3443通信 オンライン  
みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

第45回平衡機能検査技術講習会レポート 看護課 浅野美紀

はじめに

(図1) (図1)

 2015年7月13日(月)~17(金)の5日間、日本めまい平衡医学会主催の第45回平衡機能検査技術講習会に参加させていただきました。
 今年は東京日本橋にある興和株式会社の11階で行われました(図1)。
 東京は猛暑日が続き、厳しい夏も体験してきました。
 それでは講習会で学んできたことをご紹介します。

1.平衡機能とは

(図2)姿勢の受容器 (図2)姿勢の受容器

 身体のバランスをとる機能のことです。
 いろいろ複雑な動作を私たちは常に行い、日常生活上、考えることなく維持しているが、これにはどのような機能が必要なのであろうか?
 まず、自分の位置が地球(重力)に対してどのような位置関係にあるのかを感知する必要があります。次に、重心に対してどのくらいずれたり傾いたりしているのかを感じます。その感じには、ずれの幅とずれてゆく速度と方向などを複雑に感じる必要があります。このように感じ取った重力方向からのずれを元に戻してやることが必要であり、ずれの方向と逆方向に同じような方法で、方向と位置を読みとって戻しています。
 では、私たちはどこで位置や姿勢を感じているのか? その感覚器は受容器と言われています (姿勢感覚受容器、図2)。
 人には(生き物全てであるが)生命維持のために様々なセンサーが存在します。血圧や体温、電解質、ホルモン…等々、多くのセンサーが体内で正常に働き、すべての機能を正常にコントロールしています。姿勢のセンサーは、視覚、内耳(前庭)、深部感覚の3つです。この3つのセンサーが、互いに情報を脳に送っています。視覚情報は、周囲の景色と自分の姿勢を常に合わせ、動きや傾き周囲の状況を比較しています。内耳前庭は、頭の動き、傾きを常に重力との関係で感じて、動きの位置や方向、速度・加速度情報を送っています。
 このように3つのセンサーが動きの変化を常に感じその信号は前庭神経を通って脊髄、脳幹、小脳、大脳に送られています。
 送られた信号は各中枢で、必要に応じて信号処理され脊髄を通して各骨格筋に送られ、筋肉の伸び縮みを制御し、常に意思通りに姿勢を保つよう、その信号の強さがコントロールされます。骨格筋への信号は、反射によるものと意志によって制御されるものが混在して送られています。普段は、意識せずに姿勢は制御されているが、意識的に姿勢を崩したり、様々な姿勢をとろうとする意志が姿勢を作ることもできます。しかし、その姿勢や運動を維持させるためには意志と反射の共同の働きが必要であります。このように複雑なコントロールによって私たちは姿勢を維持することができています。

2.耳の構造

耳は外・中・内耳の3つの部分から構成されています。内耳には聴覚を司る蝸牛と平衡を司る前庭系で構成されており、側頭骨の中にあります(図3)。
※蝸牛‥音を感知するセンサー
 音読みで「カタツムリ」であり読んで字のごとく、カタツムリのように渦を巻いています。この蝸牛に入る音は外耳の奥にある鼓膜が音刺激で振動し、鼓膜の裏にある耳小骨で音が拡大されて、蝸牛に入ります。蝸牛に入った音刺激は内耳の有毛細胞が興奮して、神経を通じて電気信号に変換され、脳へ伝搬されて、音として認識されます。
※前庭系‥平衡を司る器官。
 前庭系は、回転角加速度の受容器である三半規管と、直線加速度(重力)の受容器である耳石器で構成されています(図4)。

