したのかをアメリカ、イギリス、日本といったドナーが求めるんですね。そういったドナーがまずプッシュします。
 これは今までの国際機関とは違い、結果を出したらお金を出すという徹底した成果主義です。
 図14のグラフは、グローバルファンドが対応した成果です。
 エイズの治療薬はとても高く、HIVの患者さん1人当たりの1年間にかかる費用は200万円位です。
 グローバルファンドが出来た当時、私は外務省に在籍していまして、その時にエイズの治療薬にお金を使うと決まったのですが、私はそれに反対したんです。
 つまり、200万円のお金があったならば予防接種で助けられる事がたくさんある。他にも色んな介入方法があるので・・・・・・。
 まぁ。この時期に重要だったのが治療薬の単価が下がっていった事。対応しなければ、グラフにある様にすごい数の人たちが亡くなってしまう事でした。今でも1日当たり4千人がHIVで亡くなっていますが、その当時は1日当たり6千人位が死亡していました。
 最終的にエイズ治療薬の価格は患者1人の1年間当たりの費用が200万円から1万円にまで下がり、グローバルファンドが関わっただけでも600万人以上に薬を渡す事が出来ました。

ボツワナのエイズ被害

(図15) (図15)

 我々が努力した結果、2000年~2001年位に、ボツワナのエイズ死亡者は劇的に減少しました(図15)。結果が見えていたんです。
 しかし結果が見えない国もあるんですね。そういう国はどうしたら良いか?

エチオピアの病気死亡率の変動

(図16) (図16)

 昔、エチオピアという国は干ばつによる食料不足で100万人以上が亡くなる様な国でした。
 しかし私がソマリア在住の時には、様々なセーフティネットが広がっていたので、干ばつからくる栄養失調で亡くなるという事はなくなりつつあります。
 例えばケニアの奥地に行くと大干ばつがあったりします。でもケニア政府が備蓄した物を援助し、最悪の状態になる前に抑えてしまいます。
 あと、人間の強さも侮れません。必要最低限のレベルを確保できれば水・食料がなくても生きています。その最低限のレベルの確保が問題なんですけど。
 それが昔のソマリアや、1980年代のエチオピアでは確保出来なかった。それは政治的、内政的な理由からくるストラクチャーな問題があって、より多くの人が亡くなるんですね。
 今のエチオピアはすごく改善され、HIV死亡率が50%近く、結核の死亡率は30%近くも下がり、これは我々も予測していなかった事でした。
 当初はグローバルファンドなんて作っても、HIV死亡率なんかそんなに変わらないんじゃない? と言われていたんです。それが図16のように本当に結果が出たんですね。
 ただ、これは2003年~2012年の約10年の間に、1年で12億ドル(1200億円)の予算を投入しました。だいたい1つの大学の年間予算なんですね。
 たしか東京大学で2000億円とかでした。総合大学で1000~2000億円でしたか、もし間違っていたら訂正して下さい。
 その位のお金で、エチオピアという大国であってもこんなに回復するんです。
 逆に言うと、援助だけではなくて努力が大事なんですね。昔、アフリカで仕事をやっていた時に、援助でこの国を良くする事は無理だと初めは思ってました。しかし、やはり継続する事が大事なんですね。そしてどこにお金を使うか、どのように変えていくか、ビジョンや計画を立てていかなければならない。

カンボジアへのマラリア対策

(図17) (図17)

 我々が今やってるのは厳しい予算の中でどう効率を上げ、データ、情報、エビデンスを整え、感染のホットスポットの詳細を調査してお金を投入し、そしてその結果をキチンと測定していく事です。
 お金は無尽蔵にある訳ではなく、今や欧米はご承知のように経済的な問題等もあり、他の国連機関の予算は20~50%近く予算を落とされています。
 しかし幸いなことにグローバルファンドは、昨年ホワイトハウスでオバマ大統領は投資家たちに対して「他は減らしても、ここには出してくれ」と言っているんですね。それは何故かと言うと結果を出しているからなんです。
 逆に言うと我々は事務局に居て「結果を出さなければならない」と必死にやるんですね。
 カンボジアの例で言うと(図17)、2つの大きな地域に殺虫剤を染み込ませたベットネット(蚊帳)を大量に配ります。
 青いグラフの地域には1家庭にベットネットを2つ位配り、お母さんや子供はそこで寝てもらいます。それによってマラリアの症例が劇的に減少しています。
 その後、赤いグラフの地域にまたベッドネットを配ると、赤い地域の感染率も格段に下がっています。
 これは殺虫剤を染み込ませた蚊帳に人間の体温や二酸化炭素を嗅いで集まる蚊を無力化できるからです。これによって原因となるマラリアを媒介する蚊の数が減ります。
 私も、最初はあまり大きな効果はないだろうと思っていました。ところがアフリカのザンジバルやタンザニアの奥地など、1年間で6回位マラリアに罹る場所で実施したら、感染者数がグッと減ったんですよ。
 今では、ザンジバルでマラリアが蔓延していたなんてのは信じられません。
 ただ逆に、マラリアが減ったことで免疫力のなくなった子供が感染すると症状が重くなるんです。これは紛争などで人が移動すると起きる問題です。
 いずれにしろ、こういったデータをキチンと集める。

