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2022年5月(No.326)

映画「キネマの神様」鑑賞レポート

秘書課 菅野 瞳

図01


はじめに

私の映画鑑賞レポート第6弾。今回の映画は、松竹映画100周年記念作品『キネマの神様』です。キネマの神様と言えば……私が大好きで、勝手に師匠だと思い込んでいる天才コメディアンの故・志村けんさんが主演に抜擢された作品です。
 私は『8時だヨ全員集合』を、毎週欠かさず見て育った世代なので、この作品は弟子として是が非でも観に行かねばと思っていました。
 志村師匠が映画に出演されるのは、1999年に公開された俳優の故・高倉健さん主演の『鉄道員(ぽっぽや)』という作品以来、21年ぶりになります。
 映画撮影時前のインタビューでは、お笑い時とは違う緊張感に支配された面持ちで「不安を感じつつも、久々の映画撮影を心待ちにしています」と仰っていました。

果たせなかった出演

そんな中で聞こえてきた、緊急事態宣言による長期間の撮影中断。それによりこの作品は2度の公開延期を余儀なくされ、新型コロナウィルス感染拡大で世界全体が傷付き今なお苦しんでいるように、この作品も深い傷を負いました。
 志村さんのコロナ罹患、ほどなくして飛び込んできた訃報……。巷では“志村けんロス”などと騒がれていましたが、これは私にもしっかり当てはまった現象でした。
 独特の世界観をお持ちの志村さんの代役を、はて、どなたがされるのか。代役の発表に、興味津々だった方は少なくなかったと思います。

新配役にはあの人が

志村さんの訃報から約4カ月後、かつて同じ事務所の先輩後輩で、何度も共演をした盟友関係にある沢田研二さんが、志村さんの遺志を継ぎ主人公を演じることに決まりました。紆余曲折を経て、様々な人の思いから再始動し、ついに完成したこの映画……そんな軌跡を振り返りながら鑑賞しました。

この作品の舞台は1920年。無類のギャンブル好きで、孫にまでお金の無心をするダメ親父。妻にも一人娘にも見放された主人公、それが円山郷直(通称ゴウ)です。そんな彼にも、愛して止まないものがありました。それは「映画」。若かりし頃の彼は、映画を愛し、最高の映画を監督することを夢見て、助監督という職に就き、親友と共にがむしゃらに夢を追い求め、青春を駆け抜けていました。夢半ばにして挫折し、ダメ親父への階段を上り続けてしまっていた矢先、ギャンブルに明け暮れ膨れ上がった借金が、妻と娘に見つかり家出をすることに。

なかなか帰途に就く気になれなかった主人公でしたが、久しぶりに我が家に帰った際、孫から思いもかけない言葉を投げ掛けられます。

「おじいちゃん、あなたには才能があります」

久しく掛けられなかった自身への褒め言葉に、面食らいぽかんとした主人公ですが、その言葉の経緯を聞き、自身が夢を叶えるために執筆した脚本を読んでのことだと知ります。
 続けて孫からは、「おじいちゃん、この作品は登場人物、そのキャラクター、各々のユーモア、どれも最高です。是非この作品を木戸賞(実際は城戸賞)に出しましょう」と勧誘されます。

最初は少し謙遜した主人公ではありましたが、「よっしゃ、ならば二人でこの作品を作り上げよう」と意気込みます。
 数分前までは、久々に帰宅をし白蛇の夢を見たんだ、これは賭け時だと、孫に借金の申し込みをしていた主人公。プロの脚本家を目指す人だけが応募を許される、木戸賞での入賞に向け動き出した瞬間でした。自身で脚本を書き、自身でメガホンを振りたいと願った円山剛直初作品「キネマの神様」。目を爛々とさせ、孫と共に作品の手直しに取り組む主人公の真剣な眼差しは、夢を熱く語っていたあの当時の剛直、そのものでした。

そして迎えた木戸賞の発表。見事大賞に輝いたのは、円山剛直の脚本『キネマの神様』です。受賞にうかれ、浴びるようにお酒を飲み続けていた主人公は、木戸賞の授賞式を目前に倒れてしまい、入院を余儀なくされます。

主人公の代役として授賞式に参列した娘の歩。式の前日に剛直からの手紙を預かります。

その日、その時まで、手紙を開封しなかった歩が、剛直に変わり壇上で読み上げた手紙。そこに綴られていたのは、妻への感謝・感謝、そして娘への謝罪の念でした。
 父の想いを受け取り、涙が溢れ出た娘の姿ならびに、自身の父を見捨てることなく一人の人間として見つめ、そんな父の映画愛を評価してくれた息子にかけた謝意の言葉は、とても印象的でした。

鑑賞を終えて

この作品を見終え、作品の完成に係わった方々の熱い想いや努力、またこの作品の公開を心待ちにした観客の願いが、無事に“キネマの神様”に届いたことを実感し、なんだかほんわかと温かい気持ちになりました。また、どんな演技をしても、何をしても、いつでも観客の頭には亡き志村さんがちらつき、比較されることは分かりきっていたであろう中で、そんなプレッシャーをもろともせず、自らの個性を出しつつ、志村さんの代役を見事に演じ切った沢田さんの“神業”に胸が熱くなりました。

図02

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