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2022年4月(No.325)

耳のお話シリーズ⑥
ラジオ3443通信「補聴器のデジタル化」

 

ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2014年4月22日OAされた、耳についてのお話をご紹介いたします。

146 補聴器のデジタル化

An:
 三好先生、前回までは耳の日の話題から、耳の遠い方ことに誰でもなってしまう可能性の高い、お年寄りの難聴についてお話が進んでいました。
 お年寄りのそれは、カン高い音域から聞こえが低下するので、母音すなわち「アイウエオ」に比べて、子音つまり「サシスセソ」が聞き取りにくく、日本語では会話の端々がぼやけてしまう。そのために相手の言っていることが、「イエス」なのか「ノー」なのか判然とせず、会話全体の意味が把握しづらく、対話が難しい。そう教えて頂きました。

Dr:
 さすがは江澤さん、その通りです。
 それから江澤さん、お年寄りの難聴については、たしかもう1つ、特徴がありましたよね?

An:
 先生、それは「補充現象」です。

Dr:
 その現象は、つまり……?

An:
 お年寄りの耳では、小さな音は聞き取りづらいんです。かと言って、大きな声はいきなり喧しく聞こえることになって、これまた聞きづらいものなんです。
 それを「補充現象」と言うんですけど、お年寄りに話し掛けるときの注意点の、もう1つのポイントです。

Dr:
 耳だけではなく、聴覚の中枢である脳そのものの老化も、聞き取りづらさに関連してますし、ね。

An:
 そんなわけでお年寄りと会話するには、大きな声で話し掛けるだけじゃなく、考慮しておかなくっちゃあならない様々なポイントがあると伺いました。
 それに対して、最近性能の良くなってきている補聴器などを、うまく活用することができないだろうかと、そんな辺りの話題も進行しています。

Dr:
 たしかに補聴器それ自体の性能は、以前と比較にならないほど向上しているんです。
 ことに近年のデジタル化の技術は、補聴器においても重要な働きをしています。

An:
 それは先生、具体的にはどのような?

Dr:
 どんなに性能の良い補聴器でも、アナログの技術しか使用できなければ、それは単純に言って「補聴器」ではなく「拡声器」の一種です。
 これも、例えとしては極端なんですけれども、アナログは「大きな声」を人間の代わりに機械が出しているようなもので(笑)。もちろんこれは極端な比喩ですから、ギャグの1種類だと思って聞いて頂きたいんですけど(笑)。

An:
 それじゃ先生。アナログがデジタルになると、補聴器はどこがどう、違ってくるんでしょうか?

Dr:
 江澤さんは、コンピューターのきわめて原始的な原理のお話をご存じですよね?

An:
 コンピューターは、受け取ったすべての信号を「プラス」か「マイナス」かに、全部分解するんでしたよね、先生。

Dr:
 それを再生するためには、江澤さん?

An:
 分解した「プラス」の濃密な部分・疎(まば)らな部分、あるいは「マイナス」の濃い部分・薄い部分を、組み立ててもとの信号に再現するんでしたよね?

Dr:
 そうです、江澤さん。それこそが「デジタル化」という、コンピューターの原理なんです。
 それを通信に使用したり、音波を記号化した上で逆に音波に戻したり。そんなことも、できるんですけど。

An:
 先生、それってデジタル通信や補聴器のデジタル化のことじゃ、ありませんか!?

Dr:
 さすがは1を聞いて10を知る江澤さん。私たちが今話題にしている、デジタル補聴器ってその技術を活用した機器のことなんです(笑)。

An:
 江澤は、デジタル通信って、いろんな環境の良くない通信状況下にあっても、正確な情報を信号として伝えることができるって、聞きました。

Dr:
 アナログ通信ですと、複雑な多数の信号をそのまま送るものですから、雑音や歪みなどの影響を受け易いんです。

An:
 それに対してデジタルだと、送られる信号は「プラス」と「マイナス」だけですから……。

Dr:
 歪みや雑音の影響を受けにくいんです。

An:
 それでデジタルは、音響機器に向いているんですね!

Dr:
 補聴器の場合には、この単純な信号をうまく加工することも、たやすいので。

An:
 判りました、先生。老化した耳で聞き取りの悪い「子音」部分、つまり「サシスセソ」の音域の信号を強調して再生、そして聞き易くすることも、不可能じゃないんですね。

Dr:
 しかも補聴器のダイヤルを調節することで、そのお年寄りの聴力にうまく合わせた再生音を、その方の耳だけに届けることも夢じゃないんです。

An:
 先生、それってスゴイことですよね。

Dr:
 現在の補聴器が、そうしたすばらしい性能を持っていることを前提に、でもその前にその方の耳そのものを耳鼻科医が良くチェックしておかねばならない。江澤さん、それを忘れてはなりません。

An:
 三好先生。先生のおっしゃっていること、先日以来のテーマとなっている滲出性中耳炎(症状の詳細はこちら)を考えると、良く判るような気がします。
 補聴器は、例えばお年寄りでは年令的な聞こえの変化に加え、滲出性中耳炎など治療で良くなる病気も併せ持っていることが、とっても多いから。
 耳の中を観察せずに補聴器を選択しても、ベストチョイスではあり得ない。つまりそういうこと、なんですよね?

Dr:
 仙台弁では、そういうすれ違いのことを「アッペトッペ」と表現します(笑)。

An:
 先生。耳鼻科医抜きの補聴器は、つまりアッペトッペなんですね(笑)

Dr:
 老眼でメガネを購入する場合にも、眼そのものの病気が存在しないかどうか、確認は必要です。
 お年寄りの耳の聞こえも、まず耳鼻科医で耳そのものの病気を検査しておかなければ、どんなに良いデジタル補聴器も、まるで役に立ちません。

An:
 先生、本日もありがとうございました。

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