東アフリカにおける妊婦のHIV陽性率

(図18) (図18)

図18は、東アフリカの妊婦さんを対象にHIV陽性率を測った結果です。国によって全然違うんですね。
 例えばザンビアやジンバブエは多いところで30%以上の女性がHIVに感染していますが、ケニアでは1~2%です。
 何が言いたいのかと言うと、こういったひどい状態の所にお金を投入し、回る為の仕組みを作っていく必要があるんですよ。

ケニアのHIV感染

(図19) (図19)

 図19のケニアを見ても、ウガンダなどの国と接触している西側はHIV陽性率がすごく高いが、そうでない地域もあります。なので、満遍なくHIV対策をするのではなくて集中的に投入した方が効率が良いんですよ。

予算の効果的投入

(図20) (図20)

 いま我々はインペリアルカレッジやホーキンス、ハーバード大学などのアカデミアと一緒に仕事をしています。
 大学の先生方は色んな論文をたくさん書きます。しかし、それがポリシーに使われることは少ないので、エビデンスをきちんと見せて、どこに問題があり、どこにお金を掛けなくてはいけないのか、計画の段階でそういう事を議論します。
 図20はHIVのPrevToolと言うんですが、どういった所にお金を掛けていくと多くの人たちを助けることができるのかを視覚化したものです。

ケニアの将来予測

(図21) (図21)

 図21はケニアの例ですが、従来のような介入方法では水色線のようなゆるやかな現象効果しか予想されません。ところがHIV陽性率の高い地域、リスクの考えられる地域へ集中的に予防や治療を行う事によって、赤い線のようにもっと感染を抑えることができるのです。

薬価の低価格化

(図22) (図22)

 図22は先ほど言った薬の値段が下がっていくグラフですね。

リスク管理  

(図23) (図23)

 もう1つ必要なのがリスク管理です。国ごとに様々なリスクがあり、それはゼロにはなりません。その事を初めから頭に入れておかねばいけません。
 例えば、援助した薬の内5%は所在不明となる物だと考える。
 またデータのクオリティが非常に悪い国は、早いうちからデータクオリティを良くする為にお金を投資します。
 また、HIV診断のレポーティングをしていない、薬のガイドラインにそった治療をしていないなどの色んなリスクをマッピングして、その国にあった計画をプランニングします(図23)。

財務管理と自己負担

(図24) (図24)

 もう1つ大切なのは、自立性を持続させる方法です。
 昔、JICAで仕事をしていた時に持続可能性について話し合ったのですが、5年間のプロジェクトでその国が独立して問題解決していくのなんて無理なんです。だから初期段階で持続性を維持するのではなく、中・長期的なスパンで持続性が上がる方法を考えていき、そのプランをその国が自立的に実施していく事が必要ですね。
 その持続可能性で一番必要なのがお金です。
 まず、国の収支の15%位は保健医療にかけてほしい。その15%中の何%かをHIV・マラリア対策に当ててほしい、といった方策を提言していきます。 これは、我々がお金を払う段階の時に交渉するんです。
 出来ないようなら投資をやめるか、一部遅らせる等という事をします。
 それでも全体的に資金不足になるので、その国のエイズや結核、マラリア対策に対して、国とドナーがどの程度のお金を出し、使われているか等を調査します。しかしほとんどの国はわからないんですよ。
 保険屋さんはわかりますよ。
 例えばミャンマーでは1人当たりの保険金は300円以下で、国としては100円以下です。
 普通は最低でも1人当たり3~4千円以上は保健医療にかけますが、そういう国では海外からの援助に依存しますので、自己負担率をどのように上げていくかを算出して見ていきます(図24)。

