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みみ、はな、のどの変なとき

70 アレルギー性鼻炎の治療

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先に少し予防的治療について触れましたが、ここではアレルギー性⿐炎になってしまった⼈、あるいはその発作に悩まされている最中の⼈の治療を取り上げます。

アレルギー性⿐炎の治療は⼤きく分けて、アレルゲンに⽬を向ける原因療法(「クサイ臭いは元からたたなきゃダメ︕」というやつです)と⿐症状に着⽬する対症療法とに分類されます。

原因療法として、⼀つには減感作療法があります。これはきわめて簡単に述べれば、アレルゲン(アレルギー反応の原因となっている抗原)を少しずつ体に投与し、体をそれに慣らそうというものです。この⽬的で現在は、アレルゲンのエキスをごく微量注射し、徐々に注射量を増加する⽅法がとられます。この治療法が成功すれば、もちろんアレルギーの症状はとても軽くなります。ただ最⼤の難点は、週1〜2回の注射を何年か続けねばならないことです。忙しい現代⼈には少しキツイな、という感じもします。それに季節性のアレルギー性⿐炎、つまりスギ花粉症などでは、シーズン以外には症状が出ないので、治療の意欲が薄れがち、との現実も無視できません。逆にダニやHDのアレルギーでは、住環境の整備で家族全員がアレルギーから解放されます。それなのに、減感作療法では受けている⼈ただ⼀⼈改善して来るだけで、他の家族のアレルギーは全員粛々と進⾏して⾏くとの⽭盾もあります。

また転地療法に代表されるような、原因となっているアレルゲンを隔離するやり⽅もあります。もちろんこの⽅法は、誰にでも可能という訳ではありません。けれども例えばダニやHDのアレルギーで、住環境を整える、まめに掃除機をかける、天気の良い⽇には布団を外で⼲す、それだって⽴派な原因療法です。もっともこの際注意して頂きたいのは、ダニやHD以外に花粉に対するアレルギーのある⽅の場合です。晴れた⽇には花粉の⾶んでいることも多いので、そんなときに部屋の換気を良くしようと窓を開け放ったり布団を⼲したりすると…… 。そうです、花粉が部屋や布団に⼊り込み、夜になってからアレルギー性⿐炎の発作に悩まされることになるのです。その時・その状況に応じた判断も、それは重要なのでしょう。

また布団⼲しは⽇の⾼い時刻に⾏い、遅くとも午後3時頃には布団をしまう必要があります。それ以降ですと、気温が下がり相対湿度が上昇しますので布団は湿り、却ってダニが⽣息し易いようになります。対症療法として、内服による⽅法と点⿐薬(⿐の粘膜に直接塗布する⽅法です)とがあります。

内服薬は現在、抗アレルギー剤と呼ばれる薬が主流で、それに抗ヒスタミン剤というアレルギー症状を抑える薬、それに時によってステロイド剤が併⽤されます。抗アレルギー剤というのは、アレルギーの化学反応を抑制する作⽤を持つ薬剤のことです。この抗アレルギー剤は、継続して服⽤すると効果が⾼まりますし、花粉症ではシーズン前の内服で予防的な効果が確認されています。シーズンに⼊ってから飲み始めるとやはり後⼿に回るようで、効き⽬は少し薄らぎますけれど。その意味でこの抗アレルギー剤、通年性のアレルギー性⿐炎では普段から、季節性のアレルギー性⿐炎ではシーズン前から、内服しておくと良いようです。

ところで抗アレルギー剤にまつわるエピソードを1つ。南天という植物から開発された抗アレルギー剤は、むかし⿂料理に必ず南天の葉を添える習慣があった、その事実にヒントを得て成分の研究が始まった、と⾔われます。⿂の痛むのが早かったいにしえ、⾷中毒を防ぐ先⼈の知恵だったのだろう、という訳です。
 むかしの⼈は偉かった、のでしょうね?

抗アレルギー剤とともに良く⽤いられる薬に、抗ヒスタミン剤があります。この薬剤はアレルギー性⿐炎の臨床症状を直接引き起こす、ヒスタミンという物質の作⽤を妨げるもので、速効性があります。したがってアレルギーの予防作⽤はありませんが、⼀旦発症した⿐症状を速やかに治めるには最適です。それに、以前は抗ヒスタミン剤と⾔えば眠くなるものがほとんどでしたが、最近は眠気の⽣じないタイプが主流となっています。こうして抗アレルギー剤と抗ヒスタミン剤の併⽤で、アレルギー性⿐炎のほとんどはかなり楽になるようです。

