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2022年4月(No.325)

 

以下にお示しする症例は、いずれもが特徴的な症状に乏しかったために確定診断に至らず、初診から10年以上が経過した後に髄膜種と判断された例もありました。
 めまいには内耳の三半規管が原因の末梢性めまいと、脳が原因の中枢性めまいとがあります。めまいの特徴を正確に捉え、診断するには専門医としての確かな知識が必要であることを再認識した事例です。

めまいを伴う症例シリーズ
学会発表「小脳橋角部髄膜種の3症例」

学会名:第69回 日本めまい平衡医学会
会 期:2010年11月17日、国立京都国際会館

三好 彰(三好耳鼻咽喉科クリニック)
中山 明峰(名古屋市立大学医学部耳鼻咽喉科学教室)
三邉 武幸(昭和大学藤が丘病院耳鼻咽喉科)
石川 和夫(秋田大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頚部外科学講座)
  ※所属は発表当時のものです。


はじめに
 
当院を受診した小脳橋角部髄膜種の3症例(臨床診断)を報告する。
 症例1は、急性難聴で受診し、某病院脳外科のCTで発見された。
 症例2は、左側耳鳴を主訴として初診となったが、その12年後に眼振が検出されMRIにて臨床診断に至った。
 症例3は、両側難聴を主訴とした初診より13年後に、眼振検査結果からMRI撮影に至った。3症例とも特徴的な症状に乏しく、いかにして適切な画像診断に結びつけるかが問題であった。


症例1
 56才 女性
 既往歴:なし
 現病歴:2002年5月頃より、右側難聴に気付いていたが、10月31日に右側耳鳴と右側難聴が明確となったため、11月1日、三好耳鼻咽喉科クリニック(以下当院)を受診した。
 受診時、鼓膜所見に異状なく、右側軽度感音難聴を呈するのみだった。この難聴はステロイドの使用にて改善した(図1)。

図01
 図1 聴力検査の結果


受診後の経過(1)
 
ステロイドの静注と内服で、聴力は改善した。
 本人の希望により紹介された某病院にてCTがなされ、右側小脳橋角部腫瘍が発見された(図2)。

図02
 図2 矢印で示された白い影が腫瘍

 

受診後の経過(2)
 
2003年1月22日、髄膜種の臨床診断のもと、γナイフが実施された。
 2008年3月1日、鼻出血にて当院を受診。その折の神経耳科学的検査結果は、下記のごとくであった。本症例は引き続き、脳外科と当院にて経過観察中である(図3)。

図03
 図3 各種検査の結果


症例2
 44才 女性
 既往歴:なし
 現病歴:1995年初め頃より、左側難聴が持続するようになった。精査のため同年1月31日、当院を受診した。受診時、鼓膜所見に異状を認めず、聴力正常であった(図4)。

図04
  図4


受診後の経過(1)
 
本症例は2003年7月5日、左側外傷性鼓膜穿孔を生じ、保存的治療にて穿孔は閉鎖するが、その閉鎖後も左側軽度感音難聴は残存した(図5)。

図05
 図5


受診後の経過(2)
 2007年3月20日の職場健診で左側難聴を指摘され、4月16日当院を受診した(図6)。

図06
 図6


受診後の経過(3)
 2007年3月20日のMRIにて、小脳橋角部腫瘍検出(図7)。総合病院外科にて髄膜種疑いの診断名のもとにwait and scanとなる。

図07
 図7 矢印で示された白い影が腫瘍


症例3
 68才 女性
 既往歴:なし
 現病歴:左耳は、小児期より難聴気味であった。右耳は1991年頃から聴力が悪化し、1994年よりHA(補聴器)を使用している。1996年10月20日、当院を受診した。
 受診時の鼓膜所見には異状なく、右側中等度感音難聴と、左側高度混合難聴を呈した。TGは右側A型で、左側はB型であった。
 検査結果(図8)から、両側老人性難聴と左側滲出性中耳炎と診断され、実際左側通気療法にて症状は軽快しています。

図08
  図8


受診後の経過
 2003年、めまいにて某病院内科に入院しCTを撮影。めまいの原因は不明だが、耳が原因でないと診断を受けた。
 当院初診より13年後の2009年9月14日、めまいと口内乾燥感にて当院を再受診した。この13年間、当院受診はなかった。
 再受診時、左側鼓膜にびらんを認め、耳漏が見られた。
 2回目、81才での受診時所見(2009年9~10月)を以下に記す。脳腫瘍による、中枢性めまいが明らかとなっていた(図9)。

図09
 図9


再受診後の経過(1)
 
左側小脳橋角部の病変を考えMRI(図10)を施行したところ、同部に髄膜種を疑わせる所見(矢印)が得られた。そこで2003年の内科のCT(図11)を見直したところ、すでに当時同一の病変の懸念(矢印)されることが分かった。

図10
 図10 矢印で示された薄い白い影が腫瘍

図11
 図11 矢印で示された薄い白い影が腫瘍


再受診後の経過(2)
 一方、HA装用時の右耳の語音明瞭度は、80dBにて60%となることが分かった。81才という高齢も考え、HAを使用しながら脳外科と当院で経過観察中となっている。


まとめ
 1.臨床診断上、髄膜種と考えられる小脳橋角部腫瘍の3症例を提示した。
 2.いずれも特徴的な症状に乏しく、症例3に至っては再診が初診の13年後であった。
 3.最新な観察と適切な画像診断により、いずれも臨床診断に至ったが、特に症例3において、専門医受診の重要さを痛感した。
 4.結論として、めまいはめまい専門医へ、と強調せねばならない。

図12

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