個別の疾病対策とシステム作り

 まずエボラ対策ですが外交上においても重要ですので、例えば防護服の使いまわしをして感染を拡大させないよう2万着ほど日本から提供すれば喜ばれるかも知れません。
 ただ、新しい病気は2~3年で出てくるので、エボラにしても局地的なアウトブレイクのみに焦点を当てるのではなく、それは全体の計画の中の一部として考えて計画していきます。
 最近の調査では、HIVの根源は1920年頃のコンゴ民主共和国に住んでいたチンパンジーが発祥ではないのかと言われています。
 その後1981年にアメリカで感染報告がでましたが、それ以前の1960年頃の中央アフリカの一部ではHIVが流行っていましたね。
 ただ、現地では眠り病や熱帯病など様々な病気がありすぎて、多少の調査では分からなかったんです。それでも変な病気があるとは言われていました。
 こういった途上国にいてシステムを作る事は、結果として日本の人々を守ることに繋がっているんです。それは遠いアフリカで起こったエボラが、現実の危機として日本に近づいている事からも理解できるかと思います。

短期と中長期的対策・計画

 常に最悪の事態を想像し、それに対する対策を行うことがリスク管理の基本です。起こらないと思うのではなく、起こる事を想定して対策をとります。
 ただ、それ以前に途上国には水や食糧などのインフラも大切です。しかしそれは無理ではないんです。できるんです。100万人の虐殺があったルアンダや、医者が300人ほど殺されて生き残ったのが約20人ほどだったカンボジアでも今のシステムができています。
 必ず変わるのです。ただ変わる姿をいつまでどのように変わるのか、ロードマップを描かなければいけません。
 例えば、事前に5年のプランを完璧に立てることは難しい。私たちは6ヶ月ごとにプランの見直しを行い、これで良かったのか? 結果は出たのか? 結果が出なかったらなにが悪かったのかを考えて、微調整をしながら5年間を作っていきます。

エビデンス・データ・情報

 エビデンスのデータには質も大事ですが、お金をかけることも大切です。これは見過ごされてしまうんですが、各国に計画を立ててもらう時には、予算の5~7%はデータの管理・報告するシステム作りをしてもらうようお願いしています。
 しかし、多くの国々では治療薬や診断薬が足りないという事で、それが延ばし延ばしになってしまうんですね。仕方ないので、事務局でお金を貯めておき、世界全体でデータが十分に管理されていないところに投資します。
 資金は不足しますので、投資した代わりにその国のグラウンドを貸りるという触媒スタイルで行っていきます。

戦略的パートナーシップ

 協力・連携は大切だと言いますが、みなさんご承知のようになかなか難しいですね。ジャーナリスト同士でお互いに情報を共有しましょうと言っても、重要な情報は共有しなかったり、医者同士でも自分の領域を守ったりする。これは普通です。
 それは援助の世界でも同じで、あるNGOは自分の旗を揚げるために他と協力をしません。例えば、難民キャンプでそこでもし他の患者さんを診る十分なキャパシティがなかったとしても、他のNGOを入れずに、そのNGOだけに資金が集まるようにします。
 人間ですから様々ありますが、パートナーシップというのは口で言う程簡単ではないです。
 僕が国連にいた時も、国連内部で連携するとなるとお金の取り合いになったりして大変でした。
 グローバルファンド自身では政策を実施せず、現場にオフィスは絶対に作りません。なるべく事務局の数を少なくします。
 元々40人程度だったのが、規模の拡大に伴い今では600人程いますけれども。
 海外との往来も多いですが、現場で実際に働いて実施するのはあくまで現地の政府です。
 大事なのは現地の人たちのカントリー・フォーメーション・メカニズム(以下CCM)というものを作り、他国が介入できないような組織を作らないと我々は認めないというメカニズムを作る事です。その理由は、中国・インドといった、お金は全部自分のところに流れるようなシステムを作ってしまうところもあるからです。
 私たちグローバルファンドは皆さんのサポーターです。主役は現地の政府であり、WHOやユニセフであり、市民社会です。

日本の人材育成

 国際的な動きの中に日本人が本当にいない、見えないのです。
 私の医局の中で様々なポストが空くのですが、部課長クラスなかなか入れない。また、入れないからその仕事も出来ず、ポストが空きっぱなしになるという悪循環があります。
 これは、日本人が海外でそういった現場でどんどん働き、経験を積んでいくしかありません。
 日本ではそういう機会は少なく、出ていきたいと言う人はいても、キャリアパスがうまくできていません。
 最終的には、人材育成は教室で理論を教えていても仕方がないので、現場で肌で感じて、学び、悩んでやっていくしかない訳です。
 今回のエボラ流行などはリスクは高いですが、私はそういった現場で学ぶ事がすごく多かったです。
 これからも若い人にはどんどんと外に出て行って欲しいと思っています(図25)。

(図25) (図25)

(図26) (図26)國井Dr.(中央)と院長夫妻