ただ、余りにアレルギーの症状のひどい場合には、副作⽤覚悟でステロイド(副腎⽪質ホルモン)剤配合の抗ヒスタミン剤を、⼀時的に使⽤することもあります。この薬はすごく効き⽬が強いので、頓服薬として短い期間のみ服⽤します。⻑期に使⽤すると、ステロイドの副作⽤が⼼配です。他の抗ヒスタミン剤に較べ、眠気がひどいという問題点もありますし。

内服薬以外に、点⿐薬の使⽤もお勧めできます。点⿐薬には、⿐粘膜収縮剤(⿐づまりを改善する薬)・抗アレルギー剤・ステロイド剤などがあり、症状に応じて処⽅されます。なお、点⿐薬として使⽤されるステロイドは、内服薬とは異なり体内に吸収されにくいタイプです。副作⽤も⽬⽴ちません。⻑期的な使⽤はともかく、アレルギー症状のひどい時期に効果的に活⽤すべきかと思われます。

アレルギー性⿐炎に対する⼿術も、最近盛んになって来ました。これは例えばごく弱いレーザーで⿐粘膜の表⾯を焼灼し、アレルギー反応の場となっている感作された⿐粘膜の⼀部を刮げ落としてやります。すると、その粘膜が再⽣し再び感作されるまでアレルギー発作が⽣じにくい訳で、効果は約1年間有効とされています。お仕事などの都合で、通院や服薬の難しい⼈にお勧めです。

またアレルギー性⿐炎の内服治療は、症状のうちくしゃみ・⿐みずには効果が期待できますが、⿐づまりにはさほど効かないという傾向があります。こんな場合に、ソムノプラスティという⾼周波療法が役に⽴ちます。これは⿐粘膜表⾯ではなく、内部に端⼦の先端を挿⼊して熱を加えそこの組織を破壊するもので、破壊された組織が脱落することにより⿐粘膜の腫れが無くなります。レーザー⼿術では術後しばらく⿐粘膜にかさぶたが付き不愉快なのですが、ソムノプラスティではかさぶたが発⽣しません。⼿術直後から⿐が快適、という利点があるのです。⽇本に導⼊されて間も無い機器なのですが、近い将来全国に普及すると予想されています。

話は変わりますが、妊娠中にアレルギー性⿐炎発作のひどくなる⼥性のいることが、経験的に知られています。この性差のアレルギーへの関与は、その機序がまだ良く判っていません。ただ、男性と⼥性とでアレルギーの表われ⽅に⼤きな差のあることは明らかなのです。実際私たちは北海道⽩⽼町において、3,520例に対して性差を検討したことがありますが、全体のスクラッチテスト陽性率が37.9%、男⼦⽣徒1,720例の陽性率が44.1%、⼥⼦⽣徒1,800例の陽性率が32.0%と、性差は極めて明確です。そしてこの性差は、⼥性の妊娠など体内の内分泌環境の変化時に、より⼀層⼈体に影響を与えるようです。お腹が⼤きくなってから突然アレルギー性⿐炎の発作がひどくなった⼥性を⾒ると、苦しそうで本当に気の毒です。それに困ったことに、妊娠中は薬剤の胎児への影響が⼼配で、余り薬は使えません。内服薬を使⽤せず、局所処置で経過を追うことになります。ですから通常のアレルギー性⿐炎以上に、体調のコントロールや⽣活環境の整備に、注意を払わねばなりません。なお、減感作療法は妊娠中も継続できるとされています。これまで減感作療法を受けて来られた⽅は、主治医にご相談ください。

また、先に触れたソムノプラスティは局所⿇酔だけで処置が可能ですので、妊娠中のアレルギー性⿐炎の⿐閉解消には応⽤可能かと、予測できます。
 その実⽤化に向けて、努⼒したいと思っています。

ところで、アレルギー性⿐炎に併存することもあるアレルギー性結膜炎ですが、やはり花粉によるものとダニ・HDによるものがあります。⿐と⽬と当時に症状の出現するのは、花粉が原因であることが多いようです。ダニやHDは床に落ちていますので、⿐で息を吸い込むときに⼀緒に⿐内に⼊り込みますが、⽬には⼊って来ません。それに対して花粉は空中浮遊物質ですので、⿐と同時に⽬の中にも⼊り込んで来ます。ですからダニやHDでは⿐症状と眼症状が併発しにくいのに、花粉では同時に発作を⽣じ易いのです。

この場合、くしゃみ・⿐みず・⿐づまりに加えて、⽬の痒み・涙・⽬やにが出現しますから、とてもたまりません。こうした結膜炎には、アレルギー性⿐炎に対するマスク同様、花粉予防⽬的の眼鏡(ゴーグル)があります。通常の眼鏡の上から使⽤したり、くもり⽌め加⼯がしてあってマスクと併⽤しても曇らないタイプのそれも、市販されています。試⽤をお勧めします。

 

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