(図3)耳の構造 (図3)耳の構造

(図4)三半規管 (図4)三半規管

○三半規管

(図5A)三半規管の膨大部 (図5A)三半規管の膨大部
(図5B)三半規管の膨大部 (図5B)三半規管の膨大部

 内耳の前庭につながっており、半円形をしたチューブ状の3つの半規管の事です。
 「前半規管」「後半規管」「外側半規管(水平半規管)」は、それぞれがおよそ90度の角度で傾いており、三次元的なあらゆる回転運動を感知することができます。なお、前半規管と後半規管は、膨大部でない方の片脚側が接合した総脚となっています。
 半規管の外側は骨でできており、そのすぐ内側に膜がある。それぞれ内耳の骨迷路・膜迷路の一部を構成しており、膜迷路の内部はリンパ液で満たされています。これら半規管の片方の付け根は膨大部となり内部に有毛細胞(感覚細胞)がある。その感覚毛はクプラ(膨大部頂)で結束されています(図5)。
 頭部が回転すると、三半規管も回転し、内部の液体であるリンパ液が流れるとクプラも動き、それに付随した有毛細胞が刺激されることで、前庭神経から脳に刺激が送られ、体(頭部)の回転が感知できるしくみとなっています。

○耳石器

(図6)耳石器 (図6)耳石器

 耳石器には卵形嚢と球形嚢があり、これらには、それぞれ平衡斑という前庭神経の終末器官があります(図6)。平衡斑には、半規管と同様に有毛細胞が並んでいる感覚上皮があり、この表面にゼラチン様物質からなる耳石膜があり、感覚毛を包んでいます。この膜の表面には炭酸カルシウムからなる結晶状の耳石が載っています。耳石は、内リンパ液より比重が重いので、直線加速度が加わると、耳石は取り残され、耳石膜が動き、これが有毛細胞の感覚毛を屈曲することにより、有毛細胞を刺激します。卵形嚢と球形嚢の平衡斑は互いに直交していて、卵形嚢ではほぼ水平面内にあって感覚毛が上方を向き、球形嚢では矢状面内にあって感覚毛が外側を向いています。そのため、エレベーターの昇降など上下方向の直線加速度は球形嚢が、電車などの水平方向の直線加速度は卵形嚢受容器として働いています。
 このように、私たちは視覚系・耳石器半規管系の前庭系、深部知覚系の3者からの情報が、小脳、脳幹を中心とした中枢神経系で統合、制御され保たれています。しかし、その何れかに障害が発生すると平衡の維持や、運動の円滑性が難しくなりめまいとして訴えることとなります。

3.めまいとは

 静止している周囲のものが、いろいろな方向に動くように感じたり、直立の姿勢を保とうとしても、それが困難な状態がめまいです。
 めまいと一口に言ってもその性状は回転性(グルグル回る)、動揺性(グラグラ揺れている感じや、フラフラする感じ)、浮動性(フワフワする感じ)、眼前暗転感(立ちくらみ)、平衡障害など様々です。一般的にめまいというと、目が回るという回転性めまいを想像する方が多いと思います。この回転性めまいの発作中には眼振(眼の揺れ)が観察されます。めまいの診察では眼振の観察とその診断が重要となります。
 めまいは平衡機能に関わる神経系障害により起こり、末梢前庭障害による末梢性めまいと中枢前庭障害による中枢性めまいに大分されます。

4.末梢性めまい

(図7)末梢性めまい (図7)末梢性めまい

 めまいの多くは末梢性めまいで、回転性めまいが起こるのが特徴であります(図7)。
 それでは、どのような疾患があるのでしょうか?

○良性発作性頭位めまい症(BPPV)

(図8)エプリー法 (図8)エプリー法

 末梢性めまい疾患の中で最も多く、加齢や外傷によって耳石が三半規管に入り込み、回転性めまいや動揺性めまいを生じる疾患です。難聴は伴いません。
 三半規管の中でも後半規管が原因で起こることが最も多いと言われており、治療法としては、当院でも行っているエプリー法などがあります(図8)。
 この方法は、頭や体を動かすことによって半規管に入り込んだ耳石をもとの場所(耳石器)に戻す方法です。

