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2021年8月(No.318)

映画「薬の神じゃない」レポ

秘書課 菅野 瞳

 

はじめに

我等が院長お勧めの映画第2弾です。

2014年に中国で実際に起き、中国医薬業界の改革のきっかけになったジェネリック薬の密輸販売事件(通称:陸勇事件)。その事件を映画化したものがこの映画です。

あらすじ

お金の工面に困った主人公(チョン)が、血液のガンである白血病の治療薬の密輸に手を染めることから、この映画は始まります。
 この時の彼には、義侠心も正義感も共に皆無でした。ただお金のためだけに始めた密輸事業ですが、中国国内では認可されている治療薬が非常に高価なため、安価で成分が同じインドのジェネリック薬を求めて白血病患者が殺到します。期せずして主人公は、白血病で苦しむ患者の救世主となってしまいます。
 より多くの薬を仕入れる為、チョンは密輸グループを結成しますが、この面子がまた個性豊かで目を惹きます。長い髪を貯え、三重マスクがトレードマークのリュ(後にこのマスクが感動を呼ぶ伏線になりますが、彼は白血病患者です)、白血病の娘を持つポールダンサーの美女。そしてまさかとは思いきや、英語の通訳者として活躍する牧師、無口でありながらチョンを兄のように慕う茶髪ヘアの若者。この5名でタッグを組んで治療薬を捌いていくのです。

そんな中、警察の捜査の手が伸びてきます。事業をストップせざるを得なくなった途端、患者たちに命の危険が迫り、白血病を患う仲間の一人も家族を残し自殺をしてしまいます。
 慰問に訪れたチョンは、事業をストップさせた罪滅ぼしもあったのでしょう。事業をリスタートさせる決断をするのです。国は貧乏人の命を救わない、救えるのは自分だけだと、自ら犯罪者となり公徳心を貫いた主人公に、私は尊敬と拍手を送りたいなと思いました。

後に主人公は、詐欺罪で逮捕されて懲役5年の実刑判決を受けます。
 裁判後に、護送車に乗った主人公を大勢の患者たちが感謝の意を込めて見送ります。
 感染症を恐れて、患者は皆マスク姿なのですが、護送車が自分の前を通過する時にだけは、主人公への敬意を表してマスクを外すのです(先に挙げたマスクが呼んだ感動の伏線がこれです)。

誰と示し合わせた訳でもなく、ただ純粋に彼を想い、皆々が取ったその行為に、泣かされます。

陸勇事件とは

映画内では触れられていませんが、この映画の元ネタである「陸勇事件」では、主人公が起訴をされた後、数百名の白血病患者・市民関連団体から裁判撤回を要求するデモが発生したのをきっかけにして、彼は釈放されます。
 彼の犯した犯罪という偉勲により、慢性骨髄性白血病の生存率は、当初30%だったものが、本作で登場した特効薬のおかげで85%にまで向上したのだそうです。

またこの事件をきっかけに中国でも健康保険が成立し、今では庶民でも手の届く価格でこの薬は入手できるようになりました。個人の力が患者たちを動かし、国家を巻き込んで社会環境を変えた……これこそが、主人公が成し遂げた最大の功績ではないかと思います。

人は、知らず知らずに他人を貶めることがあります。それとは逆に、知らず知らずに他人に善を施している時もあります。
「情けは人の為ならず」とはよく耳にしますが、この諺に続きがあるのをご存知でしょうか?
「巡り巡って己(おの)が為」。情けは相手の為だけでなく、自分の為でもある。この諺を地でいく感動作に出合えました。

図01

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