○メニエール病

 激しい回転性めまいと、難聴・耳鳴り・耳閉感の4症状が同時に重なる症状を繰り返す疾患で、内耳のリンパ液が増え、水ぶくれの状態になっていることが原因のようです。

○前庭神経炎

 激しいめまいが突然おこる疾患。耳鳴りや難聴などの症状は全くないのが特徴です。

○突発性難聴

 特別の原因なしに突然、耳の聞こえが悪くなる疾患。

5.中枢性めまい

 めまいを来す中枢の病変は、通常脳幹か小脳に存在します。脳幹は大脳や小脳よりも小さいので、平衡維持のための神経機構と他の運動や感覚を司る神経機構が、特に近接して存在しています。従って、脳幹の障害によりめまいが生じた場合には、運動や感覚の神経機構も一緒に障害され、麻痺やしびれなどのわかりやすいめまい以外の神経症候を伴います。
 小脳が障害されると、小脳性運動失調が出現します。ただし、四肢の測定障害や構音障害(呂律が回らない)などの症状がみられるのは、小脳上部の障害の時のみであります。小脳下部の障害では、四肢の測定障害や構音障害は来さない代わり、補正の効かない体幹失調、つまり起立・歩行障害が出現します。
 疾患には、脳出血、脳梗塞、脳腫瘍、聴神経腫瘍、脊髄小脳変性症などがあります。

6.心因性めまい

 心因性めまいは、精神的なストレスや何らかの心理的な原因によっておこるめまいです。
 めまい診療で大切なことは、生命予後や神経系機能障害に関係する中枢性めまいを見逃さないこと、末梢性めまいを的確に診断することにあります。問診にてめまいの性状、背景因子、随伴症状などを
正しく評価すること、眼振検査、体平衡検査、聴力検査、画像検査などを駆使してめまいの責任病巣の診断を行うことが大切となります。
 それでは、当院で行われているめまい検査についてご紹介いたします。

①聴力検査

耳の聞こえをみる検査。

②遮眼書字検査

(図9)遮眼書字検査 (図9)遮眼書字検査

書いた文字で、めまいの程度と原因をみる検査。眼を開けた状態と目隠しをした状態で書いていただき、文字のゆれと曲がり具合を比較します(図9)。

③重心動揺検査

  体のふらつきをみる検査。めまいの原因が、耳なのか脳なのかを判断する目的があります。眼を開けた状態と、閉じた状態での体のふらつきを比較します。足元のセンサーでふらつきの程度を記録し、解析します(図10)。

(図10)重心動揺計 (図10)重心動揺計

④視標追跡検査

 眼の動きをみるカメラをつけた状態で、目の前を動く目標を眼で追います。脳幹および小脳障害の診断に有用です。目標をスムースに追うことが出来れば、耳からのめまいである可能性が高くなります。

○視標追跡検査(ETT)
 左右に動く目標(×印)を眼で追います。

○視運動性眼振検査(OKN)
 同じ速度で流れる縦棒を眼で追います。

○視運動性後眼振検査(OKAN)
 段々と早くなる縦棒を眼で追います。

⑤眼振検査

 眼の動きを観察する検査。
 赤外線カメラを装着して眼の動きを調べます。めまいがあると、
特徴的な眼の動き(眼振)がみられ、めまいの原因や程度を知ることができます。めまいの経過をみるうえでも重要な検査になります。

⑥温度刺激検査(カロリックテスト)

(図11)耳に冷風をあてます (図11)耳に冷風をあてます

 外耳道に冷水や温水を注入して、外側半規管の内リンパ流動を起こさせ、これによって誘発される眼振を調べます。
 左右の前庭機能を比較する検査です。機能が低下する程、眼振が起こらなく(めまいが起こらなく)なります。ちなみに講習会では、エアーカロリック(冷風)を体験してきました(図11)。ふわふわしためまいがし、一時的に気持ち悪かったです。

7.まとめ

(図12)受講証明書 (図12)受講証明書

 めまいの検査の中には、めまいを誘発する検査もあり、辛い思いをするかもしれません。しかし、めまいの診断の為には重要で、私たち検査を行う側は、患者さまに安心してなるべく負担をかけずに行うために、わかりやすい説明や、安全な環境づくりに努め、正確な結果が出せるよう頑張りたいと思います。
 今回の講習会では、貴重な経験をさせて頂きました。今後、現場で活かして行けるよう努力いたします(図12)。